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第45話 裁き 後編

マーシーの大立ち回りです。


「ノクストス、虫をできるだけ一か所に追い詰めて……」


 何かを決意したようなマーシーは、普段ならしない主体的な指示をノクストスに飛ばす。


「でも……」


 今の彼女にこれ以上攻撃を続けさせない方がよいのではないかと、彼はためらっていた。


「お願い……」


「……分かった」


 ノクストスは、いつになく頑ななマーシーの様子から、彼女を突き動かしている感情を察した。今はその意思に従うことが勇者としての役割だと考え、指示を実行し始めた。


「マルチプルランチャー、エネルギー接続、マシンガンモードスタンバイ」


 ノクストスは背中の右側にマウントしていた新装備を手に取る。マルチプルランチャーは、各種パーツを適宜付け替えることで、実弾、非殺傷のスタンエネルギー弾、グレネードランチャーなど、さまざまなモードに切り替えられる優れものだ。今回は魔力を利用したエネルギー弾を連射するモードを選択した。


「こんなことをして、逃げられると思うなよ」


  ノクストスは地下駐車場の出口を塞ぐように陣取り、マシンガンで虫どもを追い立てる。マーシーほどではないとはいえ、彼自身も彼女と同じ怒りを抱えていた。一度やると決めたからには、徹底的に殲滅してやると覚悟を決めた。


“ダガガガガガッ!!”


 連射される魔力の弾丸が、地下駐車場にまんべんなく散らばった虫たちを追い立て始める。


「…………」


“ジュドンッ!”


  マーシーは塊になった群れを魔力砲で狙い撃つ。普段は砲弾のような光弾を飛ばしているが、今は彼女の怒りが威力を別次元のものに引き上げていた。光弾というより光線と呼ぶべき魔力の奔流が、イナゴたちを焼き払っていく。狙い撃つのはあまり得意ではない彼女だが、今は光線を太くし、長く照射することでその不利を補っていた。

 地下に潜ってくる個体がいれば、片っ端から排除していく。デストローカストがマーシーとの間合いを詰めるより、彼女が撃ち落とす方が早かった。


(なんて威力だ……それに、あんな出力で攻撃し続けるなんて……マーシーがそれだけ怒っているってことか?それとも、あれが彼女に眠っていた潜在能力、なのかな?)


 ノクストスは指示を実行しながらも、マーシーが致命的な状況に陥らないか、注意深く観察を続けていた。

 彼女は必殺級の威力を持つ攻撃を放ち続けている。マーシーの魔力量が魔法少女の平均に比べてかなり多いとはいえ、ここまでできるとは彼も思っていなかった。

 魔法少女が使う魔法の規模は、感情の力を魔力に変換する秘石の特性を根幹としているため、当人の魔力量×意志の強さで決定される。憎しみと言っていいほどの強い怒りが、彼女のリミッターを外してしまっているのだと彼は分析した。

 つまり、勝てるからといって安心できる状態ではない可能性がある。しかし、今のマーシーは何を言っても止まらないだろうと、ノクストスは理解していた。


“ギシャー!”


 新たに現れた蜘蛛型の鋼魔獣が、糸を吐きながらマーシーに襲い掛かる。


「このっ!」


 マーシーは長大な魔力刃を形成し、敵の攻撃が届く前に迎撃する。刃というより太い棒のようになったエネルギーの塊が、3mはある巨大な蜘蛛の怪物を吹き飛ばし、コンクリートの壁に叩きつける。その鋼魔の脚は銃器のアームのようになっており、見た目には強靭そうだったが、それでも踏ん張ることはできなかった。


“ギギィーッ!”


 イナゴたちは次の手を考えたのか、吹き飛ばされた蜘蛛の鋼魔に群がる。


「まさか、共食いか?」


 ノクストスがそう思ったのは、イナゴの群れが仲間をかばおうとしているようには見えなかったからだ。

 デストローカストが行おうとしているのは、フェレンゼルの時のような見事な連携ではなく、仲間であるはずの蜘蛛をリソースとして消費する共食いだった。


「させない!」


 すかさずマーシーは魔力砲を放ち、敵が態勢を整えるのを防ごうとする。


“ギギギッ!……バチバチバチバチッ!”


