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転移門とボス戦 3

お待たせしております。


「くっそ、好き勝手にバンバン打ちまくりやがって!」


「今は何しても無理でしょ。いったん退避しよ退避!」


 まともに<鑑定>さえできないほど転移を繰り返し光線を乱れ撃ちする敵に今は逃げ惑う他ない。


 こんな後先考えないような大攻勢、人間ならすぐに息が上がって長くは続かないと思って耐えればいいが、相手が人形だと予想もつかないな。おかげで悪夢のような時間を過ごす羽目になった。

 手持ちのスキルで何とか打開できないかと相棒と共に考えるが、この転移連打には対応できなかった。<空間把握>を駆使して敵が攻撃する直前に何とか射線をそらしているが、そのまま反撃とはいかない。


 <気配察知>で居場所がわかってもすぐに光線を撃ってまた転移しているのだ。奴があちこちに移動するせいでこっちも的を絞れない上、背後からの狙撃にも似た攻撃を防ぐためにこちらも細かく移動する羽目になり、なんとも忙しい。

 それでも最優先にやっておかねばならない事をなんとか完了させた。動き回りながらなので余計に時間がかかってしまった。これからは同時並行する作業をもっと増やして慣れておかねばならないな。



「とりあえず<結界>を5層追加したら魔法は貫通されないようになって一安心だけど、これからどうしよっか」


「実質初回だし、もうごり押しで解決しよう。相手がどんな動きをするのかはだいたい解ったし」


「そだね。こっちが動き回らないとあっちも動きが止まる所は人形っぽいしね」


 敵の攻撃が止まないので<結界>を強化して防御を固め、走り回るのをやめたらなんと向こうの攻撃も収まったのだ。

 最初からわかっていればこんな無駄な動きをしなくともと思うが、<結界>を簡単に貫く光線の乱れ撃ちを見て、その場に立ち止まれる勇気はなかった。

 そして相手の動きが止まった事でようやく相手を<鑑定>もすることができた。

 こうなると解っていたら背を向けているときにやっておけばよかったと後悔しきりだ。



 キリング・ドール 無機質生命体種 


 かつての大戦で用いられた広域殲滅用決戦兵器。シュタイト社製、後期出荷型。ロットナンバー11324。

 圧縮された魔方陣を内部展開し、転移を縦横無尽に扱う戦闘機械。白熱化した熱線(ブラスターカノン)を収束させて撃ち出す事で、難攻不落とされたジスト要塞の複合装甲板を打ち抜いて陥落させた戦いは有名。稼働時間度大幅に拡大した後期型は出荷台数が10万台を越えたベストセラー。

 HP 1500/1500 MP 20/20 経験値 3588

 ドロップアイテム キリング・ドールの双眼 ミスリルインゴット 転移環



「始めから<鑑定>しておけば良かった……」


「まあまあ。私も気付けなかったし、どんまいどんまい」


 <鑑定>しておけばこんな面倒な事をしなくて済んだのに。自分の馬鹿さ加減に頭にくるが、今は言っても仕方ない。

 とにかくあのキリング・ドールを倒そう。不幸中の幸いだがこれまで絶え間なく動き回っていたので、相手の行動は大部判明している。転移距離やどんな状況でも転移は可能なのかを調べたかったが、それは次回に持ち越すとしよう。


 リリィが俺の頭の上に乗ったのを確認すると俺は動きを見せないキリング・ドールに向かって走り出す。あの機械はそれが仕様なのか、常にこちらの背後を取る動きをしたがる傾向にある。背後に転移され、貫通力抜群の熱線を撃たれれば初見には絶大な効果があるが、同じ事を繰り返してしまうのはやはり成長のないダンジョンモンスターならではか。

 こう動けば相手がこう来ると解ってしまえば、相手の動きを予測する事は簡単だ。左右に走ればまだしも、前方に移動するとほぼ確実にこちらの後ろにつこうとするのは判明している。 


 キリング・ドールが転移を使って突如消えるのはもう見慣れた光景で、俺は自分の背後に向かって中級土魔法である<クレイアロー>を大量に打ち出した。

 

 やはり相手の背後をとる動きしかできないのか、予想通り俺の後ろに転移したキリング・ドールは<クレイアロー>の雨のなかに突っ込んだ形になる。


 そこいらの雑魚を一撃で粉砕する俺の魔法を受けて無傷とは行かないはずだが、滅多打ちにあって吹き飛んだキリング・ドールは何事もなかったように立ち上がった。


「そこへ追い討ちのぉ、ライトニング!!」


 リリィが追撃の雷撃を叩き込むと流石のボスといえども崩れ落ち、その体は塵に返り始めた。俺の魔力と同調することも出来る相棒はまさにもう一人の俺といえる。寸分違わぬ威力の魔法を放つことも可能だが、戦闘がめんどくさいのかほとんど参加しない。今回は興が乗ったのか珍しく連携してくれた。

