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小さな会社員への飲会勧誘生活

 夏祭りの傷が完全に癒えていない中、問題ないと思ってモデルの番組撮影に臨んだのですが、まさかあのような事件が起きるとは思いませんでした。そのおかげで今私は自宅で療養中です。

(と言っても、怪我していなくても大人しく自宅にいるつもりでしたが。)

 最近、家事が疎かになっている気がしていましたので、今の内に溜まった家事をするとしましょう。

(洗濯機を回している間に掃除機をかけつつ、今日は何を作るか考えますか。)

 そんなことを考えていたら、携帯に通知が来ました。

(ん?)

 その通知の内容は、今晩、寮にいて且つ時間がある人達はロビーで飲み会やろうぜ、というものです。この通知、工藤先輩からのようですね。どうやら工藤先輩は、今日飲み会がしたいらしいです。

「・・・え?」

 その飲み会、どうやら一人一品持ちよりらしいです。それは別に構わないのですが、何故か私は名指しで、

「もちろん優は参加するよな?な??」

 と、送られてきていました。まぁ別にいいのですが、どうして私を名指しで?とても気になります。

「優君は確か今日は一日家でのんびりするはずよ。だから優君は参加出来るわよ。ねぇ、優君?」

 工藤先輩の通知の後、菊池先輩が反応します。・・・いえ、別に返信するのは構わないのですよ?構わないのですが、どうして誰にも話していない私の予定を菊池先輩が把握しているのでしょう?ちょっと・・・いえ、かなり怖いです。

(更に恐ろしいことに、菊池先輩が話している私の予定が合っているのですよね。)

 これで間違っていたら冗談と割り切ることが出来るのですがね。どうやって菊池先輩は私の予定を把握しているのでしょう?

(・・・いえ、今は別の事を考えましょう。)

 それより今日の飲み会の件です。私はお酒を飲むことは出来ませんが、飲み会は喜んで参加させていただきます。私はこの旨で返信します。すると、すぐに工藤先輩から返信が来ました。

「それじゃあ今日来る人達は一人一品持ちよりな♪俺も作ってくるから楽しみにしていてくれ!」

 ・・・。

 ・・・・・・え?

 あの工藤先輩が?

 あの、料理を作ることが出来ない工藤先輩が?

 あの、お茶を淹れて飲んだだけで大騒ぎになってしまうくらい、料理に関する技能が絶望的な工藤先輩が、手作り料理?

「キャンセルしましょう。」

 工藤先輩の通知の直後、他の方々もキャンセルの連絡が連投されています。みなさん、絶対工藤先輩の手料理を食べたくなくてキャンセルしていますね。私も工藤先輩の手料理は食べたくないので気持ちはよく分かります。

「冗談だよ、冗談。俺はもちろん既製品を持っていくつもりだから安心してくれ。」

 その通知を皮切りに、続々と参加するという意思表明の連絡が来ます。

(工藤先輩の手料理・・・恐ろしいです。)

 もしかしたら拷問より恐ろしいかもしれません。食べたことはないのですが夢に出てきそうです。

「ん?」

 誰かから通知が来ましたね。しかもこれは私の個人チャットに、です。一体誰でしょう・・・て、

「桐谷先輩から?」

 わざわざ大型連休のこの日に桐谷先輩からの連絡?一体何用なのでしょう?

「・・・なるほど。」

 どうやら桐谷先輩は私の部屋に来たいらしいです。しかも、今橘先輩と一緒にいて、橘先輩も一緒に来たいとのこと。

「どうしてこの二人が今、一緒にいるのでしょう?」

 休日の午前中に一体どうして・・・いえ。むやみに詮索するのはやめましょう。別に誰かと一緒にいてもいいじゃないですか。きっと桐谷先輩、橘先輩なりの事情があるのです。だから詮索はしないようにしましょう。

「まぁ、別にいいですよ。」

 私は別に、家に来てもらって構わないのでその旨を返信します。するとすぐに、

「分かりました。それでは少し経ったら橘先輩と一緒に行きますね。」

 という返信が来ました。

「そういえば、何用でこちらに来るのでしょう?」

 私の部屋に来るということは、私に何か用があること。その用とは何なのか、聞くタイミングを逃してしまいました。まぁ来てもらった時に聞けばいいでしょう。

「桐谷先輩と橘先輩がこちらに来るのであれば、部屋は出来るだけ綺麗にしておきましょう。」

 いつも綺麗にしようと心掛けているのですが、念には念をかけておきましょう。私は部屋の中を掃除しながら、桐谷先輩と橘先輩を待ちます。

「来た。」

 玄関のチャイムが鳴りましたので、玄関まで行きますと、さきほど話していた桐谷先輩と橘先輩がいました。本当に二人は一緒にいましたのね。別に疑ってはいなかったのですが。

