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アンチ・ハロウィン  作者: 日雀青柚
第五章 犬の手を借りる
49/56

◆11

「こりゃ早めにどうにかしないとな」


 エンは頭をがしがしと掻き、自分自身を落ち着かせるように大きく息を吐いた。


「そもそも人魂で浮遊できる存在にも関わらずなんで国道にこだわってるんですかね?今だって俺たちの場所まで来れるだろうに」


 素朴な疑問を口にした真鵬にエンは「それだ!」と大声を出す。


「俺もそれ思ったんだ。さっき花が供えられてたところ、墓標が立ってただろ。あれのせいなんじゃないか。最初は色んな所にいたんだろうけど、鎮魂の願いが込められてる墓標を建てられてから人魂はあの辺から動けないんだよ。力が及ぶ範囲が限られてる。地縛霊化してるんだ」


 地縛霊は『その地から離れずにいる霊』であるため、行動範囲が狭いのが特徴だ。今回もある一定の地点を越えた段階で木が飛んでこなくなった。つまり人魂のテリトリーを侵犯しない限りは攻撃を受けることもない。思えば小野の話も培覧の話もあくまでも国道に立ち入った場合であり、その他の時に被害を被った話は聞いていない。


 なるほど、と思った真鵬はほっと一息ついた。一本道の国道だ、今二人がいるところからはまだギリギリ乗り捨てた車が見える。ということはここからどうにかして車の先を縄張りにしている人魂にダメージを加えることが出来るなら勝機も見えてくる。


「っていってもなあ。俺もマホウも近距離型だし」


 エンが作り出せる火の玉は最大でも中距離用で、遠距離にいる敵への攻撃は向いていない。遠くまで飛ばす技術をエンは持ち合わせていないという。


「練習はしたんだけど習得できなかったんだ。そこそこ遠くならいけるけどこの距離は無理だなあ……」


 どんな言い訳をしようと結局は届かないなら意味がない。やはりここは一旦退くしかなさそうだ。


 パキッという乾いた音と微かなミシッという音を真鵬の耳が拾った。近くから聞こえるものではない。二人の現在地のさらに先、来た道を戻ったところ──つまり町寄りのとある場所から聞こえる。それとは別に数人の小さい足音のようなものも聞こえた。人の足音にしては静かすぎる。小動物かなにかだろうか。


 木の音に覚えがある真鵬は一人仮面の下で脂汗をかいていた。聞こえた通りならば二人の退路でも同じように木が飛んでくることになる。


「エンさん、この先にもなにかいます。木を抜いてます」

「はっ?だって人魂はあっちにいるんだぞ。車を置いてきたところまでは移動できないはずじゃ……」

「そんなこと言われても俺にはわかんないですよ!とにかくここも安全じゃないです」


 バキバキバキッ。ポキッ、ガサガサガサ。


 突然騒がしくなった道の先に二人ともバッと顔を上げた。

 なにが起きているのかわからなかったが、その答えはわずか数秒後に姿を現した。


 数本の宙に浮いた木と一緒に森の中から出てきたのは小野の家で見たのと同じ顔をしているジャック・オー・ランタンだった。数体どころではない。何十体もが夜の暗い道路を占領している。しかも頭は確かにかぼちゃだが、なぜかご丁寧に胴体が付いていた。大きさとしては百七十センチ弱、真鵬とさほど背丈が変わらない。

 さらにジャック・オー・ランタンの頭の中が青白く光っていた。その光は今まで真鵬たちにどこかからか木を投げるだけ投げてきた人魂だと真鵬は確信した。屋敷で見た火の玉、ウィルオーウィスプとは性質が明らかに違う。


 人魂がジャック・オー・ランタンの中に入り、人型の肉体を得たのだ。


「なんだありゃ……」


 数十体のジャック・オー・ランタンが歩き、さらには木を浮かせているのは異様な光景だった。背筋に悪寒が走る。


「あんなん二人じゃキリがない!逃げろ!」


  一目散に国道の左手にある崖から飛び降りたエンは脚からスライディングする形でザーッと滑った。真鵬は一瞬ためらったが悩む暇もない。エンに倣って同じように滑ることにした。荒々しい藪漕ぎに脚を痛めそうな気もしたが、そんなことは言っていられない。滑ってる途中で顔を上げてジャック・オー・ランタンたちがいるであろう場所を確認するが木が投げられる気配もなく、ほっとした。


「それにしても一体どうなってるんだ?どうしてあんなことに……?」


 山の中腹でスピードを緩めたエンが仮面を取る。混乱しているのがその表情から読み取れた。


「これは俺たちだけじゃどうにもならなそうだな」


 最初から二人でこの件を片付けようとしていたエンの判断ミスと言わざるをえなかった。もっと徹底的に下調べをしてから挑むべきだったのだ。


 怨み辛みが募った孤独な無縁仏の霊を早くどうにかしないと、という気持ちが事を急いた原因だ。こうなったのはいつぶりだろう。寺が……いや、寺の住職が役目を果たしていないということに冷静さを欠いてしまった。一つの組織のリーダーとしてやってはいけないことだ。少なくともド素人の少年を連れ回してやることではなかった。手本となるような行動を示さねばならなかった。なのに。


 今は悔しさで唇を噛みしめ、山を下りるのみだった。

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