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【完結】崖上小屋で今日もハイヒールを眺めます  作者: 小原みん


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番外編⑥ 演劇鑑賞とダンス

宿屋に戻ると、ルシナはドレスに袖を通した。


用意のいいセイラらしく、一人でも着られるデザインのドレスは、着心地も良く、サイズもぴったりだった。


「セイラさん、もしかして、私のサイズでわざわざ用意してくれた?」


鏡に映る自分の姿を見て、思わず見惚れてしまう。


洗練された濃紺のドレスは、ルシナの髪の色と合っていて美しい。


「髪型、どうしよう……このままでもいいかな〜」


一人でぽつりとつぶやいていると、控えめに扉がノックされた。


「ルシナ、着られたか?」


「ルキ、ちょっと待ってて。今、扉を開けるね」


ルシナが扉を開けると、タキシード姿のルキが立っていた。


背が高く、足の長いルキは、細身のタキシードがよく似合う。

程よく筋肉のついた胸板が強調され、少し長めの髪はしっかりと結ばれ、額を出している。


(ぐはっ……かっこいい!)


ルシナはルキを見上げたまま立ち止まると、ルキもまた目を見開き、熱い視線をルシナに向けていた。


「きれいだ」


ルキは短くそう伝えると、そっとルシナを抱きしめた。


(む、胸板……!)


ルシナは顔が熱くなるのを感じながらルキを見上げると、甘い笑みが返ってきた。


「髪型は、下ろしていくの?」


ルキはルシナの髪を掬い、毛先に口づけを落とす。


「へっ……えっと……不器用すぎて、凝った髪型はできなくて……」


「ふふ……じゃあ任せて」


ルキはルシナを椅子に案内すると、器用な指先で髪を編み上げていく。


ルキの指先が首に触れるたび、ルシナはぞくぞくとした感覚を覚えた。


「くすぐったかった?……ごめんね」


「……うん、大丈夫っ……」


(えっ……わざとじゃないよね……)


鏡越しにルキを見ると、ルキはくすりと笑った。


「ルキはなんで髪まで結えるの?」


「あぁ……昔、ジャスミンの人形ごっこに付き合ったことがあってな。人形の髪をたくさん結わされたんだよ。元々、手先は器用だからね」


「ふーん……そうなんだ〜」


ルシナは、少しだけジャスミンに嫉妬の感情を抱いた。


「髪を触るのは、ルシナだけだよ」


結い終わった髪に、そっと口づけを落とす。


「さあ、行こうか」


赤面するルシナをルキはそっと立たせると、劇場へと向かっていった。




*****



劇場には、多くの貴賓たちが観覧に訪れていた。

タキシード姿のルキに見惚れながらも、ルシナはルキの腕に手を添えて中へ入っていった。


色鮮やかなドレス姿の女性たちは皆美しく、花の香りが混ざり合っていた。


席に案内されると、そこは個室になっており、豪奢な二人がけのソファーが用意されていた。


「ここって、まさか、S席?」


「S席ってなんだ?」


「いや……スペシャルな席なのかなーって」


「あぁ……リオン様が用意したって言ってたからな。侯爵家に相応しい席になるだろうな」


席に座ると、案内人からシャンパンを渡される。


「あぁ……彼女にはアルコール以外で」


「かしこまりました。果実水などはいかがでしょうか?」


「それで頼む」


ルキは案内人にそう伝えると、ルシナをそっと見つめた。


「あまり外では、飲まないでくれ」


「……はい」


ルシナは、過去のやらかしを思い出しながら、素直に従った。


ソファーに二人で並んで座ると、柔らかい座面のせいで、ルキの方に寄って座る。


ルキは自然と、ルシナを抱き寄せるように腕を回した。


(きょ距離感〜)


