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第2話 英雄orアイドル(ルミナ☆ブレイズ)

「おーが…、無事なら早く帰ってこい…」


 一人で帰宅したコーセーが、自室の窓の向かいにあるヒロ男の部屋を眺め呟く。

 連絡が来てもすぐに対応できるようにスマホも手に握ったままだ。

 無事なことを祈るが、ヒロ男の性格を考えるとかなり深く首を突っ込むことは想像に難くない。相手が化け物なだけに、さすがのヒロ男でも無傷で帰って来るとは思えなかった。


(バカな…! 俺がおーがを信じないでどうする! 絶対大丈夫だ! おーがは…! 帰って来る!)


 両手でスマホを握りしめ、また呟く。


「おーが…!」


 その時、スマホからピロロロロと着信音が響く。

 すぐに画面を確認すると、そこには「おーが」の文字。


「おーが!!!」


 画面を操作し電話に出る。


「おーが! 無事か!?」

「あぁ、無事だ。心配掛けた」


 スマホの向こうから聞こえるヒロ男の声に、コーセーはほっと胸を撫で下ろす。


「そうか、良かった…。…今どこにいる? 帰って来てるのか?」

「あぁ、今家に向かってる。もうすぐ着く。……なぁコーセー。今家におじさんかおばさんいるか?」

「いや? 俺一人だよ。なんでだ?」


 何故かコーセーの両親の在宅を確認してくるヒロ男。今は居ないことを伝えると安心したような声色でヒロ男が続ける。


「よし、じゃあすぐコーセーの部屋行くわ。相談したいことがある」


 ヒロ男はそう言うと、コーセーの返事も聞かず通話を切ってしまった。

 コーセーが不思議に思っているとすぐに玄関の開く音が聞こえ、聞き慣れた足音が階段を上がって来る。

 ヒロ男だ。家のすぐに目の前から連絡してきていたらしい。

 そしてガチャ…と部屋の扉を開け、ヒロ男が現れてすぐ口を開く。


「コーセー、助けてくれ」


 その言葉を発するヒロ男の表情はかなり疲れているように感じた。コーセーはヒロ男のこんな姿を今まで見たことが無かった。


「いったい何があったんだ…? 俺にできることなら協力するけど…」


 するとコーセーの頭の中で謎の声が響いた。


(こんにちは、コーセーさん。私はティオリアといいます)

「…!??? な、なんだこの声!?」


 コーセーが驚いているとヒロ男がため息を吐く。


「取り憑かれた…」

(ちょっと!!! 人を悪霊みたいに言わないで!!! …まぁ幽霊みたいな状態ではあるんだけど)


 ぷりぷり怒っている様子の謎の声。ヒロ男はティオリアと名乗ったその女性の声の存在に参っているようだ。


「えーと…、とりあえず俺たちが別れてからのことを聞いて良いか? 何がなんだかわからない…」

「…………………わかった、全部話す。…コーセー、何も考えず、聞いたまま受け入れろ」

「わ、わかった…」


 そしてヒロ男は"全て"をコーセーに話した。




「つ、つまり、おーがは一回死に掛けて、ティオリアさんが取り憑いたことで助かったけどティオリアさんの姿に変身してしまい、不本意ながらそれを受け入れ化け物を倒して、沸き立つ野次馬から逃げてきた…と」

(だから悪霊みたいに言わないで! むしろ今の私は守護天使みたいな状態よ!?)

「ご、ごめん…」


 ティオリアに怒られ素直に謝罪するコーセー。

 ちなみにヒロ男は野次馬から逃げた後に変身が解け、現在は無事に筋骨隆々の肉体を取り戻している。

 そしてティオリアが補足を入れ始める。


(今の凰我さんは、凰我さんと私の二つの魂が支えることでギリギリ生きている状態なの。それに私も昨日の夜から魂だけの状態でうろうろしてたから魂が消耗してる。今私が凰我さんの身体から離れると凰我さんは死に、私は消滅してしまう。だからお互いのためにもしばらくこのままの状態でいないといけなくて…)

