第九話 王子様とお昼寝しました
予め言っておきます。今話はサブタイ詐欺です。
お昼寝描写はほとんど出てきません。
そのかわり、中盤以降ソフィア視点の話があります。
ダイニングに向かうと俺たちとは別に手洗いを終えたママさんたちが既に椅子に座って待っていた。
俺たちもエリベルさんに椅子に載せてもらう。アル兄さんは猫耳メイドさん―――アーニャさん―――に椅子を引いてもらっていた。さすがは貴族って感じだな。
パパさんたちはどうやらまだ話し合っているようだ。
「先にいただきましょうか~?」
ママさんがそういうと、メイド長さん―――ローリエさん―――が紅茶を淹れる。淹れ方がいいのか、とてもいい香りがダイニングに広がった。
香りを堪能しているとエリベルさんがクッキーを持ってきてくれた。それと一緒にミルクも持ってきている。一歳児には紅茶はまだ早いようだ。
お腹が冷えないようにホットミルクにしてある。これはありがたい。
どうやら、クッキーをミルクに着けて柔らかくしてから食べるようだ。う~ん、早く普通に食べられるようになりたい。ちなみに、アル兄さんもホットミルクだ。
アル兄さんは紅茶を飲んでも大丈夫だが、たぶん好みでホットミルクの方がいのだろう。まだ四歳だもんね。
「それじゃあ、いただきましょうか~」
全員に紅茶とホットミルクが行き届いた後、ママさんの言葉で食べ始める。この世界では、その場で一番偉い人が声をかけるようだ。
もし、この場にパパさんと国王様がいたら、国王様が声をかけることになる。国王様が客人だとかは関係ないのだ。
エリベルさんにクッキーを取ってもらい、ミルクに浸して食べさせてもらう。残念ながら、食事をとれるようになったとはいえまだ一人で食べることはできなかった。
一度やってみたが、握力が足りないのか指がうまく動かず口に運ぶ途中でスプーンを落としたり、ボロボロとこぼしたりしてメイドさんたちの仕事が増えてしまった。
それからは、申し訳なくなるのでやっていない。だが、やらなければできるようにならないのでそのうちリトライしようと思っている。
とりあえず、今はティータイムを楽しもう。ホットミルクだけどな!
ミルクに浸してもらったクッキーはサクサク勘こそないものの、ほのかなミルクの甘さがありなかなかおいしかった。
「あらあら、リューカちゃんはクッキーが大好きなのね~」
しまった!食べ過ぎた!どうにも、食事ができるようになってから食べ過ぎることが増えた。いろんな味に飢えてるのだろうか?
このままでは、将来お腹がポッコリと出てしまう。
父・イケメン、兄・イケメン、俺・ぽっちゃりとかシャレにならないぞ!?これは、ある程度摂生しなくては!具体的には必要以上食べない!
この体はこれから成長期だから、ダイエットするのは健康に悪すぎる。成長も妨げそうだし。だから、食べ過ぎないことに注意するのだ!
