ep.1 日色凰我という男
深夜のとある街の上空。暗雲が渦巻き、稲妻が幾度も走る。
ゴロゴロゴロゴロ…
カッ!
空が一瞬光る。
パリ…と、"空が割れた"。
バリィィィィィ………ン
割れた空から二つの影が飛び出し、次の瞬間、空は何事も無かったかのように元通りになった。
飛び出した二つの影は激しく飛行しながら互いを光で攻撃し合う。
「ルミナ☆シュート!!!」
「獄雷砲!!!」
ドガアアアアアン!
攻撃し合いながら言葉を投げ合う。
「往生際が悪いのよゼノウィータ! いい加減諦めなさい!」
「バカを言え! 貴様さえ倒せばいくらでも立て直せるわ! この異世界で散るが良い!」
すると影の一つの身体が大きく膨張し、ズバアアアアアと夥しい数の触手を生やし、もう一つの影を捕えようと迫る。
「ひっ!!! 気色悪い…っ! 近付かないで!」
逃げる影が触手を躱しながら光を身体に集中させる。
「ルミナ☆バースト!!!」
光が集中した身体からドガアアアアアア!と光の奔流を放出し、周囲の触手を消滅させる。
「ぬるいわ!!!」
「!!!」
しかしすべてを消滅させることは叶わず影は触手に捕らえられてしまう。
「きゃああああああ!!!」
身体中に触手が巻き付き、ギリギリと締め付けられる。
「くははははははは!!! 終わりだティオリア! 止めを刺してくれる!」
「ぐ…うぅ…!」
幾重にも重なり鋭い槍のようになった触手が、拘束された影を貫かんと迫る。
(…くっ! このままやられるわけにはいかない! せめて道連れに…!)
締め付けられる痛みと悔しさで頬を伝った涙を振り払い、"最後"の魔法を唱える。
「ルミナ☆ノヴァ!!!」
カッ!と、先ほどのルミナ☆バーストの比ではないエネルギーが身体から放出される。
そのエネルギーは巻き付く触手や、それを操る大きな影をも飲み込んでいく。
「!!!??? そんなバカなああああ!!!!!!」
二つの影を飲み込んだそのエネルギーは光となり、街の夜空の闇に消えていった。
「ヒロ男、助かったぜ。また練習相手よろしくな」
とある高校の体育館。汗だくの青年が爽やかに笑う。
「おう! いつでも声掛けてくれ! 他の助っ人があってもすぐ片付けてくるからよ!」
ヒロ男と呼ばれた大柄の青年も笑って返す。彼はあまり汗を掻いてはいない。
「ははっ! 相変わらず大人気だな! 今日はもう助っ人は無いんだろ? 気を付けて帰れよ」
「サンキュ! じゃあな!」
二人は拳を軽くコツンと合わせると、ニカッと笑って別れた。
最近、三年生が大学受験のために部活を引退し始めた。残された二年生たちはその穴を埋めるため、日々の練習に精を出す。
しかし三年生の抜けた穴は往々に大きく、各部活動では練習の質が大幅に下がっていた。
(バレー部とバスケ部はもう大丈夫そうだ。今月呼ばれるにしてもあと一回くらいかな。明日は陸上部とサッカー部、珍しく野球部からも声掛けられたんだよなぁ…)
その穴を埋めるべく、このヒロ男と呼ばれた男は助っ人に引っ張り凧になっていた。
(先輩たちすげぇ強かったからなぁ。焦ってんだろうなぁ。ま、このヒロ男こと凰我様が揉んでやりますかね!)
