第1話 英雄志望(ルミナ☆ストライク)
深夜のとある街の上空。暗雲が渦巻き、稲妻が幾度も走る。
ゴロゴロゴロゴロ…
カッ!
空が一瞬光る。
パリ…と、"空が割れた"。
バリィィィィィ………ン
割れた空から二つの影が飛び出し、次の瞬間、空は何事も無かったかのように元通りになった。
飛び出した二つの影は激しく飛行しながら互いを光で攻撃し合う。
「ルミナ☆シュート!!!」
「獄雷砲!!!」
ドガアアアアアン!
攻撃し合いながら言葉を投げ合う。
「往生際が悪いのよゼノウィータ! いい加減諦めなさい!」
「バカを言え! 貴様さえ倒せばいくらでも立て直せるわ! この異世界で散るが良い!」
すると影の一つの身体が大きく膨張し、ズバアアアアアと夥しい数の触手を生やし、もう一つの影を捕えようと迫る。
「ひっ!!! 気色悪い…っ! 近付かないで!」
逃げる影が触手を躱しながら光を身体に集中させる。
「ルミナ☆バースト!!!」
光が集中した身体からドガアアアアアア!と光の奔流を放出し、周囲の触手を消滅させる。
「ぬるいわ!!!」
「!!!」
しかしすべてを消滅させることは叶わず影は触手に捕らえられてしまう。
「きゃああああああ!!!」
身体中に触手が巻き付き、ギリギリと締め付けられる。
「くははははははは!!! 終わりだティオリア! 止めを刺してくれる!」
「ぐ…うぅ…!」
幾重にも重なり鋭い槍のようになった触手が、拘束された影を貫かんと迫る。
(…くっ! このままやられるわけにはいかない! せめて道連れに…!)
締め付けられる痛みと悔しさで頬を伝った涙を振り払い、"最後"の魔法を唱える。
「ルミナ☆ノヴァ!!!」
カッ!と、先ほどのルミナ☆バーストの比ではないエネルギーが身体から放出される。
そのエネルギーは巻き付く触手や、それを操る大きな影をも飲み込んでいく。
「!!!??? そんなバカなああああ!!!!!!」
二つの影を飲み込んだそのエネルギーは光となり、街の夜空の闇に消えていった。
「ヒロ男、助かったぜ。また練習相手よろしくな」
とある高校の体育館。汗だくの青年が爽やかに笑う。
「おう! いつでも声掛けてくれ! 他の助っ人があってもすぐ片付けてくるからよ!」
ヒロ男と呼ばれた大柄の青年も笑って返す。彼はあまり汗を掻いてはいない。
「ははっ! 相変わらず大人気だな! 今日はもう助っ人は無いんだろ? 気を付けて帰れよ」
「サンキュ! じゃあな!」
二人は拳を軽くコツンと合わせると、ニカッと笑って別れた。
最近、三年生が大学受験のために部活を引退し始めた。残された二年生たちはその穴を埋めるため、日々の練習に精を出す。
しかし三年生の抜けた穴は往々に大きく、各部活動では練習の質が大幅に下がっていた。
(バレー部とバスケ部はもう大丈夫そうだ。今月呼ばれるにしてもあと一回くらいかな。明日は陸上部とサッカー部、珍しく野球部からも声掛けられたんだよなぁ…)
その穴を埋めるべく、このヒロ男と呼ばれた男は助っ人に引っ張り凧になっていた。
(先輩たちすげぇ強かったからなぁ。焦ってんだろうなぁ。ま、このヒロ男こと凰我様が揉んでやりますかね!)
