転移門とボス戦 4
お待たせしております。
「どうする? ギルドにこの件は報告する? この敵を見て何も言わないのはまずいと思うけど……」
たぶん現時点でのこのボスへの最適解は連携の取れた数人の前衛が損害を無視して全力で攻撃するしかないな。下手に後手に回ると先ほども食らったような猛攻を受ける羽目になる。あの凶悪な乱れ撃ちを集団が食らったら避ける術はない。盾持ちが守ろうとしても後ろにいる数人ごとまとめて貫かれそうだ。そうなれば座して死を待つ以外に方法はないだろう。
だが、もし俺がそれを進言したとしても向こうは信じないだろうな。たとえギルド側からの情報提供という形で受けても、情報源が俺のような見た目がガキの台詞を真に受けないだろう。
少なくとも俺が逆の立場なら鼻で笑って終了だ。
結局は痛い目を見て学ぶしかないと思うが、その痛い目がパーティ全滅じゃないといいんだが……ボス戦だから扉が閉まって逃げ場がないんだよな。
10層のサイクロプスとは実力が違いすぎるが、そりゃ20層のボスなんだから当然といえば当然だ。今の所は俺だけが20層へ到達した唯一の冒険者だが、一度達成した事は必ず誰かが続くものだ。
16層のあの通路もいずれ必ず発見されるだろう。今はまだ見付かっていないが、半信半疑で探すのと、通路が絶対にあると解って探るのは注意力が違う。そう遠くない内に見付かるはずだ。
そしてその先で、ボスにのみ少人数で挑むとは思えない。まず間違いなく万全の体制、つまり全員で挑み、たとえ勝利はしても目を覆うような損害を受けることになるだろう。
多分前衛の数人以外誰も生き残れないとかになりそうだ。
別に他のパーティがどうなろうと自己責任だが、ギルドとの関係を考えるといずれギルマスとこのボスについて相談したほうがいいかもしれないな。
「まあ、先の話は後で考えようよ! 今はお宝チェックよ! 具体的には転移環出てないかな!?」
「それは無理だろうよ。そんなに簡単に出ないと思っていたほうがいい……あ」
モンスターが倒れると等しく生まれる塵の中、金属塊と共に白い輪っかがはみ出しているのが見えた。
その後、俺達は19層へと足を運んだ。ボス部屋の扉はボスを打倒すると行きも出口も開くので20層から19層へ降りることも出来た。これで特定の階層へ行きたいときも転移門を使って便利に移動する事ができるようになったわけだ。大幅な時間の短縮が見込めるな。
先ほどは無理矢理跳んで移動した19層は未だ深夜だけあって暗いものの、月明かりに似た蒼白い光源が階層を薄く照らしていて全く先が見えないというわけではない。俺は<暗視>も使いつつ、作物を収穫すべく移動した。
果樹園エリアと判明した19層は今までの中で最大の大きさを誇っている。階層そのものの広さで言えば巨大な池の中の浮島といった印象の18層が圧倒的に広いのだが、移動できる広さという点では19層がこれまでで一番大きいようだ。これは果樹園という性格も影響していると思う。農園エリアだった17層は作物が当然だが畝や畑に密集している。しかし果樹園は果樹が均等に間隔を開けて配置されているのでその分広いエリアが必要なのかもしれない。なので、回収にも一苦労だった。
しかし、実入りは大きい。熟れたブドウやアプル、オランジが沢山手に入ったし、珍しい所ではアーモンドや梅、モモなど市場では見かけないような果物も沢山収穫した。
リリィが特に喜んだチェリーは収穫する数が多すぎて魔法で無理矢理果実をとったほどだ。これをもって市場に売りに出せるほどの収穫を得たが、見る者が見れば作物に僅かな魔力が宿っているのがわかるだろう。すぐに俺の違反はばれるに違いない。ギルド側もこのような違反行為を見つけるため、密告を推奨して報奨金まで用意しているというから、本気度が窺えるというものだ。
今まで殺伐とした戦いを続けてきた俺にとって、農作物の収穫は釣りと並んで中々に心休まる時間だった。リリィと共に深夜の果樹園巡りを楽しんでいたのだが、時折闖入者が舞い降りてくる。モモンガとムササビだ。
<鑑定>によると、キング・ムササビとエンペラー・モモンガというちょっと頭を抱えたくなるような名前のモンスターだった。
20層へ向かうべく全力で飛ばしていた頃に、何かが<結界>に弾かれていたと思っていたらどうやらこの2種類が樹から俺を狙って滑空していたようだ。
似たようなモンスターだが、ムササビの方が一回りくらい大きいので見分けるのは簡単だ。<鑑定>をしたら夜行性らしいので俺達は悪い時間に来てしまったようだ。見た目は中々可愛らしい奴なのだが皮膜を広げると鋭利な刃となり切れ味鋭い円環となって襲い掛かってくる。難なく攻撃はかわせるが、避けた先の樹木がスッパリと切断されていて、やはり19層にいるだけのモンスターなのだと思わせる。
ちなみにムササビは毛皮を落とし、価値は金貨4枚。モモンガのドロップアイテムはムササビと同じ毛皮だった。ダンジョン産の毛皮は普通のものよりも保温性が高く、このムササビたちの皮は場所によっては鋭利な刃にもなる珍しい皮だから防具素材として引く手数多のようで、価値は高いが大きさが小さいので金貨2枚だ。両者とも魔石はなかった。