「すみません。急に来たいと連絡してしまって。ご迷惑ではありませんでしたか?」

「いえ。私も暇していましたので構いませんよ。」

「そうでしたか。それでは失礼します。」

「俺も失礼する。後これ、お土産だ。」

「わざわざありがとうございます。」

 私は橘先輩からお土産を受け取ります。後で中身を確認しましょう。

「あ、私もお土産ありますよ!優さん、受け取ってください!」

「桐谷先輩もわざわざありがとうございます。」

 桐谷先輩からもお土産をもらいました。お二人とも、私にこのような気はつかわなくていいですのに。

「出来るだけ早く冷凍庫に入れてくださいね。」

「早く入れないと溶けちまうからな。」

「溶ける、ですか?」

 お土産の中身は冷凍もの、ということですか。それなら早く冷凍庫に入れておくべきでしょう。

「それでは奥の部屋にどうぞ。私はこのお土産を冷凍庫に入れますので。」

「それなら手伝いますよ?」

「俺もだ。俺が持ってきたお土産なわけだし。」

「そう、ですか。それではご協力の方、お願いします。」

「はい。」

「ああ。」

 私は桐谷先輩、橘先輩と協力してお土産を冷凍庫にしまいました。

(それにしても、お土産の冷凍ものがアイスだったなんて、嬉しい誤算です。)

 後で美味しくいただきましょう。

 アイスを入れ終えた私は改めて桐谷先輩と橘先輩をリビングに案内し、席に座ってもらい、お茶を出します。

「・・・優さんの家って、いつもこんなに奇麗なのですか?」

「綺麗だなんてそんな。今日はたまたまですよ。」

「いやいや!この綺麗さ、さては日ごろから掃除をしていますね!流石は優さんです。」

「あ、ありがとうございます・・・。」

 なんだか今日の桐谷先輩、いつもより情熱的な気がします。

「それで二人とも、今日は何用で・・・、」

「ところで優さん、私達に何かやってもらいたいこととかありますか?」

「やってもらいたいこと、ですか?」

 急に言われてもやってもらいたいことなんて思いつきませんね。大抵のことは自分で出来ますし、せっかくの休日に雑事なんてしたくないでしょうし、私は今の先輩方に雑事なんてさせたくありません。

「特にやってもらいたいことはないですね。」

 私がそう言いますと、

「え!?私達、なんでもやりますよ!」

「部屋の掃除とかトイレの掃除とか台所の掃除とか風呂場の掃除とか、色々やるぞ。」

「えぇ~・・・。」

 何故二人はこれほど掃除にやる気なのでしょう?二人とも掃除が好きなのですかね?これほどやる気なのなら、自分の部屋を掃除すればいいのでは?・・・もしかして、もう既に掃除し終えて私のところに来たのでしょうか?

(・・・何故かは分かりませんが、物凄い期待の眼差しで見られています。)

 これはもう、お願いしない方が失礼かもしれません。

 というわけで私は、台所の掃除をお願いしました。

「わっかりました!」

「承った。」

 そう言い、二人は笑顔で台所の掃除を始めました。私も掃除に協力しようとしたのですが、

「優さんはリビングでゆっくり休んでいてください!」

「なんならアイスを食ってのんびりしていてくれ。」

「そ、そうですかぁ~?」

 ま、まぁ、橘先輩にそう言われたわけですし、大人しく冷凍庫に入れているアイスでも食べますか。その後、橘先輩と桐谷先輩は大度事の掃除をしてくれました。本当に私は見ているだけだったのですが、これでよかったのでしょうか?

 その後、桐谷先輩と橘先輩は、

「優さん、怪我の方は大丈夫ですか?」

「無理、していないか?」

 私の怪我を心配してくれました。

(・・・もしかして二人とも、私の事を心配して・・・?)

