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第5話 変身


「聖審愛裁マーシー・リブラ‼」


「影光勇者ノクストス‼」


 光が晴れた時、一実……マーシーはその手に、ステッキを持って軽いポーズを決めていた。


「……って、うおおおーーー!私、ホントに変身しちゃってるーーー!」


 一実改めマーシーは、夢がかなった実感と身体にみなぎる未知の感覚で、テンションが爆上がりしてしまう。彼女のドレスは、シンセリーのそれより少し地味なものの、魔法少女らしいリボンやフリルがついていて、裾がふんわり広がっていた。背中には、魔法少女共通の意匠である2本の帯が伸びている。髪の毛も少し伸びており、ドレスと同じピンク色に染まっていた。

 彼女が夢で何度も妄想した魔法少女の姿。そのままであった。そして、彼女の心の中に浮かび、口から出た名前。それが一実の魔法少女としての名前なのだろうと分かった。

 ステッキの先には、てんびんのような紋章……魔法少女にはそれぞれに対応する星座がシンボルになるとマーシーは聞いたことがあった。てんびん座が彼女のシンボルとなる星座ということだろう。


「どうやら、成功したみたいだね」


「……!」


 マーシーが声のした方に目を向けると、これまた大きく姿を変えた悠夜がいた。だが彼女は、自分の変化以上に彼の変化の方がしっくり来ていた。なぜなら、今の彼の姿は、彼女が想像していた勇者の姿に近かったからだ。


「エクスマインみたい……」


「そう、僕の基礎フレームには、あいつと共通のものが使われていてね。僕たちは兄弟機と言っていい……だから、戦闘形態も似通るんだ。君のおかげでやっとこの姿で、この名前を名乗れる……影光勇者ノクストス……勇者として今こそ戦う!」


 そう言う勇者の声には、確かな高揚の色が見えていた。

 影光勇者ノクストスを名乗る彼は、青を主体として、関節部などに黒、白線で縁取られたような色味の、戦闘用ロボットといった容姿をしていた。色の系統こそ寒色系で真逆と言えたが、細かいディテールなどはエクスマインと共通していた。ただ、そのシルエットはスマートなものであった。最大の違いは、エクスマインが頭に二股に分かれた角を持っているのに対し、ノクストスのそれは1本真ん中に伸びていることであろうか。

 マーシーには携えた刀とそのすらりとした立ち姿を合わせて、彼が忍者のように見えた。

 

(この人が、私の勇者なんだ……)


 つながった精神が、マーシーにそれを実感させていた。


「グウ……」


「敵が来る……そろそろ動こう……」


 変身時のトランスフィールドでマヒしていた鋼魔が、体勢を立て直しているようだった。ノクストスの言葉を聞いただけでマーシーがそう理解できたのは、精神リンクあってのことだった。これからするべきことの情報が、随時パートナーから流れ込んでいた。


(心を覗かれる感じなのは正直気持ちよくはないけど、小さいことは言ってられない!)


「マーシー、とりあえずこの子と周りの人たちを助けよう!セータ・パーティシヴだ!」


「わ、分かった!やってみる!セータ・パーティシヴ!」


 マーシーはノクストスの指示とリンクから伝わってくる情報をもとに、ステッキを頭上に掲げて魔法を行使する。


“キュイーン!”


 掲げたステッキの先から光の線が拡散して放たれ、彼女の周囲の、まだ取り込まれている人々に直撃する。


「う、ックぅ……」


周囲の人々に生命力が分け与えられ、起き上がることができるようになる。

 魔法少女と勇者がそろう時、反有機生命圏遮断フィールドを張ることができる。つまり、鋼魔が生命体から生命力を奪うのを防ぐことができるということだ。しかし、鋼魔の近くにいた者は、逃げる体力すら奪われている場合がある。そこで魔法少女はその魔力を、周囲の人間に分け与えるのだ。


「皆さん!シェルターに避難してください!鋼魔は僕たちが押さえます」


「グァァァッ!」


 ノクストスが、動けるようになった人々に避難を促したところで、鋼魔がマーシーに斬りかかってくる。


「ああぁっ!ぐぅっ!」


 マーシーは回避しようとしたが、右足が痛んで動けなかった。変身したからと言って怪我が治るわけではなかったのだ。


“ガギンッ!”


