未踏の先へ 4
お待たせしております。
ここに見えるものたちはいくら姿が魚でも、実際はダンジョンモンスターだ。倒せば当然塵になって消えていくのである。今、水に浮いている魚もこれからどうなるかなんて、言うまでもないことだ。
案の定、葉っぱらしきものに包まれたアイテムが沈んでいくのを眺めることになる。
「ユウ、もったいない!!」
「わかってるよ! 今考えてる!」
さて、どうするかな。水に飛び込んで回収するか? この水棲モンスターの巣窟に無策で飛び込みたくはない。だが、せっかくの魚なのだ。海が近い王都では比較的簡単に手に入る海産物も、ウィスカではなかなかお目にかかれないのだ。ここでは精々干物くらいでナマモノは滅多に出回らないから、いくら他にも大物がいるとしても見逃す手はない。<魔力操作>で回収しようにも水中とは相性が悪すぎた。空中なら思い通りに動かせる魔力も水の中では抵抗が強すぎて満足に進めないのだ。
「いつものようにスキルでほいほい、って訳にはいかないかぁ。でも他にも大きい魚はいるもんね」
そういえば、水中で<範囲指定移動>はできるのだろうか? 頭から抜けていたけど、空中が水中に変わっただけと思えばやれそうな気もする。よし、駄目で元々だ、やってみるか。
水の底がわからないので水深を20メトルほどに設定し、縦横をそこそこの広さにして回収してみた。
案の定、水ごとごっそりと無くなったが、生き物は入らない性質のおかげなのか、大小様々な魚たちがビチビチと跳ねていた。だが、それもすぐに周りからの水の流入によって収まっていく。ちらっと見えたが、底の方にはかなりの数の貝類も居た。貝は自分で取らなければ駄目だろうな。
「水ごといったのかぁ。なかなか豪快だね」
「今はこれしか思いつかなかったよ」
「誰にも迷惑かけてないんだからいいんじゃない? それより何が手に入ったの?」
<アイテムボックス>を確認する。新規入手品にはそれらしいチェックが入っているので一覧を出せばすぐわかるのが地味に助かる。適当に範囲指定をしたし、殆どが海に沈んでいったのでどれくらい手に入ったのか全く解らなかったのだ。
ドロップアイテムは、マグロの赤身とトロ、中トロ、テールに頬肉とあった。というか、あれマグロだったのか。ここ淡水だよなと思って大量に手に入れた水を調べると変な注釈がついていた。
<鑑定>にはこうある。
魔力水 価値 銀貨15枚
真水に豊富な魔力が染み込んで変質した魔力水。製薬時や料理に使用すると、魔法力の回復が見込める。そのまま飲料用としても使用可能だが、魔力回復の効能は低い。価値は大樽一つ分の金額相当。
価値を知った俺が思う存分水を確保した事は言うまでもない。その際になるべく底が見えるように掬い取り、姿を見せた無数の貝や他の魚モンスターを魔法で仕留め、更に回収という二段構えをしていたらあっという間に時間が過ぎていった。ちなみにこの中には普通の魚もちゃんといた。さっき腹を出していた魚が全て塵に帰ったわけではなかったのだ。それらは普通に<アイテムボックス>に回収されている。
魚獲りを楽しんだおかげでとっぷりと日(?)は暮れているが、これが環境層の不思議さなのか、上には星が瞬き、まるで月のような球状の不思議な物体が夜空を照らしている。事前にギルドから他のダンジョンの環境層の情報は得ていたのでそのことについて驚きはないが、ダンジョンそのものの奇妙さはとどまる所を知らないな。
多くの人は、このありえない光景も『そういうもの』と受け入れているが、いつかダンジョンを専門に研究している人からも意見を聞いてみたいものだ。
随分と回収作業に熱中していたので、収穫は相当なものになった。手に入れた魔力水は2,000トンを越えたし、多くの貝類も手にした。海草も手に入れているが、リリィなどは葉っぱにしか見えないみたいだ。これは昆布だしの美味さを教えてやらねばなるまい。
とはいえダンジョンにあるこれが果たして昆布なのかは微妙なところだ。<鑑定>ではアラメとあったが、多分昆布だと思う。自分の記憶は無くても昆布だしが美味いことだけは覚えている。ハンク爺さんへの土産が増えたな。
大型の魚モンスターを主に狙ってはいたが、ここにはマグロとカジキやトラウト、カツオやシイラがいたようだ。手に入ったアイテムがそれを証明している。大きいモンスターは相応の強さもあったようで、ここでも5等級の魔石も多く手に入っている。これは13層の敵と同じ等級だが、正直な話敵の強さと得られる魔石に開きがある。強さは明らかに上だが魔石は同じ等級だとなにかもやっとしたものが残るな。とはいえ時間つぶしのための魚獲りで金貨10枚の価値がある5等級の魔石が10個ほど手に入ったのだから大収穫といえるだろう。