「大体三ヶ月くらいで回復するんだとよ。そうすればティオリアが離れても"俺は"死なないらしい」


 "俺は"を強調したヒロ男。真剣な表情で続きを話す。


「ティオリア、お前は何で魂だけでうろうろしてた? 死んだのか?」

(…いえ、"たぶん"死んでない。死んでたらこんなに長時間現世に留まれないはずだから…)


 ティオリアも真剣な声色で答える。しかし同時に不安も滲んでいるように感じる。


「ティオリアさん、君は何者なの? 名前は外国の人っぽいけど日本語めちゃくちゃうまいし、それにこの世界では魔法なんて存在しないはずだ」

「あぁ、そろそろあんたのことをいろいろ話してもらうぞ。コーセーと一緒に聞こうと思って今まで聞かないでいたんだ」

(……わかりました。ここからは私の自己紹介も含めて、どうして私が"この世界"に来たのかもお話します)


 そしてティオリアは一呼吸置き、話始めた。


(私の名前は『ティオリア・クラルス』。アサラオン皇国の防衛魔導団に所属している特殊遊撃魔導士です)

「アサラオン皇国…?」「特殊遊撃魔導士…」


 聞き慣れない名前に二人が首を傾げる。


(アサラオン皇国は神話の時代から続く歴史の長い島国です。神話の時代では『アシハラノナカツクニ』と呼ばれていたそうですが、他国との貿易が盛んに行われるようになってから国の名を改めたそうです。しかし過去から現在まで一貫してアマテラス様がお治めになっています)

「それって日本神話…、でも治めてるのがアマテラス?」


 コーセーが知っている日本神話では天照大御神(アマテラスオオミカミ)が治めているのは高天原(たかあまはら)のはずだ。葦原中国(あしはらのなかつくに)ではない。


(おそらく言葉が通じることに関係するのですが、私の世界とこの世界は平衡世界の同一国なのではないでしょうか。少しの差異はありますが、私もここの文字は読めます。おかげで昨日の夜から今まで街の様子を楽しめました)

((楽しんでたのか…))


 魂が消耗し消えてしまうかもしれないという中で、それでも街を見て楽しんでいたというティオリアの図太さに何とも言えない気持ちになる二人。


(一つ質問があるのですが、この世界の街からはほとんど魔力を感じません。インフラはどうやって回しているんですか? 水道や照明があるなら何かしらのエネルギーを使っているんですよね?)

「電気だよ。水道も照明も、全部発電所が作る電気で動いてる」

「え? 水道って電気使ってるのか?」


 コーセーの説明を聞きヒロ男が目を丸くしている。コーセーが額に手を当ててため息を吐く。


「おーが…、水を各家庭に運ぶにはでっかいポンプが必要なんだ。そのポンプを動かしてるのが電気。だから浄水場が停電したら水道も止まる」

「へー」(へー)


 コーセーの説明を聞きヒロ男とティオリアが気の抜けた声を漏らす。


(この世界では魔力を使わないで電気に全振りしてるんですね…。興味深いです…)

「電気全振りってわけじゃないけど…、まぁ魔力ってモノはこの世界では使われて無いね」


 (なるほど…)と納得したような雰囲気のティオリア。

 すると今度はヒロ男が質問し出す。


「特殊遊撃魔導士ってのは何なんだ? あんた軍人さん?」

(軍…? 団のことですか? …あー…歴史の授業ですごく昔は軍隊というのがあったと習った気が…)

「軍隊が無い? ティオリアさんの世界では戦争は無いの?」

(戦争…、国同士で戦うことですよね? そんなことしてたらラベスに滅ぼされてしまいます。実際滅んだ国はいくつもあります)


 突如出てきた血生臭い話にコーセーが息を飲む。

 そしてヒロ男がまた口を開く。


「あの…、特殊遊撃魔導士って…」

(はいはいこれから説明してあげますよ。特殊遊撃魔導士は単独作戦行動を許可されている魔導士です。正規の魔導隊では対応できない脅威に対処するための存在です。今回私がこの世界に来たのもその脅威を追ってのことなんです)

