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異変 2

お待たせしております。



 19層は果樹園エリアだ。構造そのものは16層から変わっておらず、透明な壁で出来た大きな4つの部屋に区切られているままだ。水棲モンスターの巣窟であった18層もそれは変わらないが、唯一の陸地である島が中央部分にあってそれぞれ四方で区切られており、部屋によって獲れる魚が変わると言う仕組みだった。

 初めて降りたときに階段の場所は確認している。環境層は階段の位置が変わらない構造なので探す手間が省けるのはありがたいが、階層そのものの大きさは16層から徐々に大きくなっていて、19層では倍近くにまでなっている。

 様々な実がたわわに実った木々が延々と続く場所だが、ここは敵が出現するのを<マップ>で確認している。深夜に近い時間帯では環境層の敵がどのような行動をするかが気になるが、今はそれをいちいち気にしている暇はない。思うことや調べたい事は多々あるが、それは全てが済んだ後だ。


 ダンジョン内は月(?)明りがあっても樹木が生い茂る層なので見通しはかなり悪い。敵の位置は既に判明しているが、どうやら木々の枝に止まっているようだ。そのことからか小型や中型のモンスターと考えられるが、今は戦闘する時間すら惜しい。

 ダンジョンでは決してやるまいと誓った移動方法を取るしかないだろう。


「リリィ! しっかり捕まってろよ! 舌も噛むなよ!」


「へ? いったいなにおぉぉぉああわあああっっ!!!!」


 俺は風魔法で己を浮かせ、そのまま風魔法で吹き飛んだ。かつてソフィアの侍女であるレナが一刻を争う危機的状況のときに使った移動法で、あまりの速度とこちらにかかる負担に封印を決意したのだが、あっさりと解かれてしまった事になる。


 だが、今回も状況が状況なので仕方ない。それに通常の階層では曲がり角ばかりで直線距離が短くあまり使い所がないのだが、このような開けた環境層では大活躍というわけだ。

 事前に<結界>も張っておいたので、モンスターの不意の襲撃も防げている。さっきからパシパシと何かが当たっているような音がしているので、多分襲撃なんだろうが……一瞬見えた小型の生き物は、ムササビかモモンガかな?敵が小型で助かった、もしアイアンゴーレムのような大型にぶつかっていたらこちらがぺしゃんこになっていたかもしれない。

 

「ちょっと……なにこれ……聞いて…ないんですけど……」


「レナを助けに行くときに使った方法。自爆技なんだが、走るよりは早いだろ?」


「もうちょっと優雅…な方法にして……これ、風に吹き飛ばされてる…だけじゃん」


 今は、早けりゃいいんだよ。階層が広くなった分、階段までの道のりは遠かった。直線距離でも5、いや8キロはあるだろう。まともに敵と戦いながら走ったら半刻(30分)はかかったかもしれないが、ありとあらゆるものを無視することで僅かな時間で階段に到達した。

 <時計>を確認すると行動を開始してから10寸(10分)と経っていない。リリィの事も<結界>を何重にも重ね掛けしてダンジョンからの吸入を防いでいるおかけでほんの少しマシになっているようだが、今も危険な事に変わりはない。


 飛び込むように階段に入り、降りると言うより落ちながら20層に到着した。その先は見慣れた環境層ではなく大きな扉を持つ一本道、階層主層だった。


 

「よし、ボス部屋だ。通常階層じゃなくて良かった」


 まずは第一関門突破だ。これで環境層が続いていたり、通常の階層だったりしたら完全に無駄骨だった所だ。その場合はこの足で地上を目指さねばならず、リリィを苦しめる時間が増えるだけだった。


「油断しない……初見のボスになるんだから。ちゃんと……準備しないとだめ」


 リリィは俺を諌めてくるが、その元気のない声を聞いただけで俺の焦りは増すばかりで逆効果だ。今だってリリィがかなり無理をして声を出しているのが解っている。本当なら喋るのも億劫なはずだ。もし俺が逆の立場なら身動きも取れず必死で耐えるだけだろう。


 ボスの扉に駆け寄りながら<マップ>で中の構造を把握する。基本的に10層のボス部屋と変わらないようで、確認できるボスは一人だけ。


「落ち着いて、相手を確認…するの。よく見て……ちゃんと強味や弱味も把握するのよ」


 リリィも俺の気が急いているのを把握しているのだろう、普段なら決して言わないような注意を促しているが、今は相手の姿形や特徴などどうでもいい。一瞬でも早くこのダンジョンを脱出してリリィを休ませる、俺の頭にあるのはそれだけだった。


「遅いぞ……早く開け!!」


 ボス部屋の扉が重々しい音を立てながら開いていくのが酷くもどかしい。冷静になればいつもと同じなんだろうが、今は一秒を争っているんだ。だが、戦いとは扉が開ききってから始まるのではない。競技でないんだ、勝利こそが最優先なのだ。


「俺の邪魔を! するなッッ!!」


 俺は片手がなんとか入る程度の隙間ができると、間髪淹れず右手を突っ込んだ。そして、場所がわかっているボスに向けて掛け値なしの全力で雷属性の魔法を叩き込んだ。


 俺の手から放たれた極太の雷光は耳をつんざく轟音と衝撃をもたらした。


 扉の僅かな隙間からでもはっきりと伝わるが、俺の気はすでに他に移っている。<マップ>でボスの消滅を確認したら、何とか体の入る程度の隙間が出来たと同時にボス部屋へ入り込み、その先の階段があるであろう区画に走りこむ。