16層の牛や豚が全く魔石を落とさなかった事を考えると、18層はまだ収益的に美味しい階層と言えるが、普通に戦って倒せる相手だとは思えない。実際にいる魚を一回り大きくして凶暴化させていると思っていいが、あの巨体が水中で襲ってくると考えると対処は無理だろう。魔法だって雷属性を持つ俺だからできることであって、火魔法は無謀だし、風や土は水の抵抗でほぼ無意味だ。水属性はこの中では一番マシだが、大きな水練場でいくら手足をバタつかせて水流を起こそうとするようなものだ。現実的な攻撃手段ではない。
一番有効な手立ては……投網かな? だが、鋼鉄製の網でも用意しないとあっさりと食い破られそうだが。
せっかく魚が手に入ったので今日はここで食事にしよう。18層は今いる島以外は全方位が海というか、水に囲まれているため比較的安全だ。半魚人などがいたら島に上がってきそうだが、今の所その気配はない。
魔導具の宿泊施設に戻ればちゃんとした台所もあるが、ここは野趣あふれる夜営飯といこう。折角取得した<料理>スキルがほぼ死蔵されていたので活用してやらねばなるまい。
俺自身、自炊はできるが人に作ってもらうほうが楽だし、お互い商売でもあったのでそれに従っていた。ハンク爺さんの料理は俺の好みに合うし、王都のホテルでは豪華極まる食事を断ってまで自分で作る気もなかったのだ。
簡単に焚き火を作り、その上に鉄板を置く。いい感じに加熱したらカジキの赤身(いや、白身か)を取り出した。
食用アイテムは規格でもあるのか、常に同じ大きさだった。カジキやマグロの赤身、貴重であろう中トロや頬肉までも大きな一塊で手に入る。これは肉も同じでショートプレートなどの希少部位も他のリブなど明らかに大きさが違うはずの品も同じだった。
恐らく通常かレアで手に入る確率は違うのだろうが、このマグロの頬肉の大きさからして同じ大きさにするには普通のマグロ数十匹が必要になるような量だった。
「美味しければそれが正義! 細かいことは考えない!」
相棒の正論に考える事を止め、やはり一抱えはある身をいくつか切り分けて適当に焼いていく。調味料はハンク爺さんや王都の雑貨屋である家鴨亭で買い求めた物が手つかずで残っていたのでそれを使う。やはり堅実に塩で食べようか。非常に脂が乗っていて、熱した鉄板の上は脂ですぐに身が滑るようになった。これは期待できそうだ。
焼きあがった身を皿に乗っけてすぐに食べる。リリィは自身の専用カトラリーを持っているので反対側から食べている。
「おお、美味いじゃん!! これならいくらでもいけるよ」
「塩だけなのが逆に功を奏した感じだな。このカジキ自体も美味いんだろうけど」
ちなみに価値は全て銀貨10枚だった。6等級の魔石が金貨8枚相当なのを考えると仕方ないとはいえ、そのあまりの差にため息が出そうだ。
数切れの切り身を食べたら満足してしまった。俺は小食というか腹持ちが非常に良いせいか、あまり食べないのだ。元が自分の体ではないからなのか、それともなんらかの<スキル>でも使っているのか解らない。逆にソフィアやジュリア、レナは見ているこっちが気持ちよくなるほど見事な健啖家だった。それを気にしたのか逆に彼女たちが俺にもっと食べて欲しいといわれる始末だった。
相棒の主食は蜂蜜なのでもはやそれ以前の問題だ。本人曰く食べなくても問題ないらしいが、私だけ仲間外れみたいで嫌だから一緒に食べているらしい。
現実の外よりも明らかに多い満天の星空の元、満足な食事を取った俺達は17層へ戻り、睡眠をとった。目が覚めたら目指すは20層だ。どんなボスが待っているのか楽しみだったのだが、突然の非常事態が俺達を襲うのはもうすぐのことだった。
残りの借金額 金貨 14995221枚
ユウキ ゲンイチロウ LV205
デミ・ヒューマン 男 年齢 75
職業 <村人LV245〉
HP 2852/2952
MP 2321/2421
STR 571
AGI 572
MGI 593
DEF 566
DEX 502
LUK 338
STM(隠しパラ)741
SKILL POINT 910/920 累計敵討伐数 10511
楽しんで頂ければ幸いです。
結局14層で蜂を2000匹以上倒していた計算です。魔法をオートモードで発動しているだけなので本人は半分寝てました。就寝時点での収穫は金貨1432枚ですが、それに本日の利子を足しています。しかしほんとに一日300枚はえげつない。
この収入は作中にあるとおり、レイスダストの影響が大きいです。全体の3割近くがいレイスダストによるものですが、他の冒険者たちにとっては非常にやりにくい相手なので(何せ魔法以外のほとんど効果なし、魔法武器でも効果はかなり低い)のでやり過ごすか、13層で稼いだ方がおいしいのです。
次が20層のボス戦ですが、訳あって超スピード戦になります。
これからもよろしくお願いします。