「……もしかして、あの化け物と関係あるの?」

(十中八九あります。私が魂だけになっていることにも関係します)


 ティオリアの雰囲気が一層真剣なものに変わり、話し出した。


(私は以前からラベスの特殊変異体、『ゼノウィータ』を追っていました。世界の裏からラベスを操り、世界を浸蝕しようとしていたんです。本来知性を持たないラベスが連携して攻めてくる異常事態に何人もの魔導士が犠牲になりましたが、防衛魔導団の皆で協力してゼノウィータをあと一歩のところまで追い詰めることができたんです。でもゼノウィータは蓄えた魔力を暴走させ次元の壁に穴を開け、そこに逃げ込んでしまった)

「その先がこの世界ってことか…」

(はい。私はゼノウィータを追い、一人でこの世界に飛び込みました。そこでゼノウィータと一騎打ちになったのですが、魔法を使う組み立てをミスして捕らえられてしまった。ゼノウィータはすぐに私の心臓を貫こうと攻撃して来て…、咄嗟に『ルミナ☆ノヴァ』という自爆魔法を使い、相打ちに持ち込もうとしたのですが…)


 ここで少し言葉に詰まるティオリア。

 二人は息を飲み、ティオリアの話の続きを待つ。


(ルミナ☆ノヴァは本来長い溜めが必要な魔法なんです。それを咄嗟に使ってしまったので威力が不完全で、ゼノウィータを仕留めきれませんでした。そして不完全な自爆で私の魂は身体から弾き出され、私の身体はゼノウィータと一緒に街へ落ちていきました。すぐに追いましたが、落下地点にはすでに何も残ってなくて…。たぶん私の身体は今もゼノウィータに捕らえられているんだと思います)


 壮絶な戦いの話に絶句する二人だが、ヒロ男はどうしても突っ込みたいことがあった。


「お、おまえ…、その状況でよく街の探索楽しめたな…。図太いとかそういう次元じゃねぇぞ…」

(ち、ちがっ! 言い訳させてください! 私は魂をお邪魔させてもらえそうな人を探してたんです! でもこの世界の人たちって魔力はあるのにその器がすごく小さくて…! 私がお邪魔しちゃうと元の魂を追い出しちゃう恐れがあったんです! だからいろんなところを回ってたんですけど…ちらちら見える雑誌とか広告とかが魅力的で…無意識に興味がそちらに向いたりしちゃったりして…)


 どんどん声が小さくなっていくティオリア。その状況で楽しんでいたのが異常だという自覚があるのだろう。もし今の彼女の顔を見れるとしたら、きっと涙目になっているに違いない。


「……はぁ。そうだよな、気を紛らわせないとやってられねぇよな…。悪かった、許してくれ」

(凰我さん…)


 ヒロ男の謝罪に泣きそうな声色になるティオリア。

 その雰囲気に耐えられなくなりヒロ男が無理やり話を進める。


「で、俺はその"器"ってやつがデカかったわけだ。何であんなギリギリまで声掛けなかったんだ? 一歩間違えば俺はあの一撃で死んでたぞ?」

(ぐす…、掛けてましたよ。でも凰我さんの精神力が強力なバリアになってて私の声をかき消してたんです。凰我さんが瀕死になってバリアが弱まって、初めて声が届いたんです)

「おぉ…なんてこったい…、互いに生き残るためにはあの瀕死が絶対条件だったのかよ…」


 ヒロ男がまた疲れた顔をして天井を仰いだ。

 何とも言えない雰囲気に飲まれるコーセーの部屋。そして今度はコーセーがその空気に耐え切れず口を開く。


「ま、まぁ結果的に二人とも無事だったんだから良かったじゃないか。ティオリアさんはまだ問題抱えてるけど、それはこれから何とかしよう! ねっ!」

「…そうだな、そのゼノウィータってやつを探し出してぶっ飛ばしてティオリアの身体を奪い返す。そして三ヶ月後に分離してティオリア復活。元の世界に帰れば万事解決だ」


 パシンッと右拳で左手の平を叩く。


「ティオリア! 戦うのは俺に任せておけ! お前は俺の中でどっしり構えておけよ! …弱点の共有は最優先で頼むな!」

(凰我さん…、ありがとう…。私は知識面で全力でサポートします…! 一緒に戦いましょう!)

