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第五節:家庭教師が来たけど、なんか期待値おかしくない?

「――第六皇女殿下の教育係を、拝命いたしました」


 


そう言って、私の前に跪いたのは、一人の男性だった。


年齢は40代くらい? 白髪交じりの黒髪、細身の体、キリッとした鋭い目つき。

衣服は質素だけど上等で、聡明さと経験を感じさせる佇まい。


彼の名前はガルシア・ヴェルトナー。

王宮付きの学者であり、かつて第一王子の教育も担当したというエリート中のエリートらしい。


 


「リアナ殿下、私がこれから殿下の学問の指導をいたします」


 


そう言って、彼は静かに頭を下げた。


……んだけど。


 


(いやいやいや、待って待って待って!?)


(私まだ三歳なんですけど!? もう学問の指導って!?)


 


とはいえ、この世界の王族教育は早いのが普通らしい。

“王族としての自覚”を身につけさせるため、幼少期から政治や歴史を学ぶのが伝統らしい。


 


(うん、まあ、それはいいんだよ。勉強は別に嫌いじゃないし)


(でもね、今のこの空気がヤバいのよ)


 


周囲を見渡すと――


王宮の要人たちが、まるで“歴史の目撃者”みたいな表情でこっちを見てる。

侍女たちは神妙な顔をして、小さなメモ帳を握りしめてるし、

兄姉たちもなぜか見学に来ていて、期待の眼差しを向けている。


 


「第六皇女殿下の“初めての学問”の時間だ……!」


 


みたいな、変な緊張感が漂ってる。


 


(いや、もっと気楽にやろうよ!? 普通にひらがな書くノリでいいじゃん!?)


 


そして、ガルシア先生は言った。


 


「まずは基礎となる帝国史から始めましょう」


 


彼が手にした分厚い書物が、私の前に置かれる。


《ヴァルト帝国正史・初級》


ページ数、500超え。


 


(初級とは……??)


 


「この書物には、帝国の建国から現在までの歴史がまとめられています」


「殿下には、まずこの基本事項を学んでいただきたい」


 


うん、わかる。

国の歴史、大事だよね。ちゃんと勉強しなきゃね。


でもさ……。


 


(この本、明らかに“大人向け”だよね!?)


(3歳児に出す本じゃないよね!?)


 


「リアナ様、いかがですか?」


「えっ、あ、うん……」


 


(え、てかこれ、普通に読めるのか私?)


(前世日本語だけど、転生してから“自動的に理解できる”能力とかついてるかな……?)


 


おそるおそるページをめくる。

文章を目で追う。


 


――……あれ? いける?


普通に、読める??


 


(あっ、私、めっちゃ普通に読めるじゃん!!)


(ていうか、むしろ社畜時代にやってた「資料読み」と大して変わらない!!)


 


そこで、私は気づいた。


 


前世で培った「業務報告書を一瞬で読み取るスキル」が、

まさかの異世界でも有効だったということに――!!


 


……うん、まあ、いけるな。


 


「ええと……この帝国は、約三百年前に建国されて……初代皇帝は軍事クーデターによって即位……」


 


サラサラと読み進める。

前世の仕事で培った「要点を押さえながら文章を処理する能力」が、

思いのほかここでも活きている。


普通に、わかる。普通に、読める。


 


……が。


 


「……っ!!」


「な……」


「……」


 


周囲の空気が、なんかおかしい。


 


(えっ、なに!? なんでみんな固まってるの!?)


 


ガルシア先生が、信じられないものを見るような顔で私を見ていた。


 


「り、リアナ殿下……今……普通に、読まれました……?」


「え? はい、まあ……」


「しかも、流暢に……理解しながら……」


「えっと……はい?」


「………………」


「えっと……?」


「……っ……!!!」


 


ガルシア先生は、震えながら立ち上がると、


 


「これほどの知性を、私は見たことがない……!!」


 


とか言いながら、感動のあまり膝をついた。


 


(えええええええ!?!?)


 


すると、待ち構えていたかのように、

周囲の人々も次々に跪き始める。


 


「第六皇女殿下は、やはり……!」


「三歳にして、歴史書を理解する天才!!」


「いや、これもう“歴史の申し子”とかでは……!?」


「ヴァルト帝国に、未来の賢王が生まれた……!」


 


(いや、そんな大したことしてないから!?!?)


(私、前世で毎日資料作ってただけだから!!!)


 


この日、私は思い知った。


この世界の人々の“期待値”が、完全におかしいことを。


 


そしてその夜。


王都の片隅では――


「“第六皇女は、歴史を操る者”と……噂が?」


「また新たな神話か……」


「……これは、想定よりも厄介だな」


 


再び、不穏な影が動き出していた。


 


(私、ただの勉強会しただけなんだけど……!?)


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