051●前世の記憶 & 052●わたしたちの心にかかっているもの
051●前世の記憶
ああ、NATTO2000。
もう一度、あのくだらん反応を見たかったよな。
人型変形、随分時間かかったよな。何もかもが懐かしい。
「マンジ、何を物思いにふけってるんだ?!いくぞ!ユニコーンも準備できてるぞ!」
ヤハチの声で、俺は現実に引き戻された。
そうだな。俺は今、マンジだ。 転生して、今はヤイヅのマンジ。
さて、今日はどんな冒険が待っているかな?
052●わたしたちの心にかかっているもの
講義室に、秋の午後の光が差し込んでいた。
窓の外では、銀杏並木がゆっくりと色を変え始めている。
学生たちのまばらな話し声が響く中、
さやかはノートの端に講義のタイトルを書き込んだ。
「思想と争い」
壇上に立った教授は、黒板に大きくその言葉を記し、静かに口を開いた。
「私たちは、哲学や宗教が人々の心を高め、世界を平和に導くと考えがちです。しかし、歴史を振り返れば、その美しい理想の陰で、多くの血が流されてきた事実を無視することはできません。」
さやかの手が止まった。
いつも聞いている、教科書的な話とは少し違う。
教授は穏やかな口調で、続けて語り始めた。
「ある思想が人々を救済へ導く一方、別の思想が対立の炎を燃え上がらせてきた。その最も大きな原因の一つは、『排他性』です。」
教授は、中世の宗教戦争や近代のイデオロギー対立を例に挙げた。
「特定の神や教義のみが唯一絶対の真理であると主張する宗教は、異なる信仰を持つ人々を『異端』として排除する口実となりました。十字軍や、プロテスタントとカトリックの戦いは、まさにその典型です。そして、これは宗教に限った話ではありません。20世紀のファシズムや共産主義も、特定の民族や階級の優位性を説き、対立する思想を持つ人々を敵と見なすことで、大規模な戦争や弾圧を正当化したのです。」
さやかは、背筋が寒くなるのを感じた。
平和を願うはずの思想が、なぜここまで人を傷つけるのだろう。
「しかし、その一方で、争いを直接もたらすことがなかった思想も確かに存在します。これらの思想は、他者との対立を煽るのではなく、個人の内面や普遍的な調和を追求しました。」
教授の声が、少し温かみを帯びた。
「古代中国の墨家は『兼愛』と『非攻』を明確に説き、戦争を止めるために奔走しました。また、原始仏教は、外部の神への信仰ではなく、個人の心の苦しみの原因を突き止め、非暴力と慈悲の実践によって悟りを目指すものでした。それは、自らの内なる平和を築くことで、世界の平和に貢献するという、静かで力強い思想だったのです。」
教授の言葉に、さやかは深く頷いた。
争いを生まない思想も、たしかに存在したのだ。
「つまり、思想そのものに善悪があるわけではない。同じ教えでも、排他的に解釈されたり、権力者の道具として利用されたりすれば、争いの原因となり得るのです。」
教授は、最後にゆっくりと講義室を見渡した。
「思想とは、羅針盤のようなものです。進むべき道を示してくれますが、その針をどの方向に合わせるかは、私たち一人ひとりの手に委ねられています。世界に平和をもたらすか、あるいは争いを引き起こすか。それは、思想の教えそのものだけでなく、それを信じ、実践する私たちの心にかかっているのです。」
講義が終わり、学生たちが席を立つ。
さやかは、ノートに書きつけた最後の言葉をじっと見つめていた。
「私たちの心にかかっている」
さやかは、その言葉を胸に、静かに講義室を出た。
外の銀杏並木は、もうすっかり黄金色に輝いていた。




