エピローグ②
「メリッサ様」
「どう?クリフ、失恋の痛みは?」
高らかな笑い声と共に、メリッサが姿を現していた。
マクスには、相変わらず視えていない。けれど、アンディがエリーを守るように抱きよせているので、自分の出る幕はないと一歩下がる。黙って壁際で静観することに決めたようだった。
一方、アンディにはメリッサの姿が視えていた。メリッサと一瞬目線を交わし、無言で頷く。
「は?私は、失恋などしていない。エリーとは、ちょっとした誤解があるだけだ。私達は夫婦だ。必ず上手くいく」
「ほんっとーに、いつまでも子供なんだから。ふふ、まぁ、そこが可愛いのだけどね。失恋の痛みがつらいでしょう?
それくらいの痛みではぜんっ一一一一一一ぜん、足りないけど。
ふふふ、大丈夫。私が慰めてあげるわ。一緒に行きましょう、ね?」
「はっ?なんだ?体が動かない。メリッサ何をしたーーーーうわーーーー」
メリッサは妖艶な笑みを浮かべながら、クリフォードへ手をかざす。すると、クリフォードは、突然現れた魔力が込められた鎖により、その身を拘束されてしまう。身動きがとれず、半狂乱になりジタバタ暴れ叫ぶ。
「最初から周りくどいことなんてせずに、こうすれば良かったわね。ねえ?クリフ。長年分かり合えなかったのだもの。ずーっと私は、歩み寄ろうとしていたのに……。本当に酷い人。私達には、言葉は必要ないわね?大丈夫、理解できなくてもいいのよ。これから、たーっぷりと、その身体に教え込むから、ね?」
拘束された状態で、クリフォードの身体を宙に浮かべる。自分の置かれた状況に恐怖を覚えたクリフォードは、「近づくな」と懇願する。メリッサは、楽しむように、じりじりと距離を詰めると、人差指でクリフォフォードの顎を掬い上げた。
「ま、ま、待て待てメリッサ。落ち着け!
これは何だ?一緒に行くとは?一旦、これを解いてくれ、分かるよな?メリッサ。話し合おう」
「お頭の弱いクリフには、難しかったかしら?時間なら、たーぷりとあるから、大丈夫よ。
あなたの腐った性根を叩き直すから。ふふ。誰にも見つからない場所でね。」
「メリッサ、お、お、お前は、やっぱりヤバイ奴だな。だ、だから、苦手だったんだ。無駄に美人な癖して、性格が歪んでるだろ!!」
「あーら、そんな無駄口を叩けるのは今のうちだけよ。ふふふ、あそこでは、私は何をしても咎められることはないの。この意味分かるかしら?ふふ」
嫌がるクリフォードを宥めるように言い聞かせると、メリッサは指を弾く。
「おい、よせよせよせよせ、メリッサーーーーやめてくれーーーーー!!!
ぎゃーーー一!」
テーブルの上には、いつの間にかオルゴールが置かれており、クリフォードは、絶叫と共にオルゴールに吸い込まれていった。
「エリー、オルゴールを持っていてくれてありがとう。おかげで色々出来たわ。
ふぅ、これで、厄介ごとが片付いたわ。
久々に家族に会ったら、皆驚いていたわ。まぁ、こんなに年数が経ってしまっているから当然よね。あまりにも老けているから驚いたわ。だって、兄が父みたいになっているのだもの。皆からは、魔女呼ばわりされて、揶揄われたけどね。元気そうで良かったわ。
そうそう、私が合図したら、王命が下るわ。
おめでとう!アンドリュー、あなたが新たな辺境伯よ。汚れ仕事を引き受けている分、家族は、私には甘いから。
さてと。ざっと100年くらいは、クリフを調教……いいえ、教育して過ごすわね。
そうね、マクス達はそのまま不老にしておこうかしら。マクスは、元気になったと喜んでいるみたいだしね。エリーがこの後どうなったのかも知りたいし。報告要員も兼ねてもらいましょう。
領民が不思議に思わないように、記憶操作の魔法をかけておくから心配しないで。
あなた達の子孫に会えるのを、楽しみにしてるわね。
あ、そうそう、大事なことを言い忘れていたわ。それまで、そのオルゴールをよろしくね。じゃあね」
ひとしきり話し終えると、メリッサは光に包まれた。すぅっと吸い込まれるようにオルゴールの中へと消えていった。
メリッサが消え去ると、嵐が過ぎ去ったように静寂に包まれる。
呆気にとられて、皆しばらくは、放心状態だった。沈黙を破ったのは、アンディだった。現実に意識を取り戻すと、おもむろに懐から包を取り出す。
「エリー。これを受け取ってほしい」
