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世界最強になった俺、史上最強の敵(借金)に戦いを挑む!~ジャブジャブ稼いで借金返済!~  作者: リキッド


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王都にて 19

お待たせしております。



「やあ、来てくれたのか! すまないな、本来ならばこちらから出向かねばならぬものを」


「いえ、そちらも色々とご多忙でしょうから」


 来客中にもかかわらず俺を出迎えてくれたフェンデル伯爵だが、その表情は疲労が濃く表れていた。机の上に高く積まれた書類が、おそらく昨日からひと時も休んでいないのではいかと思わせる。


「なに、確かにやることは多いが昨日までの悪夢に比べればどうということはない。君は我が家だけでなく、この国を救ってくれたのだからな」


「そんな大袈裟な」


「いや、本当だぞ。俺たちは最悪シルヴィを失うことも覚悟していたからな。前にも話したが、昔似たようなことがあって教団本部に国の祭祀を乗っ取られた国はそのまま滅亡した。同じ轍を踏むわけには行かないが、国王陛下はシルヴィを絶対に助けろと仰せだった。顔には出さないがウチの親父は相当に追い詰められていたんだよ」


 クロイス卿がテーブルの上の軽食を食べながら俺の近くに座って足を崩した。いくらなんでも気安すぎないだろうか。食べている軽食も多分伯爵のものだろう。


「ん? ああ、俺たちも昔馴染みだよ。ガキの頃からの付き合いだ。言ってなかったか?」


「家出したこいつが冒険者になる前、最後に金の無心に来るくらいの仲だな」


 もうとうの昔に返しただろうが! と噛み付くクロイス卿は年齢よりも若く見える。本当に心許せる仲のようだ。


「ったく、話を戻すぞ。親父は公爵だから陛下とは血が繋がってるんだが、早くに両親を亡くしたシルヴィを陛下は大層可愛がっていて、王家の身内の集まりにも頻繁に呼んでいたほどでな。俺は帰ってきたばかりだから実際には見てないが、あの子は顔パスで王宮の私室に入れるらしいぞ。そんなんだから親父は国と王家で板ばさみでな、この国を救ったってのもあながち間違いじゃないのさ」


 王宮は王族の住居だよな。親戚とはいえ国王の私的な空間に無条件では入れるのは凄いな。


「国はともかく、昨夜のようなことが二度と無いようにせねばなりませんね。聞けば今度枢機卿になられるとか」


 伯爵はただでさえ悪い表情をさらに曇らせた。体調も良くなさそうなので思わず<ハイヒール>をかけてやった。


「これは……! 話には聞いていたが、本当に回復魔法を容易く扱うのだな。ああ、かなり楽になったよ、ありがとう。それで選挙の話だが、枢機卿選は立候補している。概要は弟から聞いているだろうが、状況は良くないがね」


「俺たちも最大限バックアップはするつもりだが、一枠を競う相手が”金満アイシン”じゃなぁ。ただでさえこの国は金ないってのに、さらに無駄金になる可能性が高いんだよな」


 渾名だけでどういう人物かわかるな。資本がこちらを上回る相手に同じ方法で戦っても勝利はおぼつかない。ひっくり返すには目先を変える必要があるだろうな。


「金銭以外でお手伝いできればと思いまして。最高司祭との会談に土産としてこれなどいかがですか?」


 俺は<アイテムボックス>から黒い巨大な物体を取り出した。彼ならこれの価値を理解してくれるはずだ。


「こ、これは!!」


「おいおい、マジかよ。そういえばお前が回収したんだっけな、忘れてたぜ」


 俺が取り出したのは”上級悪魔の黒巻き角”だ。昨夜取れたてホヤホヤの逸品だ。悪魔を信仰する教団で滅多に確認されないという上級悪魔の角を土産にしたらどんな反応があるかな。


「この角は一対になっているはずだろう? すまないが反対側の物はないか?」


「ありますけど……これでいいですか?」


 もうひとつの角を取り出すと伯爵は笑み崩れた。これで勝てる、勝てるぞと両手を突き上げている。

 そこまで何かをした気はないんだがな。金銭的価値は<鑑定>で金貨15枚とあったけど、あくまで手土産にしかならないと思うが。


「ユウ。教団本部の大魔堂には悪魔の巨大神像があるんだけどその角は本物の上級悪魔の物と言われているんだ。だけどその角は片方にしかない。だけど、今君が出した角によって長らく未完成だった神像は完璧な姿になる。それが成し遂げられたら大変な功績だよ」


