34 リアンの友人
「ええ、まぁ、・・・そうですね」
言うと、リアンは私の手をしっかり握った。
「キースがあなたの助けになれば良いと思っています」
「えーっと、なんの助けに?」
私が目を瞬かせると、キースは冗談めかして驚いた。
「わぁ、信用ない?」
「そうではありませんわ、・・・ただ、・・・なんでかしらと思いましたの」
「僕と仲が良いからですよ、ソフィア。そういう相手に伝えるようにと、おっしゃったじゃないですか」
「そうだけど、・・・見れば見るほど、気が合わなそうなんだけど?」
「ひどいですね!」
キースが笑い、リアンも苦笑した。その時、ふと私の心に何かが灯った。
キースを見たことがある、・・・ような気がするのは気のせいじゃない気がする。
「よく言われます。でも、僕たちは本当に、不思議と仲が良いんですよ」
「そうそう。オンナの趣味も仕事の楽しみも正反対だけど、だからかな、ウマが合うって奴ですね」
「まぁ」
キースのあけすけな言葉に、私はひとまず驚いてみせ、リアンは困った顔をした。
「俺の好みは」
「退屈そうな未亡人? それともお砂糖菓子みたいなキュートなお嬢様?」
私が微笑むと、キースの動きが一瞬止まった。
そうだ、そうなんだ。思い出してきた。見たことがあると思ったのは、鏡の中からだ。
キースは私の、あの部屋を逢瀬に使っていたのだった。
それこそ、私が言ったような女性たちと。主に年上、後腐れのない人たち。その点については評価をしてあげたいところだけど、恋愛面で自分の地位をこれほどまでに使いこなしている人を見たことがない、と思っていた人だった。
それがキース。
侯爵家の次男。なるほど。
「・・・それは、自分がリアンの好みだとわかっているという意味ですか?」
キースの言葉が慎重になってきた。知っていることがばれないようにしなければと、私は首を傾げた。
「なんのことでしょう? 先ほどから、美しい方々とキース様がアイコンタクトをなさっているのを見ていただけですわ」
なんとなく、わかってきた。
私、今の記憶になくても、会えば思い出すんだ。鏡の中にいた時に見ていたら。リアンもそうだった。そしてそれに付随する出来事や人々も芋づる式に思い出される。
・・・なるほど、よくわかった。キースは、主に、私のために用意されたベッドの上ね・・・
キースが引きつりながら、それでも笑顔でおどけて見せた。
「できれば、見逃していただけると助かるのですが?」
「何をですの? まぁ、お嬢様かと思ったら嫉妬深い旦那様をお持ちなのですわね。砂糖菓子のようにお可愛らしい方は、随分とあなたにご執心なのでしょうか?」
リアンの目が細くなった。リアンはおそらく、そういうことを見逃せないたちだ。まったく、それでどうして友達なんてやってられるんだろ。
「・・・キース、お前」
「ん? んん? なんでもないよ? 知らなかったんだもん。さぁ、ソフィア嬢、踊りませんか? ねぇ、踊りましょう!」
半ば強引に連れられて、私はキースと踊る羽目になった。
砂糖菓子の奥様にいびられたら、付け狙ってやるから覚悟しておけキース。私は思いながら、リードを取り始めたキースに優雅に笑顔を向けた。
しばらく踊った後、キースはふとため息をついて私を見た。
「・・・よくお似合いで」
「ありがとう。うちの侍女は優秀ね」
私が微笑むと、キースは負けじと笑顔になった。
うん。なかなか素晴らしい笑顔だ。それに踊りも上手。甘いダンスを踊りたがるようで、女性がうっとりするような身のこなしをする。さすが、逢瀬の名人。
「ドレスに限らず、髪型も小物も、リアンの好みに寄せているように思いますが・・・それも侍女の力ですか?」
「半分は。あとは私のリクエストよ」
「リアンの好みを知っておいでで?」
「えーっと、まぁ、・・・そうね。あなたに隠しても仕方ないわね。鏡の中から散々見てきたんだもの、なんとなくわかるわ」
私が言うと、キースは軽くため息をついた。
「リアンは今まで以上にあなたに夢中ですよ」
「そう? ニコラスフィルターってすごいわね」
「ニコラス・・・フィルター?」
「だって、わたくしは”ニコラスの愛したお方”ですもの。ニコラスが好きだったものは自分も好き、そういうことでしょう」
「でも、・・・リアンはアンソニー殿下ほどニコラス賢王に憧れてはいないようですが」
「アンソニー殿下は私には興味がないのですって。憧れが過ぎると逆に忠実に再現したくなるんじゃないかしら。きっとメアリがいたら、メアリにご執心になると思いますわ」
「はぁ、・・・そういうものでしょうか」
キースは首を何度も横にひねる。
「でもね、キース様。それは本当のお気持ちではありませんから。それに、”伝説の令嬢”としては、リアンがわたくしを戻してくれたのだから、リアンの好みに合わせるくらいのことはしなくてはと思ったのですわ」
「・・・はぁ・・・、こりゃぁ、・・・生殺しだな」
「何がでしょう?」
私が首を傾げた時、ちょうど踊りが終わった。
「私はあなたがリアンの希望になればいいと思っていますよ。リアンにはあなたが必要なんです」
言いながら、キースは恭しく私の手に口付けた。
まぁ。手の甲に口付けっていうのは、案外、時代遅れではないのね。もしくは、キースが私に合わせてくれているだけかしら。
キースは私には何も言わなかった。部屋のことは何も。私が知らないと思っているから? もしくは、知っているとわかって?
・・・わからない。
「次は私と踊って頂けますか」
いつの間にかリアンが近くにいて、私の手を取っていた。
あら。
次は”部屋”について知ってる人に声をかけられると思ったのに。そもそも、他の令嬢はいいのかしら。でも、それを女性が苦手というリアンに問うことはできなかった。どちらにしろ、リアンの方が楽で有難いのは当然だ。
「ええ、・・・もちろん」
見知らぬ男性たちからの順番待ちの視線を浴びながら、私は満面の笑みでリアンに頷いた。リアンは満足そうに私の手を引っ張ると、キースと軽口を叩いて交代する。楽団たちも私に興味津々で、私の準備が整うまで待ってくれていた。
別にいいのに。