「君は動かないでいい……とどめだけは任せるけど、それ以外はじっとしていてくれ」


 一実が敵の間合いに入る前に、残った左腕に刀を握ったノクストスが立ちふさがったのだ。


“ギャリギャリ!ギャリギャリ!”


 刃同士が打ち合わされ、工事現場から聞こえてくるような金属同士の摩擦音があたりに響く。眩しいばかりの火花も散っている。


「だ、大丈夫なの!?」


 損傷が修復されたわけではないのは、ノクストスの方も同じなようで、内部機構が露出した右腕からはスパークが発生している。


「ああ、出力が想定より高い……片腕だろうが、楽勝だ。……全く君は最高だな!」


 ノクストスはその言葉が本当であると示すように、各所に備え付けられたスラスターを吹かしながら、踏み込んで敵を押し出すように後退させる。


「お姉ちゃん……」


 とりあえず敵との距離が開いて、マーシーの心の余裕が増えてきたところで、彼女の足元から声が聞こえる。その声の主は、活力を分け与えられて意識を取り戻した男の子だった。


「あっ、キミも動けるならシェルターに……ううん、終わるまで一緒にいよっか?」


 最初は避難を促そうと思ったマーシーだったが、動くのも不安そうにしているその子の表情を見て考えを変えた。短い付き合いで、意識ももうろうとしていたはずのその子が、ドレスの裾を掴んで、自分を頼りにしていると言外に伝えてきていた。彼女はそれがとても嬉しくて、答えたくなったのだ。


「えっと……ノクストス?とりあえずバリアの使い方だけ教えて!」


 マーシーは、それが勇者としての彼の名前ならそう呼ぶべきだと思い、ノクストスの名前で彼に聞いてみる。

 鋼魔が電子機器を狂わせるため数は少ないが、ネットには戦う魔法少女の姿が流れている。マーシーは穴が開くほどそれを見てきたわけだが、その中に先ほど発生したようなバリアで身を守る彼女たちの姿があった。自分も魔法少女であるなら自分にもできるかもしれないと考えたのだ。


「了解した。……と言っても難しいことは必要ない。守りたいものと、それを守る壁をイメージすればいい」


 ノクストスの声は、金属音に混じってはっきりと聞こえたわけではなかったが、精神リンクから流れてくる情報がそれを補ってくれる。どうやらバリアを貼る機能は、ステッキに仕込まれているらしく、難しい呪文などは必要ないようだ。


「守るもの……」


(私自身と、この子……)


“ヴーン”


 マーシーがステッキを掲げてイメージすると、彼女の周囲に先ほどと同じようなドーム状のバリアが発生した。


「よし……君、私のそばから離れないでね!」


「うん!」


 立ち上がれるほどに回復した男の子は、マーシーの呼びかけに力強く答えた。


「そいつを倒すには、どうすればいい……?」


身を守る手段を確保したなら、次は打って出る。そう決めたマーシーは勇者に指示を仰ぐ。鋼魔に取り込まれた人々を助けるために、魔法少女は勇者に戦いを丸投げするわけにはいかなかった。


「説明が省けそうで助かる……フンッ!」


“ガンッ!”


 刀を叩きつけるようにして、ノクストスは敵をマーシーから遠ざけていく。


「僕がこいつの動きを止める!キミはその隙にこいつに魔力砲をぶつけてくれ!」


「魔力砲……」


 ノクストスからの指示は短いものだったが、リンクからの補足と合わせて、マーシーはしっかりと理解できた。

 魔力砲とは、単純に魔法少女の魔力を破壊光線として放出する、魔法少女の基本的な攻撃の一つだ。マーシー自身も見たことがある。その時も特に呪文などは使っていなかった。先ほどのバリアと同じ、イメージで出すような攻撃なのだろう。


(私にできるかな……)


