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リアルバウト! -冠水都市の拳闘士-  作者: タラバグマ
第一章 冠水都市の遊技場
6/14

~1-3~ 冠水都市の競技場

  探していた友人の内二人目までが見つかったので、新は周りを見渡して三人目を探す。

 先ほどの華実オンステージで好奇と期待の視線がかなり増えていたが新はそれらを無視した。

 結衣のやらかしの尻拭いをする気は無い。


(結衣が戻ってきたんならアイツもきてるはずなんだけど……うん?)


  新が周辺を観察していると、遠くから怒声が飛んでくる。


「貴様ぁ!そこの娘に何をしているっ、この痴漢が!」


  なにやら揉め事のようだ。

 騒がしい方向を見ると、学ランを着た男がいかにも悪人らしい不良の腕を掴んでいた。


「げ……、こうも人が多いと物騒になるもんなんだな、気をつけろよ結衣、華実」


  新は騒ぎの方から目を離さず言った。

 結衣が震えているのが新の目の端に見える。

 結衣はそそくさと動き、新の陰に隠れるようにして縮こまる。怖いのだろうか。

 新がそう思っていると、結衣は声を震わせながら言った。


「……やっべぇ……アラタ、私が痴漢容疑で捕まったときは弁護して……!!」

「そういう意味で気をつけろとは言ってないんだが?」


  腕を掴まれた不良は学ランの男に抗議をしているようだったが、

 学ランの男は聞き入れようとする様子はなく、不良を連行しようとしていた。すると。


「! 待たんか貴様!」


  突然、不良が掴まれた腕を振り切り駆け出した。

 不良はそのまま新達の方へ勢いよく向かってくる。


「どけてめぇ!」

「!」


  それを見た新は華実達をかばうように彼女たちの前に出た。

 近づいてくる不良に備えるように新は脇をしめて構える。そして――



 逃げていた不良が宙を舞った。


「……うん?」


  新は顔をしかめる。自分はまだ何もしていない。

  改めて新が見上げると、真っ黒なフルフェイスマスクを被った大男が不良を空高く担ぎ上げていた。

 大男は両腕をピンと伸ばし、不良をまるでバーベルのように持ち上げている。

 周囲にいる通行人は唖然としてその光景を見ていた。

 身長190以上はあるだろうその不審者の顔はマスクに覆われていて見えない。

 そのマスクの前面、男の顔に当たる部分は額の部分から顎の先まで全体に小さな電飾が敷き詰められ、

 ディスプレイのようになっていた。

 電飾が点灯し、そのディスプレイに文字が表示される。


『観念』


 おそらく、不良に観念しろと言いたいのだろう。

 しかし、抱え上げられた不良はひっくり返った亀のように

 手足をジタバタさせていて見る余裕はなさそうだった。

 新があきれていると不審者は不良を両腕で持ち上げたまま新達に声をかけてきた。


「……ケガはないか、新、華実、結衣」

「……あー大丈夫。ありがとうヒロ」


  三人目発見。


  その後、不良は警備員の方々に引き渡され、奥の事務所へと連れて行かれた。

 去り際に彼が放った「顔覚えたからな!」という時代錯誤な捨て台詞に

 新は笑うのを通り越して思わず感心してしまった。


「助けてくれて悪いなヒロ」

「……」

「ヒロ?」


  ヒロは不良が連れて行かれてからずっと黙っている。

 そんな友人を不思議に思いながら新はヒロの顔色を伺った。

 いや、顔はマスクに隠れていて見えないのだが。


「……、新」

「うん?」

「やべぇ……俺の顔覚えたって……お礼参りに来たらどうしよう、新……」

「マスク変えろよ」


  一樹郷弘、通称ヒロはそのガタイに似合わない、ビビリだった。

 やがて、事態が収束したことを確認したのか、華実たちが寄ってきた。

 近くまで来たところで結衣が口を開く。


「なんてふてぇセクハラ野郎だよ!!!」

「どの口が言うんです?」


  黒い笑顔で華実がツッコんだが、すかさず結衣は顔をそらした。


「……ひとまず揃ったな、じゃあ試合場に行こうか、新、華実、結衣」

