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ギルドに報告 2

お待たせしております。


「冷たくてあまーい! 何これ見たことないけどおいしー!」


「ヘレナちゃん、ここで食べるのはどうかと思うよ」


 既に持ち込んでいた袋に自分の蜂蜜を確保したあとで、桃の皮を剥いて食べ始めたヘレナさんみアンジーさんが注意するが、本人はどこ吹く風だ。()()が受付に座ると即座に完璧人間になるというのだから世の中解らない。実家も金持ちと聞くから何故受付嬢やっているのか実に謎な女性だ。


「ああ、既に始まってたかぁ。ユウナさん呼んだけど手遅れだったわ」


「二人とも、仕事はどうしたのですか? フルーツは切って下に持って行くので二人も戻ってください」


「はーい、このモモがあれば残業だって乗りきれまーす! ほんとすごいこれ!」


「あ、あの、ありがとうございました。皆でいただきます」


 しっかりと卓の上にあった全ての果実を持っていった三人を見送ると、部屋にはユウナとジェイクのみが残る。



「ようやく真面目に話せるな。ユウナ、鍵閉めとけ、これ以上邪魔されるとかなわん」


 ぼやくジェイクに苦笑いをしながら、話を始める。もう簡潔に言いたいことだけ言っちまおう。


「俺は20層のボスを撃破してその先にあった転移門で地上に帰還してここにいるって訳だ」


「その割にはギルドに顔を出すのが遅かったようですね。人を配置して確認態勢をとっていたのですが」


 ユウナからの怨み言にも似た言葉を聞き流す。そのやり取りはさっきキャシーさんと充分にやったからな、繰り返してもしかたない。


 そういえば受付嬢のみんなはさん付けだが、目の前の兄妹はそのまま呼んでいるな。今更変えるのも変だが、どうしてそうなったのだろうか。


「そんな話はもうどうでもいい! 20層のボスはどんな奴だった!? ドロップアイテムは何を落とすんだ!? それに転移門だと言ったか? この迷宮は転送門ではなく転移門なのか? くそう、聞きたいことが多すぎて考えが纏まらんぞ」


「マスター、落ち着いて下さい」


「これが落ち着いていられるか! この30年、まったく進む気配のなかった攻略が、俺がマスターの時期に一気に進んでるんだぞ! 興奮しない訳がないだろう。ユウ、お前を引き込んで正解だったぜ、もし敵に回してたら今日も退屈な1日で終わる所だった」


 興奮しきりのジェイクには言葉よりも品で語った方がいいだろう。俺は殺戮人形(キリング・ドール)の双眼と呼ばれた魔石を取り出した。


「これが戦利品です。よくわからんのですが、連結式の魔石とやらのようですよ」


 連結式と聞いた二人の顔から興奮の色が消えた。真剣な目で魔石を凝視している。


「おい、冗談だろ。連結式なんて数を揃えたら価値が天井知らずになるぞ。かなり高位の魔石の代用品になるんだ、ほしい国は国家予算で買い漁るぞ。心当たりがありすぎる」


「マスター、魔石の色彩を見てください。恐らく元が第6位の魔石のようです。数を揃えると最高で4位分上がりますので」


「第2位の魔石相当になるってのかよ。古代文明の遺失魔導具(ロスト・ロギア)が動くじゃねぇか。こいつがまともに流れ出したら今の世界の国々の力の均衡が崩れかねんぞ」


「総本部案件ですね。我がギルドでは扱いきれません。恐らくオークションに出す方向で話が進むでしょう」


 あれ、ゴーレムでもそんな話になっていなかったか?


「未踏破のダンジョンが攻略されると大体こんな感じだぞ。特にウィスカは難度が高いから報酬もデカいはずと前から言われてた。だからお宝求めて超一流所が揃っているんだか、連中は軒並みお前にしてやられたわけだ」


「その総本部に任せていいのか? 俺はあんたたちに利益を与える契約を交わしたと思っているが」


 これでは総本部とやらが美味いとこかっさらっていくのではないかという疑問があったが、ジェイクの顔を見れば杞憂のようだ。


「問題ない。諸経費と場所代は取られるが利益はこっちに入ってくる。それに総本部のオークションは全世界相手のでかい奴だからな。むしろギルドの名前が大々的に公表されて良い顔ができる。最近この国で総本部案件なんてとんと聞いてないからな、相当盛り上がるぜ? その中心が俺たちなんだぞ、一月前まで燻ってたウィスカのギルドがこれだけ生き返ってるんだ。十分過ぎるほどさ」


「それに、ギルドマスターが集まる総会では兄が注目の的になるでしょう。オークションの開催自体が久々ですし、品を2つも提供したとなれば序列も上がるはずです」


 ギルドマスター達にも序列があるのか。なんとも世知辛いと思うが、同じランクの冒険者にだって上下はある。王都の冒険者ギルドのマスターとジェイクは同期だが、明らかに向こうが格上だと本人は思っているようだしな。


