王都へ
お待たせしました。
レナを連れた俺たちは次の宿場村で”ヴァレンシュタイン”と合流した。宿の女将を脅した村に長居したくなかったし、ソフィア達がこちらに合流するときに立て札を立てておいたようで、彼らとの連絡の齟齬はなかった。
俺は彼らを待つ間に戦利品の鑑定をしたり、人気のない場所を選び土魔法で深い穴を掘ると次々に死体を放り捨て火葬にしてゆく。骨も残さず灰にすることにより、ロッソ一味がここで散ったことが露見することは絶対になくなるはずだ。
合流した彼らの表情は一様に明るい。彼らなりの義のために命をかけた戦いに完勝した挙句、敵の馬車も数台手に入れたからだ。馬はもちろん、馬車も一つはかなりの高級品のようで、貴族仕様ではないが旅には重宝するそれを俺が譲ったからだ。彼らは皆で分け前は分配すべきだと言い張ったが、個人の俺に馬車は必要ない。
それに、この程度で喜んでもらっては困る。本当に楽しいのはこれからだ。
「全員集まりましたね」
「ああ、揃ったぞ。皆に集める理由が何かあるのか?」
俺たちは借り上げた宿の大部屋に皆を集めた。レナの面通しは既に済んでいる。今もレナを離そうとしない泣きはらした姫の顔を見ればおおよその事情は分かろうというものだ。
「最初に確認をしますよ。ここに居る皆さんは全員で12人、間違いありませんね」
「君の妖精が数に入っていないが、人間という意味ではあっているな、それが何か?」
ザックスは俺の持って回った言い回しが気になっているが、話を先に進めたいようだ。
「そして、分け前は分配する。馬車の件で皆さんはそう言ってましたね」
「確かに。あの馬車をこちらが貰う形にするには一度買い取り額を聞いて、ユウが受け取る額をこちらが支払うのが筋だろうさ。それが冒険者たちの流儀だ」
「それについてはわかりました。ではまず、皆さん一人に金貨20枚です」
俺は次々に金貨10枚の束を2つずつそれぞれの前に置いた。”ヴァレンシュタイン”のメンバーは固まっているが、俺は気にせずソフィア達にも金貨を置いてゆく。
「い、いや待て! 敵がこんなに金を持っていたのか!?」
「兄様、わたしたちが戴くわけには行きません! むしろこちらからお支払いしなければならない立場です!」
「報酬は山分けだ。意見は聞かないからそのつもりで。そして俺の<アイテムボックス>は特製でね、他の人よりも少し変わったことができるのさ。連中の所持品を簡単に調べることもできる。第一、こんなもんで驚いてちゃ困るぞ」
「まだあんのかよ……確かにロッソ一家も全てを賭けた勝負だろうから何でも持ち出すのは分からなくもないが……」
ナダルの言葉を裏付けるわけではないが、敵はこの一戦にまるで全財産を持ち込んできたような豪気さだった。敵の頭が一番金持っていたのは確かだが、5人に一人の割合で妙に金を持っている奴がいたのだ。命乞いをしてきた敵の中には金で雇われただけだという奴もいたが、実際に協力者を金で買っていたのだろう。確かに組頭級の奴には現地裁量を与えていてもおかしくない。
結果、金貨だけで250枚を超えていた。銀貨や銅貨はもちろん、始めて見る大銀貨なる硬貨も多くあった。
詳細は金貨252枚、大銀貨121枚、銀貨243枚、銅貨193枚だ。勿論全員で分配する。文句は聞くつもりはない。嫌なら俺が分けたあとで好きに調整すればいい。
「金だけで驚いていたらここから先は大変ですよ?」
「そ、そうか、さすが音に聞こえたロッソ一家というべきなのか?」
ザックスの乾いた笑いに応じるように俺は革でできた鞄や袋を三つ取り出した。
「まさか……マジックバックとか言わないよな」
「いえ、本物ですね。全体から発する魔力を感じます。革の素材だけならこんなことはないです」
「メルヴィさん、ご名答です。3つともマジックバックのようです。しかも一つは時間停止型」
マジックバックは魔法で内部が拡張された商人垂涎の品だ。勿論品質はピンキリで、数倍の容量から数百倍、果ては数千倍入るものもあるそうだ。当然、目が出るような超高額になるがスキルの<アイテムボックス>とは違い「金を払えば」手に入るだけあって商人が金に糸目をつけずに買い求める。大昔の文明が造ったロストテクノロジーだが、その便利さからかなりの数が作られたようでダンジョンなどでよく発掘されるという。だが、冒険者が手に入れたらよほどのことがなければ自分で使うから市場に流れることは少ないという話だ。だから余計に高騰するんだろう。
俺も<鑑定>の説明を見て知ったのだが、中には時間の流れを自在に動かせる物もある。敵の頭が持っていたものが中の物の時間を停止させる逸品で価値は金貨200枚だとか。内部の容量は数十倍とそこまで大きくはないが、滅多にない代物らしい。他の二つは通常品だが内部容量が数百倍とこちらも価値は金貨100枚以上だ。
「こ、これを皆で分配しようってのか……俺たちもかなり馬鹿正直だと思ってたがお前はそれ以上だぜ」
「黙っていようとしても、相棒は嘘が下手なんですぐに露見しますよ」
