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鏡の中  作者: 霞合 りの
第四章
35/154

35 アンソニーとの再会

リアンと再び踊るのは、一度目よりも楽しかった。


大満足で壁際に向かうと、そこには見知った人物がいた。


「ソフィア嬢」


リアンに似た精悍な顔つきの青年が笑顔になれば、パッとその場は華やぐようで、周辺の女性たちは色めき立った。


う。急に胃が痛い。


「まぁ、アンソニー殿下」

「遅ればせながら参加いたしました。本日はこちらでお会いできて光栄です」


アンソニーが私の手を取り、軽く口付けをすると、周囲の反応は急に緊張を帯び始めた。それはそうだろう。王太子が私の名を呼び、正式に扱い、あまつさえ親愛の情を示したのだから。


「わたくしこそ光栄この上ないですわ、殿下。本日はどうやって言い訳なさっていらしたの? さほど大きな夜会ではありませんのに」

「何をおっしゃいますか。ソフィア様がデビューをなさると聞いて、駆けつけた次第なのですよ。王宮の方でデビューしていただくのが本筋ですのに、ひどいですね」


すでに笑顔の応酬が激しすぎて、頬が引きつりそうだ。


「嫌ですわ、殿下。わたくし、ノアの代わりとしてやってきただけですのよ。お上手ですこと」


私が言うと、アンソニーは優雅に笑った。


「ソフィア様。私と踊って頂けますか」

リアンと似ているこの笑顔に私が勝てるはずがない。そう、そしてニコラスに似ているこの笑顔に。

「ええ、喜んで」


差し出された手をとれば、そのままフロアに連れて行かれる。


曲の途中から、静かにアンソニーが私をリードした。踊り出しは上々だ。


「ソフィア様、今日はお会いできて本当に嬉しいです。ドレスがとてもお似合いで、お美しい。あなたを射止める方が羨ましいです」

「何をおっしゃいますの? 社交辞令はもうたくさんですわ。本当にみんな、面倒な人たちばかりだったら」


私が言うと、アンソニーはおかしそうに肩を震わせた。


「あなたらしいですね」

「らしかろうと、らしくなかろうと、わたくしはわたくしです。どうにもなりませんわ」


そういえば、アンソニーを見ても私の部屋にいた記憶はない。ということは、アンソニーは身綺麗なのか。いや、ただ使っていないだけなのか、・・・


「殿下は、『家宝の鏡の間』の使い道をご存知ですか?」

「・・・なんですって?」


アンソニーが目をパチクリとさせた。私はにこりと微笑んで話を続けた。


「今はもう、わたくしがいるから使えませんの」

「なんの事で? 観光名所にでもなっていたのですか?」


なるほど。アンソニーは白。キースは黒。わかりました。充分すぎるほどに。


「なんでもありませんわ」


私が微笑むと、アンソニーは呆れたように視線を流した。


「よくわからないお人ですね」

「あら。あなたがおっしゃいますの? まぁ、でも、そうですわね。王太子殿下におきましては、むしろ、わかりやすいかたであるほうが罪ですもの」

「言いますね」

「だってわたくし、もう百年も生きておりますのよ」

「でも十六歳ではないですか」

「不本意ながら」

「リアンは喜びます」

「複雑ですけど、リアンに喜んでもらえるのなら、・・・まぁ、よかったのかもしれませんわ」


肩を竦める仕草をすると、アンソニーは軽く笑い、ふと真面目な顔をした。


「今日はご提案に参りました。後日、父にお会いしていただけますね? 父はあなたにお会いしたくてたまらないのですから」


それ、提案じゃないよね。決定だよね。むしろ強制だよね。


私は思わずツッコミを入れたくなったけれど、辛うじて止めた。とりあえず、抵抗を試みてみよう。


「国王陛下にお会いしたいのは私も一緒ですわ。ですが、ご多忙な陛下にお時間を作っていただくのはしのびなく・・・無理にとは思いませんのよ。全く、お会いなさらなくて大丈夫ですの。お気持ちだけで感激です」


会いたくない、うん、つまり、会いたくないってことなんだけど、どうかな?


「その時は、もしよければ、書庫に寄っていただけると良いのですが」


しまった。それがあったか。思わず顔をしかめれば、アンソニーは笑みを強めた。


「どうでしょうか、ソフィア様? お茶とお菓子もおつけしますよ」


ここまで言われれば、私が折れるしかなかった。


「ええ、もちろん。お伺いいたしますわ」


踊り終え、アンソニーと穏やかに離れる。そのまま視線はアンソニーが持って行った。これは楽だ。


アンソニーの踊りは上手だったが、少しだけ物足りなかった。上品すぎる、と言うと不敬だろうか。私への気遣いと畏怖とが混ざり、よそよそしく感じたのもあるだろう。それに比べて、やはり後見人であるリアンには親しみがあり、寄り添ってくれていた。心地よく、心に残る。


・・・もう一度踊りたい、かも。


私が思った時、リアンが私の手を取った。私の気持ちが伝わったかのように。


「リアン」


私の驚き顔にリアンは微笑んだ。


「お相手がいなければ・・・」


しかし、その言葉を遮るように、誰かがリアンを呼んだ。


「ああ、リアン殿、こちらにおりましたか。ソフィア様をご紹介していただきたく」

「わたくし?」


一瞬で剣呑な表情になったリアンを見て、私は思わず振り向いた。


すると、そこには、年配ではあるが目を惹く男性が立っていた。





次々と人が寄ってくるソフィア。


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