ヒロ男というのは愛称だ。本名は『日色 凰我』。俗にいうキラキラネームというやつだが、本人はその名をとても気に入っていた。
両親が「誰も見たことの無いところまで大きな翼で羽ばたいて欲しい」という願いを込めて付けてくれた名だ。その名に恥じない生き方をしようと心に決めている。
一方でヒロ男という愛称も気に入っている。これはフルネームを捩っているのもあるが、「ヒーローみたいな男。略してヒロ男」という成り立ちでもある。
ヒロ男は小さい頃からヒーローに憧れていた。ヒーローになるために様々なスポーツを嗜み、我流でトレーニングもしたりした。そしたら中学に上がる頃にはとんでもない身体能力を手に入れていた。
各スポーツで全国区レベルの能力を発揮し、その頃からいろいろな部活動からスカウトが殺到した。
しかしヒロ男はその全てを断わり、代わりに全ての部活の助っ人をすると言い出した。それ以後、ヒロ男は声を掛けられる度にその部活動に顔を出し、そのとんでもない身体能力で全部員の練習相手を務めてきたのだ。
もちろん幾度となく顧問に「一つの部に集中したらどうだ?」と言われ続けた。しかしその時のヒロ男の返答は決まって、「俺はスポーツマンじゃなくてヒーローになりたいんです」だ。
「あ! ばっちゃん危ないぞ! そんなに荷物詰め込んで、はみ出しまくってるじゃねぇの」
「あらあらほんと、乳母車が重いと思ったわ、うふふふ」
校外へ出たヒロ男は荷物パンパンの乳母車を押すおばあさんに声を掛ける。
「うふふじゃねぇよ…。ほら、どこまで行くんだ? ばっちゃんごと運んでやるよ!」
「あらあらほんと? じゃあ運んで貰おうかしら、うふふふ」
「よしきた! よっと…」
180cmという大柄の体躯を生かし、片手でひょいっとおばあさんを抱え、もう片方の手で乳母車のハンドルを握る。
「行くぜばっちゃん!!!」
「あらあらうふふふふ」
ヒロ男は凄まじい速さで走り出した。
この様に、ヒロ男は困ってそうな人に必ず手を差し伸べる。それは彼がヒーローになるための修行でもあるのだ。
「で、遅刻したと」
「はっはっはっ! 悪いコーセー! あのばっちゃんがあまりにぽやぽやしてたもんだから放っておけなくてよ!」
大笑いするヒロ男と一緒に街の通りを歩いているのはコーセー。ヒロ男の幼馴染である。
本名『夜久 輝星』。身長171cmくらいなのに何故か小柄に見える不思議な可愛い系男子だ。高校では「やっ君」と呼ばれ、クラスメイトに男女問わず可愛がられている。
「まぁおーがのそういうところは昔からだから良いんだけどさ、いい加減連絡するのを覚えた方がいいと思うよ? みんな俺みたいに許してくれるわけじゃないんだからさ」
「あぁ! 今回は両手塞がってたから無理だったが、次はちゃんと連絡するよ!」
二人は放課後に街で買い物をする約束をしていたのだ。コーセーが予めヒロ男の助っ人スケジュールを聞き出し、十分に余裕を持って待ち合わせ時間を決めたというのにその時間にヒロ男は現れなかった。スマホで連絡を入れてもガン無視だ。その少し後に「両手が塞がっていたから対応できなかった」と返答があり、やれやれとコーセーは肩を竦めた。
「で、今日は何買いに行くんだ?」
「数学の参考書。俺だけなら教科書だけで理解できるんだけど、人に教えるってなると少し勝手が違くてさ。ね、おーが?」
「ん…、帰りに何か奢ってやるよ。何でも好きなの言ってくれ」
「おー! 太っ腹だねおーが。じゃあ帰りまでに吟味しておくよ」
ヒロ男はいつもコーセーに勉強を見て貰っているのだ。小学生の頃からずっと。
小学生の頃はその優しい雰囲気のせいか、コーセーはよく嫌がらせをされていた。しかしすぐさまヒロ男が出張って来てコーセーを助けていた。
