ギルドに報告 1
お待たせしております。
この話が終ったら、ダンジョンの21層に取り組みます。もう少々お付き合いください。
「へぇー、だからこっちへの報告が遅れたんですかぁ」
王都から転移して戻った後、慌ててギルドに駆け込んだ俺を待っていたのは冷たい目をしたキャシーさんだっだ。
「朝早くここに来たらすごい人混みだったので、後にしようとしたんですよ、そしたらいろいろあってこんな時間に」
「なんだと!? 朝には攻略が終わってたっていうのか! ってことはまさか!」
「ギルドマスター!!今は私が話しているんです!!」
「あ、ああ。すまん、続けてくれ」
「私今日お休みだったのに朝早くからここに来て待ってたんですよ? それなのに何時まで経ってもユウさんこないし、暇潰しに始めた賭けには負けるし! どうしてユウさんの事を何も知らないヘレンやアーシェに負けなきゃならないんですか! 面倒な伝票整理が二週間分も回ってきちゃったんですよ!」
それは俺の知ったことじゃないだろう。というか機嫌は悪いのは完全に私怨じゃないかい。
「そりゃあ、こいつがいつ帰ってくるかなんてタダの運だろーに」
「マスター!!」
俺はギルドマスターの部屋に着くなり、キャシーさんに盛大に絡まれていた。本人いわく1日を棒に振ったと愚痴っているが、要はアレだ、甘えたフリをして男から贈り物をせしめる技術の一つだ。
人によっては生理的嫌悪感を持つ奴もいるが、俺はむしろ好ましく感じる方だ。キャシーさんは実に手慣れている距離感で言外になにかちょうだいと言っている。
ギルマスはここは飲み屋じゃねえんだぞと今にも言いたそうだが、ギルドの顔とも言える受付嬢を怒鳴り付けるような真似はできないようだ。本人は早く俺の話を聞きたそうだが、いまはキャシーさんの独壇場を許している。
俺はリリィとは永遠に出来なそうなこのお遊びをもう少し楽しんでも良かったが、そろそろ時間だ。
彼女の望みを叶えるとしよう。
「その代わりではないですが、今日は土産が沢山あるんで許してくださいよ」
キャシーさんの目がキラリと光ったのは俺の気のせいではないだろう。
「何がいいですかね? 光りモノもあるけど、正直それを売り払った金でちゃんとした宝飾品買った方が良いですよ」
12層のコボルトレンジャーのドロップ品である蒼玉は”玉”なので宝石なのだが、粒そのものは小指の爪ほどもない。はっきり言って塵にまみれると見つけるほうも大変だ。そんな物でも金貨三枚の価値がある。ここでの価値と<鑑定>の価値が一致するとは限らないが、もし低ければそのまま魔約定行きだ。
蒼玉をいくつか並べたが、12層のアイテムだからキャシーさんも見たことがあるのだろう。つまらなそうに一粒つまみ上げるとすぐに置いてしまった。お気に召さなかったようだ。
それでは元々出す予定だった小瓶の蜂蜜をチラつかせると、目を輝かせて飛びついてくる。
「これよこれなの! いっつも大量のアイテムを持ち込むのに蜂蜜がないからおかしいと皆で言っていたのよ。やっぱり持っていたのね。確かに買い取りは安いから自分で食べちゃうのも解るけれど」
いや、蜂蜜は相棒が管理しているので俺の一存で決められないだけです。今は14層の大瓶の蜂蜜が大量にあるので小瓶はあげても良いとのお許しが出ただけです。
「キャシーさんだけじゃ他の人に悪いので、皆さんにもどうぞ。あとは19層が果樹ばかりが出る層だったので、甘いやつをいくつか見繕っておきますよ」
もともと果実系はそのために冷やしてあったので彼女たちに振舞うことに問題はない。価格も一篭単位で高くて銀貨5枚とかだったので、ほぼ贈答用と割り切れる。市場で見かけない果物ばかりだったので喜んでもらえるだろう。王都で相当量渡したが、それでもまだまだあるのだ。
「ちょ、これは私一人じゃ無理ね。アンジーとヘレナのどちらか呼んでくるわ」
颯爽と出て行ったキャシーさんを見て露骨に安堵のため息をつたジェイクを尻目に、俺は程良く冷えたオランジを投げて渡した。
