7・爺さんに会いにいこう
翌朝。
スズメのチュンチュンという鳴き声で、自然と目が覚めた。
「もう朝か……」
ベッドから上半身を起こす。
こんなにゆっくりと寝て起きたのは、久しぶりのことだったかもしれない。
パーティーにいる頃は、朝の五時起きが普通だったからな……。
おかげで頭も体もリフレッシュした。
「おーい、イヴ−、ミディアー。もう朝だぞー」
着替えを住ませてから、隣の部屋へ二人を呼びに行く。
そこには。
「にゃにゃにゃ……もうまたたび食べれないにゃ……」
「おとーさん、これからはずっといっしょだね……」
同じベッドで抱き合って眠っている二人の可愛らしい姿があった。
「結局、一緒に寝たのかよ……」
ベッドは三人分くらいまでならあるので、イヴとミディアは別々で寝ることも可能だったはずだ。
現に、昨日は。
『この猫耳娘! なんで、こんなにまたたび臭いの! 村の誰かが面白がって、あげたでしょ!』
『猫耳族は猫じゃないにゃ……』
『うるさいっ! イヴは一人で寝るからね! あんたは、そっちで寝なさいよね!』
『ボクは一人で寝られるのにゃ……』
ミディアは目を瞑っているので寝言だと思うが、それでもイヴと会話が成立している(?)ので面白かった。
それなのに、今はイヴの布団にミディアが潜り込んでいる。
ということは……。
「どうやら、ミディアがねぼけてイヴの布団に入り込んだみたいだな」
俺が部屋に入ってきても、二人は起きる気配がない。
起こそうと思ったが、あまりに気持ちよさそうに寝ているので、その気も失せた。
もう少し寝させてあげてもいいだろう。
「さて……となると、俺はモーガン爺さんのところにでも行こうかな」
モーガン爺さんは、俺が留守中にイヴの世話を頼んでいる人でもある。
昨日の宴会でも顔は見たが、なんだかんだであまり喋れなかったので、改めてお礼を言いたかった。
「じゃあ、二人共。昼くらいには戻るからなー」
「むにゃむにゃ」
俺は寝ている二人にそう言って、家を後にした。
「おーい、モーガン爺さん。大丈夫かー」
「うぅ……」
モーガン爺さんの家に行くと、なにやらベッドの上で悶え苦しんでいた。
「だ、大丈夫か爺さん!」
「うぅ……二日酔いでのぅ……それに腰も痛い」
「あっ、そっか」
「うぅ……」
モーガン爺さんは顔色を悪くして、うーう言っていた。
「その歳で二日酔いって……まだ若者みたいな飲み方してるんだな」
「ロマンが異常なのじゃ……お主も、昨日はあれだけ飲んでいたというのに、どうして平気な顔をしておるのじゃ?」
「二日酔いなんて、冒険者失格だ」
ベッドの横にあった椅子に腰をかける。
モーガン爺さんは、俺の子どもの頃から爺さんだった。
一体、何歳なのかは分からない。それはハウゼ村七不思議の一つに数えられている。
しかし噂では、百歳を超えているという話もある。
六十くらいが平均寿命のこの世界では、モーガン爺さんは百歳にしてはかなり元気な方だろう。
子ども達からは『妖怪』とも呼ばれている。
「うぅ……ワシも若い頃は、もっとブイブイ言わせておったのじゃ。二十年前だったら、こんなもんで二日酔いにならなかったのじゃが……」
「二十年前も爺さんだろうが」
「うぅ……気分が悪い。ロマンはワシを心配してくれて、ここに来てくれたのか?」
「いや——イヴの世話を見てくれたことに関して、お礼を言おうと思って」
「おぉ、そうか。ワシの心配をせえ。お主が三年前に、いきなりイヴを連れてきた時はビックリしたぞ」
「悪かったな。感謝している。立派に育ってみたいで、安心した」
「うむ。良い女に育った」