 マーシーが大好きなシンセリーは、他の魔法少女に比べて魔力砲が強力らしいが、彼女自身がどうかは全く分からない。これまでの経験から言って、撃ててもへなへなだろうと彼女は不安になった。


「大丈夫……僕にはわかる。場は僕が整える……だから君は、ありったけの思いを、こいつにぶつけてくれ!……はぁ!」


 リンクからマーシーの不安を感じ取ったのか、ノクストスは励ましの言葉を掛けながら、敵の腹に蹴りを打ち込んで、間合いを開けた。


「グルルアァッ!」


 それをチャンスと見たのか鋼魔は再び、周囲に竜巻を発生させ、ノクストスをそれに巻き込もうとした。


「危ない!」


 自分の勇者が吹き飛ばされてしまうと思い、声を上げてしまう。ただ本人の反応は違った。


「大丈夫だ。今の僕には、君がいる。今の僕に敵はない」


 暴風の轟音の中から、ノクストスの落ち着いた声が聞こえた。


「はぁっ!」


 ノクストスは声といっしょに、自らに巡る魔力を刀に込める。


「これでぇ!」


 そして、振り上げるとともにそれを斬撃として放出した。それは、その刀身のリーチを超えて、鋼魔が発生させた竜巻という力場そのものを切り裂いて見せた。


「グガァッ!?」


 風が霧散するのを見て、鋼魔も動揺しているような鳴き声を上げた。


「すごい……」



「ああ、すごい。君のくれた力はすごい!」


「そんなに……?」


 先ほどから、すごいすごいとノクストスはマーシーを褒める。彼女は褒められることに慣れておらず、むずがゆく感じていた。


「さぁ、そろそろこのお遊びを終わらせなければ」


 そう言ったノクストスは刀を握ったその手を、翳すようにする。


「彗星の衝撃!」


 その叫びとともに、その肘先が切り離され飛んでいく。いわゆるロケットパンチだ。エクスマインが似たような武装を使っているのを、マーシーも見たことがあった。ただ、エクスマインのそれと違って、彗星の尾のようにワイヤーが伸びている。


“バコンッ!……グィングィン”


 飛んで行った拳は、鋼魔の腹に刺さり、鋼魔を吹っ飛ばす。そしてその隙に、追従するワイヤーが身体に巻きついて拘束する。


「ギィアアアッ‼」


“ギャリギャリ!ギャリギャリ!”


 鋼魔は拘束を解除しようと、自慢のノコギリを回転させてワイヤーを断ち切ろうとする。実はノクストスは、変身前にもこのパンチを使い、鋼魔に取り付こうとしてワイヤーを切られて叶わなかったのだ。鋼魔は今回もさっきと同じ結果になると思っていた。しかし……


“ギィーイイィー!”


 火花は上がるものの、断ち切られることはなかった。


「さっきの僕と同じだと思わないことだな!」


 ノクストスは、ワイヤーを巻き取るのと一緒に鋼魔へ急速接近していく。契約を通して獲得した大量の魔力が、彼の強度すら引き上げているのだ。


「さぁ、僕ごと撃つんだマーシー!」


「で、でも……」


 巻きつくワイヤーで完全に鋼魔を動けなくしたノクストスは、マーシーに決定的な一撃を求める。しかし、もちろんマーシーに、文字通り絡み合っているところを正確に敵だけ打ち抜くような技量はない。そもそも魔力砲がちゃんと撃てる自信もない。当然、彼女はためらった。


「僕のことは気にしなくていい!だから君は全力をぶつけるんだ。……くっ!」


「ギャアァァァッス‼」


 さすがに敵もされるがままというわけにもいかない。激しく身をよじって拘束から抜けようとする。


「さすがに長くはもたない……頼む!マーシー・リブラ!」


「……ッ!? 分かった、死なないでね!……はーっ!」


 マーシー・リブラ。彼女は魔法少女としての名前を呼ばれて、やるべきことを自覚した。そして、死にたくない、ノクストスにも、そばにいる子供にも、そのほかの周りの人々にも死んでほしくない。彼女はそんな思いを強く念じる。すると、それが魔力として具現化し、ステッキの先にピンク色の光球が出現する。


