皆んなで入浴
少しは心配しているかと淡い期待をしながら、宿屋に戻ると部屋の明かりは既に消されとうに眠りについていた様だ。そして俺が戻っても目を覚ます事はなく、ベッドでアリエルは眠っていた。
ベッドに俺も入り込もうとも思ったが、まだ怒っているのだろうとソファに腰掛けて眠る事にした。
翌朝目が覚め、ベッドを見るとアリエルはまだ眠っていて、起こそうとベッドに近づくとアリエルが目を覚ました。
「おはよう」
「……気分悪いから近寄らないでよ」
近寄って触れようとした手を止めた。まだ怒っている様だった。
「まだ昨日の事怒っているのか?」
返事は返ってくる事がなく、アリエルは俺から顔を背ける。俺はショックでソファまで戻り、腰を下ろしてどうしたらいいのかわからなくなってしまう。
しばらくそのまま考え込んでいるとアリエルが起きて着替えだし、無言のまま1人で宿屋を出て行ってしまった。
「一体どうしたらいいって言うんだよっ!」
出て行ってしばらくした頃だ。
『ーーたすーーサハーーさーー』
アリエルが繋がってくる。よく言葉が聞き取れなかったが、どうやら俺に助けを求めている様に思った。
何だ今更……あれだけキレておいて今度は助けろかよ。都合よすぎるんだよ……
そうは思うが、やはり気にはなるし、本当に危険な状況だったりしたらまずいと思い繋がってみる事にする。
『どうしたんだよ?』
しかし返事は待てど返ってこなかった。何かあったのかと宿屋を出ようとした時、アリエルが戻ってきて俺を見つめてくる。
「何?」
「さっきのは何の冗談だ?」
「勝手に出かけた事なら謝るし、昨日は苛立ってしまってごめんなさい」
「そうじゃなくて、さっき助けてとか言っただろ?」
「……別に言ってないわよ?」
「言っただろ!」
「酷いよサハラさん!」
アリエルが宿屋の中に駆け戻っていってしまう。このアリエルの変わりようについていけない俺はフザケンナと叫んでしまった。
「よ、よぉ、なんかとんでもない時に来ちまったみたいだな」
声に気がつきデノンやビクター、アリオト、ミラ、ベネトナシュ、アルナイルが来て見ていた。
「サハラさんとアリエルさん、その、喧嘩、してる?」
不安そうにアルナイルも言ってくる。どう返事を返したものか迷っていると、アリエルが顔を出してきた。
「皆んな来たのね。入って入って」
そう言って俺にくっついてきて、コロッと態度の変えたアリエルが言った。
「あれぇ? 今さっき喧嘩してなかった?」
「ん〜、ちょっとだけね。でも大丈夫だよ、ね?」
そう言って俺をにこやかに見つめてきた。
「……あ、ああ。そうだ、ちょっと意見の食い違いで俺が怒られちゃったんだよ」
「はいはい、そうですかい。朝っぱらからご馳走様だぜ、まったくよぉ〜」
そう笑いながら、皆んなを中に通した。
離れのスイートルームを初めて見る者はその豪華さに驚きつつソファに腰を下ろし、一度温泉に入りに来たミラ、ベネトナシュ、アルナイルは慣れた様に座った。
「昨日は済まん。本当に助かった!」
「面目無いです」
「サハラ先輩ありがとうございました」
「サハラさんとアリエルさんが来てくれなかったら本当に危なかったわ、ありがとう」
「……ありがとう」
「気軽に言い出した私が悪かったんです」
それぞれ頭を下げて謝ってきた。
「いや、助けたのは俺たちじゃなくてアラスカ先生だから、俺達に謝られても……なぁ?」
「うん、そうだよ」
ひとしきり謝ってこられた後は、ここ、離れのゴージャスさの話になっていった。
「いいなぁ、俺達も個人風呂に入りてぇぜ」
「別に構わないよ。あ、でもそうしたら……」
慌てて女性陣を見るとニヤニヤしながら、3人が湯着を出してくる。
「入る気まんまんだったのか」
あははと照れ笑いを見せ、早速入る準備に移って女性達は隣の部屋に消えていった。
「なぁ、そういや1つ気になる事があるんだけどよ」
そうデノンが服を脱ぎながら話を振ってきた。
俺がブチ切れてコボルトと男2人を倒して意識が無くなった後、アラスカ達と霊峰を出てまず俺を宿屋まで運んだらしい。
その後とっ捕まえた生きているゴロツキを領主のところへ連れに、俺とアリエルを残して行ったそうなんだが、デノンがちょっと俺の様子を見に戻ってみると、俺が居るだけでアリエルの姿は見えなかったそうだ。
少しするとアリエルが戻ってきてデノンがいるのに驚いたそうだ。
「いや、勝手に上がりこんじまって悪かった。ただサハラをほったらかしてどこいっちまったんだってな」
「何か取りに行ったんじゃないっすか?」
「そうかもしんねぇが、この離れの入り口から帰ってきたぞ?」
「ふむ……」
ビクターが意味深に考え込んでいると、湯着に着替えた女性陣が出てきたところで、デノンとアリオトの目が湯着姿の女性に目を奪われ話はそこで終わった。
先にデノン達が温泉に入りに行き、その後にアリエル、ミラ、アルナイルも温泉に入りに行った。
まだ入りに行かない俺をベネトナシュがじっと見つめてくる。
「な、何かな?」
「……フェンリルは?」
ヤバい。とっさにそう思った。霊峰に行く前にピアスに戻ってもらったまま、あれ以来喧嘩している俺とアリエルの前にいるのが嫌だったのか、出てきていないままだった。
「あー、フェンリルならあっちにいるんじゃないかな? 連れてくるよ」
部屋を待たずに隣の部屋に行き、そこでフェンリルを呼び出して連れ戻る。フェンリルの姿を見たベネトナシュが嬉しそうに抱きつき撫で回し出す。
それを見ているとベネトナシュが俺を見つめてきた。
「フェンリルは……温泉に、入らないの?」
「こいつは氷狼だろ、熱いのは苦手なんだよ」
「……なら、先に行ってて」
フカフカのフェンリルに抱きついて撫で回すベネトナシュを置いて、俺も温泉に向かった。
じっと俺を見つめてくるミラとアルナイルの視線を避ける様にさっさと温泉に入り込んだ。