「それを言うのは、後十年は必要だろうが」
「うぅ……」
……気分悪そうだ。
「ロマン。こ、腰を揉んでくれんかのぅ。二日酔いもそうじゃが、腰が痛いのじゃ」
「元Aランク冒険者も見る影もないな」
「うぅ……」
俺がまだ承諾しない間に、モーガン爺さんがベッドの上で俯せになった。
「仕方ないな……」
ベッドに上がり、モーガン爺さんの背中を指圧してやる。
「おぉ、そこじゃそこじゃ」
モーガン爺さんが気持ちよさそうな声を上げた。
「爺さん。なかなか良い筋肉の付き方してるが、まだ訓練とかしてるのか?」
「おぉ、よく気付いたのぅ。なにを隠そう、ワシはまだ冒険者を引退しておらん」
「その歳でっ?」
モーガン爺さんの体はしわくちゃで、子どもとどっこいどっこいの大きさではあったが、機能的な筋肉が付いていることが分かった。
俺も鍛えることは好きなので、触っただけで大体分かるのだ。
まだ冒険者を引退してないことは驚きであるが、モーガン爺さんの話に嘘はない。
「ワシの若い頃を知らない若者はみくびっているみたいじゃが、まだまだワシも行けるぞぉ」
「そうだろうな」
戯れ言ではない。
筋肉の付き方を見れば、Aランク……とまではいかないが、少々の強い敵なら難なくひねり潰せるはずだ。
——モーガン爺さんはハウゼ村で伝説の冒険者として讃えられていた。
今はもう引退しているが、この村唯一のAランク冒険者として。
華麗な剣技と、豪快な魔法をぶっ放すモーガン爺さんを見て、俺は冒険者という職業に憧れたのだ。
「それにしてもロマン。どうして、この村に戻ってきたのじゃ? 王都でSSSランクに到達したんじゃろう?」
「昨日言っただろ」
「覚えておらん」
「……王都での生活に疲れたんだ。これからは、のんびりと過ごしたい」
「そうか」
それ以上、モーガン爺さんは口を挟んでこなかった。
それから三十分くらい、マッサージをしてあげた頃だろうか。
「おぉロマンよ、もう良いぞ。ありがとう。そのおかげで腰の調子も良くなった」
とモーガン爺さんが顔色を良くして、上半身を起こした。
「心なしか、二日酔いもちょっとはマシになったようじゃ」
「そういうツボをついでに押しておいたからな」
「なんと」
「これくらい出来てないと、ダンジョン攻略とかになったら困るからな」
筋トレをするために、最新の筋肉事情は頭に入っている。
あの脳筋魔法使いみたいに「根性よ!」と言うだけじゃ、効率的に筋肉は鍛えられないのだ。
「じゃあ、モーガン爺さん。そろそろ行くよ」
「待て、ロマンよ。この村で冒険者をするつもりはないか?」
「のんびり過ごすと言っても、無職になるつもりはないからな。落ち着いたら、ギルドに行ってみるよ」
「うむ」
そういうやり取りをして、俺はモーガン爺さん家から出た。
自宅に帰ると。
「おとーさん、どこに行ってたの!」
「弟子のボクを残してどこかに行くなんて……厳罰に値するね!」
イヴとミディアが怒った様子で、駆け寄ってきた。
俺が説明しようとする前に。
「そうそう、聞いてくれたまえよ! このイヴとかいう女は、寝ている間にボクのベッドに潜り込んできたのだよ!」
「それは、あんたの方でしょ! イヴは自分のベッドで寝てたんだからっ!」
「ふしゃー」
ミディアが猫耳をピンと立てて、イヴを威圧する。
それに対し、一歩も引く様子のないイヴ。
「……仲良くしろよ」
「嫌だね!」
「嫌よっ!」
お互いがお互いを指差して、二人は力強くそう叫んだ。
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