「おう! 三ヶ月間よろしくな!」

(はい!)


 きれいに話がまとまる様子を隣で聞いていたコーセー。一つの懸念が過る。


(おーが…、戦う時に女の子に変身しちゃうの忘れてないか…?)


 まぁせっかくきれいにまとまったのだ。それを言うのは野暮であろう。

 そう思い、戦うために必要な情報の共有をティオリアに求める。


「ティオリアさん、ラベスっていうのはどういう存在なんだい? 俺たちが見たときは男の人が巨大化してる最中だったけど…」

(ラベスは人の負の感情が結晶化して核になることで自然発生する化け物です。周りの生き物を取り込んで魔力に分解して吸収します。放置するとどんどん強くなって大変危険です)

「俺…、取り込まれてたら分解されてたのかよ…」

(だから逃げろ離れろって言ってたんですぅ!)


 ヒロ男のぼやきにまたプリプリし出すティオリア。


「ラベスになった人はもう助からないの?」

(いえ、核を破壊するとラベスは一旦魔力に分解され、すぐに元の人間の状態に再構築されます。なので誰か取り込まれても、魔力を消費される前に倒すことができれば取り込まれた人も救うことができます)


 それを聞き少し安心するコーセー。

 つまりラベスが現れたら速やかに倒すのが絶対のセオリーということだ。


「…ってことは、俺がぶっ倒したやつも人間に戻ってるのか?」

(えぇ、戻ってますよ。貴方は気付いてなかったみたいですけど、"全裸の"男性が倒れてたのであの方がラベス化してた人でしょうね)

「「ぜ…全裸…?」」


 唐突な単語に血の気が引く二人。


(魔力に分解された際は魂の形を元に再構成されるので、服は対象外ですね。仕方のない事です)


 それを聞き顔を見合わせるヒロ男とコーセー。

 公共の場に全裸で放置される姿を想像してしまい、ぶるっと身体が震える。


「な、なぁ…、その人って公共わいせつで捕まったりしてないよな…?」

「わからない…。そもそも化け物が現れた異常事態の現場だから、多少は多めに見てくれるかもしれないけど…、でも…」


 す…とスマホを取り出しニュースを検索し始めるコーセー。ヒロ男がそれを固唾を飲んで見守る。


(…? 全裸で倒れてるのがそんなにダメなことなんですか?)

「逆にそっちの世界では普通なのかよ…。こえぇよ…」


 ティオリアの言葉に戦慄を覚えるヒロ男。カルチャーショックとはこういうことを言うのかと一人で納得する。


「…! あった! 『事件現場で倒れていた男性を保護。衣服を身に付けておらず、追剥に会った可能性を視野に――』だってさ。良かった、捕まってはいないみたいだ」

「はぁーーーー! 良かったぁ…」


 特大のため息を吐き、心底安心するヒロ男。

 しかしその情報を見つけたコーセーは微妙な表情をしている。


「どうしたコーセー。他に何か気になる記事でもあったか?」

「いや…、記事じゃなくてSNSの動画なんだけどさ…」


 動画…、という単語を聞き、ヒロ男の脳裏にスマホでずっと動画撮影をしていた馬鹿の顔が過る。


「見せろ!!!」

「うわ! おい落ち着けよ!」


 ぐいっとコーセーの隣に滑り込むヒロ男の目に飛び込んできたのは、"ヒロ男が光に包まれ美少女となって現れるショート動画"だった。

 それを見て硬直するヒロ男。そしてショート動画は再生が終わると次のショート動画へ自動スキップしていく。


『わ…私はこの人の身体を借りて降臨しました!!! さ、さぁ覚悟しなさいデカ物!!!』


 動画からはあの時にヒロ男が咄嗟に叫んだ口上がきれいに再生される。ポーズもばっちり決まっていて、さながらピンチに駆け付けた正義の"ヒロイン"といった様子だ。

 その動画が終わると更にスキップし、今度はヒロ男が盛大に触手に絡まれている動画が再生され始める。この動画の再生数が群を抜いて凄まじいことになっている。

 そしてその動画が終わると今度は上空から光を放ちながらキックでラベスを貫く動画が再生される。そして爆発を背に涙を流すその姿は、まるで今倒した敵に対して心を痛める聖女のような美しさを醸し出していた。


(ちょっと!!! スカートの中見えちゃってるじゃない!!! おーが!!! しっかりガードしなさいよ!!!)

