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チート魔法で推し活無双 ~推しを救うつもりが推しに溺愛されてます~  作者: 雨ノまどろみ


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第一話 魔王様、この『ぬい』をお納めください


「魔王様! この『魔王様ミニぬい』を、どうかお納めください!」



出来上がったばかりの『ぬい』を頭上高く掲げて私――出古内(でこうち)ラナンは叫んだ。


目の前にいるのは、村人たちが『冷酷無慈悲な臆病者』と、嫌悪感丸出しで噂していた魔王様。


その背後には、配下の魔族が数十名。

整然と控えている。


対する私は、武器も持たないただの人間の小娘。



――いつ殺されてもおかしくない状況だった。



女子供や年寄りばかりに好んで力を奮う卑怯者。


普段は魔界に隠れ住み、たまに人間界に現れては、いたずらに人間を殺して金や食料を奪う。全人類共通の敵。


姿を見かけたらすぐに身を隠し、息をひそめてやり過ごせ。


転生当初は耳にタコができるほど、村人たちから聞かされていたれけど。



……『これ』については、何も聞かされていなかったッ!



事前準備なしのこの衝撃は、あまりに刺激が強すぎる。


(ま、まさか、まさかっ)




――魔王様がこんなにも、お美しい方だったなんて……ッ!!




事前情報が欲しかった。

心の準備をする時間が欲しかった!


もちろん、人間を殺し、時に喰らう相手の風貌なんてどうでも良いに決まってる。


問題はそこじゃない。

そんな事は分かってるッ!



けど、異世界に転生して一年。

右も左も分からない世界で、ほぼ一人。


生きることに必死で、夢も希望も見つけられずにいた私の目の前に。

突如現れた、どストライクな見た目を持った人物。(人じゃないけど)



(そ、そんなの、そんなのっ)



――見惚れるに決まってるってッ!!



突如、天を引き裂くように現れた魔王様。

村の畑を手伝っていた私からは、たいぶ距離があった。


逃げる時間も、物陰に隠れる余裕も、充分あった。



……あったけれどもっ!!



『白銀髪×赤目』なんて、王道にして奇跡の配色を持つ国宝級反則イケメンが、突然空から現れたら。


そりゃ二度見三度見、いや五度見くらいはしちゃうでしょ!


距離があるからこそ、安全圏から見ちゃうでしょ!?



だけど、それだけじゃない。

それだけなら、まだ――逃げられた。



問題は、そのあと。



(……魔王様がこんなに美しい方だなんて、全然ッ聞いてないっ)



頭の中が『やばい』『無理』『美しい』で大渋滞起こしてる。


ガチで、ちょっと待って。


今すぐこの感動を表に出さないと、魂ごと破裂しそうなんだけどッ!?


そう思い詰めた瞬間。



――身体の奥で『何か』が目覚めた。




【固有スキル:創造魔法(概念:推し活)が覚醒しました】




脳内に流れる無機質なシステム音声。


美の暴力が過ぎる魔王様を前に。

私の魔力が、前世の記憶が、そして抑えきれない情熱が、脳内イメージを具現化していく。


魔王様のデフォルメされたぬいを作りたい。


そう願うだけで、工程の半分が終わっていた。


脳の中で思い浮かべたイメージが、3D化されている。見えない箇所の補正も完璧。


細かい修正も、曖昧な希望を思い浮かべるだけ。


それだけで、職人クオリティのぬいが形作られていく。



完璧なイメージが固まった瞬間。


強烈な光を放って、私の手の中にポロンと現れたのは。


白銀の髪、真紅の瞳。

不機嫌そうなへの字口まで完全再現された、手のひらサイズの――。



『魔王様(ちびキャラVer.)のぬいぐるみ』だった。




突然の大き過ぎる力は、魔族の注意を引くことになってしまったけど。


この時の私は、それどころじゃなかった。



(私にも……チート能力あったんだ……)