ザックスはこちらを乾いた笑いで見てくるが、分け前の確認はまだ始まったばかりだ。
マジックバックの中身が空のはずもなく、中には大量の物資、そして武器や防具、金貨などが入っていた。一作戦に用いる量を遥かに超えているが、レナが実際に耳にした所では、連中は皇太后に相当追い込まれていたようで、取れる手をすべて使う気で攻め込んできたようだ。秘伝とされる魔導具や暗器、使えそうなものを片っ端から詰め込んできたとしか思えない。持っていた金貨の量も異常だったしな。
それら全てが俺たちのものになったのである。まったく有り難いことだ。俺から見れば彼らはお宝を渡しに来てくれたようなものだ。
俺たちは時間を忘れてお宝漁りに没頭した。特にナダルはその職種からか投げナイフや鋼糸に喜び、それぞれに貴重極まりない魔法効果のある武具を手に入れて有頂天だ。特に魔法の武具はほとんど出回らず、金を出して買える代物ではないものばかりだ。これら一つでも金貨数十枚の価値はあるだろう。さすが一流所というべきか、襲撃に用いた武器でさえよい品質のものが多く、売り払うだけでもかなりの金額になるのは間違いない。
それに魔導具が出るわ出るわ。簡単なものから暗殺に使うと思われるものまで大量にあった。暗殺稼業だけあって各種の毒や逆に解毒の護符や状態異常を無効にする指輪などが多く見つかり、これだけでひと財産だ。ナダルは任意で刃が透明化する魔法の短剣まるで子供のような顔で振り回しているし、ジキルも魔法金属で出来た矢尻や各種麻痺毒を手に入れ、普段の無表情が崩れている。彼らが言うには金を積んで買えるようなものではないらしい。女性陣には精神系魔法を無効化するショールが人数分あって、それぞれ身につけて和気藹々としていた。ザックスは特にこれといったものがなかったようだが、自分が何も貢献していないと気にしていたから、むしろ納得しているようだ。本当に真面目な人である。
魔導具関連も全員に配っても余るほどあった。無論、危険すぎて表に出せないと思われるものや、売れなさそうなものもある。
<アイテムボックス>の中で整理したからすべての物品を理解しているのは俺だけなのだが、全てを分配したわけではない。これは表に出せないなと思えるものは相棒と相談して山分けの対象から外している。その分金品を優先的に皆に渡しているが、ちょっとあからさま過ぎたかもしれない。まあ、贖罪みたいなものだ。
「さすがに売ったり、使って足が付きそうな物は考えてくれよ。一応ロッソ一味は全員「行方不明」で通すんだからな。俺たちが使ったことで発覚したら面倒だぞ」
ナダルのいうとおり、彼らのものとなる馬車も少し手を入れる予定だ。そのまま使ってもし馬車を見知った者が居たら目も当てられない。山分けに出せないのもそれが理由の品もある。連中が持っていた武器には彼らだけで通じる符丁があったりして<鑑定>がなかったら気付かなかったものも多い。それが流出して自分達の破滅に繋がったら身も蓋もないからな。
ちなみにマジックバックはそれぞれに一つずつ渡った。時間停止型は”ヴァレンシュタイン”のものになった。彼らが使う馬車と売り払う馬車をあわせてかなりの金額になるのは間違いなく、ソフィア達に分け前が行くことにも何も文句が出ない。むしろ彼女たちが恐縮してしまったが、連中に受けたことを考えると慰謝料として受け取っておくべきだと思う。
ちなみに俺は残り物で十分だ。もともと迷宮で稼ぐつもりだったし、残ったものだけでも金貨数百枚はいきそうな感じだ。それに全てを出していない後ろめたさもある。
マジックバックが一番の収穫かもしれない。<アイテムボックス>があれば必要はないのだが、こいつがあれば<アイテムボックス>の隠蔽に非常に役立つだろう。
「本当にユウの取り分はこれだけでいいのかよ! 俺なんてほとんど何もしてないんだぞ!」
「リーダーの取り分が多いのは当然でしょう。もちろんこちらからのお願いもありますが」
「まあ、そうだろうな。これほどのものを貰っちゃ聞かんわけにもいかないからな」
俺の願いは単純そのもの、自身のことを口外しないで欲しいことに尽きる。俺は”ヴァレンシュタイン”の手伝いを行っただけの雑用係担当で通すつもりだ。
勿論、彼らは反対した。取り分を多く譲られた上に手柄まで独り占めなど出来ようはずもないと主張されたが、押し通した。
元々セラ先生にも色々自重しろと言われていたし、ここは目立たず無難に依頼を完了したいのだ。俺に必要なのは冒険者としての実績でも名誉でもない、ただひたすらに金貨だけだ。ここで注目を浴びて得られる物よりも、ウィスカのダンジョンを潜っていた方が遥かに効率がいい。
今回、偶然に近い形で大量の金品が手に入ったが、それでもおそらく合計金貨500枚はいかないだろう。一回の冒険で得られる額としては異常だとわかっているが、それでも俺の利子一日分と少しに過ぎない。
今日でウィスカを発って三日目だから、もう既に借金は金貨900枚加算されているはずだ。