しかしとんでもないことが起きた。ごく低確率ではあるもののモモンガは、なんとマジックバックを落としたのだ。合計20匹ほど狩って一つだけだが、価値は当然高く金貨150枚だ。
リリィが言うにはモモンガは自分の体に子供を育てる袋を持っているということだが、まさかマジックバックを落とすなんて想像もできないだろう。
その理屈でいくと有袋類のモンスターは全てマジックバックを落とす可能性があることになる。カンガルーのモンスターか、筋肉ムキムキの凶悪なモンスターがいそうだな。
王都への依頼の途中で既に一つマジックバックを持っているが、これも売らずに取っておこう。何かの言い訳にするにはマジックバックは都合がいいのだ。特に時間停止などの特殊な機能はない普通のマジックバックだが、今持っているのよりもバッグの口が非常に大きくて使いやすい。
思わぬ幸運に笑顔になりながら俺達は収穫作業を続けた。その後、バナナやビワなどの変り種を見つけつつ、美味しく食べるために冷水で冷やしてみたりしたが、色々やってもまだ夜明けには程遠かった。
仕方ないのでボスも打倒して安全な20層で一休みする事にした。10層まで移動して稼ぐという手もあったのだが、ほぼ初見のボス戦という緊張感のある戦いの後では何か失敗をしそうで怖かったのでやめておいた。
眠りから覚めた時には時刻は日が昇る頃だった。相棒の調子も良いようだ。あの不調はある一定時間以上ダンジョンに篭もると起きるものらしい。
本人が息を止めているようなものだといっていたが、まさしくその通りなのかもしれない。息を止めている間は大丈夫だが、時間が経つと苦しくなる。だが、また息を吸えばその苦しみはすぐに消えてしまう。彼女にとって一日のダンジョン攻略はずっと息を止めているようなものだったのだろう。
それを知らなかった俺がダンジョン泊を提案し、リリィを苦しめてしまったと言う訳だ。それなら始めから話せよと思わなくもないが、相棒の性格なら絶対に黙っているだろう。
実際に俺との繋がりを絶ってまで苦しみを隠そうとしていたのだ。付き合いが長くて性格も知り抜いている俺はここは自分が折れるべき話だと思った。難儀な話だと思うが、リリィは俺の望みを優先してくれたという事実を忘れるべきではない。そう考えている事もお互いに理解しているのでいちいち言葉にする必要もないし、既に済んだ話だった。
まだ寝たりないという気持ちを殺して起き上がる。リリィはそこのところどうかと思う必要さえないので、いまだ夢の中の相棒をひっつかんで懐に押し込んだ。冷水に浸けておいた果物はいい感じに冷えている。
今<アイテムボックス>にしまえば、最も美味しく食べられるというわけだ。
転移門も全く問題なく使用できた。今は10層と20層しか選べないが、リリィがいなくてもどこを押せばどこに着くかはもう解っているので問題なく地上に辿り着く事ができた。
しかし、転移門の存在は明かせないな。いや、むしろギルドマスターなど限られた人物には伝えておくべきか。しかるべき地位の人間が把握していればもしこの事実が露見した時にも適切な対処がとれるだろう。
どうせ認証がどうとか言っていたから俺以外の人間には扱えないようだし、よほどうまくやらないと他人が悪用するのは難しいだろう。
そこまで考えるとあの王都のダンジョンの謎の6層目も理由があるような気がしてならない。
なぜ俺達があそこに辿り着いたのか、何故絶対に倒せないような敵が転移門の鍵を持っていたのか。さらに思い出せば確かこの鍵は<範囲指定移動>をすり抜けて回収されなかった品だったことが思い出された。
一連の事が偶然のはずがないが、今はその答えを持っていない。いずれこのダンジョンを攻略していけばおのずと解るのかもしれない。
いつか、このラビリンスの深遠に至る事を夢見ながら、俺達はダンジョンを後にした。
残りの借金額 金貨 14993101枚
ユウキ ゲンイチロウ LV248
デミ・ヒューマン 男 年齢 75
職業 <村人LV294〉
HP 3351/3351
MP 2954/2954
STR 649
AGI 656
MGI 668
DEF 535
DEX 565
LUK 375
STM(隠しパラ)785
SKILL POINT 1005/1015 累計敵討伐数 10603
楽しんで頂ければ幸いです。
ここで言い訳を一つさせてください。果物が沢山出てきますが、所々、不思議な名前になっているものがあります。異世界仕様にしたかった(汗)こともありますが、自分達の知っているものとはほんの少しだけ違います。アプルは巨大なブドウのように房でなっていたりする設定です。
だいだいあれだろ?と思っていただければ全く問題ありませんが、気にされる方がいらっしゃる可能性も微レ存なので、補足させてください。
ダンジョンの戦いが終わり、これからは20層突破の余波が静かに駆け巡ります。派手さはないのですが、楽しんでいただけると幸いです。
これからもよろしくお願いします。




