089●世界線の分岐 ソレイユの思い
ローレンスは百に満たない兵を率い、
ボレリア王が撤退する時間を稼いでいた。
敵の数は、敗走したものを含めた味方全部の、十倍を超えていた。
だが、退くわけにはいかなかった。
文官であるにも関わらず、
ローレンスの剣は一振りで、何人もの敵を薙ぎ倒していく。
その姿は、正に無敵の英雄だった。
しかし、そんなローレンスの力にも限りがあった。
血を流し、息もあがる。
もはやこれまでか、と覚悟を決めたその時だった。
甲高いラッパの音が戦場に響き渡る。
ラベリアの攻撃が止まる。
大軍が、敵兵が引いていくのか?
ローレンスは、剣を握ったまま、信じられない思いでその光景を見つめた。
率いてきた兵を見る。
手傷を負ってはいるが、みな、健在だ。
倒れていたラベリア兵が呻き声をあげている。
生きている?!
あれだけの力で確かに斬った。
それなのに、生きているのか?
王都に戻ったローレンスは、意外な知らせを聞く。
ラベリアが戦いをやめ、平和条約を結びたいと言っているというのだ。
「来客だと?わたしにか?」
「はい、子爵様。ソレイユ様という女性でございます。」
傷の痛みも忘れ、ローレンスは駆け出した。
心臓が高鳴る。
応接室の扉を開けた瞬間、
そこにいたのは・・・あのソレイユだった。
ー世界線、分岐したのね。
ーいいなあ、ソレイユ。オリジナルは、ずっとあっちにいるんじゃないの?
ーオリジナル問題は、解決済み!み~んな、オリジナルだもん。
ーねえ、こっちのソレイユ、あなたどうするのよ?
ーわたし、あっちで彼と暮らすことにするわ。限りある時間だけど、ね。
ーいずれ死がふたりを分かつまで、ってことよね。
ーいずれローレンスは先に逝ってしまうよ・・・。
ーいいのよ。千年の孤独より、交差し寄り添う道を行くの。一緒に過ごす、一日一日が、わたしにとって、永遠の宝物になるから。
ーいいなあ!
ーうらやましい!
ーすてきだよね!
世界線が分岐するかどうか、
それは、その世界に生きる者が、自らの意志で決めることだ。
選んだ道の先に、たとえどんな結末が待っていようとも、
そこで得た記憶は、
その胸に永遠を生きるのだ。