二人は家が隣同士の仲だ。どちらかが困っていれば必ずどちらかが助ける。そうやって互いに助け合って成長してきた。紛うことなき親友同士だ。
コーセーが楽しそうにスマホで近辺の料理店を検索し始め、ヒロ男が苦笑いしながらそれを眺める。いつも通りの平和な時間だ。
しかしその平和な時間は唐突に終わりを告げる。
ぶわぁぁぁぁぁぁ………
「「!???」」
二人が同時に身構える。
何か、嫌な気配が周囲に拡散したのだ。
周りを見ると、通りを歩いていた人々も足を止め、キョロキョロと周りを見渡している。
「な、なにかな…」
「わからん…、でも…、普通じゃない」
コーセーの言葉にヒロ男が返し、更に慎重に周囲の確認をするヒロ男。
その時。
「きゃああああああ!!!」
通りの向こうから女性の悲鳴が上がり、人々がざわざわとそちらに視線を向ける。
そこにはメキメキと身体を巨大化させていく男性の姿があった。
「逃げろおおおお!!!」「化け物おおおお!!!」「助けてえええ!!!」
周囲の人々は悲鳴を上げながら散っていく。しかし半分ほどの人は金縛りにあったように硬直し、数名の人はスマホを構えて動画撮影を始めている。
その間も巨大化する男性は頭を抱え、皮膚は茶色に変色し、手が異常に発達し出した。
「ぐがああああああああああ!!!!!!」
男性、いや、化け物は咆哮を上げ、腕を地面に叩きつけた。
「があああああ!!!」
ドガアアアン!
通りに敷き詰められていたタイルが粉々に砕け、破片が弾丸となって周囲に襲い掛かる。
ドガガガガガガガ
「ぎゃあ!!!」「きゃああああ!!!」「ぐああ!!!」
幸い破片は小さく、当たっても致命傷にはならずに済んだ。しかし突然のダメージに化け物の近くにいた人々は完全にパニックになっていた。
「逃げろおお!!!」「どけ!!!」「助けてえええ!!!」
化け物は頭を抱えてブンブン身体を振り、「ぐがががが」と呻き声を上げている。
そんな常軌を逸した光景を目の当たりにし、コーセーは完全に思考停止に陥っていた。
「コーセー!!!」
ヒロ男の声にコーセーは「はっ!」と正気に戻った。
そしてヒロ男はコーセーの目をじ…と見つめ、一言発した。
「逃げろ」
「……っ!」
その目を見て、コーセーはヒロ男の覚悟を全て感じ取ってしまった。
―――死ぬかもしれない、でも逃げるわけにはいかない―――
「ぐ…!」と歯を食いしばり、何の役にも立てない自分を呪いながら、ヒロ男に言葉を投げる。
「死ぬのは許さない! 絶対に帰って来いよ! 凰我!!!」
「あぁ! 帰ってしっかり奢ってやる! 食いたいもん決めて待ってろ輝星!!!」
そしてコーセーは周りの人々と共にその場を離れ、ヒロ男は化け物へ向かっていった。
「ががが、ぐがあああ」
化け物は依然頭を抱えたまま唸っている。
そして未だにスマホを向けて撮影している馬鹿どもにヒロ男が声を張り上げる。
「この馬鹿野郎ども!!! 動画撮ってねぇでさっさと逃げろ!!!」
しかしその声で移動を開始したのは一人。それ以外は全く動こうとしない。
(くそ…! あれはもう無理だ…! 俺のやるべきは警察が来るまでこいつを足止めすることだ!)
苦虫を噛み潰したような顔で馬鹿どものことを切り捨て、被害の拡大を最小限に抑えることに全神経を集中させる。
「があああああああ!!!!!」
ドガアアアン!
再び化け物が地面に腕を叩きつける。
割れたタイルがドガガガガガと弾丸のように周囲に飛び散っていく。
馬鹿どもはさっと身を屈め、遮蔽物に身を隠し難を逃れ、ヒロ男は人間離れした動体視力とボディコントロールで破片を全て躱す。
「がう、がああうううう!!!」
突然化け物が周囲を確認し出した。
(…! 移動する気か! させん!!!)