彼らとしては恩返しとして俺をギルドに大々的に売り込むつもりだったと聞いて胸を撫で下ろす。俺だって一流冒険者として名を上げることを夢見ている一人だ。Aランク冒険者だっていずれは上がれるなら上がってみたい。だが、それは綺麗な体になってからだ。少なくとも勇名と共に借金の噂がまとわりつくなど御免蒙る。ライルの家族や故郷の皆にいらぬ恥をかかせたくはない。
返済にある程度の目処がつくまでは面倒事は避ける方針でいくつもりだ。……あくまで予定は予定にすぎないことは俺の隣に座っているソフィアの例もあるが。いや、さすがあれは見捨てられない。
「まあ、事情があると思ってください。それにお互い様でしょう? ザックスさんとカレンさん以外の皆さんが乗馬に慣れていることを聞かないでおきますから」
馬は資産としての価値もあるが、同時に非常に金の掛かる生き物だ。農村で労働力として活用されることはあるが、御者はともかく乗馬をするものは皆無だ。それが行えるのはよほどの経済力のある者か、必要があって馬術を修めた者だけだ。そんな人間は非常に限られている。
「まあ、解ったよ。こちらとしては助かるだけだからな。これは借りにしておくさ。何かあったら力になるよ」
お互いに痛くない腹を探られる必要はない。頭の良い彼らが選択を間違えるとは思えないし、なにより仲違いする必要がない。話はここで終わりになった。
その後は宴だ。敵の持っていた物資、特に時間停止の効果を持つマジックバックの中にはかなりの数の上等な料理が収納されていたのだ。その中には当然酒も入っており、酒を飲める連中は大いに喜んだのだが、俺はあまり関係なかった。<状態異常無効>のスキルは酩酊を許してはくれないから、酔うことができないのだ。飲料水としての薄めたワインなどを愛飲するくらいなら茶でも飲んでいた方がはるかにマシだ。
最上級といってよい料理と酒に盛り上がる俺たちではあったが、逆に警戒も覚える。
「やっぱこれ、毒殺用なんじゃねぇの?」
「待って、今調べる…………やっぱり反応ありね。少なくともここにあるすべての料理は毒入りね」
「やっぱりそうか。ロッソ一家の持ち物だからそうじゃないかと思ってたが、貴族の暗殺用かぁ」
ザックスは気落ちしているが、彼は今時分が何を身につけているか忘れているようだ。俺は報酬を頑として受け取ろうとしないソフィアに手を焼いていて彼らに口を挟めない。
「私たちが受け取れる理由がありません。皆様に何一つとしてお返しが出来ていないというのに」
「お前たちが受けたものを金銭で補うと思えばいいだろう。正直、俺たちは連中に何の恨みもないがソフィア達は違うだろう? それに新しい場所に行けば色々と物入りのはずだ。あって困るもんじゃないんだからとっておけばいいんだよ」
「そういう問題ではありません! 恩を受けておきながら更にそれに甘えるような事をしては王家の人間としての名折れですから」
「ソフィアは意外と堅いな。じゃあ君たちにソフィアの分を渡すという形で……」
「姫様がお受け取りにならないのに臣下の私達が受け取れるはずもありません」
「賢者様、そもそも私が数に入っているのがおかしいのでは? 私本当に何もしていないですよ?」
「レナは一番の被害者だろ。黙って受け取っておけ。男が一度出したものを懐に戻すわけにもいかん。受け取らないなら捨てるだけだ」
分かりました、と力なくうなだれるソフィアに満足した俺はザックスたちに振り返ると彼らはまだ料理を前に逡巡している。
「皆さん毒無効の護符や指輪をつけているんだから、ただの料理になってますよ?」
「それは分かってるんだが、中に毒が入っていると聞くとやはり踏ん切りがな……」
「じゃあ、私が文字通りの毒見を」
魔法使いのカレンが手を伸ばすと周囲が止める間もなく口に入れてしまう。そのまま反応を待つまでもなく次々に食べ始めてしまう。慌ててメルヴィが解毒の魔法をかけようとするが、魔導具がきちんと毒を中和しているようで、魔法は発動しなかった。
「普通に美味しい料理よ。毒の味なんて分からないけど」
「ちょっとは逡巡しろよな。見ているこっちが焦ったぞ」
「こんな上等な料理今度いつ食べられるか分かったものじゃないもの。万が一があっても皆がいれば何とかできるでしょ。そう考えたら食べない方がもったいないもの」
その後は不安も消えて宴は進んだ。皆、よく食べよく飲み、お開きになるころには男衆は酔いつぶれているほどだ。女性陣はもちろん限度を弁えて部屋に戻っている。ソフィアが料理を口にすることにメイドは良い顔をしなかったが、毒殺そのものが防がれているので黙認しているようだった。
床に転がっているザックスを尻目に俺は外に出る。相棒は今日もソフィア達と休むことにしたようでここにはいない。これから「来客」を迎える状況では好都合だった。
「へえ、やっぱり気付かれてたんだ」
「そっちに害意がないようだから放置しても良かったが、いつまでも張り付いていられても困るからな」