「……!?」


 しかし、イナゴたちもただやられるだけではない。群れの一部を壁のように配置し、エネルギーフィールドで攻撃を防いでくる。エネルギーが衝突し、稲妻のような破裂音が地下空間に響き渡る。


「そのぐらいいーッ!!」


 マーシーが選んだのは力押しだった。ステッキを両手で握りしめ、さらに力を送り込んで魔力砲の威力を増大させる。鈍い重低音が鳴り、ピンクの光線が白んでいく。


「うおおおぉぉっ!!」


「マーシー……」


 マーシーの放つ怒気を感じ、ノクストスの胸中は不穏な予感で満たされる。控えめで、優しさの塊のようだと思っていた少女が、感情のままに怒りをぶつけている。彼の周りには比較的穏やかな人間が多かったため、目の前の少女の変わりようをどう捉えていいか分からなくなっていた。それは人間としての変化なのか、それとも人の持つ多面性の表れなのか。いずれにしろ、彼にはそれがよいものとは思えなかった。しかし、その感情にどう対処すればいいのかも分からなかったのだ。


“バキーンッ!!”


 やがて、マーシーの魔力砲はイナゴごとバリアを破壊した。


「ギシャーー!!」


 しかし、その頃には生き残った個体が捕食と自己強化を終えていた。

 分裂型はエネルギー吸収効率が悪い代わりに、捕食から自己強化に至るサイクルが短いのだ。


「グギギィ……!」


 魔力砲で巻き起こった土煙が晴れると、そこには、より禍々しい姿へと変化した人型のデストローカストがいた。身長は一回り大きく、手足もより太く強靭になっている。前方に曲がった逆関節の脚で地面を蹴り、音速を超える速度でマーシーに迫ろうとする。


「グギ……」


「遅い!」


 ただ、速さという尺度では勇者一を自負する者が彼女の味方だった。


“ドチュン!!”


 ノクストスのメインの砲身の下に備え付けられた魔力充填式グレネードが発射される。敵の位置も、動き出す瞬間も把握していた彼が、後れを取るはずはなかった。


“ドカン!!”


 事前に射線はマーシーに伝えてあり、彼女はその身体で直前までノクストスの動きを隠していた。2人の連携によって、デストローカストはまともに榴弾を食らってしまう。


「ギグゥ……」


 ただ、その砲弾は強化によって強度が増したデストローカストの肉体に有効打となるほどのダメージを与えられず、衝撃で一瞬硬直させるだけにとどまった。


「お前は、私が裁く!【グラビタス】!!」


“パコン♪”


 マーシーには、それで十分だった。間合いを詰め、ハンマーで敵を打ち据える。【グラビタス】。それがマーシーとノクストスが一緒に考えた固有魔法の名前だ。


“ガックン!”


 デストローカストはその身にかかる重力を強化され、床のコンクリートに足をめり込ませながら手をついてしまう。


「グギャァ……」


 ただ、それだけでデストローカストの身体が崩れるわけではない。イナゴの怪物はうめき声のような音を漏らしながら、マーシーを見上げる。


「たくさん、たくさん……人が死んだんだ!」


“パコン♪”


  怒りのまま、マーシーはデストローカストの頭を打ち据える。その身体にかかる重力をさらに増大させ、四肢をいっそう床にめり込ませて、土下座するように伏せさせる。

 

 「もう、戻ってこないんだ!」

 

“パコン♪”


「それがどんなに、残酷で悲しいことか!」


“パコン♪パコン♪”


「お前に分かるのか、この化け物!」


  マーシーは涙を流しながら絶叫し、何度も何度もハンマーを打ち据えた。そのたびにデストローカストの身体は沈み込み、ミシミシと音を立て始める。もう身じろぎ一つできないようだ。


「償え!償えよ!」


“パコン♪パコン♪パコン♪”


 ハンマーが振り下ろされるたびに、滑稽なほど軽い音が鳴った。鋼魔獣には言葉を解するような知性はなく、マーシーの言葉が届くことは決してない。そう分かっていても、彼女は叫ばずにはいられなかった。

 犠牲になった人たちの心を完全に理解することは、彼女にもできない。それでも彼女は人間として14年間生きてきて、命というものはかけがえのないものだと理解しているつもりだった。だからこそ、命を奪われる苦痛をこの敵に少しでも味わわせなければならないという思いに駆られていた。


“パコン♪”


 やがてデストローカストの身体にひびが入り始め、本格的に崩壊が始まる。それを見たマーシーは、とどめを刺そうと腕を大きく振り上げた。


「死ね!」


「マーシー、もういい、もう止めよう」


 その腕が振り下ろされることはなかった。


評価・感想が作者の1番の燃料です!あたたかい感想をお願いします!


Skebなんかもやってるのでそちらもよろしくお願いします。興味があればプロフからどうぞ。


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