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アンチ・ハロウィン  作者: 日雀青柚
第三章 新門
19/56

◆1

 その後、怪我をした他の生徒とともに保健室に連れて行かれた真鵬は沁みる消毒液に耐えながら手当てをしてもらい、体中絆創膏だらけになった。


 鎌鼬が消えた後も動かなかった福見を見て取り乱しかけたが幸いにも大怪我ではなく、傷はどれも浅いものだった。動かなくなったのは精神的ショックによる気絶が原因らしい。命に別条がないと知り安堵したが、それでも申し訳なさは真鵬の心に重くのしかかっていた。


 三限目と四限目の体育の授業は中止となり、余った時間は自習となった。手当てが終わった生徒は各自の教室へ戻っていったが、真鵬はどうしてもそのような気分になれなかった。


「好きなだけここにいてもいいわよ」と優しく言ってくれたのは養護教諭の橋詰はしづめだ。その言葉に甘えて保健室のソファーに特になにをするわけでもなく、ただ腰をかけた。奥にあるふたつのベッドのうちのひとつに福見は寝ている。カーテンで仕切られた中で目を閉じている福見の顔を直視できる自信はなかった。生きているとわかっていてももう二度と目を覚まさないのではないかという不謹慎な考えが頭に浮かんでしまう。


 しばらくしてから「職員室に用があるから当分戻ってこれない」といって橋詰は保健室をあとにした。「なにかあったら職員室まで来てね」という言葉を残し、引き戸は閉められた。


 保健室に響くのは時計の針の音だけだ。チクタクチクタクと休むことなく動く針に合わせて六十秒ごとに長針が進む。当たり前のことなのに今はそれがとても特別なことだと思えた。


 ベッドのほうから衣擦れの音が聞こえた。福見が起きたのかもしれない。もし福見が起きていたら謝ろう、今回のことは全部俺のせいだと。


 恐る恐るカーテンの中をのぞくと、福見は未だ目を閉じたままだった。体が横を向いていることからさっきの衣擦れは寝返りを打った時のシーツがずれた音なのかもしれない。


 また真鵬の心臓は変に鼓動を打った。


 ──生きてる、よね?


 そっと近づいて顔を近付けると規則正しい、静かな寝息が聞こえた。わかっていた答えだったにも関わらず胸を撫で下ろす。


「よかった……」


 涙声で無意識に口から出た言葉が真鵬の本心だった。


 福見の頬にも真鵬と同じくいくつか絆創膏が貼られていた。少し下に視線を移すと首にも小さな絆創膏が貼られている。もしこの首の傷が少しずれていたらもしかしたら致命傷になっていたかもしれない。そう思うと背筋に悪寒が走った。悔やんでも悔やみきれないことになっていたのは間違いない。


 優しく福見の首にある絆創膏に触れる。そこから伝わる温かさに真鵬の心は罪悪感で押し潰れそうだった。


「ごめんね福見さん。本当にごめんなさい。謝っても謝り足りないよ……」


 自然と真鵬の両目から涙が流れていた。この言葉も寝ている福見には届かないだろう。それでも謝罪の言葉はとどまることなく出てくる。二人しかいない保健室で真鵬は溢れ出る涙を止めることができなかった。


 どのくらいの時間泣いただろうか。頭が痛くなるほど泣いた真鵬は涙をぬぐって立ち上がった。


「ごめんね、福見さん。そしてさようなら」


 ──もう二度と会うこともないよ、きっと。


 すやすやと眠る福見の寝顔がいつまでも安らかであることを願って真鵬は保健室から出た。

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