俺の視線の先、とある民家の屋根の上に黒いローブを纏った存在がこちらを見下ろしている。風体はローブのせいではっきりとせず、男でも女でもありえそうだ。唯一判明しているのはその声音だが、若い女、いや少女のような声だった。無論声帯を代えることなど暗殺者には朝飯前だろう、断定するどころかむしろ逆と思っておくべきだな。
つまり、なにもわからないということだ。
「敵意がないなんてどうしてわかるのさ」
「その気ならとうに仕掛けてるだろ? そっちの実力なら油断して酔いつぶれてる冒険者なんて簡単だろうさ」
俺がこの相手に気付いたのは夕刻ごろだ。例によって<マップ>に動かない点が現れたのだが、敵意を表す赤い点は出ずに中立の灰色が示されていたので、とりあえず放置していた。しかしいつまで経っても動こうとしないため、こちらから出方を見てみることにした。
それに相対してわかったことだが、この黒ローブは昼間の頭領よりはるかに格上の実力者だった。あの頭領が10人で束になってかかっても簡単にあしらわれる程の力の差がある。そんな人物がこちらを観察しているだけなのは気分が良くない。
「解る人には分かっちゃうもんなんだねぇ。こっちは外国のお客さんがあまりオイタしないように様子を見に来たつもりがさー、まさか全員返り討ちに遭っちゃうなんて予想外の出来事が起きたんだ、そりゃぁ、どんな奴なのか観察するでしょ、普通」
「もう充分見ただろう。こっちはそっちと事を荒立てる気はない。そっちも帰りなよ、夜も更けたぜ」
「そうだねえ、じゃあ挨拶だけでもッ!」
音もなく飛来する漆黒の刃が俺の目の前で止まる。黒いローブは体の線を隠すのはもちろん、予備動作も見えなくする効果もあった。お陰で刃が放たれる瞬間まで軌道が読めず、眼前で受け止める羽目になる。
「随分な挨拶だな。こりゃあこっちも気合入れてご挨拶をしたほうがいいか?」
<投擲>で手首の動きだけで刃を撃ち返す。相手も難なく受け止めるが、こっちの挨拶はこれからだ。
「いや、充分だよ、充分。ロッソさんトコも一流だからこんなにあっさり負けるなんてと思ったけど、ここまで規格外なんて思わなかったよ。こっちの用は済んだから、これ引っ込めてもらっていいかな」
待機状態にある43本の風の刃が己の周囲に展開していることに気付いていたようだ。月明かりのみの光源で色のない風の刃を察知するとは、そういう魔導具か能力を持っているのだろう。ちなみに<鑑定>は出来なかった。ローブが魔法の品であることくらいしかわからない。相手をちゃんと認識できないと<鑑定>も発動しないようだ。これは俺もうまく利用したいところである。
「自己紹介は済んだと考えていいのか?」
「よーく理解したよ。これから王都に来るんだろう。君の王女様はサービスで気にかけておいてあげるよ」
魔法を解除した俺を見る気配が変わった。先ほどまではこっちを窺っている気配だったが今は畏怖しているのが分かる。<威圧>を行った相手が発する空気と同じだからだ。力がモノをいう商売は冒険者だろうが暗殺者だろうが、相手に舐められたら終わりというところは同じだ。正体不明の相手には最初に力の差をきちり教え込んでおかないとつけあがるだけだからな。
逆に、上手く関係を築ければ思わぬ利益が得られることもある。
「それは助かるな。すべて潰したと思うが、ここにはいない生き残りがいるかもしれないからな」
「じゃあ、そういうことで。さよなら、新人冒険者さん。早くランクが上がるといいね」
そう言い残して黒ローブは音もなく消えた。<マップ>からも消えているので立ち去ったことは間違いないが……
「俺の情報は既に知られている、か」
この国の暗殺者ギルドに俺の顔と名が知られたようだ。ソフィアに力を貸すと決めたときにある程度の不利益は覚悟していたから想定内とはいえ少々面倒でもある。
だが、連中は知らない。
<マップ>は一度認識した相手を追跡する能力がある。先ほどの人物がとある場所に帰還したのも把握済みだ。
王都で訪問する場所ができたな。一方だけが情報を握っているというのはよろしくない。対等な立場というものはお互いが急所を握り合っているものだ。
翌朝、ゴーストのような顔をしたザックスたち男衆は熱い風呂を喰って二日酔いを飛ばすと元気に動き出した。彼曰く上等な酒は悪酔いしないらしい。残っている毒入りの酒を欲しがったので全部渡してあるが、魔導具なしで飲めば一杯で昇天する猛毒入りであることを忘れていないか心配だ。
手に入れた敵の馬車は金を払って留め置いてもらった。何事もなければ今日の夕刻には王都にたどり着く予定だが、我々の元々の依頼は商隊護衛だ。ソフィア達を王都に送り届けたらすぐにでも舞い戻って商隊に合流するつもりだろう。昇格の掛かっている彼らにとってはソフィアの護衛はあくまでついでにすぎない。