「…一応な、内股気味にして右手でスカートは押さえててやったんだよ…。尻は諦めろ…」

(いやああああああああああ!!!!!)


 半分放心状態のヒロ男と絶叫するティオリア。

 ヒロ男の言う通り、蹴りの姿勢のヒロ男は右足をピンと伸ばし、左太腿をキュッと閉じ、右手でスカートを押さえ、左手でバランスを取りながらラベスに直進していた。しかしその気遣いが逆に動画の中の美少女を羞恥と戦いながら必死に化け物と戦うヒロインへと昇華させてしまっていた。

 カオスになった雰囲気をなんとか持ち直そうとコーセーがヒロ男にフォローを入れる。


「お、おーが…! 一応まだおーがの尊厳は守られてるよ…! ほら…! コメントにこんなこと書いてあるよ…!」


――――


大根:

最近のCGはよくできてんなぁ


たまご:

これってニュースになってる事件現場?

マジなやつ?


こんにゃく:

↑人生幸せそう


ちくわ:

ヒロ男じゃん


はんぺん:

魔法少女ヒロ男?


牛すじ:

撮影手伝っただけだろ

で、ヒロ男ってなんだ?


餅銀着:

#魔法少女ヒロ男

さぁ投稿者よ このタグをつけるが良い


――――


「誰が魔法少女ヒロ男だああああ!!!!!!」


 ダァン!と床に両手を叩きつけるヒロ男。

 コメントが次々書き込まれ、コーセーが見せようとしたコメントを見失ってしまい、代わりに目に付いたのが「#魔法少女ヒロ男」というとんでもないワードだった。


「大丈夫だって! こんな現実離れした動画本気にする人いないよ! おーがの咄嗟の口上が効いてる! 声も完全に女の子だから誰もこれがおーがだとは思わないって!」

「こぉせぇ…、ほんとに大丈夫かなぁ…」


 180cmの身体を小さく丸め、しょもしょもになっているヒロ男。

 コーセーが必死に励ます。


「絶対に大丈夫だよ! もしあの現場にいて変身を見てた人に会っても、おーがが言ってた口上通りの設定で乗り切れるって! おーがはティオリアさんの依り代! 動画の中で戦ってるのはティオリアさん! あれはおーがじゃない!」


 思いつく言葉を片っ端から並べてヒロ男に届けるコーセー。しょもしょもヒロ男も少し持ち直してきた。


「…そうだよな。こんな動画、皆CGだって思うよな。最近のCGはすごいもんな!」

「そうだよ! 最近のCGはすごいんだ!」


 二人で無理やり空気を持ち上げ、テンションを上げていく。

 しかしさっきまで絶叫していたティオリアが何故か静かだ。

 コーセーが不思議に思い、一緒にヒロ男のよいしょを手伝って貰おうと声を掛けようとすると、コーセーが口を開く前にティオリアが焦った様子で話し出した。


(おーが! 遠くからラベスの魔力を感じる! すぐ行かないと!)

「なんだと!?」


 その報告を受け窓を見ると、外はすでに暗くなっている。


「遠くってどれくらいの距離だ!?」

(正確にはわからないけど…! 今日戦った場所よりは近いわ! 私の写身(うつしみ)を使って移動すればすぐよ!)

「よし! って、ここで変身するのか!?」

(もたもたすんな! 行くわよ!)