 なるほど、だから伯爵の喜びようなのか。


「最高司祭を歴史に名を残す人物に祭り上げるのか。こりゃあ決まったろ! 金満のバラ撒く金なんかトップの鶴の一声に敵う筈もないぜ」


「その通りだ。ああ、君は神の使いなのか!? 君が現れてから難題が次々と解決してゆくではないか! 一体何を以って君に報いればいいのだ。そうだ、まずはこの角を買い取らせてくれ。金貨100枚や200枚でもかまわん。言い値で払うぞ!」


 いや、評価額は金貨15枚なんだが。最近<鑑定>の評価が現実とかなりズレているのは理解しているが、さすがに吹っかける気はない。


「友人のご家族ですから、友人価格で金貨10枚でいいですよ」


「これだけのことをしてもらってそうはいかないさ。先程は金がないといったが、選挙の運動資金はまだ手付かずだ、ほぼ必要なくなったからこちらから出せるぞ」


「お気持ちだけで十分ですって。元々儲けようと思ったわけでもないので。ですが、一つご助力いただけるとありがたいことがあります」


「何でも言ってくれ、私に出来ることなら何でもする」


 身を乗り出す伯爵に俺は横に座るバーニィを肘で小突いた。


「俺は伯爵の弟さんを冒険者の仲間にしようとしているのですが、なかなか色良い返事がもらえないもので困っていたんですよ」


「ぼ、僕の話かい!」


「なぁなぁ、一緒に冒険者やろうぜ、俺と組めば絶対に面白いって! すぐにとは言わないからさ」


「い、いや、前も言っただろう、俺なんて役に立たないって。兄さんの手伝いもしなきゃならないし……」


 と、奴はいつも言葉を濁してしまう。そのくせ嬉しそうにはするという面倒臭い野郎だ。


「バーナード! それが成人した男の態度か! 私を理由とせず心の内を正直に話せ。それが誘いを受けた相手に対する誠実な対応と言えるのか!」


「兄さん……い、いや、ユウはすぐにでもウィスカに帰るんだろ? ということは活動は向こうになるはずだ。俺は王都に……」


 あん? この反応、ははあ、こりゃ女だな。


「アンジェラさんだったか。すまん、それはこっちが気が回らなかったな」


「い、いや。俺はアンジェのことなんて一言も!」


「いや、バレバレだぞ。俺も今の反応で解ったからな。そうかそうか、あの娘も幼馴染だったな」


 ニヤニヤしだす男三人に挟まれバーニィは無言で通すことにしたようだ。いかなる反応も相手を喜ばせるだけだとわかっているようだ。


「それなら仕方ない。こっちに遊びに来てくれよ、俺も王都に頻繁に出向くようにはするからさ」


 ただでさえソフィアからずっといて欲しいと毎日のように言われているのだ。あの子にそこまで言われて知らん顔はできない。

 


 結果として伯爵から金貨50枚を受け取ることになった。彼はその件で至急打ち合わせをするようで家宰を呼んで大急ぎで準備を始めた。一応貴族の礼儀として今夜の食事に誘われたが、気持ちだけ頂戴する。今日で王都滞在は最後になるし、彼の多忙さを見るに実際に押しかけても迷惑だろう。


 リットナー家での用事はこれで一通り済んだ。



「クロイス卿、公爵家にお邪魔してもよろしいですか?」


「もちろん、というかこっちから誘おうと思っていたところだ。我が家の恩人でもあるお前をそのまま在所に帰しては公爵家の末代までの恥だからな」


 可能であればシルヴィア嬢も見舞いたい所だ。今を逃すと次は回復した後だろうし。忙しく使いを出す伯爵に(いとま)を告げると俺たちは屋敷を辞した。

 

 その後、3人で王都を歩き、クロイス卿の案内で王都の冒険者ギルドで何人かの紹介を受けた後、ウォーレン公爵邸に辿り着く。大通りに出て見舞いの品を探したが、これといったものは見当たらない。公爵家のご令嬢に見合う物などそれこそ王宮御用達の大商会くらいにしかないか。さっきまでいたリノアに有効な助言をもらって置けばよかった。


