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アンチ・ハロウィン  作者: 日雀青柚
第三章 新門
20/56

◆2

 教室に戻ると自習ということもあって騒がしかった。真面目に自習なんてしてるのはごく一部で、大半は雑談に花を咲かせている。雄二、昭隆、新市、俊太の四人もそうだった。


「真鵬、大丈夫だったか?って絆創膏の数半端ないな!」


 雄二が真っ先に真鵬に気付いたが顔にある無数の絆創膏に驚いていた。それもそうだろう、真鵬も自分で鏡を見た時につい目を見張ったぐらいだ。


「あーまあ、なんとか。それよりお前らは怪我大丈夫だったの?」

「俊太が手を大きく切ったぐらいで他は大丈夫だった」


 雄二の隣に立っていた俊太は包帯を巻いた右手を見せると、「でも大した怪我じゃないから」と強がった。


「でも右って利き手でしょ」

「これを機に両利きになるのもありかなあ、なんて。両利きってかっこよくない?」


 にへらと笑う俊太が痛々しくて見ていられなかった。


 ──俺は負けず嫌いだけど俊太は強がりだからな……。


「にしても真鵬って本当はあんなに足が速いんだな」

「えっ?」

「速すぎて帆夏ちゃんのこと引きずってただろ」


 昭隆にそう言われて初めてなぜ福見が急に膝を擦りむいて倒れていたのかがわかった。真鵬の急激な身体能力の上昇で足が速くなり、それに着いて来れなかった福見が真鵬に引きずられた、ということだった。

 しかし反射神経や動体視力がよくなったり足が速くなった理由についてはよくわからない。心当たりがあるとすればヘルハウンドの影響によるものだろう。犬としての体の動きや力が真鵬にも出てきていると考えるしかない。


 それにしても自分が最善策と思って取った行動がことごとく裏目に出たような気がして真鵬は気が滅入った。結局、なにも解決していないじゃないか。謎の矢がなければもっと大惨事になっていたかもしれない。どこの誰だかわからないが、助けられたことに違いはない。改めて自分自身の無力さに落胆した。


 ふと視線を上げた先にある、包帯でぐるぐる巻きになった俊太の右手が真鵬の目には痛々しく映った。


「ごめんね、俊太」


 脈絡もなく謝る真鵬にその場にいた全員がきょとんとした。なにについて謝っているのかわからない。


「なにが?」


 不安そうに眉を下げる俊太は本当に真鵬の言ったことの意味がわからないらしく、真鵬の次の言葉を待っていた。


「……なんでもない」


 弱々しく頭を振って話を切り上げる。謝る理由なんて話したところで長くなるだけだし、俊太の怪我が治るわけでもない。


「俺帰る。先生には早退したって伝えといて」


 自分の席から鞄を取り、普段机に入れっぱなしにしている教科書やノートを乱雑に詰め込んだ。そのせいでぐしゃっと紙が音を立てたが気にしない。


「え?帰るってそんな急に……」

「やらなきゃいけないこと思い出したんだ」

「家でやらなきゃいけないこと?お前家嫌いだろ?」


 不審がる新市に真鵬は「嫌いだよ」と真顔で返した。


「とにかく帰るから。……またね」


 ──またがあるかどうかわからないけど。


 ぽかんとしている彼らに背を向けて扉に手をかけようとして、動きを止めた。扉の真横に座って日直日誌をつけている政人が目に入ったからだ。

 後ろから声をかけると政人はゆっくり振り返った。「真鵬か」と特段絆創膏だらけであることにも驚かなかった。


「福見さんのこと運んでくれてありがとう。あと俺の服も持ってきてくれてありがと」

「ああ、別に……。怪我人が怪我人を運べないだろ」

「そりゃそうだけど」


  俺は本当になにもできなかった。結局保健室まで福見さんをおぶっていってくれたのは政人だったし、俺の服を更衣室から持ってきてくれたのも政人だった。自分で蒔いた種を自分で拾うことすらできないんだ、俺は。


「……真鵬?」


 深刻な顔をして黙り込んだ真鵬を怪訝に思って政人は名前を呼んだ。心ここにあらずといった様子だった真鵬は我に返った。


「あ、ごめん。じゃあ俺帰るから。バイバイ」

「早退か。わかった、一応日誌に書いとく。おつかれ」


 微かに口角をあげた政人にもう一度ありがとうと伝え、今度こそ教室を出た。


 ──おつかれ、か。それはこっちのセリフだよ。


「おつかれ、政人」


 扉越しのクラスメイトに対して小さくつぶやき、少し教室の声が漏れている廊下を一人歩いた。なるべく誰にも会わないようにして正門を抜け、街の喧騒に身を委ねる。


 この時間に家に帰っても紀日子に怪しまれるだけだ。また色々聞かれるのは面倒くさい。どう時間を潰そうか悩んだ末に行きついた答えはインターネットカフェだった。


ほぼ誰とも顔を合わせずに時間を潰せる上に体を休めることもできる。真鵬は学校近くの駅前にあるインターネットカフェにしばらくいることにした。六限目が終わる直前にここを出て電車に乗れば学校帰りのクラスメイト達に会うこともない。

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