俺らが失敗すると見込んで金貨20枚を支払うと約束したセドリックはまだ行程の半分も行ってない。”ヴァレンシュタイン”の皆もあの細面の男にドヤ顔(リリィ談)して金貨を毟り取りたい気持ちは同じだ。せいぜい嫌味ったらしくせしめてやらねば気がすまない。
王都が近いせいか、街道の人通りは増えている。速度を求めるなら一昨日のような馬車を浮かせる方法もあるが、いかんせん人や馬車が多すぎた。渋滞を起こすほどではないが、走った所で前が詰まるだけだった。しかし、ここまでくれば今日のうちに王都へたどり着くのは確実なので他の馬車と同じ速度で歩を進める。
昨夜の件もあるので<マップ>も利用して一応警戒は怠ってはいないが、怪しい気配はない。しばらく気を抜くつもりはないが、正直ここでは人目がありすぎる。もし敵が健在でもここでは仕掛けられないな。確かにあの黒革の森が襲撃を仕掛ける最後の地点だったのだろう。逆に人込みで溢れるくらいなら暗殺者の技術も活かしようがあるのだろうが、さすがにそこまで混み合ってはいない。ここでは余計な目撃者を生むだけだ。
予想通り夕刻には王都リーヴの外壁が見えてきた。灰色の城壁が延々と続いており、先が見えないほど続いている。話には聞いていたが、これは壮観だ。
「そうか、ユウは王都は初めてだったな。これがリーヴの城壁だよ、この国の自慢の一つだな」
「城壁の先が霞んで見えないほど長いとは思いませんでしたよ。これを作るのにどれだけかかったのやら」
魔法使いのレベッカが大昔の文明の残りをそのまま利用していると教えてくれた。確かに人力で先が見えないほどの城壁を延々と作れるとは思えない。
この城壁は正方形の形をしており、四方に正門が作られているそうだ。俺たちは東門から王都に入ることになるが、完全に闇に覆われてしまうと門が閉まるそうなので時間的にはちょっとギリギリかもしれないな。実際、今日の入場を諦めて夜営の準備を始めているものも多い。ここまで王都に近ければ賊や魔物も出ないから安全なのだろう。
「時間を心配してるのか? 心配するなよ、俺たちは王都を拠点に行動しているから門番とも顔見知りだよ。普段なら通行証とか検査で通過に時間がかかるが、おれたちが話せば大分時間は短くなるはずさ」
「いや、姫様を通常門から通すなどありえん。どんな国にもやんごとない方をお迎えするための門がある。そこへ向かう」
ジュリアの言葉に従えば時間を気にせず通行できそうだ。確かに疎まれたとはいえ一国の王女を軽く扱ったなどと知られれば国の体面に関わる。俺達もそれにあやかって門を越えてしまおう。
王都に近づくに連れ街道の周囲に停止する馬車や粗末な家が増えてくる。どこにでもある貧民窟だが、外壁に近づきすぎると排除されるため距離を置いているようだ。それでも王都周辺なら安全なためこういった貧民窟は増える一方のようだ。そうした彼らは昼間は王都に訪れる商人の下働きをしたり王都の中で日雇いの仕事をしているようだ。
「ああやって入場検査があるのに、彼らは無条件で中に入れるんですか?」
「俺もはじめてみたときはそう思ったよ。並ばずに入れるんなら皆そっちを使うだろってな。ああ、ちょうどいい。あそこのおっさんが首を見てみろ?」
ザックスの指す方を見れば身なりの悪い40がらみの男が座り込んでいて、その首元には赤い石が僅かに光を放っており、非常に目立っている。
「あれは、魔導具ですか?」
「ああ、身につけた奴の居場所が分かるらしいぞ。それに身につけるのも取り外すのも4つの正門の詰め所でしかできないようだ。間違いなく奴隷の逃亡阻止用の魔導具だな」
なるほど、明らかに私は奴隷ですといわんばかりの魔導具を身につけるくらいなら普通に並んだ方がマシだな。
「王国が貧民窟の根絶を謳っても安い労働力が欲しい現実は変えられないということです。理想と現実の折衷案があの魔導具なんでしょう」
魔術師のマリーが冷たい声で言い放った。そういえば彼らはこの国の人間じゃなかったな。その魔導具は各300個正門に備えてあるらしい。だが、それでも王都の中に貧民層は南の方にあるらしい。その中でも王都からはじき出されたような連中があそこの貧民窟か。
「最近じゃ結構ヤバい話も聞くようになってるから、あんまり関わるなよ」
「騎士団が対策に乗り出すって話もあるが、どうだろうな。使いようじゃああいう連中も利用価値があるからお上も黙認してるんじゃないか?」
ナダルとザックスが話している間にも王都の東門が近づいてくる。王都に入るための順番待ちの列がかなりあるようだが、御者台のジュリアがあそこへ行ってくれと少し離れた場所にある小さな門を示した。
待機列を搔き分けるように進むことになったがさすがに高級馬車に文句をつけるような輩はいない。恨めしそうな視線を受けながら進むと明らかな貴族用と思われる門が存在し、ザックスが幾つか言葉を交わした後にジュリアが応対するとあっさりと王都に入ることができた。
