第五十話 残骸
カルボナーラ王国、消滅。
偶然国外へいた国民以外は、全員が死亡。
すべての町村が壊滅。
カルボナーラ王国に落ちた謎の光の話は大陸中を駆け巡り、その正体について平民たちの間で憶測が飛び交った。
王城内には緘口令が敷かれ、滅国魔法の発動について国内への正式な告知がされた国はなかった。
結果、憶測は憶測を生んでいく。
大量の憶測があれば、そこに真実らしき偽りを仕込むのは容易だ。
人間は、未知に対して自分だけが知る情報にしがみ付く。
中でも、最も流行った噂が魔王と神だ。
「かつて魔王が放った一撃が、今更降って来たらしいよ」
「魔王が復活する前兆らしいよ」
「カルボナーラ王国が神に反逆して、神罰を受けたらしいよ」
未知の解釈に、超常の存在はよく馴染んだ。
カルボナーラ王国を除く四つの国は、再び白い光が落ちてくるかもしれない危険な場所という建前の元、カルボナーラ王国へと続く道をすべて閉鎖。
国民の立ち入りを禁止した。
白い光によって灼熱となったカルボナーラ王国の大地は、熱で熟々と煮えたぎっていた。
七回の夜をもって、ようやく人間が踏みだせる程度にまで冷めた。
調査の先陣を切ったのは、ブッタネスカ王国。
魔道師団の副師団長であるハーが率いる、精鋭揃いの一団だ。
万が一、白い光が落ちて来たとしても、一団の力を合わせれば全滅は防げるだろうという理由だ。
「……フー」
滅国魔法の発動について、ハーは最後まで抵抗していた。
得るものは、唯の討伐。
失うものは、カルボナーラ王国全国民の命と勇者パーティの命。
その中には、先日送り出したフーも含まれる。
だが、カルボナーラ王国の第一王子が、国民全員が唯によって殺されたと言えば、それ以上の抵抗はできなかった。
最も国民を守るべき存在が、守るべき国民が既にいないと明言したのだ。
真偽はどうあれ、それ以上の否定を口に出すことなどできる訳がなかった。
たった一つの抵抗としてハーが行ったのは、魔力を注ぎ込む際に滅国魔法の動きへ干渉し、白い光が発現してから落ちるまでの時間を遅らせたことだ。
もしもフーが生きていれば、白い光を見たフーが国外へ転移するまでの時間を稼げるように。
カルボナーラ王国全体に結界が張られてはいたが、ハーは、フーであれば転移ですり抜けられると信じていた。
馬車の中で、ハーは祈りをささげる。
「大丈夫ですか? 具合が悪そうですが」
苦悶の表情を浮かべるハーに、カルボナーラ王国第一王子のフリークが優しく言った。
「失礼しました。お見苦しいところを」
「いえ、構いません。我が国が勇者パーティの派遣を頼んだことで、貴国の師団長の命を奪う結果になってしまったのです。何度謝っても、謝り切れません」
「フリーク様のせいでは御座いません。悪いのは、全て……」
ハーは、フーの姿を思い浮かべる。
今にも、転移魔法でしれっと戻って来そうなフーの姿を。
ハーが未だ副師団長を名乗り続けるのは、フーの生存を信じているからだ。
馬車が進み、さらに七回の夜が来た。
馬車はついに、カルボナーラ王国の王都へ近づいてきた。
「ん?」
「あ!」
王都の建物があった場所のほとんどは、焼け野原になっていた。
瓦礫と焼死体。
地獄と呼ぶことを誰も止めないだろう、悲惨な世界が広がっていた。
しかし、建物は部分的に残っていた。
壁にひびが入り、屋根が吹き飛ばされていようとも、十を超える家が形を残していた。
「フー……!」
ハーの祈る手が、強く強く握られる。
建物が残っているということは、何者かが滅国魔法を防ぐことに成功したということだ。
ハーは、その成功した人間がフーである希望を持った。
「危険ですね」
対してフリークは、強い警戒を示した。
「あの女が、生きているかもしれません」
心配する相手がいるハーとは違い、フリークはまっさきに唯の存在を思い出した。
カルボナーラ王国を発つときに持った、一般的な剣の柄を握りながら、睨みつけるように王都を見続けた。
馬車が、王都に近づいていく。
「ねえ、食料ある?」
馬車の上に、誰かが着地する音がした。
馬車の屋根の上から、誰かの声がかけられた。
ハーとフリークは同時に屋根を見上げ、フリークは腰から剣を抜き、屋根を突き刺した。
「おっと」
屋根の上からは、軽快な足音が聞こえる。
フリークが剣を引き抜くと、刃には血の一滴もついていなかった。
「誰!?」
フーとは異なる声に、ハーは立ち上がる。
が、背後で異変を感じた御者は馬車を急停車させ、急停車の勢いでハーは勢いよく転倒する。
後続する馬車も、先頭の馬車に倣って急停車する。
否、後続が止まった理由はもう一つ。
馬車の上に立つ、赤髪の少女の存在を確認したからだ。
「この匂い……。生きていたか、神の僕め!」
フリークが剣を振り回し、馬車の屋根を切り刻む。
そして、粉々になって降ってくる屋根の隙間から、唯の姿を確認した。
睨みつけるフリークと目が合うと、唯は口角をグッと上げて笑った。
「あるわよね、食料。あたしたち、腹ペコなの」
唯は、フリークの顔を知らない。
だが、フリークの着ている服を知っている。
カルボナーラ王国の王族が来ていた、高価な服だ。
そうであるならば、唯はフリークを、大量の物資を持っている相手だと解釈した。
同時に、殺していい相手だと解釈した。
唯は馬車の屋根から飛び降りて、落下しながら拳を振り上げる。
「少し、分けて?」
唯の拳とフリークの剣が、激突した。




