ep.57 物理武装の限界
警察署の敷地内に入ったSATの面々は緊張した面持ちで車内で揺られていた。彼らは元々よくわからない動画を根拠にこの付近に配備されていた部隊だ。現場に被害の痕跡だけ残して消えていく謎の動画集団への万が一の備えとして待機していた。そしたら本当に動画の化け物が現れたのだ。しかもあろうことか警察署の中だ。困惑している隊員も少なくなかった。
「車両で建物を隠せ! 万が一目標が外に出ても少しでも時間を稼げるようにするんだ!」
SATの車両が次々にバリケードの様に並んでいく。そして流れるように車両から出てくる隊員たち。その隊員たちに向け、隊長らしき人物が声を張る。
「いいかお前たち! 我々はこれから未知の化け物と相まみえる! 俺はここから先は"法"のことは一切考慮しない! そんな俺について来てくれる者だけついて来い! 行くぞ!!!」
「「「「「「了解!!!」」」」」」
今現在警察署内で暴れている未知の化け物。報告を聞く限り正攻法では対処できない可能性が高い。それを止めるためにはもしかすると法で裁かれるようなこともしなければならないかもしれない。それをする覚悟を持って、隊員たちは署内へ突撃した。
「目標確認! 攻撃開始!」
ズダダダダダダダダダダダダッ!
「がああああああ!!!」
隊員たちがラベスに向かって攻撃を開始。しかしこの世界の武器では魔力障壁を貫けない。
「あんたら近づき過ぎだ!!!!! 離れろ!!!!!」
そして署内で奮闘していた警官が隊員に警告を発する。
「があああああああああ!!!」
ビュルルルルルルル
「なに!? 退避ー!!!」
ラベスが射程に入った隊員たちを触手で搦め捕っていく。
「くっ!」
ズダダダダダダダ!
触手に引き摺られながらラベスの腹目掛けて攻撃する隊員。しかしラベスの肉体に当たる前に魔力障壁に防がれてしまう。
「そんな…! うあああああああ!!!!!」
バクンッ
一人が取り込まれ、他の捕まった隊員たちも必死に攻撃を加える。
「くそ! くそおおおお!!!」「ふざけんじゃねええええ!!!」
ズダダダダダダダ! ズダダダダダダ!
しかし結果は同じ。魔力を纏わない攻撃はラベスには通用しない。
「「「うああああああああ!!!」」」
バクンッ
ノワールの乗って移動する琴乃とヒロ男。その目がラベスが暴れているであろう場所を捉えた。
「警察署…! すごい騒ぎになってる…!」
「おいおい、SATまでいるぞ…! ガチンコでやり合ってるじゃねぇか…!」
今までのラベスによる被害とは次元の違う事態に、二人の額に汗が滲む。
(……ラベスの魔力がどんどん大きくなってる。残酷な言い方になるけど…、戦力外よ…。おーが! 琴乃さん! ノワールさん! 今回のラベスは今までで一番強いわよ! 気合い入れて!)
「了解だ!」「う、うん!」「ふははははは! 我はいつでも全力だぁ!」
そしてノワールは二人を乗せたまま警察署と特殊車両との間にドンッ!と着地。ヒロ男と琴乃が飛び降りる。
「!!!??? なんだ君たち!? なんだその恰好!? いや違う! ここは危険だ! すぐ離れなさい!」
突如現れた黒ライオンとドレス姿の少女たちに困惑する警官とSAT隊員たち。
「逃げるのは貴方たちです!!! あの化け物に銃は効きません!!!」
「ノワール! ここで見張って! 誰も建物に入れちゃダメ!」
「任せろ!」
ノワールを警察所の入り口に置き、二人は署内へ走る。
「ま、待ちなさい!!!」
二人の少女があろうことか化け物が暴れ回る場所へ走っていく。警察組織の一員として見過ごすわけにはいかない。
「おっと止まれ。頭を齧ってやってもいいぞ?」
「ぐ…っ!」
しかし人語を話す謎の巨大黒ライオンが隊員の行く手を阻む。先ほどの話の流れを聞く限りこの黒ライオンは敵ではない。攻撃してどかすこともできない。しかし少女たちが行ってしまう。
「心配せずともすぐ戻ってくる。あの二人も、取り込まれたお前の仲間たちもな」
「…え?」
黒ライオンがよくわからない事を言う。取り込まれた仲間が戻る…、食われた者たちの事を言っているのだろうか。
「も、戻るとは…、どういう意味だ…」
「そのままの意味よ。取り込まれたやつらはまだ死んでおらん。しかしお前たちが二人の邪魔をして化け物を倒すのに手間取れば、手遅れになることもあるかもしれん。故にお前たちにできるのはここで大人しくしていることだけだ。じっとしていろ。そうすれば我も二人に加勢しに行ける」
「………」
隊員は苦々しい表情をし、黒ライオンから数歩離れた。




