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第44話 裁き 前編


※時系列は少し巻き戻って


「マーシーの脳波に異常を観測。強いストレスを感じているものと考えられます。魔力反応も低下!」


 危機的な状況が伝わり、管制室の女性オペレーターは焦った声を上げる。


「マジかよ。ここにきてレアものに当たっちまったか……」


 指揮を執っている陣屋は頭を抱えていた。

  今、マーシーが戦っているのは分裂型の鋼魔獣。事例は極めて少ないが、そうした特殊個体の存在が確認されている。

 分裂体と呼ばれる比較的小さな個体が群れをなし、身体を形成して活動する。そして一般的な鋼魔が命をエネルギーとして取り込むために人間を丸呑みすることが多いのに対し、分裂型は単に有機物を取り込んでエネルギーとする。ゆえに分裂型に襲われた人間は、そのまま殺害されてしまう可能性が高い。

 これは戦闘力としての脅威度とは別に、鋼魔との戦いを人命救助の一環として行っている勇者と魔法少女たちに、強いプレッシャーを与える。

 さらに悪いことに、虫食いのように生命体を捕食する分裂型の被害者は、凄惨な状態になってしまうことが多い。大の大人ですらトラウマになるような光景を、年端もいかない少女たちが見てしまったときのショックは、言い表せないほどに大きい。


「やはり無理をしてもきつい情報を見せておくべきだったか……」


 状況を見ていたミサトは後悔を口にしたが、大勢には影響しなかっただろうと思い直す。

  ただでさえ覚えるべきことが多く、モチベーションを高く維持する必要もあったため、マーシーに与える情報は絞られ、その順序も慎重に吟味されていた。

  ただ、分裂型とそれがもたらす惨状を彼女が知っていたとしても、受けるショックはそこまで変わらないだろうとミサトは思った。事前知識の有無に関係なく、“絵面”が悪すぎるのだから。


「ノクストス、撤退だ。マーシーを連れて逃げろ!」


 陣屋は怒声を飛ばすように指示する。魔法少女はメンタルが戦闘力に直結する。マーシーが受けたショックを考えれば、すでに戦闘不能になっていると彼は考えていた。このまま戦場に立たせ続けるのは危険すぎるのだ。

 管制室の一同は、ノクストスが何とかマーシーの安全を確保してくれるように願っていた。だが……。


“ビービー!”


「あ、新たな鋼魔反応です! ノクストス、マーシーペアの直近に出現!」


「なんだって!? まさか、狙いはマーシー……!? いや、鋼魔の奴らがこんな戦術的に動けるなんてあり得るのか? ……んうぅ……ノクストス、何としてもマーシーを回収するんだ!」


 分断、精神攻撃、追加戦力による不意打ち……。勘ぐれば一本筋が通る相手の動きに、陣屋は戦術的な意図を感じた。しかし、今は推測することしかできない。何より大事なのはマーシーを死なせないことだ。彼は再度、ノクストスに彼女の回収を命じるのだった。


 ※


「マーシー!……このぉ!」


 ノクストスは命じられるまでもなく、パートナーの元へ向かおうとしていた。しかし、それはかなわなかった。彼自身の魔力がかなり落ちており、拘束されていることも相まって、身をよじることしかできなかった。


「マーシー!逃げろぉ!」


 ノクストスは我が身を顧みずに叫ぶ。マーシーのいた場所では、イナゴの群れが球状に固まっていた。嫌でも、彼女がこの場の犠牲者たちと同じような無残な姿に変えられてしまうところを想像してしまう。


「イヤだっ! マーシーっ!」


 ノクストスは生まれて初めての喪失の恐怖に震えた。やっと出会えた彼女を、自身の存在価値を失うだなんて耐えられない。彼は駄々をこねる幼子のような気持ちで切実に叫んだ。しかし、彼は機械でもあった。そのような足掻きに意味はなく、状況が絶望的であることを否応なく理解してしまうのだ。

 その時だった……


“ドックン!!”


