表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/418

未踏の先へ 3

お待たせしております。



 俺達は幽霊たちが徒党を組む15層を難なく突破し、16層に辿り着いた。目新しさの無さに始めは落胆した15層だったが、落ち着いて収益を考えると金貨10枚のレイスダストがボロボロ落ちるのは頭おかしいほど儲かるのだ。今日はいまいちだったかなと思いながら帰還して利益を数えると想像以上に稼げていたのはやはりレイスダストの影響が大きい。さっきも集団で現れた幽霊たちを一掃したが、手に入ったレイスダストは9個だった。これだけで金貨90枚になるのだから、やはり彼らは俺のかけがえの無い友人である。


 今日は環境層へと至る通路の門番であるアイアンゴーレムは既に倒されていたようで、扉は開いていた。一日に一度復活するのは確認しているが、この層には今、3組の冒険者たちが活動しているようなので彼らが倒したのだろう。

 実は今日は10層ボスも既に倒されていてドロップアイテムによる収入という意味では非常に心許ない。ここまででかなりの時間をかけて倒してきているので、借金の利子分を考えても十分に黒字ではある。

 だが何故だろう、取り逃した感が半端ないので、是非とも20層のボスには期待してしまう。


 念入りに<隠密>を掛けて足早に階段へ、より正確には階段への道に続く滝へ向かって走る。<隠密>は姿を消せるわけではないので、血気盛んな牛がこちらに向かってくるが、ここは無視だ。各種の肉は今すぐ精肉店を開けるほど有り余っている。これ以上手に入れても在庫が増えるだけだし、戦闘音を聞きつけて他の冒険者が寄って来ないとも限らない。

 17層への階段を何が何でも隠したいわけでもないが、積極的に教えて回る気もさらさら無い。情報には価値があり、それを正しく理解するものだけが扱う権利を持つ。

 ここまで到達している彼らが大金を払って階段の情報を買うならともかく、こちらから教えてやる義理はない。<マップ>で周囲に埋伏する冒険者がいない事を確認して、こっそりと滝の向こう側へ移って17層へ到達する。



 17層は敵の出現しない安全地帯なのでここで一泊する予定だ。そのための夜営の準備も既に完了している。まだあれから一月も経っていないのが嘘のようだが、先生の店で借り受けた例の宿泊用の魔導具を使えばすぐに終わってしまう。寝る前に飯と風呂の準備をしてしまえば後はやることがない。周囲の畑から作物を収穫し終えても時刻はようやく夜7時を回った所で、今は夏の月だから現実と同期する環境層の空は闇が夕暮れを侵食し始めている程度で流石に休むには早すぎる。

 そういえば、外と同じ現象になるとしてここで雨は降るのだろうか? ダンジョンで雨という馬鹿な考えに思わず笑ってしまうが、ちょうど今俺が齧りついた瓜に似た野菜は瑞々しさにあふれている。


「真面目に考えるだけ損な気がするよ? だってダンジョンじゃん」


 リリィの呆れた声にはっと我に帰る。確かにダンジョンに整合性を求めても仕方ない。何せ牛を倒したらそのまま骨付き肉が出てくるのだ。これだけで既に理屈ではない。この瓜もきっと土壌に水分が一杯蓄えられているに違いない。ダンジョンの謎を解明するのは他の誰かに任せよう。


 それはそうと、17層の収穫は日によって物が変わるので飽きる事はない。いつものテイトはもちろんのこと蔓植物にあたるトマトまで一日で何もなかった畑から一夜にして身が成っているのは不思議を通り越して不気味ではあるが、味は抜群に良いので文句はない。他にナスや豆など見える範囲で全て収穫してもその時間なのだ。


だが俺達は時間が余る事を事前に予測し、対策を取っていた。



「さあ、夜釣りの時間がやってまいりました!」


「一応魔物だから夜行性とかあるのかも疑問だが、釣ってみればわかるか」


 実際の季節に応じて周囲は環境も変わるのから、夏の今は7時過ぎにしてはまだ明るいほうだ。

 今は薄闇が広がる夕暮れの時間帯、魚たちが活発に活動する時間帯の一つとされている。

 

 俺は<アイテムボックス>から急造の釣り竿を取り出すと、餌もつけずに水面に糸を垂らした。ギルマスから聞いた話では海洋型の環境層は餌をつけなくても魚が入れ食い状態になるという。