 この屋敷に初めて来た時は衛兵と一悶着あったが、今日は家人であるクロイス卿が共に居るから何の誰何もなく中に入ることが出来た。当然だがこの屋敷にあった陰鬱な気配は既に消え去り、人々の顔にも生気が戻っている。

 

 俺の来訪が予想されていたのか、アドルフ公爵は応接室で立ち上がって出迎えてくれた。


「おお、待っておったぞ! よく来てくれた」


「この度は厚かましくも押しかけまして、申し訳ありません」


「何を言うか。今回の件では言葉に出来ぬほど世話になった。堅苦しい言葉はよい、貴公は我が家の大恩人なのだからな」


 公爵はソファを勧めると人を呼び、軽食を運ばせた。贅を凝らした食事が並び、バーニィの驚く声が聞こえる。伯爵家の彼から見てもたいした陣容らしい。


 このレベルの軽食を何気なく出せる家にどんな見舞いを持ってゆけばいいのかと悩んだが、やはり鉄板の蜂蜜の小瓶しかないか。シルヴィア嬢は順調に回復し、ベッドから起き上がれるようになっているらしい。


「お加減がよろしければお見舞いをさせていただきたいのですが」


「すまないが、今は大事をとって休ませておるのだ。先ほどソフィア殿下からも見舞いの先触れをいただいたがお断りさせてもらった」


 公爵の表情は明るいが、昨夜はほぼ仮死状態にされていたのだ。大事を取っておくことに越したことはない。シルヴィアの元気な顔を見れないのは残念だが、滞在を延ばすわけにも行かない。公爵家のお嬢様に頻繁に会えるはずもないから、次に会うのはしばらく先になるだろう。

 公爵に見舞いの品を渡すと本題に入る。



「昨夜お話したグレンデルの本来の目的地の件ですが、何か連絡が入りましたか?」


「ああ、それならば昨夜から派遣した冒険者からの一報があった。教団の人物らしき一団を確認したとな。現在、拠点を捜索中だが、そう長く掛かることもあるまいて。元々かの教団に土地や建物を提供しているのは貴族なのだ。あのあたりは私が寄り親ではないが国家問題だ、情報は必ず提供させる。何か分かれば連絡をしよう。なるべく我等だけで済ませるべく努力するが、助力を頼むかも知れぬ」


「この件はここまで関わりましたから、決着がつくまでは見届けたいと思ってます。大物らしいグレンデルがわざわざ多くの供を連れて訪れる意味がある場所のはずですから、何かあるんでしょう」


「捜索に駆り出されている冒険者は俺も知っているAランクだ。敵地に単独で潜入して生還する専門家だから心配はないだろう。それに教団の連中は性質的に内向きだ、自分達のことに夢中で周囲に気を配るタイプじゃない」


 これ以上はクロイス卿の知り合いに任せる他ない。敵の狙いは気になるが、元々今回も女子供を生贄にするような連中でなければここまで関わる気もなかった。

 後は身内を狙われた公爵と体面を傷つけられそうになった国と伯爵家がその誇りにかけて叩き潰すだろう。

 その連絡にはクロイス卿が間に立ってくれることになった。俺の居場所は探せばわかるらしい。


「連絡といえば……バーニィ、こいつをやるよ」


 懐に手を入れて<アイテムボックス>から拳大の青く透明な石を渡した。それを見た公爵とクロイス卿の視線が厳しくなった。やはりこれを知ってるか、まあそうだよな。国の中枢にある人物が知らないはずもない。


「これは……ユウ、君はこれが何か知って渡しているんだよな?」


「ああ。遠くの相手と会話できる魔導具だな。使い方は、知ってるようだな」


 これはソフィアを狙ってきた暗殺者集団が持っていた物の中で、表に出せなかった品の一つだ。価値もそうだが、数か少なくて山分けで揉めそうだったから俺が貰っておいたのだ。”ヴァレンシュタイン”は自分達が貰いすぎだと言っていたが、こういった希少な道具や外に出せない品を俺が手にしているため、実際はほぼ均等に分配できていたりする。しかもこの通話石はとある理由で数が多かったから価値としてはほぼ等分だったりする。


 魔導具の魔力の充填もしてあると告げると公爵の溜息が聞こえる。とりあえず正しく作動するか確認するべくバーニィには部屋を出て好きな場所まで移動してもらう。オススメは東館の書斎だと告げると余計なお世話だと言いながらも席を立った。