ヒロ男は咄嗟に足元の石を投擲し、化け物の顔面にダメージを与える。
ビュビュン
バシッ バシンッ
「が!? がう!!!」
化け物の注意がヒロ男に向いた。
(よし! おれに向かって来い! 追い駆けっ子だぜ!)
ヒロ男はぐっと重心を下げ、化け物の突進に備える。
「がああああああ!!!」
ドン!
化け物が凄まじい速さで"射出"される。
(!!!!! ちょっと待て!!!)
急接近する化け物の腕をギリギリで躱し、ゴロゴロと転がるがすぐに立ち上がるヒロ男。しかし顔を上げたヒロ男の目の前に、すでに巨大な腕が迫っていた。
(あ、これ、人間に相手できる奴じゃねぇわ)
迫る腕がぶつかる瞬間、妙に冷静な感想が出てくるヒロ男。
その冷静な思考のまま、一応両腕を胸の前でクロスさせ、防御姿勢は取っておく。
めぎゃああ
ドガアン!
「……がはっ」
巨大な腕にふっ飛ばされたヒロ男は商店の壁に叩きつけられ、全身の痛みで身動きが取れなくなった。
「ひ!!!」「やべぇぞ!!!」「死ぬううう!!!」
ヒロ男がふっ飛ばされた光景を目撃した馬鹿どもがやっと危険を理解し移動を開始した。
しかしその馬鹿どもに化け物の視線が向いた。
(待て…、俺はまだ生きてるぞ…。そっちに行きたきゃ俺に止めが先だろうが…)
また石を投げてやろうと石を拾おうとするが、ヒロ男の手はピクリとも動かない。
(だめか…。わりぃコーセー…、飯…、奢れねぇわ…)
意識が薄れていく。
ゆっくり目を閉じていく。
しかしそこへ突然少女のような声が聞こえてきた。
(まだです! 私の力を貸します! 敵を倒して!)
(…? 誰だ?)
知らない声を疑問に思い、反射的に誰か聞き返すヒロ男。しかし声は焦った様子で捲し立てる。
(あとで自己紹介します! 今は私の力を受け取って! 貴方も! 私も消えてしまう!)
(…よくわからねぇが、あんたの力ならあの化け物を倒せるのか?)
(あんな"雑魚"瞬殺です! 負ける道理が無いわ!)
その言葉に目が少し開く。
(雑魚…、雑魚と来たか。ふふ、良いじゃねぇの。その力、貸して貰おうか)
そう心の中で言った途端、ヒロ男はパアアアアア!と眩い光に包まれる。
その光の中で、さっきまで全身に感じていた痛みが消え去っていくのを感じ、ヒロ男の目の前に一人の少女が姿を現した。
とんでもない美少女だった。その美少女は少しフワッとした衣装に身を包みヒロ男に微笑んでいる。
しかしその姿は薄っすら透けていて、今にも消えてしまいそうなほど儚かった。
(良かった、間に合った。これから私は貴方の中に入ります。力の使い方は中からレクチャーします。一緒に戦いましょう)
少女はそう言うと優しくヒロ男に抱きつき、光の粒子となってヒロ男の中へ消えていった。
その瞬間ヒロ男の身体は更に強烈な光に包まれ、眩しくて何も見えなくなってしまう。
(眩しい!)
(少し我慢です! あぁちなみにここは外とは時間の流れが違うので一息つけますよ! 今のうちに気合を入れておいてください!)
頭の中から声が響く。そしてよくわからないことを言ってくる。
そしてすぐに光は収まり外の景色が見えてくる。
外では化け物が少し重心を落とし始めたタイミングだった。そこから加速し、馬鹿どもを攻撃するつもりらしい。
(させん!)