 ちょっと自意識過剰かもしれません。私は二人に聞いてみることにしました。

「そう、ですね。だって優さん、怪我してから出社せず、そのまま長期休暇に入ってしまいましたので・・・、」

「大丈夫なことはリモートで分かっていたが、それでも心配だった。」

「そうでしたか。心配させてしまい申し訳ありません。」

「!?いえいえ、優さんがわざわざ謝る必要はないですよ!?」

「優が悪いわけじゃない。俺が勝手に心配しただけだ。」

「いえいえ。心配されるようなことをしている私が悪いですので。」

 元を辿れば、私があのような輩と相対しなければ、桐谷先輩と橘先輩を心配させることはありませんでした。

(この感じですと、つい先日起きたあの一件は知らなさそうですね。)

 夏祭りの一件は二人に知られているようですが、モデルの件は把握していなさそうです。

(モデルの件を知ってしまったら、ただでさえ心配している桐谷先輩と橘先輩が更に心配してしまいますからね。)

「・・・本当に大丈夫、です?」

「?何がです?」

 本当に大丈夫なのですが、桐谷先輩は何に対して大丈夫と言っているのでしょう?

「・・・なら別にいいのですが。」

「?」

「・・・。」

 なんでしょう?微妙な空気になっているような・・・?

(まぁ、気のせいですね。)

 その後、桐谷先輩と橘先輩は私の体を気にしながら、台所を掃除してくれました。

「本当にわざわざありがとうございました。それにしても本当に一息つかなくていいのですか?」

「いいです。私達、これから今夜の飲み会に持っていく一品の準備をしますので。」

「用意をしてからのんびり過ごすつもりだ。」

「のんびり過ごすはずでしたのに、わざわざ私のところに来て掃除をしてくださるなんて、本当に迷惑をかけて申し訳ありません。」

「!?い、いいんですよ!?私達がしたくてしたわけですし!」

「こうして無事に優の顔を見ることが出来て良かった。」

「そうですか?それなら良かったです。」

「それでは優さん、また夜に。」

「それじゃあ。」

「二人とも、今日は本当にありがとうございました。」

 こうして、桐谷先輩と橘先輩が去って行きました。

 その後、私は家でのんびり副業しようとしたのですが、他の先輩方も個別で何度も連絡が来て、何人も自宅に招きました。来た理由は、桐谷先輩や橘先輩と似たような理由で、どうやら私の体を心配してのお見舞いに来てくれたらしいです。

(私のことを心配してくれる、本当に嬉しいです。)

 先輩方には本当に感謝です。

 ・・・ところでみなさん、夏祭りの件のことには触れてきたのですが、先日起きたモデルの件については一切触れてきませんでしたね。知らないのなら触れてこなくても問題ないのですが、どうにも気になります。もしかしてみなさん、意図的に触れてこなかったのでは?だとしたら一体どんな意図が・・・?

(・・・気にしても分からないので、気にしないようにしましょう。)

 そろそろ私も、夜の飲み会に向けて何か一品作りますか。

 そして私は飲み会に持っていく一品を作り、夜までのんびり待ちます。


 夜。

(結局作り過ぎてしまいました。)

 飲み会に持っていく料理なのですが、自分が想定していた量よりだいぶ多めに作ってしまいました。食べ切れなかったらどうしましょう?・・・まぁ、その時はその時ですね。素直にそのまま持ち帰って自分で消費すればいいだけの話です。

「行きますか。」

 準備するにも時間がかかるでしょうし、予定の時刻より少し早めに向かいますか。

 早めに着いたところ、

「・・・あれ?優、やけに早いな。何か聞きたいことでもあったのか?」

 工藤先輩が既に準備を始めていました。流石は発案者です。

「一人で準備は大変でしょう?手伝いますよ。」

 私は工藤先輩の近くまで行き、食器を持ちます。

「わりぃ、助かる。それじゃあ俺が用意したこの・・・、」

 そう言いながら工藤先輩はどこからか大きな袋を取り出します。

「枝豆を茹でてくれ。」

「分かりました。」

 私は工藤先輩から大きな袋を受け取ります。

「・・・ちなみにですが工藤先輩、枝豆を茹でた、なんてことはしていませんよね?」

 私は念の為に聞いてみます。すると工藤先輩はそっぽを向きます。

「・・・今回、俺が発案者だし、茹でるくらいなら俺でも出来るだろうと思ってやってみたのだが・・・、」

 そう言い、工藤先輩はあるものを指さす。指さした先にあったものは・・・これはなんですか?

(いや・・・まさか・・・?)