「ユウナ、余計なことは言わんでいい。とにかく、こっちに全く不満はない。むしろ有難いくらいだから、これからもどんどん持ってきてくれ。ただし、金はオークションのあとになるからそこは了承してくれ。で、ボスはどんなやつだった? 魔石にヒントはなかったからな」


 どうも魔石だけでドロップアイテムの話は終わりそうだな。魔石が凄いお宝で助かった。普通に考えれば魔石の他にもアイテムはありそうなものだが、追求してこないのは助かる。


 なぜならミスリルは残りの一つをクロイス卿に強奪されたからいまは手元にないのだった。ミスリルの方が存在としてはよりヤバいようなので公爵の方の闇オークションに出す予定だ。クロイス卿がオークションに出せるか確認するから今日は貸せと言って来たのだが、子供のように目を輝かせてミスリルを見つめているので、まああげても良いかなと思えてしまった。どうせ毎日狩るからまた明日取れるだろうし。



 表に出せない品を捌くには闇オークションの方が都合がいい。魔石の方は国が金を出すみたいな話になっていたが、ミスリルの方は裏の金持ち達が競って金を積む。その手の輩は下手をすると国家予算以上の額を個人の趣味で動かせたりするからな。ミスリルのインゴットは重さ自体は一キロル程しかないから、ある程度の量を用意すれば何処まで価格が跳ね上がるか楽しみだ。


「ボスは自動で動く木偶人形でした。名前は殺戮人形と言って厄介な敵でしたよ。魔法がほぼ効果ない上に瞬間移動みたいに動き回るんです。普通なら隙を見つける前に魔法を乱れ撃ちされて終わりますね」


 危機感を前面に押し出すようにして話すものの、ジェイクは俺の言葉を話し半分にしか信じていないようだ。だが、実際にアレを体験してみないと危機感は伝わりにくいだろう。


「そんな強敵をお前は難なく倒したわけだ。ま、他の連中はまだ17層への降り方を探している最中だがな」


「17層への階段を見つければ後は簡単ですよ。20層まで全部環境層ですから」


 当然簡単には教えない。もしあの道を発見できれば、安全地帯かつ食料供給地である17層は多くの冒険者で溢れ返るだろう。あそこは長閑で好きなので、いずれ他の冒険者が訪れる未来は否定しないものの、なるべく先延ばしにしたいのも確かだ。


「マジかよ、ボスに行くまで全て環境層か。ああ、さっきのフルーツ系はそういうことなんだな」


「魚もいますよ、要りますか?」


「魚かよ! そりゃあ良いな、少し分けてくれよ。ここいらじゃ新鮮な奴は少ないからな」


 いくつか魚を出して確認してもらったが、普通の魚のほかに魔物の魚も混じっていた。魚介に関しては魔物といえど狂暴性はあまりなく、魔石があるかないかで判断しているそうだ。

 実際、魔物とされた魚を見てもいかにもモンスターですといわんばかりのギザギザな牙が生えているでもなく、いたって普通の魚にしか見えない。魔石分だけお得といえる。

 海が危険なのは、魚の魔物ではなく、海洋生物が巨大で危険のようだ。大王イカとか何隻も船を沈めているらしい。


 ユウナに数種類の魚を出した後は17層の農園地帯のこと、更にはそこが安全地帯であることも話すと、二人は強い興味を示した。


「17層は敵が出ない環境層か! 安全地帯の上しかも野菜が取り放題とはな。こりゃ近所の商店が廃業するな」


「むしろそいつらにギルドが野菜を売ってやればいいじゃないですか。野菜に関してはどんだけ配っても有り余るんでもう大人しく納品しますよ」


 もはや諦めの境地でそう切り出すと、ジェイクは呆れた顔になる。


「おいおい、もうどんだけあるんだよ」


「環境層の食材は毎日復活しますからね。前に人類を飢えから救ったと聞いた時には大袈裟だと思いましたが、あの量を毎日出すのなら納得しますよ」


「そんなにか。いっそ引退した料理の得意な冒険者にギルド公認で店でもやらせるか。引退後の人生設計の支援もギルドの仕事の一つだからな」


 この案はこの場で出た話に終らずに、実行に移されることになる。ギルドのバーで腕を振るう前ギルドマスターが中心となって始まったその店は冒険者たちに特別の割引を行うことによって金のない新人冒険者にとって大きな助けとなる。その冒険者たちがさらに食料を代金代わりに置いて行ったりして、その規模がさらに拡大していく事になるのだが、それは別の話だ。



楽しんで頂ければ幸いです。


細かいネタですが、ウィスカの受付嬢は5人体制です。今回出た3人とランカ、シリルで回しています。


ギルドは当直がいる24時間態勢ですが、受付嬢は朝から夕暮れまでしかいませんので、冒険者たちは彼女たちがいる時間までに何とか仕事を終らせようと奮闘します。

今日は主人公が遅いので残っていただけです。何を持ち込むか、自分か帰った後で取り分がなかったら悔しいので残っていました。

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