ヒロ男はダッと地面を蹴り、化け物の顔面を殴ろうとした。
メゴッ
「は!???」
蹴り出そうとした足が地面にめり込んだ。しかし反力を地面に吸収されたはずなのに身体はすごい速さで化け物目掛けて射出された。脳内にクエスチョンマークが大量に現れる。
(えぇい! 今は殴ることだけ考えろ俺! 食らえこのやろう!!!)
そのまま化け物に殴り掛かるヒロ男。
ビュン!
ボゴオオオオン!
「ぐぎゃあああああ!!!」
巨大な化け物が大きく弾き跳び、ゴロゴロ転がっていく。
(ナイスパンチ! さすが男の子ね! "女の子の身体"でもすごい威力!)
頭の中でまた声が響く。しかもさっきより意味不明なことを言っている。
(あ! 気づいてないんですね! 横見て横! 店の窓に貴方の姿が映ってますよ!)
言われるまま横を向く。そこには窓が鏡の様に世界を映しており、そこに立つヒロ男は、
さっきの美少女の姿になっていた。
(…? …??? は!?????)
(あははは! 驚き過ぎ驚き過ぎ!)
頭の中で笑い声が響く。
しかしそんなことは無視して身体を触る。
(きゃあ! ちょっと! 一応私の身体の写身なんだから変な触り方しないで!)
(……すまん)
少し触ってわかった。わかってしまった。"上"があって"下"が無い。ヒロ男は完全に女の子の身体になっていたのだ。
そしてもう一つ気付いてしまった。窓に、馬鹿が一人映り込んでいる。そいつはあろうことか、スマホをヒロ男に向けている。
いったいいつから撮影しているのか。今そこにいるということは逃げなかったということだ。つまり最初から撮っていた。"ヒロ男が女の子に変身するところを"。
(まずいまずいまずいまずいまずいまずい何か言い訳をばばばばば)
「わ…」
「!」
ヒロ男が言葉を発したのを聞き、馬鹿が身構える。キッとスマホを向けてくる。
「私はこの人の身体を借りて降臨しました!!! さ、さぁ覚悟しなさいデカ物!!!」
ビシッと化け物を指差し、精一杯の女性口調で口上を上げた。
(何してるんですか?)
(俺の尊厳が懸かってるんだよおおおお!!!)
「がああああああああ!!!」
((!!!))
ヒロ男がモタモタしていると化け物が勢いよく立ち上がった。元気に咆哮を上げている。
(おい! 全然元気じゃねぇか! 瞬殺できるって話じゃなかったか!?)
(格闘でラベスを倒せるわけないでしょ。魔法を使ってください)
(ラベス!? 魔法!???)
頭の中で会話していると化け物、もといラベスがすごいスピードで突進してきた。
「がああうう!!!」
「よっ」
ひょい
変身しているからか、先ほどは目で追うのがやっとだったラベスの動きがよく見える。そしてラベスのラリアット気味のブローを軽い跳躍で躱し、ラベスの肩に片手を乗せふわぁっと上空へ跳び上がっていく。
(すげぇ身体能力だ。身体の軽さも相まって"綿毛"みたいだな)
(あの…、もう少しマシな例え無かったんですか?)
綿毛と例えたのが少し不満なようだ。しかし今はそれに構っている暇はない。魔法とやらを教えて貰わなければ。
ふわぁっと空中にゆっくりと放物線を描きながら、ヒロ男は頭の中から聞こえる声に尋ねる。
(おい、魔法ってどうやって使うんだ?)
(え!??? 貴方今までどうやって生きてきたんですか!??)
(何の話だ…)
どうやらこの声の主的には魔法は使えて当たり前らしい。
ラベスを視界に入れながらふわっと着地し、走って来るラベスをさっきと同じようにやり過ごし再び上空へ。
(あんたがどこから湧いて出たのか知らんが、少なくとも日本じゃ魔法使える奴なんていねぇ。簡潔にわかり易く魔法の使い方を教えろ)
(…私…なんて世界に来ちゃったの…)
さっき『力の使い方は中からレクチャーします』なんて言っておきながら全く役に立たない声の主。
結局魔法の使い方を聞けず、またふわっと着地。
(面倒だ! 殴り倒してやる!)