ルシナはそう思いながらルキを見上げると、爽やかな笑みを返されるだけだった。


「さあ、劇が始まるよ」


ブザーとともに、幕が上がる。


オーケストラとともに、演者の歌が始まる。


壮大な音楽と衣装、舞台装置は圧巻だ。

ストーリーは女神と人間の悲恋で、感情移入したルシナは、隣にいるルキを忘れて、涙を流しながら没頭してしまった。


カーテンコールとともに、舞台が終わる。

物語の余韻に浸りながら、ルシナは盛大な拍手を演者たちに贈った。


そんなルシナの姿を、ルキは優しく見守っていた。


「は〜すごく良い舞台だった〜」


ルシナは、すっかりぬるくなってしまった果実水をごくごくと飲み干すと、目を潤ませながら大きく息を吐いた。


「ずいぶんと集中して観ていたね」


「うん、映画とかドラマとか、つい感情移入しちゃうんだ」


「えいが?どらま?」


「あっ……えっと、舞台みたいなやつのことね。あはは」


「……どんなところが良かった?」


「えっとね、女神様はきれいだし、歌もやっぱり上手だったね。人間の騎士役の人もかっこよかった!それに、二人が結ばれないと分かっていながら、夜空の光の下でダンスを踊るところなんて、最高だよ!あとね……」


舞台の感想になると、ルシナはルキを押し倒す勢いで、話が止まらない。


ルキはルシナの腰を支えながら、くすりと笑う。


ふと、自分がルキを押し倒すような姿勢になっていることに気付き、ばっと勢いよく離れた。


「ごめんなさい、つい……」


「あはは……ルシナが劇が好きなことは分かったよ。もう少し近付いてもよかったんだけど……」


ルキは、ルシナを支えながらそっと立ち上がる。


「さあ、宿屋に帰る前に、何か食べて帰ろうか……」


「うん!何かおすすめはある?」


「この近くだと、鴨肉が美味しいレストランがあるんだけど、行く?」


「うん、そこがいい!」


ルシナはルキにエスコートされながら、劇場の出口に向かう。


ふと、見知った色を見つけて視線を動かすと、長身の灰色の短髪の男が目に入った。

ルキと同じようにタキシードを着ている。


「ノアさん?」


立ち止まったルシナの視線を追うように、ルキも灰色の短髪へと視線を向ける。


(あいつは……)


ノアは、ルシナとルキの視線に気付くと、唇の前に人差し指を当て、静かに口角を上げると、人混みに紛れていった。



*****

 


ルキに連れられたレストランも、貴賓な人達が揃っており、中央のスペースは大きく開いていた。


ルキに聞くと、ここは時間になるとダンスタイムがあるそうだ。


ルキは、ルシナが女神と騎士のダンスシーンについて熱弁しているのを聞いて、このレストランを選んでくれたらしい。


(ルキって、こんなにスマートにエスコートするの?……えっ、これまでの女性関係、気になってきた……)


レストランで食べた鴨肉は、柔らかく、肉の脂の割合もちょうど良く、ソースが絶妙で、とても美味しいものだった。


ルシナは、ワインを飲みたくなった。


「ルキ、この鴨肉、赤ワインがとっても合うと思うの」


「うん、よく合うよ。だけどダメ。ルシナは自分が思っている以上にアルコールが弱いよ?」


「でもさ、一杯だけなら大丈夫だと思うよ?」


「一杯だけで、止められないでしょ?」


「ぐぬぬ……。でもさ、でもさ、せっかくのデートだよ?ルキしかいないよ?」


上目遣いで、ルキにねだる。


「……その表情はずるいよ。ルシナ。このレストランはダンスタイムがあるけど、踊りたくない?そんな時に酔っていたい?」


「むむむ……。ルキもずるい……」


「そんなに飲みたいなら、宿屋に帰ってからにしようよ。部屋でなら酔ってもいいけど……そんなことしたら、襲ってくれって言ってるようなものだからね?」


「……分かった。ワインは我慢する」


ルシナはしぶしぶ了承すると、鴨肉を頬張った。付け合わせのマッシュポテトも美味しく、ワインがなくても満足した。


程なくして、店内の照明が変わると、音楽が流れ出す。


「ダンスタイムだ……踊るかい?」


「もちろん!」


ルキは立ち上がると、ルシナに手を差し出す。

ルシナはその手を取ると、中央スペースへと歩き出した。


タキシード姿のルキは、ルシナと向き合うと、手を胸に置いてお辞儀をする。


ルシナはドレスを軽く摘んでカーテシーをすると、二人は手を取り合いながら、音楽に乗って踊り始めた。


音楽が終わり、見つめ合っていると、後ろから声をかけられた。


「ルシナ嬢、次は私と踊ってくれませんか?」


振り返ると、銀色のタキシードを着たリオンが立っていた。

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