 

 多分雷撃がかっこいいから使いたかったのだろうと思う。


「雷撃がほんとに効くか試したかったんだけど、やっぱりミスリルの体みたいだね。土魔法でも大して魔法の効果がなかったみたい。実体のある土はこれでもまだマシな方だよ。火や風だったらほとんど無効化されると思う」


「それでも金属だから雷撃はちゃんと通るんだな」


 最初に攻略したときに雷魔法を選んだのは、単体に最速で当たる魔法だということで選んだのだが、結果的には正解だったようだ。

 ミスリルは魔法防御という面でこれ以上ないほど優秀だ。魔法を遮断するという点では悪魔も似たようなものだが、厳密には大きな差がある。例を出すと、悪魔は軽減といって100の威力を70くらいにまで下げることが出来る。だがこれはあくまで決められた量を減らすだけだ、威力が10000とかになれば9970を受けることとなり、正直力押しで何とかなる。


 だが、ミスリルが持つ遮断といわれる能力は威力を割合で除外する。8割なら100を20に、10000を2000にしてしまう。もちろん威力が高ければ大抵の敵は倒せるが、軽減と遮断ではかなり威力が変わってくる。ミスリルなど希少な魔法金属はこういった能力を持つものが多く、魔法防御の面で非常に優れているのだ。それでいて魔力との親和性も高いというチートの極みにあるような金属だ。ちなみに魔力の親和性とは自分の魔力を纏わせて切れ味や通常の武器では効きにくいレイスなどの敵にも近接武器で対応することが出来る技術をさす。

 

 クロイス卿やバーニィの持っていた武器は非常に魔力の「乗り」が良く、あれほどの切れ味を出すことが出来たのだ。

 そうでなければ斬るというより叩き切る使い方が多いこの世界の剣であそこまでの鮮やかな切断はできない。

 

 だが、いくらミスリルとはいえ金属である以上は雷をそのまま通してしまうのは避けられない。俺以外に使い手がいないとは思えないが、雷属性はミスリルに唯一といっていい有効魔法なのは確かだ。



「それにしてもとんでもない敵だったな」


「<転移>もそうだけどまさか<結界>が抜かれるとは思わなかったね。大して強い攻撃じゃなかったはずだけど、収束させると面で防御する<結界>は弱くなるね」


「そこは仕方ないと思うほかないな。<結界>を多層に展開するとか普通じゃ無理だし、元々貫通するものに対しての盾でもないからな。光線が細いから運が悪くなければ即死はしないだろ」


 そのときの俺はこの光線の威力を知らなかったので軽く考えていたのだ。実際は熱線を打ち出しているこの攻撃を受けると患部が焼き潰れて傷の治りが非常に遅くなる厄介なものだった。


「むしろ転移の連打が怖いな。一人の俺はともかく他の多人数パーティが挑んだら……」


「初見殺しだね。たぶん死屍累々だよ、ここにいるパーティって大抵が魔法偏重だから隊列はいつも決まっているし」


 ここを攻略している有名所はほとんどが盾持ちや前衛で敵を止め、魔法で多数の敵を一気に消し飛ばす戦法を取っているパーティばかりだ。

 奇襲を防ぐために後衛にスカウトを配置しているが、いきなり後方に転移してあの熱線を乱打されたら魔法職が一瞬で壊滅するだろう。

 この迷宮の攻略に必要不可欠な魔法職の損失は立ち直れないほどの損害を受けることになる。


 これまでの上手いやり方を逆手に取った戦法をしてくるキリング・ドールはまさに20層以降の壁となって冒険者達の前に立ちはだかるだろう。

楽しんで頂ければ幸いです。


感想をいただきまして誠に大感謝であります。

内容を褒めていただける事も、お叱りを受けることもありますが、

全て本当にありがたく思います。他人に作品にご自身のエネルギーを使うというのは

本当に気持ちが入っていないと出来ない事だと考えます。

私自身は多くの作者さんの作品を読ませてもらっていますが、未だにブクマも感想もゼロですから。


それだけで評価、感想を頂くという事の素晴らしさをしみじみ感じております。


というわけで、夏休みだからという事で始めた毎日更新ですが、ストックが尽きるまで続けたいと考えています。こうなればやれるところまでやってみます。一応予約投稿なので、厳しい時は先に告知させてください。

これからも楽しんで頂ければ幸いです。

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