ぐっと重心を落とすヒロ男。
(ちょちょちょ! 無茶はダメ! ラベスは魔力で無理やり身体を強化してるの! 魔法じゃないとその鎧を貫けない!)
(うるせぇ! さっき盛大に吹っ飛んでたじゃねぇか! 頭に何発も叩き込んであの首捻じり切ってやらぁ!)
頭の中で喧嘩しているとラベスがまた突進してくる。性懲りもなくラリアット気味の大振りの攻撃をしてきたのでスル…と躱しラベスの懐へ。
「はっ!」
ドガン!
「ごがっ!」
ヒロ男の口から出力される可愛らしい声と共にとんでもなく重い正拳突きがラベスの腹に突き刺さる。
ラベスの身体がくの字に折れ、頭が下がって来る。
「はあああああ!!!」
ドガガガガガガとラベスの顔面にラッシュを叩き込む。ラベスの頭が少しずつ捻じれていく。
(ひえええええ…、何なの貴方、私の写身を使ってるとはいえこの攻撃力はおかしいわよ…)
頭の中の声を無視し、ひたすらにラッシュを叩き込み続けるヒロ男。どんどんラベスの首が捻じれていき、ついに…。
びり…
ラベスの首の皮膚が千切れ、肉が裂け始める。
(よーし! このまま捻じり切ってやる!)
(ダメ! 一旦離れて!)
声を無視し、ラッシュを続けるヒロ男。びりびりと傷口が広がっていく。
(逃げて! 早く!)
(あぁん? もうちょいで倒せそうじゃねぇか。何で逃げな――)
その瞬間、ラベスの傷口からぶわあああああああああと夥しい数の細い触手が溢れ出し、ヒロ男にびゅるびゅると巻き付いていく。
(ひいいいいいい気色悪いいいいいい!!! 早く振りほどいて!!! ラベスに取り込まれちゃう!!!)
(お前!!! 説明が下手すぎねぇか!??)
(言うこと聞かないのが悪いと思います!!!)
びゅるびゅると暴れながらどんどんヒロ男に巻き付いていく細い触手。
ヒロ男は「ふん!」と両腕を広げ、ブチブチと触手を千切り両腕の自由を確保する。しかし足や胴体に巻き付く触手はそのまま残り、ついにヒロ男を引っ張り始めた。
(いやあああ! 感覚が共有されてるから私にも巻き付かれてる感触が伝わってるのよぉぉ! お願いだから早く振りほどいてええ!)
(うるせぇな! 頭の中でぎゃーぎゃー喚くな! すぐ脱出してやるからもう少し我慢しろ!)
するとヒロ男は張力の掛かった触手に手刀を振り下ろす。
スパンッと触手の束が切断され、ヒロ男に巻き付いていた触手がバラバラと振り落とされていく。
離脱ついでにラベスの頭に蹴りを入れ、蹴りの反動でふわっと跳び、距離を取って着地した。
ラベスは捻じれた頭を両手で強引に戻し、傷口では細い触手がびちびち暴れて絡み合い、傷を塞いでいく。
ヒロ男はそれを眺め、頭の中の声に聞きたいことができた。
(……なぁ、あのラベスって奴、"核"みたいなもんがあるんじゃないのか?)
(それを魔法で破壊して倒すんですよ!)
声の返答を聞き、右手を額に当てため息を吐いた。
(普通はな、弱点の情報は最初に共有するんだよ。何が『今までどうやって生きてきたんですか!??』だ!!! 俺よりお前の方が心配だわ!!!)
(ちょっと! どういう意味よ! ちゃんと警告してあげてるでしょ!?)
(物事の表面じゃなくて中身を説明しろって言ってんだよ!!!)
