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第19話 追跡戦

マーシーはリメイク前よりは才能バク盛りですが訓練をしていないので諸々の能力値はまだ低いみたいな感じです。


「ああは言ったけど、ホントに大丈夫?」


 巡航形態でマーシーを乗せているノクストスは、高速道路を走ってフェレンゼルを追っていた。まだ距離があるので、彼はマーシーの体調を確認する。


「うん。戦えるかはともかく、気分はだいぶ良くなったよ。通信で教えてもらった回復魔法、すごく効いた気がする」


 彼女は自己申告の通り、だいぶ血色がよくなっていた。それを精神リンクによって体感的に確認しているノクストスは、正直舌を巻いていた。回復魔法はステッキ側の補助が入る魔法の1つだが、それなりに難しい魔法だ。にもかかわらず、マーシーは呪文と使い方のイメージを教えられただけで、使ってみせた。


「また身体強化魔法を使ってみるから、もっとスピードを上げても大丈夫。だんだん慣れてきた……飛んでるあなたも体の一部だと思えば、だいぶ楽になるって分かったし」


 ノクストスはパートナーの提案通りに、彼女の纏う魔力が強まるのに合わせて、スピードを上げていく。風圧も、かかるGもそれに比例して強くなってしまうが、魔法の行使で強まった彼女の身体がそれに適応する。

  2人が最初にシンセリーたちのもとへ向かうとき、マーシーは巡航形態のスピードに対応するために身体強化魔法を習い、試しながらスピードを上げていった。それでも慣れていなかったり、魔法が不十分だったりして三半規管がやられてしまった。

 それでもノクストスにしてみれば驚異的な魔法の習得速度だ。


(魔法の才能があるのか? それとも魔法少女の才能と言うべきか)


 ノクストスが再起動時に受け取った碧乃一実の解析データを見ると、保有魔力量、魔法出力ともに膨大だとある。それは、戦うためのエネルギータンクが大きく、そこから取り出すための蛇口も太いということだ。それだけを見ると、全魔法少女でも屈指の素質があると言えた。


「……んっ、見えてきた」


「ホント?まだ暗くて見えない……」


 ノクストスは望遠カメラに追っているターゲットの姿を捉えた。


「本当にいいの?」


「今は聞かないで……逃がすわけにはいかないんだから。できるか分からなくても、やってみせる」


 シンセリーが指摘した危険性を考えると、彼女が言った通り離脱した方がいいのかもしれない。そんな考えがノクストスの計算の中によぎる。しかし、マーシーはやる気のようだ。正確には、やらなければいけないと思っている。

 確かにあのスピードで魔法少女と勇者が展開する遮断フィールドの外に逃げられてしまうと、避難が完了していない場所で好き勝手されてしまう。そうなればただでさえ強化されているフェレンゼルが、さらなる力を得てしまう可能性も考えられる。そう考えると、魔法少女の本懐である人命を守るという目的を果たす手段としては、このまま追いかけるというのが最適解だ。

 しかしノクストスはマーシーの背負うリスクのことを考えると、尻込みしてしまう。


「ノクストス……傲慢だとか調子乗ってるとか思われちゃうかもなんだけど……私は魔法少女になるって決めたの。守られる存在じゃなくなりたいの……」


「……!?……ごめん、君を信じる。いや、僕たちならきっとできる……飛ばそう、最大戦速で接近する!」


 ノクストスは、マーシーの覚悟を言葉で聞いて認識を改める。彼女の自認は、すでに1人の一般人から1人の戦士へと昇華し始めている。だから、守るべき市民のために自分からリスクを背負う覚悟があるのだ。それは思い上がりかもしれないが、パートナーである自分だけはそれに寄り添っていたいと思った。

 だから危険だとしても、鋼魔の排除のためにできることは全部やる。そんな決意のもとに、2人は心を1つにして加速を掛ける。


 ※


 身体強化魔法は視覚などにも影響を与える。マーシーは視界の中に、一心不乱に幹線道路を進むフェレンゼルの姿を捉えた。ノクストスたちが張り付いていれば、少なくとも半有機生命圏を展開させたまま追跡できる。今すぐ周囲に被害が広がる心配は少ない。しかし、避難の終わっていない地域に入られたりすれば混乱は必至であるし、もたもたしていると取り込まれた人たちの“消化”が終わってしまうかもしれない。マーシーはやはり、シンセリーの合流を待たずに仕掛けなければいけないと思った。


「ステッキよりも使いやすいだろう……使ってみてくれ」


“カシャ!”


