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アンチ・ハロウィン  作者: 日雀青柚
第一章 深紅、漆黒、純白
4/56

◆4

 一目散に墓地の門を目がけて走っていた真鵬は途中で懐中電灯を落とし、照らしていた足元が途端に見えなくなった。しまった、と思ったが懐中電灯を拾う余裕はない。無心でひたすら走り続けることにした。


「あの犬なんなの!」


 パシリで鍛えられた脚力を活かしながら先頭を走る俊太が叫んだ。


「あれ本当に普通の犬!?」


 しかし真鵬はその問いには答えられない。まず答えを知らないし、なによりも今は走ることで精いっぱいなのだ。誰かと言葉を交わす余裕などない。その点、俊太は他の四人よりも幾分か余裕があった。こういう時に普段の生活で使っている脚力が役に立つのだ。


 昭隆、雄二、新市はもうどこに逃げたのかわからない。今門を目指して走っているのは真鵬と俊太だけだ。そしてこの二人を狙ってハウンド犬は執拗に追いかけてくる。

 急にがくん、と真鵬の視界が揺れたかと思うと、ズサーッという音と共に盛大に転び、次の瞬間には冷たい地面が頬に当たっていた。なにかにつまずいて転んだということを理解したのはその二秒後だった。慌てて立ち上がろうとするも膝が笑ってしまってうまくいかない。生まれたての小鹿よりも震えている。

 人が転んで身動きがとれないうちにも犬は容赦なく迫ってきていた。不思議なことに、確かに足を地に付けて走っているにも関わらず、足音がまったくしない。不穏な気配だけを漂わせ、静かに命を奪いに来る不吉な犬はもうすぐそこまで来ていた。


 ──ああ、もうこれで終わりか。


「真鵬!」


 少し離れたところから切羽詰まった俊太の声がした。あれだけ真鵬と距離を開けて走っていたはずだが、転んだことに気が付いて戻ってきたらしい。しかしこのままでは俊太にまで危険が及んでしまう。


「俺はいいから俊太は早く行け!逃げろ!」

「でも……」

「逃げろよ!」


 力の限り叫び、固く目をつぶった。あの犬の姿を目に映し、それを最期に記憶して死ぬのは嫌だったからだ。

 耳元でハウンド犬の声がし、真鵬は覚悟した。犬に噛み殺される人生だったなんて誰が想像しただろう。


 しかし真鵬が感じたのは噛まれた痛みではなく、キャンプファイアーのような炎の熱さだった。


 意味がわからずに恐る恐る目を開けると、そこには炎を身にまとった人が立っていた。ただ、これまたおかしな恰好をしていた。

 歌舞伎で使われるような、赤くて大きな長いかつらを被ったような頭に、真っ赤な陣羽織を羽織っている。その両腕には炎がまとわりついているが、なぜか服や皮膚は燃えていない。顔は真鵬に背を向けているために見えなかった。


「おー、危機一髪。大丈夫か、少年」


 少しくぐもった声で聞いてくる赤い男に真鵬はどうにか「はい」と返事をした。


 ──この人変な恰好してるけどなんなんだろ……。


「怪我とかしてない?」

「えっと……多分大丈夫だと思います」

「ならよかった」


 久しぶりだからいまいち火力の加減が難しくてね、と独り言のようなことをぶつぶつと言う男に犬はさらに警戒心を強くしたらしく、吠えるのをやめて再び唸りながら低い体勢になった。


「わんちゃんを痛めつける趣味はないんだけど、ヘルハウンドなら話は別だな」


 聞き慣れない単語に首を傾げていると、男は「君、動けるなら逃げたほうがいい。これは俺が片付けるから」と言った。


「あ、はい……」


 地面に手を付いてどうにか立ち上がるも少しふらつく。転んだ時に膝を擦りむいたらしく、ヒリヒリと痛んだ。ジーンズの膝部分が破れているかもしれない。

 男の助言通りその場を去ろうと数歩歩いたところで、ゴオッという凄まじい音とともに熱気が真鵬の肌を包んだ。その正体が気になってつい振り返ったが、真鵬は再びその場から動けなくなってしまった。

 赤い男は掌から自由自在に炎を作り出し、操っていた。その炎の一部が腕に巻きつくようになっているらしく、男の元から一時も炎が離れることはなかった。まるで猿のような身軽な身のこなしに、真鵬はただ呆然とその戦いぶりを見ていた。

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