王都は巨大な都市だった。人口は公称100万人、さすがに盛っているだろうがそれが納得できるほどの大きさだ。北東から斜めに大河グリーデから分かれた支流が貫いて王都の水源や流通に使われている。<マップ>で確認したが、この長大な城壁は上から見ると実は長方形のような形になっていて東西が長く南北が短いようだ。(あくまで形としてだが)それでも南北8キロルがあるが。
王都リーヴは4つの門が存在するが、それに合わせた様に王都内も4つの区域に分かれている。東西南北4つのエリアに分かれて北から貴族街、西に教会や各種ギルドが、東に商人エリアや富裕層があって南に庶民や貧民層が存在するそうで、中央に王城であるグロスリーヴがドカンとそびえている形だ。もちろん、王城に近いほど格が上がる。
俺たちは東門から入ったから商会が多く存在するエリアで、丁度依頼を受けたレイルガルド商会もここに本店がある。もちろん、王城に近いほど格が上がるから、かの商会は最高級の立地であるのは間違いない。
王都に入ってその巨大さにどこか既視感を覚えたが、どうせ消えた記憶だろうから忘れることにした。そして次に覚えたのは活気はあるがゴミの多さと不潔さ、そして全体的に物不足だということだ。ウィスカの屋台で銅貨5枚で買えた果物がここでは銀貨1枚だったが、それでも相当売れていたようで、わずかにしか残っていない。物がないというよりも人が多すぎるのかもしれないなと思った。
むしろここで商売をしたら儲かりそうだが……俺が店をやるよりもダンジョンの方がはるかに稼げる。いつになるかわからないが、余裕ができたら考えるかな。
このまま王城に行くのは時間的によろしくないと思われたので、ソフィアたちはザックスたちの紹介する最高級の宿屋に今日は宿泊するようだ。
供も少なくお忍びの形でやってきたとはいえ正式に隣国の王女が来るわけだから、当然国賓待遇で迎えるはずで王城側にも準備はあるだろう、もしかしたらしばらくはその宿屋に逗留するかもしれない。
夕暮れ深くなったが、王都リーヴの賑わいはこれからが本番のようだ。ウィスカも田舎育ちの俺には大きな街だが、このリーヴはウィスカとは次元の違う大きさで、そこに住む人もまた非常に多い。スリに気をつけろとナダルは注意をくれたが、そもそも財布も<アイテムボックス>に入れている。盗ろうにも何も持っていないから問題はない。俺が手に入れたマジックバックは肩掛け袋の形態で、正直いってみすぼらしいが駆け出し冒険者の持ち物としては似合っている。マジックバックにするにしてももう少し上等な鞄にすればいいと思うが俺は好都合だった。
俺の格好は麻の服に皮の胸当て、そいてナイフというまさに初心者という出で立ちだからむしろしっくり来る。もし俺がスリの側ならこんな貧乏くさそうな奴は狙わないな。
俺は王都の中央大通りをリリィと二人で歩いていた。ザックスたちはソフィアの宿を手配に動き、俺は役割分担してレイルガルド商会に到着の報告を行おうとしていた。内心でこの護衛の一件はセドリックの独断で商会は感知してないのではと思ったが、その探りを入れるためにも俺が報告を買って出たのだ。
一々周りを見て田舎者丸出しの俺を格好のカモを思ったのか、やはり寄ってきたスリの魔の手をあしらいつつ、俺たちは商会に向かう。もうすぐ日が暮れる時間だが大通りには街灯の魔導具が設置され、まるで昼間のような明るさを維持している。あの街灯一つでいくらするのか考えるとこの王都の繁栄ぶりを感じてしまう。
人込みが苦手なリリィは早々に俺の懐に入り込んで顔だけ出している始末だ。
不意に風が吹き、南から潮の香りを運んできた。この国の繁栄を支えているもう一つの要素が南の城壁の外にある港だ。他国との貿易から上がる収益がこの国と大商会の経済を支えているといわれている。
俺は生まれてこのかた海を見たことがないので、非常に憧れるものがある。街道からでは森が邪魔をして見ることができなかったので、非常に行きたかったのだがここは我慢して先にレイルガルド商会に向かうことにした。王都は非常に広いが区画がきちんと整備されていて、さらに<マップ>のある俺には問題がない。カレンが心配して付いて来そうになったが、断った。とある事に探りを入れる気だったので俺1人のほうが都合が良かったのだ。この格好で舐められないかが心配だが、それはそれで判断材料になる。
レイルガルド商会は東地区の一等地、王城が視界に入る位置に店を構えている。主に織物を中心に扱っていたが、規模が大きくなるにつれて今は様々な宝飾品や芸術品などを貴族や王城に卸す仕事をして、さらには王室御用達の紋章までもらって、俺でさえ名前は聞いた覚えがあるくらいの押しも押されぬ大商家だ。
近くで屋台をしていたおばちゃんから情報を仕入れた俺は礼としてに謎の肉の串焼きを買い求めて口に入れた。銅貨5枚もしたが、ナンコツのようなこりこりとした食感が面白い肉だ。今度名前を聞いてみようか。
色々と無茶な気もしたが、どうせ失うものがあるわけでもないのでそのまま店内に入る。宝石店のような情景を勝手に考えていたが、店内は貴族の邸宅のような造りになっていて、正直居心地が悪い。