 あいつがこの屋敷に来た一番の目的など想像をめぐらせなくとも分かるというものだ。



「上手くバーナードに席を外させたな。では、奴が居てはできない話をするとしようか」


 俺の意図を汲んだ公爵の雰囲気が変わる。さっきまでは孫を思う祖父の空気だったが、今はこのランヌ王国の権勢政治家としての厳然たる威風を纏わせている。


「まず、改めて礼を言わせて欲しい。愚息が話したかも知れぬがそなたは王国の英雄だ。だが、表立ってそれを称えるわけには行かぬことも理解して欲しい。だが、この礼は深く深く報いるつもりだ」


「礼には及びません。私はただあいつらの手段が気に入らなかったので潰しただけです。正直な所、ご令孫の命が危険に晒されていなければ、この件に関わる気はなかったものですから」


「それでも孫の命を救ってくれた事実に些かの曇りもない。今朝詳細を聞いたが、シルヴィは本当に死の淵を彷徨っていたようではないか」


「親父にはその後の夜会で上機嫌であの野郎を褒め殺しにしてもらわなければならなかったからな。あの時事実をそのまま伝えていればあれほど上手く行ったかどうか」


 クロイス卿の機転で詳細は伏せられ夜会は成功に終わったようだが、公爵の表情を見るにもし伝えていたらどうなっていたことか解ったものではない。


「こいつの言いたいことはわかっておる。が、自信はないな。とにかく、礼をしなければ我が家の面目が立たん。望みを言ってほしい」


「それでは……昨夜の一件ではソフィア殿下の機転に大いに助けられました。彼女の勇気がなければご令孫の救出は遅れ、最悪の事態も起こり得たかもしれません。その殿下は今、祖国を追われるように旅立ち、異国で頼れる者なく過ごされております。もし叶うのならば、殿下のこの国での後ろ盾になってはいただけませんか?」


「うむ、だがそれは君への礼にはならぬな。ソフィア王女殿下は我が身を省みず孫をお助けいただいた我が家の恩人だ。そのご恩に報いるのは当然であって、礼にはあたらない。殿下にはこの国で心健やかにお過ごしいただく。それは我が名において約束する」


 よし、公爵の言質をとったぞ。ソフィアはこの国で過ごすにあたって最大の庇護者を手に入れたことになる。友好国の面子があるのでこの国がある程度は面倒を見てくれるだろうが、所詮は他人事だ。困ったときに積極的に手を差し伸べてくれるとも思えない。

 ソフィアも少しはこの展開を期待していたに違いない。長いこと味方のない王宮で生きてきた彼女が、巨大な後援者がどういう効果をもたらすか理解してないはずがない。俺はそれを確実にするために動いたに過ぎない。


「俺たちはお前に礼をしたいのさ。何でも言ってみろよ、親父にかかればこの王都で大抵の無理は叶うぞ」


「私にも出来ぬことはある。無論金銭での報酬が一番良いとはわかっておるが」


 公爵が手をたたくと使用人が入室し、金貨の入った袋をいくつか置いていく。単純に見て200枚くらいだろうか。本来なら考えられないほどの大金のはずだが、俺の金銭感覚は既にどうしようもなく壊れているようで特に何も感じないな。


 むしろ、あれを聞いてみるか。


「何でも、といわれるならば……夏の月の最終日に行われる公爵閣下主催の例の競売(オークション)に参加させてもらえますかね」


 俺の発言で場は凍りついた。皆、時が止まったかのように動かないが、さすがというべきか最初に気を放ったのは公爵だった。


「君はそれが何を示すか分かった上での発言かね?」


「何といわれましても。夏と冬の年二回行う公に出来ない代物を扱う闇オークションですよね。今回は東地区の北にある地下墓地が会場で、もうかなりの品が南地区の倉庫街に置かれてますね。というか、そもそも私が王都にやって来た商隊護衛の荷がまずそれでしょう? レイルガルド商会が各国から品物を集める役割を担っていたんですね」


 だから遠回りの船旅でウィスカまで来たんだろうし、明るみに出れば破滅が逃れられない重罪だ。そしてそれを知っていたソフィアたちもそれをネタに無理矢理便乗してロッソ一味を欺いたのだろう。ジュリアの実家が握った弱みという奴だな。