 私は工藤先輩を見ます。工藤先輩の顔色から判断するに、どうやら私の推測は当たっているようです。

「駄目だった。ダークマターが出来ちまった・・・。」

 私は何も言わず、工藤先輩の肩を叩きます。

「無理しないでください。枝豆を茹でるくらい、私に任せてください。」

 私は枝豆を茹で始めます。

「すまない。俺が料理出来ないばかりに・・・、」

「気にしないでください。工藤先輩こそ、こんな大量に枝豆を用意してくださりありがとうございます。みなさんも喜んでくれると思います。」

 全員で食べても食べ切ることが出来るかどうか分からないくらい大量にありますね。

(さて、やりますか。)

 私は、工藤先輩が持ってきてくれた枝豆を茹で始めました。

 その後、私が枝豆を茹でていると続々と人が集まってきました。人が集まってきたということは、テーブルに並べられる料理も増えていくということで、

「すごい!」

「これ、食べたかったんだよなー!」

「うめぇ、うめぇ!!」

 続々と美味しいコールが周囲に広がっていきました。みなさんが美味しいと言ってくれて私も嬉しいです。

「優君、ちゃんと食べている?」

 いつの間にか参加していた菊池先輩が私に声をかけてきます。

「はい。みなさんが持ってきてくださったご飯、とても美味しいです。」

 この私の返事に、

「そう。優君もしっかり楽しんでね。」

「分かりました。」

「・・・今の内に、ね。」

「?」

 さきほど菊池先輩が何か言ったような気がしましたが、何を言ったのでしょう?声が小さくて聞き取ることが出来ませんでした。なんと言ったのか質問してもよかったのですが、声が小さかったのでそれほど大したことでもないでしょう。そう推測し、私はこの飲み会を楽しむことにしました。

 私が飲み会を楽しみ始めてからある程度時間が経過しました。みなさん、それなりにお酒を飲み、酔ってきているなと思った時、

「ねぇねぇ、優君?」

 菊池先輩が私に話しかけてきました。

「どうしましたか?おつまみが足りなくなってきましたか?」

 私は台所から追加の枝豆を持ってこようと席を立ちます。工藤先輩のおかげで枝豆が大量にありますからね。

「ううん、優君はここにいて。」

「はぁ。」

 私は立った後、すぐに座り直します。

「それで優君、私達に何か報告しなきゃいけないこととか、ない?」

「菊池先輩達に報告しなきゃいけないこと、ですか?」

 一体何のことでしょう?思い当たることがない・・・ことはなかったですね。

(夏祭りの件でしょうね。)

 その件に関しては、先輩方に心配かけさせてしまいましたからね。今朝もわざわざ私のお見舞いに来てくれたほどですしね。その事に関して報告して、という意味でしょう。菊池先輩の意図を理解した私は先輩方に報告します。

「先輩方、先日は急に休んでしまい、心配させて申し訳ありませんでした。見ての通り私は元気ですので心配しないでください。」

 私はそう言い、頭を下げました。

(・・・あれ?)

 頭を上げてから時間が経過したのですが、みなさんから目立ったアクションがありませんね。まぁ報告するだけですし、アクションがなくても問題はないですね。出来れば頷いてほしいとは思いますが、必須ではありませんからね。返事がない時もあります。

「・・・それだけ?」

「え?」

 ここで菊池先輩が予想外な返事をしてきました。

「本当にそれだけなの?」

「・・・それだけ、だと思いますよ?」

 他に何か報告するべきことがあったでしょうか?業務関連は長期休暇に入る前、十分な時間を確保して行いましたし、体調の件についてもその時に報告しましたし、なんなら今もしました。

「他に報告すべきことがあるのではなくて?」

「報告すべきこと、ですか・・・、」

 菊池先輩の発言に棘を感じながらも、私は記憶を遡り、報告すべき内容について振り返ります。

 ・・・。

(どうしましょう。何も思いつきません。)

 菊池先輩は一体何をしたいのでしょう?私から何かを引き出したいのでしょうか?だとしたら一体何を引き出したいのでしょう?

「ちょっとヒントを出すわ。先日のモデルの件よ。」

「・・・。」

 それ、ヒントじゃなくて答えになっていませんか?

(もしかして今日、先輩方がお見舞いに来てくれたことって、そういうことなのですか?)

 夏祭りの件ではなく、先日起きたモデル襲撃未遂の件でしたか。その件については確かにこれまで触れてきませんでしたね。

 ・・・もしかして私、これから怒られる流れ、ですか?だとしたらまずいですね。なんとかこの場を乗り切らないとなりません。

(というかみなさんは先日の件、本当に把握しているのでしょうか?)

 ワンちゃん、みなさんが知らない可能性もあります。その可能性に賭けてみますか。

「モデルの件、ですか?そういえばそんなニュースがあったかもしれませんね。最近静養していたもので最新の情報を仕入れていないのですよ。」

 これでどうでしょう?