さて、そこらにいる丁稚にでも話して責任者でも呼んでもらおうと思ったところで、店の奥から二人の老人が丁度出てくるところだった。一人は一目でわかる貴族でもう一人は商人だろうか、いずれにしても責任者だな。二人とも只者ではない風格が佇まいからにじみ出ている。
「それでは、情報があれば、頼む……」
「承知いたしました。どうかお心を落とされませんように」
俺の前を通りそうだったので道を空けたのだが、貴族の爺さんの足元がどうにもおぼつかないな。ああ、やっぱり、爺さんがふらついてしまい、一番近くにいた俺が助け起こす形になった。
だがこの爺さん、どこか病気なのか顔色が悪い。勝手ではあったが<ハイヒール>と<キュア>をかけたら顔色は大分良くなったようだ。肉体的には不備があるようには見えないが、心労でもあるのか……まあ、貴族ならではの問題もあるだろう。
「大丈夫ですか?」
「君は――冒険者か? まだ若いのにいい腕をしているようだな」
立ち上がった爺さんは俺の腕を掴んできた。回復した爺さんの力は強く、昔は相当な実力者だったのではないか……いや、今もだな。
「見ない顔だが、王都の冒険者かね?」
「いえ、今日商隊護衛で王都に来ました。普段はウィスカで冒険者をやっています」
商人のほうの爺さんの瞳が鋭くなった。どう見ても場違いである俺がここにいる理由など推し量れるか。
「クライブよ。先ほどの部屋をまた借りれるか?」
「かまいませんが、よろしいのですか?」
「要らぬ世話だ。王都の腕利きでも成果は上がらぬのだ。土地勘のないほうが上手くいくやも知れぬ」
案内されたのは明らかに貴賓用と思われる瀟洒な部屋だった。爺さん二人が並んで座り、俺1人が革張りの椅子に座った。貴族の爺さんの顔は先ほどまでの疲労感はどこへやら眼光鋭くこちらを見据えている。白髪で全体的に細い印象を受けるがその瞳だけで全てを裏切っているほどギラついている。身につけている装身具もその多くが魔導具だろう。強い魔力を感じるので、彼自身も力のある魔法使いだ。やはり位の高い貴族になると受け継ぐ魔力も高いのだろうか。
「私はアドルフという者だ。恐れ多くも国王陛下から公爵位を戴いている。こちらはクライブ、このレイルガルド商会の大番頭だ。驚かぬ所を見れば見知っていたのだろうな」
公爵だと!? また大御所が現れたな。最高位の貴族じゃないか。異国の王女といい、最近の俺は貴種に縁がありすぎるな。少し前まで辺境の貧農やっていたとは思えない。それにもう一人はこの商会の大番頭か。ザックスから聞いた話では商会長は既に一線を退いているから実際の頭はこのクライブというおっさんだ。
一見すると冴えない50男だ。表情こそ柔和で中肉中背の男に見えるが、見かけ通りのはずがない。さっき<鑑定>をしたおかげでその立場を知ったが、<交渉>や<商人>など実に多彩なスキル持ちだった。そうでなければこの国有数の大商会を切り回す大番頭になどなれはしない。
「自分は冒険者をやっているユウといいます。まだFランクの新人冒険者ですが」
新人という言葉に老人達を驚いたようだが、話を打ち切る気は無いようだ。普通は俺など話しかけることも出来ない立場の人間たちのはずなんだが。
「我らも無駄に歳を喰っているわけではない、人の実力は測れると思っている。君にはある依頼を受けて欲しいのだ。依頼内容は私の孫娘を見つけ出すことだ。三日前からメイドと共に姿を消してしまってな行方がようとして知れんのだ」
家出か? 公爵家とはいえ年頃の娘だったら、家を飛び出してしまうこともあるのかもな。
「いなくなったと? 家出したお孫さんをお探しならばこの街の冒険者で事足りるのでは?」
公爵はため息とともに孫娘は7歳だと教えてくれた。流石にその歳で家出は難しいか。
「誘拐ならば身代金の一つでも要求してきそうなものだが、それすらも無いのだ」
「いなくなったメイドが誘拐した可能性はないのですか」
「無論考えたが、孫に付けていたメイドは身寄りがなく屋敷に住み込みで暮らしておった。孫もそのメイドに姉妹のようになついておった。メイドに与えていた部屋を調べたが、本当に着のみ着のままいなくなっているのは間違いない」
「なるほど。もう出来ることがないんですね」
「ああ、我々も困り果てている。こうして懇意にしているクライブに協力を求めに来た。当然我が家の専属冒険者にも協力を依頼しているが、現状はなしのつぶてなのだ」
藁にもすがる思いで君に話をしていると言う公爵に俺は力になるとだけ伝えると言うしかなかった。流石に<マップ>でも情報が少なすぎて割り出せないのだ。そもそも公爵の立場にある人が初対面の俺にこんな話をいきなりされても困る。
アドルフ公爵は自分の屋敷の場所を伝え、何かわかったらここに来てほしいと告げ、席を立った。
馬車で去っていく公爵を見送った後、俺は本来の目的である大番頭クライブに向き合った。
「先ほどの話で用件が理解した気がするが、何の用件で我が商会に来たのかな?」