(これが、魔力……)


 マーシーは、自らが形成したエネルギーの塊に熱と質量を感じた。ステッキの柄が熱くなり、重く感じてくるのだ。


(これをぶつければ……)


 マーシーは敵を見据える。鋼魔を抑えているノクストスのツインアイは、うなずいていた。それを見た彼女は、守りたいという想いを、だから敵を倒さなければという意志に変えて、更に気合を入れる。


「はぁーーーっ!」


 ステッキの先が振動し出すほどの大きなエネルギーが、蓄積し圧縮されていく。それが臨界に達した時、強烈な閃光が炸裂した。


“バシューーーンッ!”


 放たれた太い光線は、その射線上の全てを呑み込んで消し飛ばし、その先に建っていたビルの屋上を抉るように掠めて、空に消えていった。


「の、ノクストス……!」


 光が収まった時、確かに鋼魔は消えており、ノクストスも無事だった。ただ、彼は手のひら大の玉を持っていて、全身から煙を上げていた。そして彼の周りには、鋼魔に取り込まれていたと思われる人々が横たわっていた。

 魔法少女の魔力による攻撃には、鋼魔に対する有効打になるという特性と、取り込まれた生物を分離する効果がある、とマーシーも知識としては聞いたことがあったが、どうやら本当だったらしい。


「ちょ、ちょっと大丈夫!?」


 ダメージを受けていそうなノクストスが気になったマーシーだったが、男の子を守らねばならないためすぐには駆け寄れず、その場で叫んで呼びかけた。


「くっ……ああ、大丈夫だ。想像を超える威力だった……さすがに余波を食らっちゃったよ」


 ノクストスは、少しおぼつかない足取りで2人に近づいてきた。


「ご、ごめんなさい……!私が上手くできなかったから……」


「ああ、君が悪いんじゃない。僕の方が君の力を甘く見ていたんだ。この通り、鋼魔はしっかり無力化された」


 ノクストスは、泣きそうな表情の彼女に、手に持った玉を見せて元気づけた。


「そ、それ……鋼魔の核ってやつ?」


「そう、よく知ってるね。説明が楽そうで本当に助かるよ」


 スピーカーから漏れるその声は、機械的に生成されたもののようだったが、マーシーには疲れが滲んでいるように聞こえた。


「ゼロ化が必要なんだよね……?」


 マーシーは鋼魔のその状態についても知っていた。ただ、それについては彼女の個人的な調査とは関係のない、たびたび行われている講習会で説明される知識だ。致命的なダメージを受けた鋼魔は、核という玉に変わって休眠状態に入る。そうなると鋼魔は自発的な行動がとれなくなるが、まだ完全に死んだわけではないので近づいてはいけないと各所で注意される。


「そう、最後の仕上げだ」


 生存に特化した形態に入った鋼魔は、生半可な攻撃では殺せない。なので、それを完全に無力化するために、魔法少女だけができる『ゼロ化』という処置が必要になる。それは魔法少女の生きる意志、リビドーとも言い換えられるものをもって、鋼魔の持つある種のデストルドーを打ち消す儀式だ。


「分かった。やってみるね」


 ノクストスから説明を受けたマーシーは、差し出された核にステッキをかざして、呪文を唱える。


「プラッテ・アドハック・アクア」


 ステッキの先から清らかな青い光が放たれて、波紋のような模様が浮かんでいた核から色が抜け、白一色の球体に変わる。


「これでよし。この鋼魔は完全に倒した。もう、安全だ」


「は~~~、よかった~~~」


 噛みしめるようなノクストスの言葉を聞いて、安心したマーシーはその場にへたり込んだ。その拍子に変身が解けて、彼女は私服姿に戻った。


「どうなる……ことかと……」


 極限の緊張がゆるんで、一実は完全に脱力してしまう。腰が抜けて、立つこともままならなくなる。そしてそのまま、アスファルトの上に倒れ込んでしまうのだった。


これで初回投稿分は終了です。感想が欲しいです……!

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