第二十五話 スミヤキ
フレッシュとスミヤキは、滅多に顔を合わせることがない。
実直な性格のスミヤキは、王族ではないスミヤキと国王であるフレッシュが軽々に顔を合わせるべきではないという理由から、会うことを拒んだ。
「こちらへどうぞ」
教師たちはすぐにフレッシュのための椅子を用意し、フレッシュは当然のように腰掛ける。
「すまぬが、二人っきりにしてくれ」
フレッシュからの要望で、教師たちはそそくさと部屋を出ていく。
フレッシュとスミヤキだけが残された室内で、フレッシュは穏やかに微笑んだ。
「調子はどうだ?」
「はい。おかげさまで、順調に学んでおります。先日も先生方より、お褒めの言葉を頂きました」
「そうか。それは何よりだ」
「今後とも勉学に励み、お義父様のご期待に添えられるよう、努力いたします」
スミヤキは、まるで正解例をそのまま話すように、すらすらとフレッシュの言葉に返してみせた。
白金色のオールバックはつやつやと輝いており、髪の手入れを欠かしていないことが窺える。
着用している服にも皴一つなく、勉強をするというプライベートな空間においても、他人からの見られ方を意識する習慣があることが見て取れた。
王族の仕事は、見られること。
毎秒が、観察される時間。
スミヤキの成長に、フレッシュもまた喜んだ。
とはいえ、今回フレッシュが来たのは、スミヤキを褒めるためではない。
「うむ。今後とも、勉学に励んでくれ。……と言いたいところだが、今日来たのは他でもない。そなたに討伐して欲しい者がおってな」
「討伐?」
先程の和やかな表情とは一転、スミヤキは眉をしかめた。
「何者でしょうか? 魔王は二年前に討伐し、一年前には五大大国間の停戦年協定を結んでおります。現代において、戦うべき敵など」
「正体はわからぬが、人間の少女だ。ブッチーノ町が落とされ、町人全員が人質にとられている」
「少女? 人型の魔物ではなくてですか?」
「それもわからぬ。だが、強大な力を持っていることだけは確かだ」
フレッシュは、ストリーキーから聞いた唯の特徴を述べていく。
スミヤキは、過去の旅を振り返り、唯の特徴に合う人間がいたかを照合する。
魔王討伐の旅の中で会った、人間から魔物まで。
しかし、記憶の中に蘇る者共に、唯の特徴と一致する者はいなかった。
「わかりました。国王様からの命、確かに承りました」
人類に仇名す存在を討伐することは、勇者の務め。
スミヤキは、フレッシュからの依頼を快諾した。
「おお! やってくれるか!」
「それで私は、どの団の支援を行えばよろしいでしょうか? 騎士団でしょうか? それとも魔道師団でしょうか?」
とはいえ、勇者パーティは各々が圧倒的な実力を持つが故、五大大国の停戦協定時に積極的な参戦が禁じられた。
戦いのメインとなるのは、あくまでも国が抱える軍。
勇者パーティのメンバーは、支援として後方での活動が義務付けられている。
スミヤキからの確認に対し、フレッシュは眉を顰めた。
「いや。勇者パーティでの討伐を頼みたい」
フレッシュからの返答に、今度はスミヤキは眉を顰めた。
勇者パーティの集合は、五大大国の協定違反。
それ故、全ての国王の合意がなければ起こせない特別な令。
フレッシュの言葉に、スミヤキはフレッシュからの依頼の深刻度を、一気に引き上げた。
「詳しく聞いても?」
「騎士団長パンチェッタの率いる騎士団三隊、魔道師団長ストリーキーの率いる魔道師団三隊を派遣し、たった一人の少女によって返り討ちにあった」
「たった一人で? そんな馬鹿な……。いえ、わかりました」
その事実だけで十分だった。
カルボナーラ王国の抱える師団を単独で返り討ちにできる存在など、勇者パーティをおいて他にはいない。
否、いなかった。
勇者に匹敵する強者がカルボナーラ王国に牙を向いている事実は、即ち勇者パーティ以外に止めることはできないということを意味するのだから。
「各国への連絡はお願いします」
「わかっている」
スミヤキはフレッシュの前を横びり、部屋に飾っていた神剣ブラペを手に取った。
その顔からは、王族としての表情が剥がれ落ちていた。
「また、お前と一緒に戦うことになるとはな」
刃も柄も、黄金でできた一級品。
神の力が宿っており、あらゆるものを両断できると言われている逸品。
スミヤキは、カルボナーラ王国から支給された黄金の鎧を着用し、神剣ブラペを黄金の鞘に納める。
「では、私は仲間を迎えに行きます」
準備を整えたスミヤキは、速やかに部屋を立ち去る。
カシャンカシャンと黄金が床と接する音が響く。
外で待機していた教師たちは、部屋から出ていくスミヤキの姿を見て、中で話されていた内容を容易に想像できた。
教師たちは教師の仮面を捨て、スミヤキの後姿に頭を下げる。
フレッシュもまたすぐに出て、自室へと急いだ。
各国の国王へ一筆したため、文を飛ばす。
歩くスミヤキの表情には、不謹慎にも喜びが浮かんでいた。
スミヤキは、まだ二十四歳。
血沸く戦いを終えるには、いささか若すぎた。
魔王討伐後に接触を禁止されてしまった、かつての仲間と会える喜び。
再び全力でぶつかり合う戦いに身を投じることのできる喜び。
唯という敵との戦いを前に、スミヤキの感情が高揚していく。