アル兄さんももう剣の稽古をしているわけだし、食べ過ぎなければ太ることはないはずだ。
「ふぅ、もうおなかいっぱい」
「そう?じゃあ、お昼寝をしましょうか?」
食べてすぐ寝ると牛になるぞ!?うっ、まずい。結構食べたから睡魔が・・・・・・。さっき、動き回ったのが地味に効いてるのかも。この体は、まだ睡魔にあらがえないんだよな。多少我慢できるようになったんだが。
「・・・・・・うん」
俺が眠気に負けてそういうとアーニャさんがベットメイキングのために席を立った。
「それじゃあ、今日はエルくんも一緒でいいかしら?」
そう言われてふと横を見るとエルくんも眠そうにしていた。むしろ、俺よりも眠そうかもしれない。
「・・・・・・うん、エルくん一緒に寝よ?」
「ふぁ~、・・・・・・うん」
「おやすみ。リューカちゃん、エルくん」
「・・・・・・おやすみ、ママ」
そういって、エリベルさんに連れられて俺とエルくんは俺の部屋に向かった。正直、どうやって移動したのかあまり覚えていない。
部屋にはアーニャさんのおかげで二人分の枕が置いてあった。たぶん、ママさんたちにはこうなることがわかっていたんだろう。
じゃないと、用意が良すぎる。
「それでは、お着替えしますね。失礼します」
俺とエルくんはエリベルさんにされるがままに着替えさせられていく。なんか、言い方が犯罪チックだな。まぁいいや。
そのあと、寝間着姿になった俺とエルくんはそのままベットに吸い込まれるように眠りについた。
「・・・・・・おやすみ、ママ」
リューカちゃんを見送った私は、改めて紅茶を飲もます。あれは、かなり眠そうだったわね~。
まぁ、仕方ないですね。庭ではかなり遊んでいましたから。
今日はリューカちゃんとエリオット君を初めて会わせてみたけど、すっかり仲良くなってよかったです。実はかなり不安だったもの。
アルには感謝しています。おかげで、リューカちゃんたちが仲良くなるきっかけが生まれましたから。
「アル、リューカちゃんたちと遊んでくれてありがとうね」
「ううん、二人ともすぐに仲良くなってビックリしちゃった」
「ふふっ、すっかりお兄ちゃんね」
「うん!がんばる!」
アルは天才と呼ばれる人種なのだと思います。それは、私の夫も認めています。まだ、五歳になっていないのでステータスは確認していませんが、剣の稽古を見ている限り素質系のスキルが付いているのは間違いなさそうです。
あとは、このまま健やかに育ってもらえればそれで私は満足です。
私がアルの将来のことを考えていると、私の夫がダイニングルームに入ってきました。その後ろからギルも入ってきます。どうやら、雑談は終わったようですね。
「おかえりなさい、あなた」
「ただいま、リューカとエリオット君は?」
「ついさっき、お昼寝しに部屋に戻ったわ」
あらあら、入れ違いになってしまいましたね。でも、二人とも夢中で話しているのが悪いんですよ?きっと、自分たちの息子自慢をしていたのでしょう。夫は騎士団に顔を出しては惚気話をしていると街の見回りをしていた兵士に聞きました。
ギルも同じようなものだと宰相さんが言っていたし、本当にどうしようもないパパたちですね。
「少し来るのが遅かったな。オリオン、俺たちもいただこう」
ギルが夫に声をかけて各々椅子に座り食べだします。絶妙なタイミングでローリエが紅茶を淹れてくれました。さすがは元・王宮メイド筆頭ですね。
今日のクッキーはリューカちゃんやエルくんのために軟らかめに作ってあります。エリベルちゃんの自信作だそうですよ?
エリベルちゃんはリューカちゃんのことが大好きなようですから、やる気満々で作っていました。でも、エリベルちゃん?私だってリューカちゃんのことが大好きなんですからね。負けませんよ?
「「・・・・・・ふぅ~」」
ギルと夫が紅茶を飲み同時に一息つきます。ギルはもちろん夫もあまり休みがありませんから、あまり息子たちには会えていません。今日は二人そろって時間が取れる貴重な日だったのです。
「アル様、少し私とお勉強しませんか?アル様もお兄ちゃんになったわけですし頑張りませんと」
「うん!がんばる!アーニャちゃんよろしくね!」
アーニャちゃんが気を利かせてくれてこの場には私たち三人とローリエしかいなくなりました。このメンツなら少し難しい話をしても大丈夫そうです。アーニャちゃんに感謝ですね。
その前に、おやつを食べてしまいましょうか。紅茶もまだ残っているみたいですし、お茶をしているときにまで真面目な話をするほどでもないですからね。
