第十四話 行進
ブッチーノ家の家紋が入った荷馬車が行進する。
家を囲む人々など意に介さず、まっすぐに。
事情を把握したい町人たちは、突然消えた炎の壁へのクレームをいったん置き、荷馬車の進路を妨げるように立つ。
が、荷馬車は止まらない。
まるで町人たちが見えていないかのように、ずんずんと進んでいく。
町人たちは一向に止まらない荷馬車を前に、危険を感じて左右へと散った。
人と人とで作られた通路の間を、荷馬車は容赦なく進んでいく。
町人は、唖然と荷馬車を見送る。
その後、荷馬車の後に領主の館から出てきたのが、兵たちだ。
「全員、沈まれ!」
武器を構え、町人たちを制圧にかかる。
町人たちにとって、サンターガは名君に属した。
辺境の村にまで手を届かせる思いやりは、確かにサンターガ領土内の人々の心を打ったのだ。
だからこそ、名君の振る舞いとはとても思えない制圧という横暴を前に、町人たちは固まり、即座に制圧された。
兵に制圧された町人たちは見た。
領主の館の敷地の中で、奴隷の首輪がついた領主一族が歩き、使用人たちでさえ武器を持って走り回っている現実を。
いったい何が起きているのか。
何もわからない町人の一人が、つい先ほど発っていった荷馬車に視線を向ける。
ガタンゴトン。
荷馬車が進む。
「あれって肉屋?」
「商店です。肉を売っているとは思います」
「ちょっと、もらってくるわね」
「はい?」
言うが早いか、唯は荷馬車から飛び降りた。
商店の前で商人と少々口論になり、返り血を浴びた肉をもって馬車に戻って来た。
「……唯様」
「後、魔物除けのお香がいるって言ってたっけ? どこかにあるかしら?」
「私が買ってまいります」
唯は、ブッチーノ町を進みながら、朧げな記憶を頼りに頼まれた物資を奪い揃えていく。
「これで全部だっけ?」
唯の記憶にある物資を乗せた荷馬車が、町の出入り口である門に近づく。
町の門には唯が乗って来た馬車が止められており、何やら人だかりができていた。
「ほ、本当なんだ! 俺たちは、何もやってねえんだ!」
「嘘つけ! じゃあなんだ、この死体の山は!」
「領主の館でも騒ぎが起きてた! お前たちの仕業だろ! この町に、いったい何をしに来やがった!」
「本当に知らねえんだ! 俺たちは!」
ロマーノは地面に転がされて、町人たちから何度も蹴られている。
「痛い! 痛い!」
馬車の中に座っていたマイエラも、服や腕を引っ張られ、強引に外へ引きずり出されようとしていた。
抵抗するマイエラの体には、無数の痣ができていた。
唯は荷馬車から顔を覗かせ、傷つくロマーノとマイエラを見て呆れたような表情を浮かべる。
「あー、そういう可能性もあったわね。これは、あたしの考えが足りなかったわ」
「唯様?」
そして、荷馬車から飛び出した。
空を駆け、ロマーノに蹴りを入れる町人一人にかかと落としをくらわせる。
町人の体は頭から又まで真っ二つに裂け、ぐしゃりと崩れ落ちる。
「ただいまー。ごめんね、次からは護衛も置いとくようにするから」
ぽかんとしている町人の首を片手で絞め殺して、二人目。
右手で頭、左手で頭を掴んでごっつんこして、三人目、四人目。
五人目。
六人目。
七人目。
ロマーノとマイエラ以外のこの場にいる全員が、門を守っていた兵の横に死体として転がされた。
「怪我は?」
「いえ、大丈夫で……痛っ!?」
「大丈夫じゃないでしょ。腕痛めた状態で馬車を操縦なんてされちゃあ、交通事故が起こるでしょ。腕、貸して」
唯が魔術の書を開きながら、ロマーノの腕を掴む。
書かれた通りに行使した魔法で回復を試みると、ロマーノの傷がみるみる回復していった。
その後、マイエラにも同じことを行い、マイエラの傷も回復させた。
二人が回復したことを確認すると、唯は自慢顔で戦利品の積まれた荷馬車を指差す。
「見なさい! 町を落としたわ!」
「お、おめでとうございます」
「ありがとう! ま、当然だけどね! 村、町、と来たら次はもう……国でしょ!」
「は……はは、そうっすね」
唯の表情を見て、ロマーノは苦虫を噛み潰したような顔で笑う。
「唯様、命令いただければ、私も戦いましたのに」
後続の荷馬車から降りて来たエーザロと奴隷の首輪を見て、ロマーノの笑顔は完全に固まる。
A級剣士でも唯には勝てなかった。
しかも、唯の体には目に見えた傷がないという状況から見れば、唯の圧勝だったと推測できる。
ロマーノの中から、唯の元から逃げ出すという選択肢が再びはじけて消えた。
「いいのよ。雑魚だったし」
「……そうですか」
ロマーノは、唯を見て深々と頭を下げる。
「ご無事でなによりです。ブオン村へご帰還でしょうか」
生きるためにしぶしぶ従うのではなく、忠義を尽くすことに決めた。
統治者に不満を持ちつつも、生活ができるという理由で統治者に従うものなどいくらでもいる。
ロマーノは、次の従う相手として唯を受け入れた。
唯はツインテールを作り直しながら、ロマーノの操縦する馬車と、ブッチーノ町で手に入れた荷馬車を交互に見る。
「そうね、帰還するわ。御者、道を先導して。あたしはこっちの馬車に乗るから」
「畏まりました」
「唯様、私は?」
「マイエラはそっちの馬車。御者一人じゃかわいそうでしょ?」
「畏まりました」
ロマーノの荷馬車が、マイエラを乗せて動き出す。
唯はもう一方の荷馬車に乗り込み、ロマーノの荷馬車を指差す。
「あの馬車の後をついて行って! 村に帰還するわ!」
「畏まりました」
二台の馬車が、ブッチーノ町を離れていく。
町の中では兵士たちが走り回り、町の出入り口である門を封鎖していく。
町人たちはわけの分からぬままに外出の禁止令が出され、巨大な牢獄へと捕えられていった。




