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紅茶を一口飲んで細い息を吐いた。
「それで、殿下たちはどうして公爵家に?」
「もちろんエルヴィーラに会うためにだよ」
アルブレヒトが爽やかに笑ってみせた。
ヴェンデルがジークフリートを追いかけてから数分後、エルヴィーラたちは庭園でお茶をすることになった。イルザはすまし顔のまましゃべらない、アルブレヒトもフェリクスもニコニコしているだけ、ケヴィンは様子を窺っているのでエルヴィーラがアクションを起こすしかなかった。
「お茶をするためだけにいらしたということでしょうか」
「そうだね、お茶もしたかった。けど本来の目的は別にあるんだ」
「なにやら含みがある言い方ですね」
「僕もフェリクスも王族で、エルヴィーラは公爵令嬢だ。もっと友好的な関係を築くにはこうするのが一番だと思ったんだよ。それに敬語も外してほしかったからね」
「話の前後が一致しないのですが……」
王族と貴族を明確に分けるのであれば敬語を使うべきだとわかっている。仲が良くなろうが関係なく、王族が最上位であることには変わりない。
「簡単に言うともっと仲良くしようってことだよ。王族としても個人としてもね」
「個人、ですか?」
「だから敬語をやめてくれないかな?」
どういうことだ、どんな状況だこれはと考えてしまう。アルブレヒトが冗談を言っているようには聞こえない。でもゲームでのアルブレヒトはこんなことを言う人ではないのだ。
だが、こんな顔で言われたら断るに断れない。男主人公と距離を取れない以上、友好的な関係を築くしか生き抜く方法はないのだから。
「わかりました。これからは敬語をやめます」
「まだ敬語だけど、いつ常語になるのかな?」
いつまでもニコニコしているのが逆に怖い。
「わかったわ」
「それでいいよ」
「お兄さまは敬語のままなの?」
「小公爵は年上だ、常語で構わない」
「それはありがたいな」
ちゃっかりお茶を飲んでいるケヴィンが言った。
「公式な場で礼儀をわきまえていればそれでいい。それはエルヴィーラもケヴィンも同じだ」
「殿下は他にもこんなことをしてるのか?」
ケヴィンはすぐに順応したらしい。
「仲がいい者や、これから懇意にしたい者には声をかけているよ」
「そうか、なら問題はないかな」
「どういうことお兄さま。どうなったら問題だったの?」
「わからないか? もしもローゼンハイム公爵家だけに対してのみ言葉遣いや態度を変えろというのであれば他の貴族からの反発があるだろう。反王族派の貴族がなにをしでかすかわからない」
「でも親王族派の家紋だけに与えられる特権なら、どっちにしろ反王族派の反発がありそうなものだけど」
「ローゼンハイム家だけだった場合はもっと面倒なことになる。親王族派でも中立に近い立場の者が反王族派に行きやすくなるからな。反王族派もまた動きやすいだろうし」
ケヴィンはまだ十五歳だったはずだが、それでもここまでちゃんと考えている。一応立場としては妹だがこれならローゼンハイム公爵家は安泰だろうと、そんなことを考えていた。
「まあそういうことだね。それに公の場で立場をわきまえた態度であるなら示しもつくというものだよ」
それよりもアルブレヒトの方が気になる。
年齢はエルヴィーラの三つ上だから十三歳。それなのに十五歳のケヴィンと同じような発想ができる。王族だから英才教育を施されているのはわかるのだが、天才と称賛すべきか末恐ろしいと怯えるべきか悩むところだ。本来のアルブレヒトの冷徹さを知っているから余計に、現段階でもなにを考えてるかわからず豹変する可能性もゼロではない。
そんなとき、向こうに人影が見えた。ヴェンデルとジークフリートだった。前よりも二人の距離が近いように見える。
テーブルに近づき、ごく自然にイスに座った。二人の顔色は悪くない。ジークフリートの目が赤いことを除いては、まあ問題ないだろう。
そこでジークフリートが立ち上がり頭を下げた。
「さっきは、悪かった」
姿勢をただしてエルヴィーラの目を見てそう言う。
その行動に心の底から驚いた。彼はそう簡単に謝るキャラクターではないからだ。
ゲームの中でも、自分に非があるとわかっていてもなんとかして正当化しようとする。元々正論ばかりの人間なだけに、ちょっとした自分の間違いを認められなかったのだ。
しかしゲームの中でジークフリートが心を入れ替えなかったわけではない。ジークフリートルートでのみ、彼は憎ったらしい性格もそのままに正直者かつ恥ずかしがり屋という愛らしいキャラクターへと進化する。
「別に気にしてないからいいよ」
もしかしたら、今彼は変わろうとしているのかもしれない。だったらその手伝いくらいはできるはずだ。
ヴェンデルを見ると「ほら言っただろ」みたいな顔で薄く笑っていた。
「ありがとう」
なんて言いながらジークフリートが微笑んだ。ヴェンデルに任せて大丈夫かと思ったが、これならば私が行くよりもずっといい結果になったと言える。
二人の間に妙な空気が形成されていることが気になるが、仲良くなるのはいいことだと納得した。
「それと、もう二度と婚約者とは言わない」
「急にどうしちゃったの? まあ、そっちの方が私はありがたいけど」
「これからはちゃんとした婚約者になれるように努力する」
その発言にお茶を吹き出しそうになる。
「婚約者になれるように?」
「そういうことだから」
ジークフリートはイスに座り直してクッキーを食べ始めた。
「それは、聞き捨てならないな」
そう言ったのがアルブレヒト。
「やれるもんならやってみるといい」
とヴェンデルが言う。
「そ、そんなー」
なんて泣きべそをかいているのがフェリクスだった。
イルザはこんなやり取りを、ずっと澄ました顔で見守り続けていた。逆になにを考えているのかがわからないので怖い、というのは正直なところである。
これから面倒な日々が続きそうだ。そんなことを考えながら、ーズケーキを口に運んだ。口いっぱいに濃厚なクリームチーズが広がっていく。美味しいものを食べているときは余計なことを考えなくても済みそうだと、小さくため息を吐くのだった。




