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チート魔法で推し活無双 ~推しを救うつもりが推しに溺愛されてます~  作者: 雨ノまどろみ


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第六話 推しが苦しんでいる


「ざ、財政難……?」


「左様でございます」



私の独り言を拾ったアダムスダイン様が、ため息交じりに頷いた。




最初に感じた違和感は、床に敷かれた真っ赤な絨毯だった。


魔王様と同じ瞳の色!


なんて、胸をときめかせる前に感じた違和感。


裂けてる。糸がほつれてる。色褪せている。



――そんな、まさか。



見上げれば、豪華なシャンデリア。

だけど、よくよく見れば。

メッキが剥がれてる。クモの巣が張ってる。所々、折れたりひび割れたりしてる!



「……財政難」


「左様でございます」



私は無意識に、同じ言葉を繰り返していた。

アダムスダイン様の返答も同じ。



「ここ数年は、食事も酷いものです」



否。

さらに追い打ちをかける言葉を付け足した。



「仕方なかろう。……人間界は災害続きだ」



魔王様は力なく呟く。

そう言えば、アダムスダイン様が仰っていた『食糧不足解消の話』


……やっぱり、あながち冗談ではなかったのかも。



テーブルクロス、カーテン、壁、その他の調度品。すべて年季を感じるものばかりだ。

味がある、というレベルではない。



「食糧不足は仕方ないにしても」



アダムスダイン様は、片眼鏡を持ち上げならが言った。



「財政難の原因は、人間との戦争です」



「?」



人間と魔族は相反する存在。

長く戦争が続いていた事は、村人から聞いて知っていた。


でも、それと魔王城の財政難にどんな関係があるのかが分からない。


そもそも、人間と魔族の戦争はかなり前に終結したと聞いたけど……。



「戦争を終わらせたのは魔王様です。勝利ではなく、敢えて和睦を選ばれたのは遺恨を残さないため」


「……え?」



村人たちから聞いた話と違う。


圧倒的強さで、大勝利を収めたのは勇者。

泣きながら命乞いをする魔王に温情をかけ、魔界から出ない事を条件にその命を助けた。


そう聞いていたけど。



「今から百年……いえ、二百年前の話です」


「……」



それだけ前の話なら、途中で誰かが人間の都合の良いように、事実を書き換えた可能性もある。


村人たちも嘘をついたわけではなく、伝承をただ信じていただけなのかも。



もちろん、アダムスダイン様が嘘をついている可能性もあるけど……。


人間より圧倒的に強い魔族が何かを我慢している時点で、そこには何か理由があるはず。



「勇者は、魔王様の温情に感謝し『これからは互いを尊重し合い、適度な距離を保った隣人になろう』と言いました」


「素晴らしい提案でござるな!」



ハバキが感心したように言った。

私も、うんうんと頷く。



「これは常々、魔王様が仰られていた事でございます」


「魔王様が!」



さすが魔王様!

けれど、魔王様は少し苦し気に窓の外を眺めている。



「ですが、勇者は和睦が成立した途端、人間の勝利だと騒ぎ立て『魔族は魔界から二度と出ないと約束した』と、一方的に宣言したのです」


「なっ!」



嘘のつき方がえげつない。

勇者許すまじ!



「魔王様が説明を求めると、勇者は『多くの人間が心身ともに傷ついた。心を癒す為に少しだけ時間が欲しい』と言いました」


「……」


当事者でもない私に言える言葉はない。

でもきっと、傷はどちらも等しく負ったはず。



「それから二百年の時が経ち、未だに歴史は訂正される事なく、人間は戦争の責任を魔王様お一人に押し付け、差別と迫害を続けているのです」



魔王様が始めた戦争ではないというのに……。


一瞬だけ強い怒りをにじませて、アダムスダイン様はさらに言葉を繋いだ。



長い話を要約すると、こうだ。



人間側は和睦書を一時的に凍結させ、その後勝手に破棄。


不当な賠償金を幾度も要求し、復興資金も魔族側に全額出させておきながら、すべて「人間の王の私財」と発表したらしい。


『魔族の金を目当てに、愚かな人間が新たな戦争が仕掛けないための配慮です。どうかご理解ください』


と、人間の王は頭を下げたという。



魔王様とて、人間の言い分を全て信じたわけではない。


だが、足元が固まらない限り、新たな一歩を踏み出す事は容易ではない。


だから、魔王様は黙っていた。


人間の傷が癒え、新たな時代へ踏み出す準備が整うまで。



――その配慮の結果が、これだった。



和睦は敗北に書き換えられ、魔王様は冷酷無慈悲な臆病者扱い。


生活に必要な物資を購入する際にも、人間は当然の権利とばかりに、値をデタラメに釣り上げる。


二百年間、それが続いている……。



静かな魔王城に、アダムスダイン様の声だけが響いていた。




「魔王様は、何故ずっと黙っておられるでござるか? 拙者なら到底許せんでござる!」



ハバキの言葉に私も深く頷く。



「戦争が終わって……まだ二百年だ」



(……ん? まだ?)



「傷が癒えるのに十分な時間が経った……とは、まだ言えないだろう?」


「……」



――魔族時間っ!!



(傷が癒えるどころか、人間側は何代も世代変わってるからっ!)



もちろん、世代を超えて痛みや悲しみが引き継がれる場合も多い。


でも、そういう遺恨を残さないために。

魔王様は勝利ではなく、敢えて和睦を選んだのに。


なのに、人間は……。




「魔王様は優しいでござるな」


「……人間の為だけではない。魔族にも多くの死者が出ている。人間を快く思わない魔族は多い」



魔王様はそっとため息をつく。


適度な距離を保ちつつ、互いの共存共栄を望む魔王様。


けれど人間は、魔族を恐れ忌み嫌うがゆえに、チャンスがあればこの世界から魔族を消し去ろうとしている。


その為の布石として、魔王様の悪名を広め、いらぬ対立を煽って……。



……あれ?


だとしたら、魔王様はなぜ今回、人間界にいらしたのだろう?


傷が癒え、共存共栄の道を歩める日を待ってくれてるんだよね……?



「魔王様は何をしに、人間界へ来たでござるか?」



やっぱりハバキも、そこが気になったらしい。タイミングよく聞いてくれる。


その瞬間、アダムスダイン様の目が鋭く光った。



……あ。

これ、もしかして聞いちゃダメなヤツ?



ありがとうございました!

次話もお読みいただけると幸いです!

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