072⚫️混乱の果て
ハバタキを捕縛しようと公国兵が近づく。
彼らの行く手を、マンジとヤハチが両手を広げて阻んだ。
「待て!だめだ!こいつは俺たちの仲間だ、友だちなんだ!やめてくれ!」
「俺たちがやる!待ってくれ!」
ふたりの叫びに、公国兵が止まる。
「だが、帝王軍の兵士だ。捕まえろとの命令だぞ。」
「わかってる!それはわかってる!でも、こいつのことも、よくわかってるんだ!引け!引いてくれ!」
ハバタキを囲む兵たちが、気迫に圧され後ろに下がる。
波打ち際に、ハバタキとマンジ、ヤハチが残る。
マンジもヤハチもわかっている。
ユニコーンは生き残ることが、その本能の基盤だ。
ツノが増えている。身体も大きくなっている。
もう、子どもではない。
あの体力は、さらに強靭なものになっているに違いない。
ここで誰かを傷つけさせてはならない。
ここでコイツを死なせてはならない。
マンジもヤハチも雷牙を置いた。
実剣も寸鉄も帯びない。
素手のままで近づく。
マンジは思う。
前世でみたドラマなんかでは、闘いになったときに、
激龍波!みたいに技の名を言ってから攻撃してたよな。
実戦ではあり得ない。
わざわざ、ご丁寧に相手に何をするかを知らせるなんて。
同じようにドラマティックに、
ここでうまく説得できるなんて、ないだろうな・・・。
だからって、力でねじ伏せたら、こいつの世界観を肯定することになる。
力の強いものだけが、正しいなんて、俺は嫌なんだ。
ハバタキは混乱している。
どこかでマンジとヤハチを懐かしむ心と、
生き残るという本能がぶつかり合っていた。
心の奥で誰かを呼びたかったが、声にならなかった。
この混乱を断つ方法は、力の発散しか残されていない。
理性は失われた。
互いに無言のまま、それは始まった。
ハバタキがパンチを放つ。
風を切る音さえ置き去りにする、ヒトではない速度と力だった。
マンジはギリギリで避ける。
ヤハチが後ろからハバタキを抱きしめる。
ハバタキは身体を前に折り、ヤハチを投げ飛ばす。
ヤハチは空中で回転し、着地するが勢いは止まらず、前受身で凌ぐ。
ハバタキの容赦ない攻撃は続く。
目を狙う、牙をむき噛みついてくる。
蹴りが来る。爪も凶器だ。
マンジもヤハチも防御に徹する。
攻撃しない。
ハバタキの動きをかろうじて読みながら、相手が消耗するのを待つ。
我慢比べだ。
砂を巻き上げながら、なおも闘いが繰り広げられる。
公国兵が耐えきれず、ハバタキを静雷で狙う。
いかに歴戦の勇者であろうと、
例えヴァルターであったとしても、その一撃を受ければ動けなくなる。
・・・だが、その行為をミトとツキカゼが制する。
あのふたりが、任せてくれと言っているのだ。
最悪の事態は避けなければならない。
だが、そうなるまで、任せてみよう、と。
終わることのない攻防。
一方的な攻撃と、一方的な防御。
矛と盾の闘いは、いつも矛盾に満ちている。
ヤハチ、お前がいてくれてよかった。ひとりでは、ムリだよな。
マンジ、さすがだな。俺ひとりでは、捌ききれん。ユニコーン、強いな。
心の中で呟きながら、永遠の時間を生き延びる。
ハバタキの混乱は、力を振るうことを止めない。
躱されても、防がれても、生き残る、その一念で動く身体は止まらない。
どのくらい時間が経ったのだろう。
どのぐらいの力が振るわれたのだろう。
「攻撃は最大の防御」と言われる。
しかし、体力の消耗は著しい。
無限の攻撃は不可能だ。ハバタキの息があがる。
だが、マンジもヤハチも相当な疲労を感じている。
ハバタキは思う。
なぜ、このふたりは攻めてこないのだ?
なぜ、守ってばかりなのだ?
この体術をもってすれば、
ふたりがかりであれば、反撃の機会はあるのではないか。
その瞬間、ハバタキの脳裏に浮かぶものがある。
「強い者が生き残るのではなく、みんなで生き延びる。」
どこで聴いたのだろうか?
あれはどこだったのだろうか?
オレはだれなんだ?
オレの主は・・・自分?。
初めてハバタキの動きが止まる。荒い息をつく。
それは疲れによるものなのか、それとも・・・。
マンジが声をかける。
「ユニコーン。俺がわかるか?」
ヤハチが言う。
「ユニコーン。俺たちと一緒に来ないか?」
ああ。そうだ。そうだった。あの時も、そう言ってくれた。
マンジもヤハチも、ただの一度だって、
何かの誰かの命を奪うことなんか、なかったよな。
捕虜になったら、皆殺し?
このふたりが、そんなことするはずがない・・・。
ハバタキのツノが消えていく。
元からあった一本までも。
膝をついた彼の身体を、マンジとヤハチがそっと抱きしめる。
彼らの温もりが、ハバタキの混乱した心に、安堵をもたらした。
もう、陽が沈もうとしていた。