 ノクストスは、絶望に沈みそうになる自身の精神に、強烈なエネルギーの脈動が響いてくるのを感じた。


(許さない……!)


 彼が次に感じたのは、そんな短い言葉と焼けつくような怒りの熱であった。


“ビィーーッ!!”


「……!?」


 次の瞬間、ノクストスは無数の銀色のイナゴが蠢く球体の中から、それを切り裂くようにピンク色の閃光が漏れ出すのを見た。それはバーナーのように動き、球体を焼き切っていく。


(長い魔力刃……いや、魔力砲……!?)


 デストローカストの圧倒的な質量を押し返すほどの力に、ノクストス自身も驚愕した。


“ドクンドクンッ!”


 つい先ほどまで、マーシーの精神力が減退した影響で自身も脱力していたというのに、今度はガソリンを無理やり詰め込まれるような勢いで、彼にエネルギーが注ぎ込まれてくる。

 あまりの落差に、その変化自体を負荷に感じてしまうほどだった。


(許さない……!)


「マーシー……」


 ノクストスは、マーシーの身を焦がすほどの怒りの炎を感じた。彼女は怒っている。周囲の人々が蹂躙されたことに、彼らが得るはずだった幸せを理不尽に奪われたことに、まるで自分がそうされたかのように……。

 ノクストスはいたたまれない気持ちになった。他人に寄り添える、思いやりにあふれた彼女の心は、だからこそ自らの身も心も焼き尽くすほどの強い怒りに駆られているのだ。心がつながっているからこそ、彼には分かった。強い怒りのエネルギーを発露しながらも、彼女の心が悲しみで軋んでいることが。


「はぁああああっ!」


 やがて、マーシーの絶叫にも似た雄たけびが聞こえてくる。圧倒的な攻撃力に押され、デストローカストはついに群れの包囲網を解いてしまう。


「離せっ!」


“バキンッ!”


 ノクストスも、いつまでも捕らわれたままではいなかった。マーシーの魔力の高まりに共鳴して出力を取り戻すと、四肢にエネルギーを流し、固まった金属の糸による拘束を引きちぎった。


「マーシーっ! 怪我はない?」


 ノクストスは、すぐに彼女の背中をかばうように飛び込んで武器を構え直す。


「…………」


「マーシー……?」


 マーシーはステッキを構えたまま何も答えない。ノクストスは何か重大なダメージを負っているのではないかと心配になった。ただ、彼がスキャンする限り、目立った外傷はないようだった。


「……ノクストス、あの小さいやつらってどうやって倒せばいいのか分かる?」


「……!? ……う、うん。あれはたぶん分裂型だ。核はない。小さな分裂体は独立しているようで、微弱な魔力のつながりによって相補的に存在しているんだ。つまり、全体の質量のうち一定量を破壊できれば、いずれ存在を維持できなくなって崩壊するはずだ」


 質問に答えるどころか逆に質問を返され、ノクストスは戸惑った。それでも、デストローカストが分裂型とみられること、そして過去の交戦経験から導き出した対処法を伝えた。


「相手が力尽きるまで潰しまくればいいんだ?」


 そう確認するマーシーの声は、ノクストスがギョッとするくらい冷たかった。


「……そうだ。だから、これ以上被害が広がらないように敵を抑えて、シンセリーたちが来るのを待とう。4人でならきっと殲滅しきれる」


「……きっと、それがいいんだろうね。……でも、ごめん。今はこのままやらせて」


「マーシー……!?」


 ノクストスは思いがけない返答に心底驚いた。彼は、彼女を慎重で人の言うことを素直に聞くタイプだと思っていた。


「…………」


 マーシーは無言で敵の方へ歩み出していく。ノクストスは止めようと思ったが、できなかった。


評価・感想が作者の1番の燃料です!あたたかい感想をお願いします!


Skebなんかもやってるのでそちらもよろしくお願いします。興味があればプロフからどうぞ。


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