「おう、わかった」

「はい、ヒロさん」

「うぇーい」


  新、華実、結衣は提案を受け入れ、新達は人混みが一際濃い方向、

 本日のメインイベント会場へと向かう。

 一行は先ほどのような事態まきこまれないよう先頭にヒロを、

 最後尾に新を置いて一列で進むが、他人が見ればマスクを被ったノッポを盾に

 ズンズンと人の群れをかき分ける彼らの方が怪しげに見えたかもしれない。

 新達が進むたびに、施設の中から響く音と歓声が大きくなる。

 四人は本日のイベント会場、熱狂の中心へと向かっていた。


  ――やがて、空気が変わる。

 最大限に高まった熱気が新達を包んだ。呼吸すると肺が火傷しそうなほどに熱い。

 たどり着いた試合場はこの明都eパークで最大の施設、

 明都天球式体育遊技館、通称天体と呼ばれるドーム状の建物だ。

 この施設の特徴は中央にある楕円状の広い競技場を囲むような形で観客席が設けられていることで、

 昔ながらのスポーツ競技場に近い形になっている。

 新たちは観客席のてっぺんから競技場全体を見下ろしていた。

 歓声や応援の声がそこらから飛んできているため、耳の奥がピリピリする。

 しかし、新はそんな声など気にする様子も無く、ただ中央の競技場を見る。


  第一試合が始まっていた。


――――――

 

  競技場の中はいくつもの家が建ち並び、小さな町のようになっていた。

 家だけでなく、街灯や道路、木々なども楕円形の競技場の内側に

 小さくまとまるように林立している。

 それらが普通の街と違うところは、全てが情水で出来ているということ。

 情水はプログラム次第で固体にもなれる。

 水から出来ているといっても全て無色透明ではなく、

 それぞれにきちんとそれらしい色がついており一目見ても違和感はない。

 これも技術進化の賜物だった。

 水の小町の中心にはひときわ大きなタワーのような建物が建っていた。

 その建物は競技場の天井にまで届きそうな大きさで

 まるでこの町のシンボルのような雰囲気を醸し出している。

  ――突然、そこが爆音と共に崩れた。

 水煙の中から、二つの影が空高く飛び出す。

 影の正体は二人組の男子。

 一人は崩れた建物の方をにらみ、もう一人は周囲に注意を払うように顔を動かしている。

 周囲を見回している方の男の手元には情水が板状になって浮いていた。

 それはリアルバウト操作側のコントローラーだ。

 男のコントローラーは伝統ある格闘ゲームのコントローラーの形で

 通称「アケコン」と呼ばれている。 

 「アケコン」は操作スティックの先にボールがついたレバーと

 いくつかのボタンで操作を行うオーソドックスなコントローラーで愛用者も多い。

 自らの手元に浮かぶそれに両手を添えて男は言った。


「あいつら無茶しやがる!」


  もう一人の男は崩壊による水煙から目を離さず言う。


「警戒解くなよ!不意打ち注意!」


  やがて煙が収まると崩れ落ちた瓦礫の中からまた二人の人物が現れた。

 今度の二人組は女子のコンビだった。

 一人は前に立ち、腰に両手に腰を当て、胸を張るようにして男達を見眺めている。

 その彼女の後ろでもう一人の女子は注意深く三人を観察していた。

 後ろで見ている方の女子の手元にも「アケコン」が浮いており

 彼女の手はレバーとボタンをいつでも動かせるように構えられている。

 出し抜けに、前に立つ女子が言った。


「男のくせにだらしないなぁ、そうそう思いません。お姉様」


  後方の女子が眉間に皺を寄せて答える。


「はいはい、前見る前見る」

「はぁーい」


  男子と女子の二人組。二組はにらみ合うように対峙する。

 束の間、空気が止まる。そして次の瞬間、お互いが同時に仕掛けた。

 コントローラーを持っていない方の二人の男女が、瞬時に間を詰め

 お互いの拳が届く距離まで近づく。

 男は右腕に、女は左脚に、それぞれ力を込め、そして放った――!



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