「これは……」


 ノクストスが何かを操作したかと思うと、側面のパーツが展開して、拳銃が出てきた。


「それは、魔力の弾丸を放つ銃だ。君が握れば、手のひらから自動で弾丸を装填してくれる。その場合は魔法少女の魔法攻撃と同じ効果を持つことになる」


「わ、分かった。やってみる……」


 その銃は普段、ノクストスの使う勇者用の銃だが、魔法少女の使用も想定されているという代物だった。マーシーはもちろん銃を使った経験などなかったが、高速で移動しながらステッキを構えるよりも、初めから狙って撃つ道具を使う方がいいと考えて使ってみることにする。


「当たれー!」


 身体強化魔法をより強めて、片手でハンドルを握る状態で姿勢を安定させ、空いた右手で撃ってみる。


“パンッ!パンッ!パンッ!”


 光弾が前方へ飛んでいくが素人の照準では当たるはずもない。


「ダメ……当てられない……」


 マーシーは遠距離での射撃を早々に諦めてしまう。彼女は自分の不器用さを歯がゆく思う。魔法に関することは意外なほどうまくいくが、自分の肉体を操るようなことはそうもいかない。彼女は魔法少女に変身したところで、すべてができる超人に変われるわけではないのだと思い知らされてしまう。


「もう少し接近してみよう!……構えて!」


「うん!……くぅ……!」


 遠距離が難しいならば近づくしかない。単純にそう考えた2人は、横並びになろうとさらに加速する。


「グルルルラァッ!」


  警戒域の境界線を越えてしまったからか、それまでマーシーを無視していたフェレンゼルが反応し、迎撃態勢を取ってしまう。


“バッシュッ! バシュシュ!”


 先ほどの強化でガルナーガの力の一部を獲得したのか、放電攻撃を仕掛けてくる。


「……!?バリア張って!頭を低くして!」


「え? う、うん! うわぁぁああああっ!」


 ノクストスは警告し、マーシーが構えきる余裕もないまま、自らも電磁バリアを張りつつ回避行動をとる。稲妻の隙間を縫うように小刻みに左右移動を繰り返して、エネルギー密度の少ない部分を探しながら進んでいく。


「うっ……くぅ……!?」


 マーシーは攻撃する余裕もなく、ノクストスにしがみつくので精一杯になってしまう。バリアでダメージそのものは防げているものの、その圧力は確実に彼女の精神を削り、恐怖で追い詰めていく。


「まずい……この速度で攻撃しても、分離した人が危険だ。なんとか敵の動きを止めないと……」


  高速で移動する敵。回避をしつつ追いかけている自分たち。その状態では、ノクストスは分離後に安全に救助する算段を付けることができなかった。


『方法はある!』


 ノクストスの懸念を聞いていたのか、インカムから男の声が聞こえてくる。ガルナーガが倒されたところで、管制室との通信が復活していたのだ。


「神名さん!?」


「だ、誰!?……うぅ……」


 当然の話だが、マーシーはOIDOの人間であろうその声の主が誰なのか分からなかった。ただ、ノクストスの方は分かるようである。


『マーシー、何が何だか分からないと思うが聞いてくれ! 君のアミナ・ピースを解析した結果、固有魔法が重力を操作するものだと分かった! それを使えば、敵の動きを止められるかもしれない!』


「じゅ、重力?」


 通信先の男は、安全な人間の分離のための手段をマーシーに提示してくる。魔法少女が1人に1つ、固有魔法を持っていることはマーシーも認識している。だからといって、使い方まで分かるわけではないが……。


『そうだ。そのために君は自分の中の戦いのイメージを具現化して、ステッキをリラクト・コメットに変化させるんだ!』


 マーシー・リブラは、強大な敵に打ち勝つために、戦いの中で成長することを求められていく。



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