包みにくるまれていたのは、一輪の赤いコダの花だった。
「アンディ、これ、ちょっと潰れてる」
「あぁ、そうだな……。なるべく気をつけたつもりだったが、すまない」
少し潰れているけれど、とても嬉しい。
「エリー、約束通り迎えにきた。だから、
今度は君が約束を……あの時の僕の願いを叶えてくれたら嬉しい」
「アンディ」
今、あの時の言葉を口にするのは、恥ずかしい。羞恥心を堪えて、真っ赤になりながらも、あの時の言葉を紡ぐ。
「わ、私の傍にいる権利をあなたに」
「それだけじゃないよね?伴侶としてが抜けてる。結婚しよう!エリー」
エリーの頬に手を添えて、熱い眼差しを向けるアンディ。その瞳の奥には、情熱的な感情が宿っていた。
エリーがそっと目を閉じると、優しく唇が触れ合うのを感じた。
青いコダで、ずっと想いを伝えてくれていたアンディ。白いコダは、旦那様へむけての決別のメッセージ。そして、迎えに行くという意味を込めていたのね。
「アンディ、でも、いつ邸に忍び込んだの?」
「ん?邸を訪れたのは、今日が初めてだよ。全て整えてから、迎えに行くと決めていたから」
アンディの言葉が本当ならば、辻褄があわない。では、離縁届けは誰が持って行ったの?
「だって、離縁届は……?」
「あぁ、そのことについては、詳しくは分からない。親切な誰かが、僕に報せてくれたんだ。離縁が成立したことや、色々とね。エリーへの……その……酷い仕打ちの事も……」
「っ!」
親切な誰かって、メリッサ様なのね。じゃあ、アンディは、知っているのね……。私が、襲われるように強引に純潔を奪われたことも……。
「アンディ、私……穢れている。あの頃とは……違う。あなたには知られたくなかった。早急に離縁が認められたから、白い結婚であったと、誤解してくれたらいいと思ってしまった。浅ましい考えを持ってたの……」
「エリー、そんな顔をしないで。エリーは、昔も今もこれからも、僕の大切なエリーに代わりない。僕の気持ちは、誰にも負けないつもりだよ。何発かお見舞いした気がするんだが、不思議なことに顔に全く傷がつかなかったんだよね」
「アンディ?もしかして旦那様と?」
「エリー、離縁したのだから、旦那様じゃない。あんな奴とは一切の関係はない。記憶に残す価値もない。もう、何も心配はいらないよ。これからは、ずっと一緒だから」
「オホン!あー、お取り込み中に失礼します。気のせいでなければ、
私には、旦那様が吸い込まれたように見えたのですが……。後ほどご説明いただければと思います。今は、ご遠慮致しますね。では、失礼致します」
いけない、マクスがいたのだったわ。
マクスの退室を確認すると、アンディと共に笑い合う。
「エリー、君に触れたい……」
アンディの空色の瞳が、徐々に欲情の灯火が灯り熱を帯びていく。
「アンディ……」
エリーは、アンディの頬の傷を、慈しむようにそっとなでる。
アンディは、エリーの手を取ると口づけを落とす。
「アンディ、ここでは、ちょっと……」
「エリーの部屋へ行こう。首に手をまわして」
「きゃぁ!アンディ」
アンディにより横抱きにされたエリーは、そのまま私室へと運ばれて行く。
急展開に思考が、追いつかないでいた。
「アンディ、待って」
「待たない、もう、待たない!」
恥ずかしがるエリーの手を軽く抑えると、アンディはエリーを組み敷く。
「エリー、ずっと、ずっと、会いたかった。まだ夢を見ているようだ。エリー愛している……もう誰にも渡さない!」
「アンディ……嬉しい。私も、ずっと想っていた……」
二人は、会えなかった日々を埋めるように、お互いの想いを確かめ合ったのだった。
◇◆◇
アンディとエリーは、結婚して2人で辺境の地を守って暮らした。
3人の子供に恵まれて、孫が生まれて、ひ孫が生まれて、賑やかになった。
2人が亡くなってからも、子供達の傍にはいつもマクスが見守っており、美味しい料理をビルが作り、平和な時が流れた。
100年経った時、メリッサは再び現れなかった。
100年ではまだ…クリフの教育が終わらないのだろうか?
あのオルゴールは、2人の子孫に今も大切に受け継がれている。
~fin~
最後までお付き合いくださった方がいるか分かりませんが、ありがとうございました!
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