第六十五話 魔王の声
「なんだ、これは?」
全てが終わったボイスカイオーラ王国の王城で、スミヤキとエルは上を見上げていた。
天から降って来る、聞き覚えのある声。
魔王の復活を察し、過去の戦いの記憶が脳内で暴れ回る。
「スミヤキ! エル!」
そこへ、同じく全てを終わらせてきたイカリ、ジビエ、そしてフーが転移で現れる。
本物の神杖ケッパーを取り戻したエルは、ピンポイントで転移先を決める力を取り戻していた。
「フー。いったい、これは」
「わからないわ」
本来であれば、人間ではない王族と言う巨悪を倒したことを、肩を抱きながら称え合うところだ。
だが、突如起こった異変を前に、五人の気持ちは異変の解明へと既に向いていた。
五人は異変の正体を探るべく、しばし会話へと耳を傾けた。
「宿命? なによそれ?」
唯は、魔王を何度も殴りつけながら問う。
「神が創った、この世界の正体だ! 我らはずっと、忌むべき宿命に翻弄されてきたのだ! 気づかぬ間にな!」
魔王は、唯の拳を己の拳で受け続ける。
力は互角。
唯と魔王、互いの拳が互いを傷つけ合っていく。
「始まりは、気の遠くなるほど昔。この世界に、初めて魔王が誕生した時にまで遡る。未だ小国の集まりでしかなかった人間を、初代魔王は恐怖と力で支配した」
「で?」
「初代魔王は世界の支配者となり、魔物を世に解き放った。人間どもは、魔王に怯えながら日々を過ごす、我らが楽園が完成したのだ!」
「わかるわ! 世界の支配者! なんて甘美な響きなのかしら!」
「だが、初代魔王の支配下において、魔王を倒すことのできる存在、勇者たちが生まれたのだ。勇者たちは神具を使い、初代魔王を倒し、勇者たちを中心に小国がまとまることで世界に人間の楽園を築き上げたのだ!」
「盛者必衰ってやつね。その初代魔王ってやつも、甘かったのね」
魔王の口から語られる歴史。
空間に開いた穴からは、人々のざわざわとした声がかすかに聞こえる。
「それから始まったのは、地獄の連鎖だ」
「ん?」
魔王の口調に、より強い怨嗟が混められる。
ぶつかる魔王の拳が重くなり、唯もまた魔力を強める。
「勇者が天寿を全うした後、次の魔王が生まれた。そして、魔王の支配した世界で勇者が生まれ、魔王を倒す。何百年も何千年も、これが繰り返されたのだ!」
「なによそれ」
「我は、そんな奇跡に疑念を抱き、全てを調べた! そして、わかったのだ! 魔王は! 我は! 神によって! 勇者に殺されるためだけに生まれ、死ぬしかないという事実が! 受け入れられるわけがなかろう! 何故、我は死なねばならん!? 何故、我は生き続けることを許されない!?」
「…………」
魔王は呪った。
神の創ったこの世界を。
神は、魔王と勇者が存在する時間と、魔王のみが存在する時間を、意図的に存在させた。
結果、魔王は本能に従って人間の敵となり、大義名分を得た勇者によって殺され続けてきた。
魔王はその生に、殺されることが組み込まれていた。
「だが、我は気づいたのだ。勇者たちは、神託を受けて勇者として覚醒しなければ、我を殺せぬと」
「…………」
「ならば、本来の勇者が勇者として覚醒するよりも早く我が勇者を決め、偽りの勇者によって魔王が世界からいなくなれば、我が死ぬことがなくなるのではないかとな」
「…………」
「そして、我の考えは正しかったのだ! 我は死の間際に、次代の魔王へと記憶を引き継がせ、誕生と同時に王族を殺し成り代わった! 国内の優れた剣の使い手を勇者として祭り上げ、偽りの神具を与え、偽りの我を倒させた! 役目を終えたと勘違いした勇者どもは勝手に天寿を全うし、消えていった! ようやく、我が生き続けられる世界が来たのだ!」
魔王は、笑った。
大きく大きく、笑った。
誰にも言わなかった秘密を口にしたことで、脳内麻薬が分泌され、極度の興奮状態に至っていた。
それはつまり、魔王がここで唯を殺すことの確定でもあった。
魔王だけが持つべき世界の秘密を話したということは、話した相手を殺すという宣言と同義だ。
笑う魔王を見ながら、唯は大きくため息をついた。
唯の絶頂は既に収まっており、唯は黙って空間に開いた穴を指差した。
「聞こえてるわよ?」
「んん?」
「この穴、世界中に通じてるみたい。あんたの言ったこと全部、世界中の人に筒抜けって言ってんの」
「なあああああああ!?」
魔王は笑いを止め、顎をがくんと落とした。
そして、急いで穴の中を覗き込む。
唯の目では穴の中に黒しか見えなかったが、魔王の目は何かを捉えたようで、さらに大口を開けた。
魔王が焦った表情で空間に魔力を流し込むと、空間の穴は閉じていき、周囲はいつも通りの空へと戻った。
ふるふると全身を震わせる魔王が、唯を睨みつける。
「き、貴様……! 何と言うことを……!」
「あたしのせいじゃないわよ」
「これで、勇者は我の存在を認識し、我は再び生と死の螺旋に取り込まれてしまった……!」
「あたしのせいじゃないわよ」
「貴様……! せめて貴様だけは、この手で……!」
「聞いてんの?」




