シェイプシフター
シェイプシフター……ドッペルゲンガーに似た存在だが、ドッペルゲンガーは元の姿はハッキリしない存在で、他人の姿と能力をコピーし、元となった存在は殺してすり替わるのに対して、シェイプシフターは本来の人としての姿がある。そして姿をコピーした後、元となった存在から少しづつ過去や記憶をダウンロードでもする様に人間性までコピーして成り替わる。全てをコピーし終えるまでは殺さないのが一般的なのが特徴だそうだ。
ドッペルゲンガーとの違いはこの過去や記憶までをコピーしてしまう事で、完全にコピーされるとシェイプシフター本人以外はほぼ気がつく事はないとまで言われている。
そしてシェイプシフターはドッペルゲンガーの様に邪悪とは限らず、より優れた子孫を残すためや裕福に生きるために、金持ちなどが狙われやすい。
アリエルが戻ってくるまでしか話せる内容ではない為、とりあえず俺がどうすれば良いのかだけ聞く事にした。
「私も昔書物で見ただけなのでハッキリしませんが、サハラ様は今は絶対に悟られない様に振舞ってください」
「私も後で匂いを手繰ってみます」
それでアリエルと繋がれないわけか。俺も必要なら後でキャスに聞いてみるしかなさそうだな。
「お待たせ〜」
えへへと笑いながらアリエルが戻り、俺に抱きついてきて、耳元で昨晩はホントにゴメンねと謝ってきた。この急激な変化はおそらく準備というのは嘘で、たった今アリエルの記憶を新たにコピーしてきたのだろう。
「あーあー、お熱いことで!」
「全くです。少しは私達が居るんですから控えてもらいたいものですね」
エアロとビクターが口を揃えた様にワザと言う。
「別に新婚夫婦なんだから良いじゃない。ねぇ? あ、な、た」
「ん、ああ、そうだな」
こうしている間もアリエルは生かされてはいるが、辛い目にあっているかと思うと心が苦しい。しかし、アリエルと繋がれないのはどうしてなのかわからなかった。
やがて全員が揃うと霊峰の町を出て、館の捜索に入る。前衛は言い出しっぺのドゥーぺに俺とフェンリルで、後はゾロゾロついて行くといった雑なものだった。
「サハラさん、さっきの事なんですが……」
ドゥーぺが先ほどのアリエルが言ったアラスカとの関係を聞いてきた。
必ずこの話はまた出るだろうと思っていた俺は、あらかじめ考えておいた事を話す。
「いやぁ実はこの事は本当に秘密なんだ。アリエルがついポロっと言っちゃったみたいだけど、そういう事で聞かなかった事にして欲しいんだ」
「サハラさん、もしかしたら7つ星の騎士なんですか?」
「いやさすがにそれは違うよ」
そうですか。とドゥーぺはここで聞くのをやめてくれた。
半日だけの探検ごっこだったつもりが、ドゥーぺの英雄マニアは伊達ではなかった様で、確実に館に向かっており、このままでは確実に館まで辿り着いてしまいかねなかった。
ただでさえアリエルのマナの暴走で翻弄されているというのに、シェイプシフターによる偽物とアリエルの行方の心配、そしてこれだ。
そして遂には館を覆う森を越えるだけになり、俺はそっと誰にも気づかれない様にドルイド魔法を使う他なかった。
「あれ? また戻っちゃったみたいですね」
「だからよー、もうやめておこうぜ。きっと警告みたいなもんなんだよ。ここを越えたらきっと俺ら戻れなくなるぞ」
「サハラさんはどう思いますか?」
「そうだな、冒険者経験から言えば、デノンと同じく引き返すべきだと思うな」
皆んなも同じ意見の様で、何度も森を抜けると同じ場所に戻る為不安になっている。俺的にうまくやれたと思っていた。
「そうでした! サハラさんドルイドなんですから、森を抜けるのなんてどうって事ないんじゃないですか?」
ドゥーぺは案外諦めの悪い性格の様で、俺のドルイドとしての力を借りようとしてきた。
「普通の森なら何とかなるが、これはこの先来るなと言ってるのも同然だぞ? ドゥーぺは皆んなを巻き込みたいのか?」
さすがのドゥーぺも皆んなの顔色を見て諦めの表情を見せる。
「そう、ですよね。分かりました……」
やっと諦めてくれる様で助かった。時間的にもそろそろ帰路につかないと不味かったのも理由だろう。
ガッカリと歩くドゥーぺを他所に他の皆んなは何事も起こらなくて済み、内心ホッとしている様にも見えた。
「ドゥーぺ君、もしも君がそういった事を成し遂げたいのなら冒険者になるしかない。
冒険者の中にはきっと君と同調する仲間もいるだろうから、そういう仲間とともにまた探しに来れば良いんだよ」
ビクターがそういって元気づけていた。
でも確かドゥーぺの夢は魔導兵になる事だったよなぁとか思ったが、そこは黙っておく事にした。将来なんて大きくなるにつれ、知識や知恵が高まれば変わっていくものだ。
それより、と俺はアリエルの姿をしたシェイプシフターを見つめる。笑顔で返してくるその姿はアリエルそのものだったが、本当のアリエルは今どんな状態なのかが心配だった。
「そういや最近モリスは大人しいんだな。サハラを諦めたのか?」
「ふっ、新婚旅行を楽しむ2人を邪魔するほど俺は無粋じゃないぜ! 学院に戻ってからが本番だ!」
「勝手に頑張りやがれ」
恐ろしい会話が聞こえてきたが俺は聞こえないフリをしておいた。
町に戻ると一度解散し、夕飯が終わったら皆んなで温泉に浸かりに来る事で別れる。
「ねぇあなた、夕飯は食べたい場所があるの」
そう言ってきた場所はどう見ても高級な料理店にしか見えず、実際に味は美味しかったがとんでもない金額を請求されたのは言うまでもない。
宿屋に戻るとアリエルはまたいつもの様にちょっと出かけるねと宿屋を離れようとしてくる。
「どこに行くんだ?」
「……そういうのレディに普通聞く?」
「済まなかった」
そう言うと手をひらひらさせながら出て行った。
仮に用を足しに行ったのだとしよう。羞恥心が無いわけではないが、危険な戦いなんかをしてきている俺らは、現場こそ見ない様にするがお互い側でブリブリしあっている仲だ。
俺はそっと後を追跡することに決め、縮地法を使って追いかけた。