「親父、もう色々無理だと思うぜ」


「……わかっておる」


 深い溜息をついた親子だが、そんなに深刻な問題なのか? 国王のお膝下である王都で血縁者でもある公爵が主催するオークションなんざ、始めから国公認のお墨付きがついているみたいなものじゃないか。

 だからウィスカ冒険者ギルドのユウナも事の重大さに気付き、さっと手を引いたのだ。下手につつくと自分達が破滅する事がわかっているからだ。首謀者を追っていたはずが、いつのまにか闇オークションの主催が自分達にされていた、くらいの操作は簡単にやってのける相手だ。しかも証拠まできっちりと捏造されて抗弁の機会なく処刑までセットだろう。



「我らにも立場がある。詳細な説明はできぬが、君の希望は叶えるつもりだ。しかし、口外はならぬ」


「私も一枚噛ませて欲しいだけですよ、皆さんの邪魔をするつもりはありません」


「この件は我が家の最重要機密なんでな、露見したら公爵家が消えてなくなる。俺だって戻ってから知らされたくらいだ。そもそもお前参加するにしても軍資金あるのか? あれほど金欠だって言ってたじゃないか」


「ああ、自分の言葉が足りませんでしたね。参加するとは言っても出品する方です。例えばこれなんか出したら高値がつくと思いませんか?」


 <アイテムボックス>からウィスカのダンジョン10層のボスドロップである「暴虐の大鉈」を取り出して二人の前に置いた。鉈などという名称では納得できないその重厚感と巨大さは、鎚鉾(メイス)という方が納得できる。あるいは単純に鉄塊だ。そういやアダマンタイト製だったかな?


 目の前に出された逸品を見た二人の目が見開かれる。クロイス卿は当然として、公爵も貴族の嗜みとして一通りの武芸は嗜んでいるのでこいつがどういうものかはわかるはずだ。

 貴重なドロップアイテムをオークションに出すことはかなり始めの頃から考えていた。<鑑定>額と実際の価値に大きな差が出ていることはわかっていたので、欲しがる人たちで競わせれば大きな儲けになるのにとは思っていた。 

 だが、ダンジョンドロップ品をギルドを通さずに売りに出すのは重大な規約違反だし、ばれたらギルド追放どころか街から追い出されかねない。もし追及に知らん顔してもギルドは敵に回すだろう。ダンジョンで行動する以上、ギルドは抱き込んで味方にすべき相手で、絶対に敵にすべきではないと考えた。ならば、なるべくなら公にならない秘密のオークションが望ましいと考えていたら、なんと丁度この国がやっているというではないか。しかも恩をたっぷり売っている状態で切り出せるのだからほぼ通ったようなものだ。


「こいつは、ボスドロップだな! お前の実力ならウィスカに潜ってたってのがブラフじゃないってのは分かるが……たしか滅多に出ないという10層のレアドロだろう? 俺が駆け出しの頃に七大クランのクランハウスで見たことがある。内包する異様な魔力、間違えようもないぜ」


 クロイス卿が公爵に頷くと二人は大鉈に手を触れる。


「材質はアダマンタイトとやららしいです。持ち上げるのは何とかできるのですが、振り回そうとすると途端に重くなります。<鑑定>によるとモンスター専用装備らしいですが」


「アダマンタイトなだけで金貨150は堅いぞ。こ、この不自然な重さは確かにダンジョンドロップ特有の専用装備だ。間違いない、俺が保証する」


「情報を出せば武辺者のグラン伯爵やカール辺境伯辺りがこぞって押し寄せるな。これだけでも今回の目玉足りえるわい」


 他にも昨日手に入れたグレンデルだった物体から得られたものはいずれも価値がありそうだが、流石に出品するわけにはいかない。せめてフィンデル伯爵が選挙に通ってほとぼりが冷めるまでは待たねばならないだろう。この「魔眼」とやらは紅玉のようにとても綺麗で絶対に高値がつくと思うのだが、<鑑定>じゃ金貨20枚だった。こういうのをオークションに出せばきっと楽しいだろう。