 その途中で滅び去ってゆくボスを視界に捉えた。いまいちよく解らなかったが、人形? のような形をしていたような気もする。

 俺が近寄る頃には既に消え去っていたので、走り過ぎた後で背後に向かってあると思われるドロップアイテムを回収する。


 そしてボス部屋の先、目的地である区画に辿り着く。10層の同じ場所では下へ降りる階段があるだけだった。


 そして……20層も同じく下へ降りる階段があるだけだった。


「くそっ、転送門はないのかよ! これじゃ全くの無駄足だぞ……」


「ちょっと……待って。セラ婆ちゃんの……言葉を思い出して」


 慌てて引き返そうとした俺の足を、リリィが止めた。そうだ、セラ先生は転送門の位置について様々なものがあると言っていた。普通に階段の近くにあるものや、撃破後にボスの部屋の前にあわられるもの、そして特殊な条件によって隠されているものがあるそうだ。


 俺ははやる気持ちの中、何とか呼吸を落ち着けて<魔力操作>で階層全体を探る。視覚より触覚で探したほうが早いだろうと思い、階層を隈なく探すのだが……隠されているようなそれらしい部屋を見つける事はできなかった。


「本当にないのか!? くそ、ここまで来て……」


「怪しいといえば……あそこの窪みくらい……かな。でも普通の穴だったし、何も……ありそうな気配はないね」


 俺も気になってはいた。階段とボス部屋の丁度中間あたりの壁に不思議な穴が開いているのだ。大きさは丁度俺の腕が入るくらいのものだが、穴が開いているだけでそれ以外に不思議な事はなかった。

 これ見よがしの怪しい穴なので、中に何かあるのかと思い探ってみても本当に普通の穴で何もできることがなかったので諦めている。<魔力操作>でも<魔力探知>でもこれといった特徴はなかった。

 これまでの階層にも罠の跡のような微妙な空洞はあったので、そこまで不審に思いはしないがボス部屋に一つだけ開いた穴と言うのは気になる。だが、なにもないのでそれ以上事は出来なかった。


 その時、さらに悪い事に<時計>が日付が変わった事を知らせてきた。同時にダンジョン内を微細な振動が襲う。おそらくこの瞬間に階段の位置が変わったのだろう。よく見れば先程まで開いていたボス部屋の扉も閉まり始めている。10層ボスは毎日再出現する事を考えると、ここもそうである可能性は高い。となると、今から戻ると考えただけでも、2回のボス戦と全て移動した階段をこなさねばならないのだ。

 ボス戦はともかく、階段の位置が変わっているのは面倒の極みだ。階段の位置を探ろうにも瞬時に解るわけではない。もし運悪く時間のかかる場所ばかりあたる可能性は、俺の運の悪さを考えると大いにありえるな。くそ、リリィが危機の時に限って悪い事が重なりやがる。この状態で何時間もかけて脱出するとしたら、恐らく相棒は……畜生!


 くそ、何かないか? このような状況で有用なスキルを今から探すか? いや、この状態のリリィに過度の負担をかけたくない。スキルを取得するには相棒の能力が不可欠なのだから。

 こういうときに限って<瞬間スロウ>は発動しやしない! 自動発動系はこれだから嫌なんだ。本人の任意で操作できないなんて意味ないじゃないか!

 

 自分が酷く混乱している事を自覚する。スキルに文句をつけている場合ではないのだが、思考が千々に乱れて考えがまとまらない。

 くそ、時間が止まればいいのに。ん、時間がとまる?


「そうだ!」

 

「なんで……こっちを見るの?」

 

 時間がないと焦る俺に天啓が降りてきた! そうだよ、<アイテムボックス>は時間が経過しないじゃないか。


「いや、いやいや無理! 無理だから!! 生き物は入らないって知ってるでしょ!?」


「<結界>でさらに数十回上書きすれば可能性はあるだろう? このままじゃリリィの身が危ないんだ。転送門も見つからないんだし、やってみる価値はあるだろう。さあ!」


「さあ!! じゃないよ! 掴まないで! いや、無理だっていってるでしょ!! んん? なにこれ?」


 既に力の入らない相棒をがっしりと掴んで<アイテムボックス>に突っ込もうとしたが、頑強に抵抗された。

 このままじゃジリ貧なんだし物は試しじゃないかと無理矢理押し込もうとしたんだが、器用な事にボックス内に頭が入りながらも、体が<アイテムボックス>の淵にしがみついて離れない相棒が奇妙な声を上げた。


楽しんでいただければ幸いです。


リリィの状態は言ってみればダンジョン内は彼女にとって空気が良くないので、ずっと息を止めていたようなものです。

その息が続かなくて仕方なくダンジョンで息を吸ったら、やっぱり空気があわなくて苦しんでいると思っていただければ。なので外に出ればすぐに回復します。ここが地下20層でなければ話は簡単だったのですが、という状況です。

 一人称のおかげで主人公が理解していないと、非常にわかりにくいことになってしまっておりますので後書きの範疇を越える話ではありますが、補足です。


ちなみに20層のボスは名前すら出されずに消えました。泣いて良いと思いますが、検証大好き主人公なので、すぐにまた会います。(フォロー)


沢山の閲覧、ブックマーク、それに感想まで頂戴して感謝感激です。

これからも気合入れて頑張ります。まだ序章も終ってないんで(汗)


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