異世界転生者には必ずあると、村の人たちから聞かされていた。


けど、転生から一年。

目覚める兆しはなかったから、神様が付与し忘れたんだと思ってた。



でも、あったんだ……。



村人たちの期待を一身に背負っていた『あの頃のまま』だったら、きっとガッカリされた事だろう。


何の役にも立たない、誰の事も助けられない――私だけが嬉しい力。


他の人から見ればきっと、ハズレチート能力に分類されてしまうだろうけど。



……ガチでヤバい。



私の身体は、感動と興奮でプルプル震えていた。


手の中にある魔王様ミニぬいを、舐めるように検分する。



どこもかしこも、完璧すぎる。

ニヤニヤが止まらない。


デフォルメされた目は、くりっくり。

可愛らしさを損なうことなく切れ上がった眉が、底冷えする魔王様の強さと美しさを、完璧に再現している。


そこにあるのは、圧倒的『強者の余裕』


そのくせ、股下10メートルはありそうな超絶モデル体型が、今やたったの2頭身。足の長さは、わずか2センチ!



……い、愛おしすぎる。


私は魔王様ミニぬいに顔を寄せ、悶絶した。



この出来栄え。

このクオリティ。

どこに出しても恥ずかしくない。


こんな素晴らしい推し活グッズを、この手で生み出せる日がくるなんて……!



(くうぅ~~ッ、チート最高おぉぉ!!)



この感動を、魔王様と分かち合いたい。

今すぐ感謝をお伝えしたい!


顔面世界遺産の魔王様がいて下さったからこそ生まれた、この魔王様ミニぬい。



ご本人様にお納めしなくて、どうするッ!!



興奮は最高潮。

天に課せられた使命とばかりに、私は意気込んで顔を上げた。


その瞬間。


――ガシッ!!



「……あれ?」



私は魔族に捕らえられ。

魔王様の目の前に引きずり出され。

地面に両膝をつかされて。



そして――今に至る。



つまり、魔王様に見惚れている間に捕まった間抜けな人間……それが私だ。




何とも情けない状況だけど、悪いことばかりでもない。

魔王様は目の前だ。


チャンスとばかりに、私はプレゼンを開始する!



「魔王様! この『魔王様ミニぬい』を、どうかお納めくださいっ!」


「……何だ、それは?」



魔王様は怪訝そうな顔。

いや――若干、気味悪そうな顔で私を見ている。


いやいや噓でしょ。作画崩壊ゼロ!?


一寸の狂いなく配置されたお顔のパーツは、鼻の頭にシワを寄せたところでびくともしない。完全無欠の黄金比!


……危険だ。

迂闊に魔王様のご尊顔を目にするのは、あまりに危険すぎる。


私は魔王様ミニぬいを高々と持ち上げながら、顔を伏せた。



「これは、ぬいと呼ばれる綿の……人形です」


「……綿の人形?」


「はい! これは異世界――いえ、異国に伝わる『推しの分身』です!」


「……お、し?」


「推しというのは……たくさんの人に薦めたくなるほど、好きで好きでたまらない、人や物のことです!」



良かった。

ちょっと興味を持って貰えたみたい。


というより、聞き慣れない言葉に戸惑ってるだけかも。


それでも多分、つかみは悪くない。はず。


あとは、ぬいの魅力と、そこに込められ情熱を知って貰えれば……ッ!



「魔王様、是非その手に取ってご覧ください!」


「……これは……我、か?」


「そうです! 魔王様です!」



衣擦れの音がして、手の中にあったぬいの重さが消える。


やった!

魔王様がぬいを手に取って下さった!



だが、そんな喜びは一瞬で吹き飛んだ。



「……つまりお前には、我がこのようなチンケな姿に見えている――と、言うことか」


「っ!」



魔王様の纏う空気が、一瞬で変わる。

辺り一帯が絶対零度に凍り付く。


後ろに控えていた魔族たちが、二歩三歩と気圧されるのが分かった。


味方さえも恐怖に慄かせるほどの殺気。


戦闘経験ゼロの私には、満足に息を吸う事も出来ない。



――ヤバいヤバいヤバイッ!



それでも私は、震える足を叱咤して勢いよく立ち上がった!


死ねないっ。

絶対に死ねない。


例え殺されるにしても。

推しの誤解だけは、解いておかないとっ!



そんなの、絶対。



(……死んでも、死にきれないっ!!)



お読みいただきありがとうございました!


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