「今回の依頼の商隊護衛の方ですが、そちらはどこまで把握されていたのですか?」
どういう意味かと問うクライブにそのままの意味ですとと返した。あのセドリックは本人の弁を信じるならこの商会の番頭の一人だ。無能で番頭になれるのでなければ本店に連絡をしていないはずがない。自分がどういう状況にあるか逐一報告を入れているはずだ。ロッソ一家も遠隔地と連絡を取れる手段を持っていたのだ。大商家である彼らがそれを持っていないはずもない。
「いえ、雇われの我々に依頼主の事情を窺うのも失礼ですね。お忘れください」
流石に海千山千の大番頭だ、一切表情を変えなかったが、まあソフィア達の事情はあくまで彼らも被害者だ。ジュリアの実家がどんな弱みでレイルガルド商会の船に同乗したかは知らないが、今は関係ない話だ。
俺は懐から一枚の紙を取り出した。
「そちらのセドリックさんからこのような証文をもらってます。そちらで承認してもらえますよね?」
「ふむ。確かに我が店の番頭であるセドリックの筆跡に間違いない」
よし、言質とった。これでもしセドリックがこんな紙は知らないと白を切ってもこの大番頭に支払わせることができる。
「ご確認いただきありがとうございます。我々はその紙にあるとおり、要人護衛を行い先発して王都に辿りつきましたが、直に商隊へ合流するつもりでおります。まずはご連絡を、と思いこちらにお邪魔したのですが、まさか責任者の方にお会いできるとは、幸運でした」
「当方もセドリックから報告を受けているが、全員無事で王都に辿り付けたことは喜ばしい。危険な道中だったのではないかね?」
「いえ、急ぎましたが、特にこれといって何があったわけではありませんでしたので。むしろ早く本来の依頼を片付けたいと思っています。既にお聞きかもしれませんが、荷物の量に対して馬車が少なすぎるように感じました」
俺たちを狙ったロッソ一味は全員”行方不明”だ。なので俺たちとも出会っていないし、まして交戦などしていない。彼らは永遠に”行方不明”のままである。
「そうか。不穏な話も聞いていたが、この王都に到着すればかのお方も心安らかだろう。馬車の件は耳に入れている。既に増強して旅路は順調と聞いているから問題は解消されたと思う。もちろん君の情報は有り難く思っているよ」
「そうでしたか。これは余計なことを申し上げました。なにしろとても表に出せないような貴重な物を運んでいると伺いましたので」
「君はとても新人には見えないな、まるで熟練のA級冒険者だ。公爵閣下が一目で助力を求めたのも分かる気がする。君が望めば我が商会に力を貸してほしいくらいだ」
「いえ、恐れ多いですよ。私のような若輩が混ざってはレイルガルド商会の看板に傷がついてしまいます。それに他の皆さんに示しがつかないでしょう」
俺は顔の表情を無害なものに保ちつつ、レイルガルド商会を後にすることに成功した。
さすがに大店の大番頭だけあって部下の行動を把握していたようだが、これ以上をつつくと大商家を敵に回しかねないので、さっさと逃げ帰ることにする。
俺は別にここと事を構える気はさらさらない。だが、ジュリアたちが掴んだ弱味をちらつかせたらすぐに俺を取り込もうとしてきた。力量も定かではない初対面の俺をだ。こりゃ何かあるのは間違いないが、特に俺に利益がありそうな話でもない。
セドリックから確実に報酬を受け取れる状況を作り上げただけで十分すぎる戦果だ。
「リリィはあの爺さんをどう思った?」
「んー、どっちの方の話?」
「公爵のほう。大番頭は真っ黒だな、何もかも知ってると考えるべきだろうぜ」
リリーは少し考えているようだが、俺とほぼ同じ意見のようだ。
「公爵のお爺ちゃんは嘘はついてないと思う。顔色が悪かったのは、ほとんど食事も喉を通ってなかったんだと思うし」
それにしても警備だって居るだろうにその目を盗んで屋敷からいなくなるとは、メイドかお嬢様かはしらんが大したタマだな。もし探すとしても、明日からにしよう。今日はさすがに日が暮れるから戻ることにする。
商隊護衛の目処がたったら少しは王都観光するつもりでいたのたが、どうにも俺には厄介事ばかり集まる星の下に生まれているような気がする。
だが、ダンジョンに篭もってひたすら機械的にモンスターを屠る日々よりかは刺激的であるのは、間違いない。それをどこか楽しんでいる俺も確かにいる。
残りの借金額 金貨 15000732枚
ユウキ ゲンイチロウ LV115
デミ・ヒューマン 男 年齢 75
職業 <村人LV130〉
HP 1943/1943
MP 1341/1341
STR 326
AGI 299
MGI 315
DEF 283
DEX 249
LUK 192
STM(隠しパラ)540
SKILL POINT 455/465 累計敵討伐数 4329
楽しんでいただけたら幸いです。
なお、借金は金貨462枚と銀貨を返済しました。手持ちの金と素材はまだまだありますが、とりあえずということで返済してます。