021●‘ゼロ’の焦点
「久しぶりね、‘ゼロ’。それとも小室 零さんとお呼びしたほうがいいかしら?」
執務室の扉が音もなく開いた。
そこに立っていたのは、
あの日のままの、時間が止まったかのようなルシファー。
わたしは息を呑んだ。脳裏には、あの湿気たジャングルでの光景が鮮明に蘇る。
そんなはずはない。驚きを隠すわたしに、彼女が1枚のペーパーを差し出してくる。
「久しぶりだな、ルシファー。なんだこれは?闘血鬼?4グループのリストなのか。ふん、危ない匂いのする名前ばかりだな。不法入国者なら、入管に行ってくれ。」
「相変わらず無愛想。でも、国家安全保障に関することだからね。」
ルシファーの話の内容は、到底信じられないことばかりだ。
トウケツキ、古代からひっそり命脈を保ってきた戦闘民族の出現、
それも我が国の領土内に!
「あなたの言うとおりなら、警察や公安、軍事武装した部隊が役割を果たすべき事案だ。だが、わたしのところに来たのは、なつかしい思い出を語るためではなかろう。内密に処理したいのだな。」
「‘ゼロ’、察しがいいね。こういう推測ができるなんて、あなたも苦労してきたのね。」
「どう考えるかは、あなたの勝手だ。この件の焦点課題は、このトウケツキの身柄をどう確保するかだな。」
アキラたちに連絡することにした。
ルシファーはお土産だと言って、サンドイッチを置いて行った。
・・・口にしてみると、あのジャングルでもてなされた時と、同じ味だった。
美味い。
だが、記憶の味は、いつも少し苦い。