「ちょま――」


 言い争いをしていたヒロ男が途中で光に包まれ、横にいたコーセーが驚き目を細める。

 そして光の中から動画の中で華麗に舞っていた美少女が姿を現した。


「お、おーが…なのか…?」

「認めたくないが…、そうだ…」


 コーセーの問いに非常に可愛い声で答えるヒロ男。コーセーの脳がバグりそうになる。


(急いでおーが!)

「おう! 悪いコーセー! さっさと片付けてくる!」

「あ、あぁ…、気を付けて…」


 そして困惑するコーセーを置いて、魔法少女ヒロ男は窓から颯爽と夜の街へ飛び出していった。




 家々の屋根を跳びながら走るヒロ男。パルクール選手も真っ青の跳躍力で目的地を目指す。


(ここよ! この公園にいる!)


 あっという間に目的地に到着し、屋根から大跳躍し緑地公園の中へ飛び込んでいく。

 スタッと軽い着地音を鳴らし、ス…と立ち上がり周囲を見渡す。


(あの時みたいな嫌な感じがするな…)

(それがラベスの魔力よ。周囲に不快感を撒き散らすの)


 つまりラベス存在するだけで周囲に被害が出るということだ。早く駆除しなくてはならない。


(……いないぞ)


 嫌な気配はあれど姿が見えないラベス。

 ヒロ男は棒立ちでその場をくるくる回る。


(油断しないで。あっちも貴方が来たのを察知してるはず。死角から来るかもしれないわ)

(そういうやつもいるのか…。了解した)


 ティオリアの警告を受け、ス…と少し重心を落とし、死角に注意を向けながら周囲の気配を探る。

 すると遠くに何かの気配を感じた。

 サッとそちらに身体の正面を向け、気配の正体を探る。


「…あ!」

「…えぇ…」


 そこに現れたのは街でヒロ男を撮影していた馬鹿だった。馬鹿はすぐにスマホを構えて動画を撮影し始める。


(ティオリア、あの馬鹿ここから摘まみ出していいか?)

(本当はそうした方が良いんだけど…、敵の姿が見えないから無暗に動くのは危ないわ。無事を祈りながら戦いましょう)

(くそ…、いったい何なんだあいつ…)


 余計なお荷物がログインしたことに心の中で毒づき、馬鹿から視線を外そうとした、その時。

 馬鹿の横に"ヒグマと同じくらいのサイズの巨大な蜘蛛"が歩いているのを発見してしまった。


(!!!!! まじかよ!)

(おーが! 急いで!)


 すぐに巨大蜘蛛を殴り飛ばそうとダッシュで接近を試みるヒロ男。

 すると巨大蜘蛛はサササッと後退し茂みに身を隠してしまった。


(くっ…! とりあえずこのままあの馬鹿の近くに行って警告だ!)


 ズザァァと蜘蛛が逃げた方向と馬鹿の間に身体を滑り込ませ。馬鹿に話し掛ける。


「えーと……、貴方! ここは危険です! 早く逃げてください!」

「え! 可愛い声! 聞けて感激です!」

(うげ! マジかこいつ!)


 スマホでヒロ男を撮影しながら何故か恍惚の表情を浮かべている馬鹿。

 せっかくわざわざ女性丁寧口調で話し掛けたというのに、この馬鹿には完全に裏目に出てしまっているようだ。

 こうなってはもう馬鹿に構うだけ時間の無駄だ。ティオリアに敵の情報を尋ねる。


(ティオリア、ラベスってのは人の負の感情から発生するとか言ってなかったか? さっきのやつ、明らかに人じゃねぇぞ)

(ゼノウィータの仕業よ。奴は生き物の負の感情に干渉して無理やりラベス化させてしまうの。人である必要は無いのよ)

(まじかよ…! 蜘蛛型との戦闘経験は?)

(無いわ…。でもラベスであることには変わりない。接近したらきっと触手で拘束しようとしてくるはず。おーが! 遠距離攻撃よ!)

(………)


 今回はしっかり情報を渡してくれたティオリア。しかしそれを聞いたヒロ男は無言になる。


(…? どうしたのおーが。遠距離攻撃よ!)

(………――できん)

(え?)