 天候や気候にも左右されないらしいが、ここで通用するかはわからない。こちらとしては暇つぶしが出来ればそれでよいと考えていたのだが……。



「ユウ! 引いてる! 引いてるよ!!」


「もう来たか! うおっ、しかも凄ぇ力だ。こっちが持っていかれかねないぞ!」


 なんとか力を入れて対抗するが、これがまた難しい。各種スキルで俺の筋力、腕力はとんでもない強化をされているが、逆に繊細な調整が酷く面倒なのだ。例えば今のような状況で魚を釣り上げるための力を入れると、魚を釣る前にまず間違いなく持っている釣竿を握りつぶすだろう。その為には手の力を程々に腕の力だけを大幅に強化しなければならないという微細な調整を強いられる。本来は意識することなく脳が勝手に調整している事柄を全て自分の認識の下でやらなければならないのだ。

 慣れればいずれ脳が覚えていくんだろうが、日常生活で意識して訓練をするのは難しいものだ。



 ああくそ、この力、これはもはや魚じゃない。ここはダンジョンで、水の中にいるのは水棲モンスターだ。こんな当たり前のことをすっかり失念していた。


 俺はせいぜい小ぶりの魚でも釣るかと思って用意した竿なので、このまま力比べをしていたら簡単にへし折れてしまう。適当に遊ぶだけの道具ではとても太刀打ちできない。ミシミシと音を立てる釣り竿にリリィが不安げな声を上げた。


「ああ、釣竿がもたない!」


「こりゃ駄目だ。こんな簡単な竿じゃあ()()()がなさすぎる」


 どうしようかと思ううちに音を立てて竿が折れた。本格的な竿なら魚の引く強さに応じて()()()()壊れる事を防ぐんだろうが、朝思いついて用意した急造品じゃ無理だ。あんな大物相手じゃたとえ鋼鉄の棒に糸をつけても糸が切れるだけだな。

 やはり大物を相手にするには専門家が作った本物が必要だ。自分でも意外なほど熱くなっている事に驚くが、この世界での趣味といえるものが無かったので釣りに熱意を傾けてみても良いかもしれない。


 釣り竿がなくなってしまったのでこれでもう今日は釣りをする事は出来ないが、”魚獲り”はできる。特にあの竿を折ってくれた魚は絶対仕留めてやる!


「ええ、まだ諦めてないの?」


「当然、ただでは済まさない。負けっぱなしは性に合わないからな」


「ユウがこんなに熱くなるなんて珍しい。記憶をなくす前は釣りが趣味だったのかもね」


 相棒が俺の無くした記憶に思いを馳せるが、俺はなくしたものより今までの出会いとこれから得るものを大事にしたい。具体的にはさっき負けたあの魚だ!


「水のなかはあいつらの天下だろうが、こっちに手がない訳ではないんだぜ。水中で電撃から逃げられるものなら逃げてみろ!! ライトニング! 」 


 

 ほんの僅かな魔力で放った雷魔法が、悠々と泳いでいるモンスターに直撃し、その周囲にいた他の魚も巻き込んでいく。ダンジョンで雷魔法を使ったのは初めてだ。今の所、使い手が俺とソフィア達(アンナの他にレナとサリナも習得に成功した。特にサリナは得意分野である短剣を使った近接戦闘との相性が最高でこれまで見たことが無いほど喜んでいた。電撃衝(スタン・ショック)と名付けられたそれは無詠唱で威力は一瞬動きが止まるほどのものだが、近接戦闘中に相手を一瞬でも棒立ちにさせることは勝利を意味する。彼女は暗殺者の技術もあるので、そちらとの相性もよいらしい)しかいないので、使用を控えている。ダンジョンの戦いでは通常の4属性で何も問題はないからな。


 たしか電気を使ったこんな漁もあったなと思いつつ、プカリと腹を出している魚たちを見ていたら、俺は大きな失敗をしていることに気がついた。


楽しんで頂ければ幸いです。


18層釣り堀計画が地味に始まってます。この世界でのんびり釣りなどできる環境ではないのです。海には某海王類ほどではありませんが巨大な水棲モンスターが多く、個人で細々と川釣りをするのが精々です。


 嵐も時化も来ない場所で舟を出して釣りをしたら楽しいだろなと主人公は考えています。そしてそれに賛同する金持ち共が集まるとどうなるか……書けるのは相当先ですね(涙)。

 後ほど書く機会がありますが、魚系はモンスターでも普通に食べれます。魔物と魚の違いは魔石の有無と、引きが異常に強いだけです。


 あと、スタン・ショックはメイド二人が一番上手いです。王宮で現れる王女に近づく不埒者をばったばったとなぎ倒している間に習熟しました。


最後になりますが、閲覧、ブックマーク、誠に有難うございます。これからも頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