ヒロ男というのは愛称だ。本名は『日色 凰我』。俗にいうキラキラネームというやつだが、本人はその名をとても気に入っていた。
両親が「誰も見たことの無いところまで大きな翼で羽ばたいて欲しい」という願いを込めて付けてくれた名だ。その名に恥じない生き方をしようと心に決めている。
一方でヒロ男という愛称も気に入っている。これはフルネームを捩っているのもあるが、「ヒーローみたいな男。略してヒロ男」という成り立ちでもある。
ヒロ男は小さい頃からヒーローに憧れていた。ヒーローになるために様々なスポーツを嗜み、我流でトレーニングもしたりした。そしたら中学に上がる頃にはとんでもない身体能力を手に入れていた。
各スポーツで全国区レベルの能力を発揮し、その頃からいろいろな部活動からスカウトが殺到した。
しかしヒロ男はその全てを断わり、代わりに全ての部活の助っ人をすると言い出した。それ以後、ヒロ男は声を掛けられる度にその部活動に顔を出し、そのとんでもない身体能力で全部員の練習相手を務めてきたのだ。
もちろん幾度となく顧問に「一つの部に集中したらどうだ?」と言われ続けた。しかしその時のヒロ男の返答は決まって、「俺はスポーツマンじゃなくてヒーローになりたいんです」だ。
「あ! ばっちゃん危ないぞ! そんなに荷物詰め込んで、はみ出しまくってるじゃねぇの」
「あらあらほんと、乳母車が重いと思ったわ、うふふふ」
校外へ出たヒロ男は荷物パンパンの乳母車を押すおばあさんに声を掛ける。
「うふふじゃねぇよ…。ほら、どこまで行くんだ? ばっちゃんごと運んでやるよ!」
「あらあらほんと? じゃあ運んで貰おうかしら、うふふふ」
「よしきた! よっと…」
180cmという大柄の体躯を生かし、片手でひょいっとおばあさんを抱え、もう片方の手で乳母車のハンドルを握る。
「行くぜばっちゃん!!!」
「あらあらうふふふふ」
ヒロ男は凄まじい速さで走り出した。
この様に、ヒロ男は困ってそうな人に必ず手を差し伸べる。それは彼がヒーローになるための修行でもあるのだ。
「で、遅刻したと」
「はっはっはっ! 悪いコーセー! あのばっちゃんがあまりにぽやぽやしてたもんだから放っておけなくてよ!」
大笑いするヒロ男と一緒に街の通りを歩いているのはコーセー。ヒロ男の幼馴染である。
本名『夜久 輝星』。身長171cmくらいなのに何故か小柄に見える不思議な可愛い系男子だ。高校では「やっ君」と呼ばれ、クラスメイトに男女問わず可愛がられている。
「まぁおーがのそういうところは昔からだから良いんだけどさ、いい加減連絡するのを覚えた方がいいと思うよ? みんな俺みたいに許してくれるわけじゃないんだからさ」
「あぁ! 今回は両手塞がってたから無理だったが、次はちゃんと連絡するよ!」
二人は放課後に街で買い物をする約束をしていたのだ。コーセーが予めヒロ男の助っ人スケジュールを聞き出し、十分に余裕を持って待ち合わせ時間を決めたというのにその時間にヒロ男は現れなかった。スマホで連絡を入れてもガン無視だ。その少し後に「両手が塞がっていたから対応できなかった」と返答があり、やれやれとコーセーは肩を竦めた。
「で、今日は何買いに行くんだ?」
「数学の参考書。俺だけなら教科書だけで理解できるんだけど、人に教えるってなると少し勝手が違くてさ。ね、おーが?」
「ん…、帰りに何か奢ってやるよ。何でも好きなの言ってくれ」
「おー! 太っ腹だねおーが。じゃあ帰りまでに吟味しておくよ」
ヒロ男はいつもコーセーに勉強を見て貰っているのだ。小学生の頃からずっと。
小学生の頃はその優しい雰囲気のせいか、コーセーはよく嫌がらせをされていた。しかしすぐさまヒロ男が出張って来てコーセーを助けていた。
二人は家が隣同士の仲だ。どちらかが困っていれば必ずどちらかが助ける。そうやって互いに助け合って成長してきた。紛うことなき親友同士だ。
コーセーが楽しそうにスマホで近辺の料理店を検索し始め、ヒロ男が苦笑いしながらそれを眺める。いつも通りの平和な時間だ。
しかしその平和な時間は唐突に終わりを告げる。
ぶわぁぁぁぁぁぁ………
「「!???」」
二人が同時に身構える。
何か、嫌な気配が周囲に拡散したのだ。
周りを見ると、通りを歩いていた人々も足を止め、キョロキョロと周りを見渡している。
「な、なにかな…」
「わからん…、でも…、普通じゃない」
コーセーの言葉にヒロ男が返し、更に慎重に周囲の確認をするヒロ男。
その時。
「きゃああああああ!!!」
通りの向こうから女性の悲鳴が上がり、人々がざわざわとそちらに視線を向ける。
そこにはメキメキと身体を巨大化させていく男性の姿があった。
「逃げろおおおお!!!」「化け物おおおお!!!」「助けてえええ!!!」
周囲の人々は悲鳴を上げながら散っていく。しかし半分ほどの人は金縛りにあったように硬直し、数名の人はスマホを構えて動画撮影を始めている。
その間も巨大化する男性は頭を抱え、皮膚は茶色に変色し、手が異常に発達し出した。
「ぐがああああああああああ!!!!!!」
男性、いや、化け物は咆哮を上げ、腕を地面に叩きつけた。
「があああああ!!!」
ドガアアアン!
通りに敷き詰められていたタイルが粉々に砕け、破片が弾丸となって周囲に襲い掛かる。
ドガガガガガガガ
「ぎゃあ!!!」「きゃああああ!!!」「ぐああ!!!」
幸い破片は小さく、当たっても致命傷にはならずに済んだ。しかし突然のダメージに化け物の近くにいた人々は完全にパニックになっていた。




