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法具補修師は王子殿下に求婚される  作者: 葵月さとい
第三章「法具補修師は生誕祭に参加する」
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⑥闇属性の降霊法具

ブクマくださった方、有難うございます!


今回、ちょっと短いです。

「間違いない。あの男だ。ヴェーテのそばにいたのは……!」


 険しく眉根を寄せ、ディントンが塔の上を()めつけている。


「闇の霊光(オーラ)が視える……」


 彼は呻く。

 その瞳は、命あるものが放つオーラを視覚することが出来た。


(わたしには"オーラ"は視えないけど、あの男の人が"ただ者"じゃないってことだけは分かる!)


 同時にラオフィーネも感じていた。

 塔の先端で、自分たちを見下ろすようにして立つ男の異様(いよう)さを……。

 離れているから顔ははっきり見えない。

 黒くて長い外套(がいとう)で全身をすっぽりと(おお)っている。

 ……なんせ階段もなにもない塔の上に突っ立ているのだ。

 さすがに地上にいる者達も気付いて、騒ぎはじめる。

 王城の見回りをしている騎士や、法具を守るために塔に配置された騎士達が次々と集まってくる。

 誰もがどうやってあんな足場の悪い塔の上に登ったのか……と不思議がると同時に、自死するのではと慌てて男に向かって大声で呼びかけている。


(自死などしない! あんな場所で平気で立っていられるのは、それを可能にする"力"を持ってるからだよ!)


「ディントンさん、わたしの法具、返してください!」

「あっ……うん!」


 ラオフィーネの腕輪が戻ってくる。

 定位置の左手首に嵌めると、精霊達を()ぶ。


「イーフ! ダイン!」


 竜鳥(ドラゴン)の姿のまま、ラオフィーネの元へやってくる二つの精霊。


"――主 これからどうする"

"――さあ我に 命令を"


「とにかくっ、怪しい動きをしたら全力で引き()り落とすよ! 生誕祭の法具に指一本触れさせちゃダメだからね!」


 ラオフィーネの意思は契約した精霊にとっては絶対だ。

 人間の善悪など精霊達には関係ない。

 ただ法具に憑依させられ、それを扱う人間の意思に従うのみ。

 イーフとダインは、塔に向かってふたたび羽ばたく。

 強い風圧で男の外套が大きく(めく)れ上げる。

 見えたのは細長い身体。

 いや、それだけじゃない。

 そこに()った――法具が――。


「あれって――!!」

「気を付けてラオフィーネ嬢! 禍々しいオーラがどんどん広がっていってる!」


 ディントンが警告を発する。

 同時に、ラオフィーネの耳元で「ガチャリ」と大きな金属音がした。


「え……」


 ぶわりと黒い煙のような(もや)が目の前に膨らんでいく。靄はすぐに収束しながら、人のカタチに変化する。


「うそ……キズナ!?」


 呆然として見つめるのは、人のカタチをしているが、人ならざる存在……。

 そう……ラオフィーネの首から離れない鎖の法具に()まう精霊。


"――あの法具は オレと限りなく同じだ"


「キズナ……キズナ、久しぶりだねっ!」


 サザナミを助けたとき以来だ。

 どんなにラオフィーネが呼びかけても一度もキズナは姿を見せてくれなかった。

 なのに今になって突然、ラオフィーネの前に顕現(けんげん)した。

 それがどういう理由であっても、ラオフィーネは嬉しく思う。


"にやにやしてる場合じゃねえ あの法具を ちゃんと見ろ"


「うん。ちゃんと見たよキズナ。……キズナと同じ、鎖の形の【降霊法具】で、属性は【闇】。しかも……鎖の長さは、三重にして首にかけてもひきずりそうなくらい長い……」


"ああ そしてその輪のひとつひとつに 世界をあらわす紋様が刻まれている"


「キズナと同じ……だね」


"同じだ だから――どんな願いでも叶えられる"


 同じ属性。

 同じ紋様。

 だから(もたら)す効果も同等。

 けれど、違うところもある。


"あの法具に()まう精霊は ひとつじゃなさそうだぜ"


「……そんなことがっ!?」


 ラオフィーネはもう一度、塔のうえに佇む男を見る。

 さっきよりも明瞭に姿をとらえることができた。

 若くはない。けれど壮年にも見えない。

 そして……赤銅色の肌。それに漆黒の髪……。

 ラオフィーネと同じく異国の血が混じった人種か。

 法具発祥の大陸人の特徴でもある。


(闇の属性の法具なんて、そう簡単に手に入れられるものじゃない……)


 まして降霊法具を扱える者なら、ラオフィーネの父のように、補修師のあいだで名が知れ渡っているはずだ。なのにラオフィーネはこの男のことを知らない。


(一体、何者……)


 男のいる場所のまわりを、威嚇するようにイーフとダインが旋回している。


"ラオフィーネ これは好機だ"


「キズナ?」


"あの男に オレを破壊してもらえ"


「――!!」


"あの男がオレの破壊を願えば おまえはオレから解放される"


「しないっ! 絶対に嫌!!」


"嫌がるな アレなら オレを壊せるぞ そうすればオマエは死なずにすむ"


「そんなことしたら、キズナとは永遠に会えなくなるじゃないっ!」


"それでいいだろ オレたちは人間と違う 死ぬわけじゃない"


「そういう問題じゃないし!」


 事も無げにキズナは言うが、ラオフィーネは違う。

 第一、呪われた法具といわれていても、法具は法具だ。

 壊すなんて考えられない。


(それに、大切だから……)


 ラオフィーネにとってキズナは特別な存在だ。

 もしもキズナがいなかったら、サザナミも自分も、とっくに死んでいたかもしれない。

 だから出会えて良かったと心から思っている。

 だからキズナを壊そうとする者がいるなら、全力で守りたい。


"頑固なやつだな ならオレが直接 アレに、"


「やめてっ――!」


 ラオフィーネが叫ぶ。

 その肩に、とん……と触れる手がある。


「そうだ、やめろキズナ」

「サ……サザナミ!?」


 安心させるように、サザナミの大きな手がラオフィーネの肩を包んでいる。

 いつの間に、と驚くが、サザナミの後ろにはアウグストと大勢の騎士達がいる。怪しい塔の上の男を捕らえにきたのだろう。


「キズナ……安心しろ。おまえを壊さずとも、俺が必ずラオフィーネの首からおまえを引き離してやる」


"ふん 猶予はないとわかっているか"


「ああ。大丈夫だ。約束する」

「ちょっ……サザナミも。わたしのことなら放っておいても」

「そういうわけにはいかない」


 きっぱりとサザナミは言う。


「ラオフィーネ、生誕祭が終わったら聞いてほしいことがある」

「え……?」

「とにかくキズナ。これ以上、哀しませるな。俺だっておまえが壊れるところを見たくはない」


"…………"


 無言のままサザナミと見つめ合ったあと、キズナは姿を消した。

 

(キズナ……)


 ラオフィーネが自分の首元に触れる。

 久しぶりに会ったキズナは、イーフとダインと同じく、自分のことを大切に思ってくれていた。

 それが分かっただけでとても嬉しい。


(また、(こえ)をきかせてね。キズナ……)


「殿下、攻撃の準備が整いました――」


 アウグストが率いる騎士達は、弓を手にしていた。




お読みいただき、有難うございます!

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