「・・・優君、本当にそれでいいの?」

「・・・私は正直に答えているつもりですよ?」

 私と菊池先輩の間に奇妙な空気が流れます。この空気、どうにも嫌な予感がします。これ、早急に離席した方が・・・?

「そう。私、残念だわ。本当に。」

 そう言いながら菊池先輩はテレビのリモコンを手に取り、ボタンを押しました。すると、テレビに電源が入り、ある映像が映し出されます。

「え?」

 映し出された映像は、女性服を着ている私の映像でした。しかもあの女性服、私の目が確かならモデル襲撃未遂事件の時に着ていた服じゃないですか!?

(これ、もしかしなくてもばれていますね。)

 これから私、どうすればよろしいのでしょう?私が反応に困っていると、

「ねぇ優君、これでもまだ、自分から言う気はないの?」

 ど、どうしましょう?これ、確実にばれていますよね?そうなると、素直に謝った方がいいのでは?素直に、モデル襲撃未遂事件のことを報告していなくて申し訳ありません、と謝罪した方が・・・。そのように思考していたら、テレビの画面が変わりました。

「優君見て?この可愛い服を着た女の子、どう見ても優君じゃない?」

「!!??」

 菊池先輩、まさか他の女性服を着た時の私の映像も持っているなんて!?

「あ、あの!」

「?ん??どうしたのかしら、優く~ん♪」

「そ、それはわ、わた・・・!」

 み、認めたくないのですが、認めないと菊池先輩止めてくれなさそうですし、頑張って私だと自白しましょう。・・・辛いですけど。

「私です!ですからもうその動画を止めてください!」

「う~ん・・・。」

 菊池先輩は少し悩んでから、こう結論付けました。

「だ~め♪優君にはもっと分かってもらわないとね♪♪」

「そ、そんな!!??」

 私が認めたら止めてくれると思ったのに!!!

 そこからは、私にとって地獄の時間となりました。私の女装姿がテレビにデカデカと映し出され、踊ったり笑顔で笑ったり撮影されたりと、様々な状態の私がいました。

(もう、勘弁してぇ・・・。)

 私の男らしくない姿が続々と映し出されてしまいました。私、もうお嫁さんをもらうことが出来ません。菊池先輩には責任をとってもらいたいところです。

(・・・いや、責任まではいいかな。)

 菊池先輩に責任を追及したら、それじゃあ結婚しましょう♪と、嬉々として言ってきそうです。

 私が地獄の時間を過ごしている中、他の先輩方はどのように・・・楽しそうですね。

(・・・先輩方が楽しそうならいい・・・のかな?)

 私は楽しくありませんのでよくありません。出来れば先輩だけでなく私も楽しむことが出来るような飲み会になってくれると尚良しですかね。次飲み会が行われる場合、先輩方だけでなく私も笑顔になることが出来るような、素敵な飲み会に出来るよう努力しましょう。

 時間は過ぎ、私にとって苦痛の飲み会がようやく終わりました。

(な、長かった・・・。)

 体感、半日続いていたのではないか、そう錯覚してしまうほど長く感じました。

 そんな飲み会が終わり、終わりの挨拶を済ませた先輩方は続々とこの場を後にします。

(工藤先輩は・・・片づけですか。)

 他の先輩方も協力してくれたのですが、流石は主催者です。最後まで残って片付けや掃除をしてくれています。私は工藤先輩の元へ行き、工藤先輩を手伝います。

「別に手伝わなくていいんだぞ?俺一人でも問題なく出来るぞ?」

 そう言われたのですが、工藤先輩のお手伝いがしたかったのでそのまま居座り、工藤先輩を手伝うことにしました。使用した食器等を洗っている時、無言の時間が続きます。

「・・・優、今日の飲み会はどうだった?ちゃんと楽しめたか?」

 工藤先輩のこの質問に、私は正直に答えます。

「はい。みなさん楽しそうに食事をしていて、私も嬉しかったです。」

 欲を言うなら、あの菊池先輩の件がなければもっと良かったと思いますけど、それはまぁ愚痴になるので発言しないようにしましょう。

「そうか。それなら良かった。」

 工藤先輩の声が嬉しそうで良かったです。

「出来ればあの菊池先輩の・・・と、なんでもありません。」

 危ない、危ない。つい言う気のなかった菊池先輩の件を愚痴ってしまうところでした。名前まで出してしまったので工藤先輩にばれてしまったかもしれません。

「・・・俺、今回ばかりは菊池の気持ち、分かるよ。」

「え?ほ、本当ですか?あの、菊池先輩ですよ?」

 私と結婚したいとか、私と肉体的に繋がりたいとか、冗談でも言わない内容をスラスラ言っている菊池先輩の気持ちが分かる、ですって?