「グレンデルで一儲けするのはもうしばらく待ってくれよ。俺達だって奴で儲けた金で祝杯上げたくて仕方ないんだからな」


「奴には散々に苦しめられたが、その分金貨となって我等に役立ってもらおうか。その宝玉も素晴らしい逸品だの」


 俺たちは意地悪く笑いあった。公爵たちはまさに溜飲が下がる思いなのだろう。それを思えば公の場で奴を褒め称えることなど造作もないようだ。敗北した上に自分がばら売りされて貴族が儲けていると知ればグレンデルも地獄で歯噛みしている事だろう。



「教団内部のことは良く分かりませんが、逆にグレンデルが神格化しすぎて求心力を高めないか不安でもありますね」


「残った連中は有象無象に過ぎん。元々は我らが完全に頭を抑えていたからの。認めたくはないがグレンデルが傑物だったのだ。複雑に対立するあの愚か者どもを一本化して纏め上げるなど奴以外にはできんし、もう二度とさせんよ」

 

 既に手は打ってあるという公爵は冷徹な政治家の顔になっている。この人も敵に回したくないな。


「話を戻しますけど、これはウィスカのダンジョンの10層のボスから得た物です。あの迷宮は挑戦する人数が少ないので、未踏破層が数多く残っているはずなので、希少なアイテムが数多く手に入るはずです。その中で価値の高そうなものを数点、ここに持ち込みたいと考えています」


 スキル<等価交換>は非常に有用なスキルなのは間違いないが、融通が利かない面もある。先ほどの大鉈もスキルを使えば評価額は金貨100枚だったはずだが、クロイス卿の言葉を信じればオークションなら金貨150枚、競い合えばそれ以上の値がつくこともあるだろう。これをうまく活用しない手はない。


 無論<等価交換>が使えないスキルというわけではない。むしろ毎日入手していた触媒系のアイテムも常に同じ価格で買い取ってくれていた。これはこれで非常にありがたい。この量を毎日店に持ち込んだらすぐに値崩れして価格は下がる一方だろう。これからも物量で借金返済するのは間違いないので定価で買い取り続けてくれる存在は必要不可欠だ。

 要は長所を伸ばしあえればこの呆れるような借金返済も光明が見えてくるということだ。

 

「この件は知る者を極力厳選していたはずなのだが、どこから漏れたのやら。危機管理の良い勉強と思うことにするしかあるまい」 

 

 オークションがあれば利用したいと思ってはいたが、俺も最初からこの存在に気付いたわけではない。始めはレイルガルド商会が密貿易か何かしているとウィスカ冒険者ギルドのユウナと話したのが切っ掛けではあった。

 商隊護衛の依頼の初日に暇をもてあまして荷物を<鑑定>したりしていたが、高価な品を運んでいるなと思う程度の認識だった。その翌日に過重超過で馬車が壊れて荷物の中身が出た時も高級品だなとしか思わなかった。実際は荷物を入れた木箱の中に緩衝材として穀物を入れており、それがこぼれ落ちたのだ。高価な品を保護する常套手である。

 そのユウナと情報交換をする内に今回の真相に辿り着いたわけだ。そもそもウィスカの人間である彼女が何故この件を追っていたのかが鍵になっていたが、それは別の話だ。


「これからもいい出物があれば出品したいと思います」


「くれぐれも内密にな。その代わり、手数料とこちらの取り分はそのままそちらに渡す。競り落とした金額がそのままそちらの懐に入る。それを以って礼とさせてもらう」


 公爵はかなり太っ腹なことをしてくれた。目先の金貨200枚よりも莫大な金額を取ったのだが、彼らに入るはずの金までくれるという。間違いなく口止め料込みであろうが。


「わかりました。これ以上ないものをいただきました」


「やれやれ。話は聞いていたが、予想以上の人間だな君は。我が家の難題を簡単に片付けるどころか、最大の秘密まで知られてしまうとは思わなんだ」 

 

 話がだいぶ進んだ所で、少しカマをかけてみるか。今回の件を裏で仕切っていたであろう人物の事を尋ねる。


あのひと(セラ先生)はなんと言っていたので?」


「グラン・マギからは聞いたのは世間話のようなものだったがね。機能を回復した通話石を寄越しながら”ウチの若いのが邪魔しに行くから気をつけろ”とな。レイルガルド商会で藁をもすがる思いで声をかけたが、流石はあの御方の愛弟子というところか」


 おかしいとは思っていたのだ。駆け出しの冒険者に公爵閣下が直々に声をかけるなど、どう考えてもありえない。ある程度自分ことを知っていなければ出来ない行為だ。俺の知り合いにそれができそうな人物は一人しかない。あの人は俺が魔力を補充した通話石を世界中の王侯貴族に売っているといってたから顔を繋いでいる可能性があったのだが、公爵の言葉を聴くとどうも立場は先生の方が上のようだ。本当に何者なんだ?