「オリオン、兵士たちの様子はどうだ?お前が騎士団の教官になってからもうすぐ五年経つが」
クッキーを食べ終わって、紅茶を飲んでいるとギルが仕事の話を切り出しました。
「それなりに若い芽が育ってきているが、現状はまだまだだな。あと、五年、十年と経っていけば、一端の武人になるだろう」
「そうか。若い世代を育てなければ、次代に繋がっていかんからな」
「騎士団長と副騎士団長なら十分にこの国を魔獣から守っていけるだろうさ。冒険者にも強いやつらはいるし、なんなら俺たちもいるしな」
「それについては心配していない。ただ、エルたちの世代がどうなるか、だ」
「アルもいるし何とかなると思うわよ~」
実際、このまま行けばアルは一角の人物になるでしょう。エルくんよりも年上だし、きっとうまく支えてくれると思います。
「だが、アルはお前たちの家の跡取りだろう。騎士団に所属することはできん」
「なるほど。だから、今日エルくんをわざわざ連れて行きたのか。リューカと合わせるために」
「ああ。リューカとエルは同い年だ。これから先、共に成長していくだろう。そのために、少しでも仲良くなってもらえればと思ってな」
「それはいいが、実際リューカが国に仕えるかどうかはリューカ次第だぞ?」
「わかっている。強要することはせん。だが、親としては将来この国を背負って立つ息子に少しでも頼れる存在がいてくれることを願わずにはいられない。私にお前がいたようにな」
う~ん、リューカちゃんが国に仕えるのは難しいと思いますよ?あの子は、お父様みたいにどこかのんびりしていますから。時々突拍子もないことをするんですけどね。
さっきもアルたちとの追いかけっこで、面白い動きをしてくれました。
あれには私もビックリしました。アルもですが五歳になったリューカちゃんのステータスを調べるのも今から楽しみです。
ただ、ギルにはリューカちゃんが騎士団に入りそうにないことを言っておいた方がよさそうですね。
「ギル、リューカちゃんはたぶん騎士団に入らないと思うわよ?リューカちゃんはマイペースみたいだし、将来は冒険者になるんじゃないかしら」
「なっ、・・・・・・むぅ。そうなると、エルを支えてくれる者が」
「まぁ、なんとかなるんじゃないか?そのために、俺が若い連中を鍛えてるんだからな」
「えぇ。それに、国に仕えなくてもエルくんを支えることはできるわ。友としてね」
「そうか、そうだな。むしろ、その方がいいかもしれない。下手に上下関係を作って二人の関係にヒビが入っては敵わないからな」
ギル。それは、考え過ぎだと思いますよ?
「そういえば、ギル。お父様の居場所はまだわからないの?」
「・・・・・・ああ。我が国の守護神様の場所はまだわからない。別大陸まで行ったところまでは追えたんだがな。それ以降の足取りがつかめなかった」
私たちの住んでいる国、ドラグライド王国の守護神で私のお父様は五年前から―――正確には私が夫と結婚してから行方がわからなくなりました。
ある朝目覚めたら置手紙だけがあり、それにはこう書いてありました。
『孫たちのために周辺の魔獣を蹴散らしながら散歩してくる』と。
一応、この国の守護神的な人?なので、いなくなると困ったことになります。なので、ギルをはじめ国の重鎮たちが総力を挙げて探しているのですが、未だ見つかっていないそうです。
それから、この大陸では劇的に魔獣の数が減りましたが、せめて孫の顔を見に帰ってきてもいいのではないでしょうか?まったく、困ったお爺ちゃんですね。アルやリューカちゃんもそう思いますよね?
まぁ、この世界でお父様に傷一つ付けられる人は―――お母様を除いて―――誰一人いないので心配はしていませんがいい加減自分の立場を考えてもらいたいものです。
まぁ、理由がアルやリューカちゃんためなので近いうちに帰ってくるでしょう。そのときには、お母様にこっ酷く叱られてしまえばいいのです。というか、たぶんそうなるでしょう。
「というか、お父様はアルやリューカちゃんが生まれたことを知っているのかしら~?」
「「・・・・・・」」
どうにも、お父様はやることが斜め上なんですよね。さっきは、リューカちゃんとお父様が似ているといったけど、そこは似てほしくないですね。
何気に主人公の父親の名前が初登場です。
主人公は未だに知りませんが。
さて、話は変わりますが今話で第一章終了です。
簡単な登場人物紹介を挿んで第二章・幼児編に入ります。これからもよろしくお願いします。
感想、アドバイスなどお待ちしております。