頭の中で喧嘩していると、首で細い触手をびちびちさせながらラベスが走って来る。そしてまたもや大振りのブローを繰り出す。
もはやその攻撃を完全に見切っているヒロ男がひょいっと跳躍しブローを躱し、前回までと同じようにラベスの肩に片手を置きふわぁっと上空へ離脱しようとする。
しかし肩に触れた瞬間、ラベスの首から細い触手がヒロ男の手に殺到しびゅるるると絡み付いていく。
(いやあああああまた気色悪いいいいいい!!!)
(いちいち叫ぶんじゃねぇよ!!!)
ヒロ男は冷静に自由な方の手で手刀を振り下ろし触手を切断し、ラベスの肩を蹴り跳躍。
尚も絡み付こうと触手が伸びてくるが、両手で手刀を繰り出し全て迎撃していく。
(おい! 魔法の使い方教えろ! どうすればいいんだ!?)
(イメージよ! 魔法を使ってる自分をイメージして詠唱するの! そうすれば魔力が応えてくれる!)
(イメージは…まぁいいが…、詠唱ってなんだ!?)
ふわぁっと上昇しながら必死に脳内会議を交わす二人。
(私の場合は『ルミナ☆シュート』とか『ルミナ☆フラッシュ』とか…、"ルミナ☆"が魔法発動の起点になってる!)
(俺は!?)
(私の写身を使ってるならイメージしながら"ルミナ☆なんとか"って繋げれば魔法が使えるはずよ!)
(それ言うの!? 俺が!?)
危機を脱する為とはいえ、ヒーロー志望のヒロ男としてはキラキラヒロイン感溢れるその詠唱はご遠慮したかったが…。
(格闘じゃ倒せないのはよくわかったでしょ!? いいからやれ!!!)
最初の丁寧口調が完全に抜け落ちた声の主がヒロ男に命令する。
ぐしゃっと苦悶の表情を浮かべるヒロ男。
この場を収めたい正義感と男のプライドが真っ向からぶつかり合う。
(あれを逃がせば大勢の人が取り込まれて死ぬわ! この世界には魔法が無いんでしょ!? つまりあれを止められるのは貴方だけなの! そんな"ちっぽけ"なプライドなんて捨てなさい!!!)
(ちっぽけだと!? ふざけるな!!! ヒーローは…! 俺の人生の目標なんだ…!)
(自分のプライドのために人を見殺しにするのがあんたの目指すヒーローなわけ!? 大したヒーロー様ね!!!)
(!!!!!!)
返って来た言葉がドカンとヒロ男の心を殴りつける。
自分のために人を見殺しにする? 違う! そんなものはヒーローではない!
救える命のために全力を尽くす。それがヒロ男の、日色凰我の目指すヒーローだ!
「うああああああああああああ!!!!!!!」
可愛い声で咆哮を上げるヒロ男。
その身体の周囲に光の粒子が現れ、残光を残しながら急速に渦を巻き、ヒロ男に光の粒子が集中する。
「ルううミいいナあああああ☆!!!」
(え!? 力づよ!?)
ヒロ男のあまりに力強い詠唱に声の主が困惑し始める。
しかし光の粒子はその輝きをどんどん増していく。
「ストラあああああああああああイク!!!!!」
ドオオン!とラベスに向かって射出されるヒロ男。右足をラベスに向け一直線に伸ばし、閃光となってラベスを突き破る。
ズガアアン!
「ぐがああああああ!!!?」
ズザアアアアア!と格好良く着地し、ポーズを決めるヒロ男。その背中の向こうでは胴体に大穴を開けたラベスに急激に光が集まり、ドカアアアアン!と爆発四散した。
爆発を背にス…と立ち上がるヒロ男の目からは一筋の涙が零れる。
(さよなら、俺が目指したカッコ良いヒーロー…。人を救うため、俺はオネエ系ヒーローになる…)
(ガワが超可愛い私なんだからオネエ系になれないわよ?)
頭の中で野暮な言葉が聞こえるが、悲しみに暮れるヒロ男にはそれに反応する気力は無かった。