「確かに、普段のあいつなら、俺だけじゃなくて他の奴らも、優にだって分からないだろう。それくらいあいつは無茶苦茶だ。」

「ですよね!」

 よかった。工藤先輩の気がどうかしてしまったのかと思いましたよ。工藤先輩が正常でよかったです。

「だが、今回ばかりは俺も優、お前のことが心配だったよ。」

「別に心配しなくても大丈夫ですよ?」

 私は出来るだけ人に迷惑かけずに生活しようとしていますからね。

「違う、そうじゃない。そうじゃないんだ、優。」

 いつの間にか工藤先輩は食器洗いを止め、私の方を向いていました。

「優、お前はもっと自分を大切にしてくれ。お前の体はもう、お前だけの体じゃないんだぞ?」

「・・・。」

 私の体は私だけのものです。

 そう言い返すことは簡単です。ですが、その返しは今するべきではない。そう直感で判断し、何も言い返しませんでした。

「お前の身に何かあったら俺はもちろん、桐谷や橘、菊池だって平常心を保てなくなるだろう。」

「それは言い過ぎではないですか?・・・菊池先輩については当たっていると思いますけど。」

「そんなことはない。みんな、優が無理をしていないか心配なんだよ。」

「私、いつも無理していないですよ?いつも私が出来ることを出来る範囲で行っているつもりです。」

「人を助ける為に大怪我することが、優にとって出来ることなのか?俺達は優に怪我してほしくない。いつも元気で、笑って過ごしてほしい。」

「・・・努力はします。ですが、私は先輩方恩人を助ける為なら、どれほど怪我をしようと苦労しようと構いません。」

 私が頑張ることで先輩達が救われるのなら、私はいくらでも頑張ります。

「・・・それなら、俺達がそんな状況にならないよう頑張るしかないか。」

「先輩方が困るのなら、私はいつでも力になります。」

 私は工藤先輩に宣言します。

「力になるからと言って、お前が怪我をしたり、理不尽な誹謗中傷を受けたりする必要はないからな?無理ならいつでも声をかけてくれ。力になるから。」

「その時が来たら言いますよ。」

 そう言ったものの、工藤先輩はどこか納得していない様子でした。

「・・・ちゃんと、ちゃんと言うんだぞ?」

「もちろんそのつもりです。」

「・・・今回、みんなでお前を笑って悪かったと思っている。」

「?」

 工藤先輩は突然何を話しているのでしょう?

「だが悪く思わないでほしい。今回の件、優の口から直接聞きたくて集まった飲み会でもある。だから・・・、」

「・・・いつの間にか私は、先輩方に心配をかけさせてしまった、ということですね。」

「・・・。」

 私の言葉に、工藤先輩は何も答えません。

「笑ったことに対して多少文句を言うのは構わない・・・と思う。が、あいつらを嫌わないでほしい。きっと、安心したことに対する反動だと思うから。」

 そう言いながら、工藤先輩は何かを私に差し出してきました。

(これは・・・。)

「決して、物で許してもらおうというつもりではないが、これを食って気分を落ち着けてほしい。」

 その何かは、カップアイスでした。

「・・・別に文句を言うつもりはありませんよ。だって、私を想って起こしてくれた行動なのですから。ですが、これはいただかせてもらいます。」

 私は工藤先輩からカップアイスを受け取ります。

「それでは食器も洗い終えましたし、私はこれで失礼します。」

「ああ。今日はその・・・悪かったな。」

「いえ、気にしないでください。私を想っての行動、嬉しかったです。ありがとうございます。」

 私は工藤先輩にお礼を言い、この場を後にします。

(さて、先輩方の件もありますし、夏季休暇は大人しく過ごしますか。)

 といっても、夏季休暇中に出かける予定はないのですが。

(さて、それでは休暇を堪能するとしますか。)

次回予告

『保健室の先生から小さな会社員への料理大会勧誘生活』

 多くの大人達に辱められてしまったものの、大人達の気持ちを説いてもらい、自身の行動次第で悲しむ人達がいると早乙女優は気づく。

 その後、静かに夏季休暇を過ごそうとしたが、同好会の活動で料理大会に出場することになる。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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