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第18話 共闘

ノクストスの能力はリメイク前なら大体記憶が戻ってから使うはずの能力でした。


「まだクラクラして動けませんけど、バリアは張れそうです。だから私のことは気にしないで行ってください」


 まだ立ち上がれず、どこかふらついているマーシーだったが、その目には強い意志が宿っていた。


「分かった。だけど危なくなったら、ノクストスを呼び出して逃げてね。……ノクストスも、いざってときはマーシーが最優先。私たちを囮にしてでも逃げて。あなたの判断で逃げてもいい」


「そんな……!」


 シンセリーはノクストスに非情な厳命を下す。本人はすんなりとうなずいていたが、マーシーの方が納得していなかった。


「マーシー……そもそもあなたがここにいること自体倫理的にルール違反なんだよ。先輩に格好つけさせて」


「…………!?」


 先輩、という言葉を聞いて、自分がシンセリーの後輩という立場になれているという自覚が芽生え、安易な反抗ができなくなる。


「それじゃ、頼むよ。忍者さん」


 最後にシンセリーは、作戦の要であるノクストスの胸を叩いて外へと飛び出した。


 ※


「ギジャァァァ!」


「グルルルラァッ!」


「ゴアアアァッ!」


 すでに視力を取り戻した3体の鋼魔は、ビルの隙間から現れたノクストスの姿をしっかりと捉えていた。夜の闇に溶け込みやすい色をしていて、特に音を立てているわけでもないノクストスを当然のように捉えることができるのは、人外の感覚ゆえと言えるだろう。


“ギュイィィンッ!!”


 次に響いたのはフェレンゼルのタイヤの回る甲高い音。その灰色の影は、弾き出されるように跳ね飛んで、ノクストスへ襲い掛かった。


「速いのは僕の取り柄なんでね」


 ノクストスはそう言い放つと、腕からのワイヤー射出とスラスター噴射で空中機動を制御して、フェレンゼルの脇をすり抜けた。彼の狙いは、分離させずとも攻撃が可能なガルナーガだ。それは相手も承知の上なようで、フェレンゼルとオーバグルはガルナーガを庇うように立った。

 動きの鈍重なオーバグルでは、ノクストスを捉えることはできない。本能的にそれを察しているのか、広域に展開したガルナーガの触手からの放電で牽制をかけ、その上でフェレンゼルが本命の一撃を叩き込もうとする。


「鋼魔が連携とは、生意気だな。でも、もう遅い。お前たちは僕の術中だ」


 ノクストスは余裕の様子で言い放った。そして、ガルナーガの広域放電は、予期していなかったものを露わにすることになる。ノクストスの姿が掻き消えた。

 

「ギュアァ?」

 

 鋼魔も魔法少女ほど鋭くはないが、生命力でもある魔力を探知することができる。だからこそ、手応えがなさすぎることに気づくことができた。そしてまた、生物としての本能的な警戒感がガルナーガを穴の中に隠れさせようとした。


「逃がさない……!」


 しかし、それを許さないものがいる。ノクストスの攪乱で接近していたシンセリーだ。すでに彼女は弓をつがえ、照準を終えていた。


「ミーティア・ダンパー」


 【インフレア】によって質と量の両方を増幅した、魔力の矢の雨を降らせる。土砂降りのときに響くような、絶え間ない衝突音が響く。


「グ、ウゥ……」


 それだけでも相当なダメージになっていたが、それはあくまでガルナーガを逃がさないための足止めでしかなかった。


「エクスマイン……」


 シンセリーは静かに、そして簡潔に、死刑執行の合図を送る。彼女が優しさに満ちているからこそ、そこで鋼魔にかける慈悲などかけらもない。


“ギュィーーン!!”


 死にゆくガルナーガが感知したのは、何かが加速していくような甲高い音と、爆発的なエネルギーの高まりだった。そのもとには、光輪を背にしたエクスマインがいた。高まるエネルギーをノクストスが隠し切れなくなったのだ。


「往生しな、蛇野郎……」


 彼が背負った光輪は、電気と魔力を混ぜて凝縮する加速装置である。勇者の心臓でありエンジンと言える機構、デマンド・サーキットをそのまま応用した機能だ。


“ガション!”