 それに気をつけろとはどういう意味だろう。普通は気にかけてやってくれとかじゃないのか?


 結局、礼の金貨200枚は押し付けられたが、ありがたく受け取ることにした。


「今日はお時間をいただいてありがとうございました。ソフィアの件は切によろしくお願いします」


「任せておくが良い。殿下はこの地で要らぬ苦労を決して負わぬ。口さがない者がおるなら我が家が()()する。これはあの方が我が国にいる間は私の名において約束する」


「ありがとうございます。これで王都での心残りがなくなりました。心置きなくウィスカに戻れます」


 公爵家にある魔力切れの通話石をすべて充填するとお暇すべく席を立った。ちなみにバーニィはまだ戻っていない。通話石の状態を確認するとなんだかんだ理由をつけて例の彼女の元を離れようとしない。


「できれば君のような男には常に王都にいてほしいが、引き止めても頷いてくれはしないのだろうな」


「申し訳ありません。私の目的にウィスカが最も適しているもので」


「俺がその内そちらに顔を出すさ。バーニィも連れて今度は向こうで呑もうぜ」


 緊急なら通話石もある。彼らからのを受け取ると頻繁に呼び出されそうなので受け取っていないがバーニィが持っている。必要があって呼び出すなら彼のを使うだろう。

 

 余談だが、通話石には内蔵できる魔力にバラつきがある。<鑑定>で見れるのだが平均が40ほどで、特に多い奴だと3桁以上の物もあり、彼にはそれを渡している。魔力切れを起こして通話中にいきなり使えなくなるのも良くあることらしい。魔力残量が見えないので予備を多く持つのが習いだ。あのロッソ一家が大量に通話機を持っていたのもそれが理由だ。使えないと思っていた石もたまに短い通話に使えたりしてなかなか捨てられないようだ。そのせいで大量の通話石に魔力補充が出来たわけでもあるが。

 これも古代の遺産のようだが、この通話石を世界で唯一供給できるのが件の暗黒教団で支配者層に影響力があるのもうなずける話だ。上級貴族としては最下層にいるバーニィが通話石を知っていたのは本部にいた経験があるからだ。


「是非とも楽しみにしていますよ。商隊の馬車が今丁度王都の端まで来ているので迎えにいってきます。一応、これが私の本来の依頼なので」


「俺もついていってやる。親父、特権使ってもいいだろ? 普通に待ってたら日が暮れるぞ」


 露骨な職権濫用を黙認する公爵に頭を下げて、公爵邸を出る。置いていこうとしたバーニィが追い出されるようにして出てきた。すぐ近くにはメイドのアンジェラの姿もある。昨夜はかなり危険な目に遭ったようだが、リリィの回復魔法を使用したこともあり後遺症はないようだ。彼女にも会釈をして屋敷を離れる。


「なんだかんだと縁のある場所になったな」


「あたた。普通の冒険者じゃ目通りするのも不可能だけどね」


「それはそうと、お前を蹴り飛ばすとはなかなか力強いひとだな」


「もともと同年代じゃ女だてらにガキ大将で有名だったぞ。そんで、あの娘にいつもくっついていたのがこいつな」


 なるほど、昔からこういう関係なのか。もしや、彼女がウィスカに行くのを反対したんじゃあるまいか。


 残りの借金額  金貨 15002282枚 


 ユウキ ゲンイチロウ  LV128 


 デミ・ヒューマン  男  年齢 75


 職業 <村人LV143〉


  HP  2084/2084

  MP  1454/1454


  STR 363

  AGI 341

  MGI 357

  DEF 332

  DEX 290

  LUK 208


  STM(隠しパラ)572


  SKILL POINT  505/515     累計敵討伐数 4699

楽しんでいただければ幸いです。


金貨250枚を返済しました! 元金減ってないですが!


後日談はあと27000字くらいでした。何とか今月中に。

次は日曜予定です。

いつも見てくださる方、そして誤字脱字の指摘、誠にありがとうございます。

これからも頑張ります。

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