「ああなった彼女たちは中々手強いようですね」
「手強いなんてもんじゃない、ありゃ暴君だ。俺みたいな着任して数年の新人ギルドマスターにとっちゃ一番対応に困るんだ。引継ぎ事項に受付嬢の誰々には気をつけろなんて普通に書いてあるんだぞ」
天を仰いだジェイクに苦笑して、おれもアプルを齧る。氷水につけて冷やしていたのできりりとした冷気と甘みが同時に口に広がった。これは、市場のより美味いかも。
「冷えてて余計美味いな。実際市場に出てる品よりも良い物がおおいな。定額なら買い取っても良いぜ」
「今のギルドに俺用の金あるんですか? まだあの納品から一週間しか経っていないじゃないですか」
俺が11層に始めて降りて、ギルドに納品した日に大量の白金貨と金貨を俺に支払っていてギルド内の現金が危険なほど目減りしているのを聞いている。俺以外にも冒険者の換金はやってくるからその対応をしなければならない事を考えて、しばらくギルドには卸さないという方向になっている。
俺は借金が減ればその手段はどうでも良いので始めのように魔約定に品物をそのまま送り込んでいく方法を取っているが、ギルドマスターとしては貴重な品を資金不足で買い取れないというのは苦渋の決断のようだ。
「来週の終わりには目処が立つはずだ。総本部に準備金の増額の申請はしたが、一つの支部に白金貨を数十枚も備蓄するような話は聞いたことがない。お前の存在を秘匿するとなると相当難航するだろうな。それより話を聞かせてくれ。察するに、20層は突破したんだろう?」
「ええ、ご明察……」
「マスター! ここに蜂蜜があるって聞いたんですけど!!??」
「ちょっと、ヘレナちゃん。まだお仕事中ですよ」
「アンちゃんは真面目だねぇ。誰か来たらランディさんが呼びに来てくれるように頼んであるから大丈夫よ。それより急がないと蜂蜜なくなっちゃうかもよ。タイラントオックスのお肉の時だってお仕事してて出遅れたんだから、次は絶対に我慢しないって決めてたの!」
「堂々とサボタージュを宣言しないでください。あとアンちゃんは止めてっていってるでしょ、私のほうが年上なんだか……あ」
「やれやれ、第二弾がきやがった。話が一向に進まねぇ」
ギルドで一番人気といわれているヘレナさんと一番年上なのに一番幼く見えると評判のアンジーさんがやってきて部屋はまた騒然となった。置いてある果実と蜂蜜を見つけるとこちらには目もくれず確保に走るヘレナさんは残念美人の渾名に相応しい行動だ。
「あ、ユウさん。こんばんわ、あの、その……」
「皆さんに差し上げるためのものなので、遠慮なく持っていってください。それに毎日復活するんで、どうせ明日も獲りに行くから好きなだけどうぞ」
明日は元々ダンジョンを休むつもりだったが、転移門のおかげで四半刻(15分)もあればボスを討伐して帰ってこれる。その時に19層に顔を出すなど造作もない。リリィがいればちゃんと休む! と怒られたかもしれないが、彼女は今王都にいる。バレるだろうが止められる事はない。
ただ17層で言えば品種が毎日変わっているのだ。果樹ももしかしたら日替わりかもしれないから、今ここにある果物が次ぎまたあるかは定かではないけど。
「えっと。じゃあ、いただきます。どうもありがとうございます」
ぺこりと頭を下げる彼女をみると、衝動的に頭を撫でたくなる。このみかけで年齢が”けして高くないがその齢には見えない”才には見えないのだが、逆にそれが人気を呼んでいる受付嬢だ。
もう一人の受付嬢はヘレナさんで冒険者たちにはその美貌で一番人気らしいが、身内からみれば行動が色々と残念な人だ。傍から見る分には面白い人だ。
二人は肉を食べた日に仕事上がりで合流した時に挨拶をしている。大量に肉を置いていったので彼女も満足するほど食べたと思うが、一番乗りを逃したことが悔しくて仕方ないらしい。そういう性格の人だ。
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