 エクスマインの胸部で砲身が展開し、その中に光が蓄積していく。


「テラ・ドミネーター!」


 エクスマインの叫びとともに放たれるそれが、彼の誇る必殺武器、魔力荷電粒子砲。


“ドジューーン!!”


 何かがじりじりと灼けるような高い音が響き、高熱と光の激流がガルナーガを消し飛ばす。……ように見えた。


「何を……!?」


 己の死を悟ったガルナーガは、最後の抵抗を残した。ガルナーガを中心に広がる爆発の中から、テラ・ドミネーターのものとは全く別の光の線が伸びた。


「グウオォォォンッ!!」


 その線はフェレンゼルへと突き刺さり、ガルナーガに残るエネルギーのすべてを託したのだった。


「いけない!」


 反応したシンセリーが線を切ろうとしたときには、もう遅かった。


「ガァアアアッ!!」


 フェレンゼルは空に向かって吠え、骨が砕け、肉が裂ける音を周囲に響かせながらさらに大きく成長した。どちらかと言えば細身だった四肢は、太く強靭になり、タイヤを含めた駆動部と、そこにエネルギーを送る機械器官を大型化させていく。


「くっ……余計なあがきを……!」


 シンセリーは、明らかに脅威度が上がっていそうな超強化フェレンゼルを見て、どんな攻撃が来るかと身構えた。


“ギュィーーン!!”


 フェレンゼルは振り返って、手に入れた強力な力をすべて逃走に注ぎ始めた。エグゾーストノイズがビルに反響し、アスファルトを砕きながら進むタイヤのグリップ音だけを後ろに残して、夜の闇の先に消えていこうとしている。


「逃げる気か!?」


 声を上げるエクスマインとシンクロするシンセリーは、エクスマインの巡航形態で追おうとする。しかし、そこで踏みとどまる。


「オオオォォォッ!!」


“ドン!ガインッ!”


「させるかよーっ!」


 パイルバンカーの爆裂音とともに、オーバグルの鋼の腕が振り下ろされる。それがシンセリーを襲う前に、エクスマインがそれを受け止める。


「くっ……!?どうするシンセリー!?」


 エクスマインは、大剣でオーバグルの動きを抑えながらシンセリーに問いかける。しかし、彼女はすぐには答えが出せなかった。この場を切り抜けてフェレンゼルを追ったとして、オーバグルはどうなる? マーシーを残していくのか? それはリスクがありすぎる……でも遮断フィールドの外でフェレンゼルを好きにさせてしまったときの被害は計り知れない。……でも自分を慕ってくれる、やっとできた後輩を早くも斬り捨てるなど、したくない。

 迷っている暇はない。そう分かっているのに決断できない。焦りだけがシンセリーの中に募っていき、彼女を追い詰めていった。


「あっちは私たちが追いかけます! シンセリーはその赤い奴を!」


 そんな声に反応して、シンセリーが顔を上げると、ノクストスがマーシーを乗せて巡航形態となり、フェレンゼルを追いかけようとしていた。


「マーシー!」


 動揺した彼女は、ほとんど悲鳴のような声を上げてしまう。しかし、当の2人の背中はそれを意にも介さず遠ざかっていく。


『こちらの方が、機動性もあるし小回りも利く……そちらはオーバグルを処理してくれ』


  すぐに声の届かない距離に入って、代わりにインカムから通信でノクストスの声が聞こえてくる。

 

「危なすぎる! ……そのまま離脱して!」

 

  危ない賭けをするぐらいなら、そのまま巡航形態で逃げてくれた方がいいと思ったシンセリーは叫ぶ。


『シンセリー、回復魔法を試したら気分がだいぶ良くなりました。私、頑張ります!』


「待って! ……っく…………エクスマイン! ソッコーで潰すよ!」


 一方的に通信を切られた。シンセリーは苛立ちと一緒にオーバグルを睨みつける。


(あとで、ちゃんと叱っとかないと……)


 言うことを聞かない後輩を、戒めなければいけない。それを果たすためには、目の前の障害物を早く排除しなければいけない。そんな思いでシンセリーは弓を構える。


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