 ぼそっと何か言うヒロ男。ティオリアが聞き返すと…。


(イメージできん! 遠距離攻撃ってどうすればいいんだ!?)

(あんたどんだけ脳筋なの!???)


 ティオリアの渾身の突っ込みが炸裂したその時、遠くから半透明な網のようなものがフワァァとこちらに飛んで来るのが見えた。


(蜘蛛の糸!? でもゆっくりだ! 躱して……馬鹿が捕まるじゃねぇか!!!)


 網が飛んで来る方向と馬鹿との位置関係が最悪だった。ヒロ男が避けても馬鹿が蜘蛛の糸に絡まれてしまう。そうなったらもう守ることが絶望的になる。


「貴方! 逃げますよ!」

「え!?」


 咄嗟に馬鹿に駆け寄り担ぎ上げる。そして走ってその場から離脱しようとするが…。


ネバァ…

(!!!?? 足元に粘着糸だとぉ!?)


 ヒロ男の右足が粘着糸を踏んでしまい、地面から離すことができなくなってしまった。


(おーが! その人投げて!)

(くっ! わかった!)


 担いだ馬鹿を振り被り…。


「投げますから頭守ってください!!!」

「はい喜んでぇぇ!!!」


 何故か嬉しそうな馬鹿を、ヒロ男はできる限りやさしく遠投した。

 飛んで行った馬鹿は意外にも綺麗な受け身を取りゴロゴロと転がっていく。


(見かけによらず運動神経良いんだな…。っとそれどころじゃなかった!)


 気合を入れ「ふん!」と右足を引き上げる。粘着糸は地面の表面をメリメリと引き剥がし、ヒロ男の右足は土付き粘着糸という重りを装備することになってしまった。


(パワーで地面との拘束を無効化するのはさすがだけど、それじゃ高速移動は無理ね。おーが! 遠距離攻撃のイメージ捻り出しなさい! このままじゃ取り込まれるわよ!)

(んなこと言っても…!)


 そうこうしているとゆっくり飛んで来ていた網がヒロ男に到達してしまった。

 ヒロ男はそれを手刀で切断しようとするが…。


ネバァ ネチャァ

(ひいいいいいい!!! 何やってるのよ!!! ネチャネチャして気持ち悪いいいい!!!)


 手刀を振り下ろした右手に粘着糸の網が絡み付き、その網をもろに頭から被ってしまった。


(くそっ! 伸びて引き千切れねぇ!)


 糸を引き千切ろうと藻掻くが、藻掻けが藻掻くほど粘着糸がネチャネチャと身体に絡み付いていく。


(いやああああ!!! ネチャネチャいやああああ!!! それにスカートが捲れちゃううう!!!)

(うるせぇ! 毎回毎回叫ばなきゃなんねぇノルマでもあんのかよ! 少しは我慢しろ!)


 懸命に藻掻いていると、遠くから巨大蜘蛛がひょっこり現れ、てててーとヒロ男の近くに歩いてきた。そして2メートルくらいの距離からヒロ男をじっくり観察している。


(く…っ! 完全に拘束できてるか確かめてやがるのか…! 嫌らしい野郎だ…! それに…)


 ちらっと斜め後方へ目をやると、少し離れたところから馬鹿がスマホで撮影している。


(あの野郎……、この蜘蛛ぶっ倒したら絶対ぶん殴ってやる……!)


 ヒロ男が静かに怒りの炎を燃やしていると尚も頭の中で叫ぶティオリア。


(おーがああああ!!! お願いだから何とかしてえええ!!! このネチャネチャに触手まで加わったら私耐えられないいいいい!!!)


 その叫びを静かに聞き、怒りの炎が沸々と大きくなっていく。

 そして巨大蜘蛛が観察を終え、ついに行動を起こす。

 クルっとヒロ男にお尻を向けると蜘蛛の腹がぐばぁ…と縦に大きく割れ、中から大量の細い触手がぶわあああああと溢れ出し、ヒロ男に巻き付いていく。


(いやああああああああああああ!!!!!!!!!)


 今まで聞いた中で一番の大絶叫が響いた。そしてヒロ男の中で、何かがぷつんっと"切れた"。


(うるせえええええええええええ!!!!!!!!!)


 何とかその言葉が口から出力されるのを押さえ切り、心の中で叫ぶヒロ男。

 それと同時にヒロ男の周りに光の粒子が次々に出現し、ブワアアアアア!と残光を残しながらヒロ男の周りに渦巻き始める。


「ルううううミいいいいナああああああ☆!!!」


 怒りに任せて詠唱するヒロ男。渦を巻く光の粒子が赤熱していく。そして…。


「ブレえええええええええええイズ!!!!!」


 ゴバアアアアアア!!!とヒロ男を中心に炎が燃え盛り、周囲の糸や触手を激しく燃焼させていく。


「ぴぎいいいいい!!!」


 巨大蜘蛛にも炎が燃え移り、その熱さにバタバタと足をバタつかせ藻掻いている。


(うそでしょ!? ラベスは魔力で守られてるから燃えないはずよ!? 何よこの炎!?)


 さっきまで絶叫していたとは思えない解説を披露するティオリア。生理的嫌悪に晒されていなければ彼女は基本的に冷静だ。

 しかしヒロ男はそんな解説など聞く耳持たず、ググっと姿勢を低くして更に詠唱を開始。


「ルううミいいナああああ☆!!!」


 ヒロ男の周囲に光の粒子が出現し、渦を巻きながらヒロ男に集中していく。


「ストラあああああああああああイク!!!!!」


 ドオオン!と巨大蜘蛛に向かって射出されるヒロ男。右足をラベスに向け一直線に伸ばし、閃光となって巨大蜘蛛を突き破る。

 ズザアアアアア!と格好良く着地し、バッとすぐに立ち上がりポーズを決めるヒロ男。その背中の向こうでは体に大穴を開けられた巨大蜘蛛に急激に光が集まり、ドカアアアアン!と爆発四散した。




「…! すごい…! やっぱりあの子はすごい…!」


 性懲りもなくスマホで動画撮影していた馬鹿。

 絶体絶命のピンチを乗り越え、美しい跳び蹴りでその美脚を惜しげもなく晒す姿に完全に脳を焼かれてしまっていた。

 そしてその後のかっこいいポーズを決める可愛い少女の姿を目の当たりにし感動に打ち震えていると、ポーズを取り終えた少女がスタスタスタスタと高速で歩み寄ってきた。

 少女は怖い表情をしているが、今の馬鹿にはその表情すら最高の崇拝対象だった。

 馬鹿は恍惚の表情で少女を迎え入れ、少女の言葉を待つ。


「……ティアです」

「……え!?」


(ま、まさか! それは…!!!)


「私はティアです! ヒロ男ではありません!」


(お名前頂戴しましたああああああああ!!!!!!!!!!!!)


 心の中で大絶叫する馬鹿。

 少女はそれだけ言うと、すごい跳躍力で公園のどこかへ消えていった。

 馬鹿は両膝をつき、震える手で少女の美しい跳躍を動画に収め続けた。




(ティアって何ですか?)

(ヒロ男じゃなければ何でも良かった。適当にティオリアを略しただけだよ)


 家々の屋根を跳びながら話すヒロ男とティオリア。


(撮影を止めるようには言わなくて良かったんですか?)

(…あの手の馬鹿はな、止めさせようと増長するんだよ…。だからせめて…あのハッシュタグだけは消えるように仕向けたかった…)

(でも名前を教えて貰ったあの人は撮影の公認を得たと思って小躍りしてるんじゃないですか?)

(!!!!!!!)


 屋根の上で足を止め、両膝から崩れ落ち、屋根に手をつき項垂れるヒロ男。


(まぁ今日みたいに偶然居合わせるなんてそうそうありませんよ。そんなに気にしない方が良いですよ?)


 ティオリアが励ましてくるが、名を教えることがあの馬鹿にどんな影響を与えるか、そんな簡単な事に気が回らないほど頭に血が上っていた自分に絶望し、ヒロ男は精神に大ダメージを受けるのであった。

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