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崖上小屋で今日もハイヒールを眺めます  作者: 小原みん


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70: チョコレートの余韻

翌朝。

ルシナが目を覚ますと、コハナがテーブルで何やら作業をしていた。


「おはよう……何を作ってるの?」


「おはよう」


コハナは顔をあげて、テーブルの上の小物を並べて見せた。


キーホルダー、栞、ストラップ。

コハナの手には、髪飾りがあった。


どれも白い花が施され、細やかな仕上がりだった。


「コハナ、器用だねー」


「小瓶に入りきらなかった花で作った」


「そうなの?どれも素敵ね」


ルシナが微笑むと、コハナは小物をそれぞれ指でさし、名前をあげていく。


キーホルダーは、カイ。

栞は、セイラ。

ストラップは、ルキ。


手の中にあった髪飾りを、ルシナに手渡す。


「コハナ、ありがとう」


ルシナは鏡を見ながら髪につけ、振り返ってコハナに見せた。


「いいね」


コハナは目を細めると、小物と小瓶をひとまとめにし、三つの小さな袋へ丁寧に入れた。


「これで、みんなに配れるね」


「うん」




ーーーーー




ルシナとコハナは、それぞれの職場へ向かう前にカイの薬草屋へ立ち寄った。


店の扉を開けると、カイが薬草棚を掃除していた。


「カイ、おはよう」


「おっ、ルシナにコハナ!おはよう」


カイは振り向きざまに挨拶し、カウンターを越えて二人のもとへやってきた。


「どうした?……具合悪い?」


カイは二人の顔色や立ち姿をさっと見た。


「ううん……違うの。今日は渡したい物があって……」


ルシナはぱたぱたと手を振り、鞄から袋を取り出してカイに手渡した。


「くれるの?……食いもん?」


「ふふ……開けてみて」


がさごそと袋を開け、カイは小瓶に入った白い花とキーホルダーを取り出した。


「わぉ……きれいな花だね。これ、キーホルダー?」


「そう、貰いものの花なんだけど、きれいだから、コハナが小瓶に分けてくれたの」


ルシナは、そっとコハナの背中を押す。


「キーホルダーもコハナの手作りなんだよ」


「へぇ……すげぇな。コハナ、センスある〜」


「キーホルダー、鍵なくさない」


コハナはいつもの無表情でカイを見つめ、ぽつりとつぶやく。


「あははっ、俺いつも探してるもんな。ありがとなっ」


カイはそう言うと、コハナの手を握り、ぶんぶんと振った。


「それにしても、この花……どっかで見たことあるな……」


カイは小瓶をつまみ上げ、目の前まで持ち上げてじっと見た。


「……どこだっけ?」


眉をひそめ、首を傾げる。


「……思い出せねぇ。まいっか!そのうち思い出すだろっ」


いつもの調子で、けたけたと笑い、店の鍵にキーホルダーを取り付けた。


「これで、きっと失くさないなっ」


カイがキーホルダーを揺らしながらコハナを見ると、コハナは満足そうに小さく頷いた。


「あっこれって、俺にだけじゃないよね?」


カイはルシナに、こそっと訊ねた。


「うん……あと、セイラさんと、ルキの分もあるよ」


ルシナが答えると、カイはあからさまにほっとした顔をした。


「それはいいな!俺だけだったらさ、ルキが睨んでくるだろうから、ヒヤヒヤしたわ」


「ルキの分もあるよ〜。でも、ルキは睨まないでしょ?」


「……うん、ルシナにはね」


(引きこもりのやきもちは、めんどーなんだよなぁ)


カイは、ルシナに複雑な表情を向けた。


「じゃあ、私たち、もう行くね〜」


「おう!がんばってなー」


手にキーホルダーがついた鍵を持ったまま、

カイは大きく手を振った。



キーホルダーをつけてから、カイが鍵を探すことはなくなったのは、ここだけの話。




*****




「カイと話をすると、元気が出るね」


そんな話をしながら、二人はパン屋にたどり着く。



「コハナもお仕事頑張ってね。これ、セイラさんとルキには、私から渡しておくよ」


ルシナは、鞄をぽんと軽く叩いて笑いかける。


「うん。セイラに渡して」


コハナは銀の腕輪にそっと触れながら、ルシナを真っ直ぐ見据えた。


「……うん、ちゃんと渡すよ!」


コハナの、いつもとは違う言い方に戸惑いながらも、ルシナは続けた。


「仕事が終わったら、ルキの店に寄るから、帰りは少し遅くなるかも」


「わかった」


コハナは短く答えると、そのままパン屋へ入っていった。



*****



カフェの雰囲気は変わらず、主婦たちの憩いの場でもあり、セイラのファンや常連客が絶えず訪れていた。


セイラは疲れているのか、どこか元気がない。


それでも、ルシナを見ると、にやりと笑っては、「昨日は楽しかった?」と冷やかしてた。


カフェの営業が終わると、ルシナはセイラにコハナが用意した袋を手渡した。


「セイラさん、いつもありがとうございます。頂き物なんですけど、コハナが見栄え良くしてくれて」


「あら、素敵ね。白い花と……栞かしら」


「はい!きっと、いいことありますよ」


(なんたって、女神さまの加護付きだし)


「この白い花、あまり見ないわね。きれい……。栞は仕事に使わせてもらうわ。コハナにも、ありがとうと伝えてくれる?」


「はい!」


セイラは、瓶の中の白い花を静かに眺めた。


(いいこと……ね)


微笑みの内側には、複雑な思いが滲んでいた。


「これから、ルキの店に行くの?」


セイラの不意の問いかけに、ルシナはどきりとした。


「あっ……あの、昨日は蓄音機ありがとうございました。まさか、ルキから誘ってくれるなんて……」


徐々に顔を赤くしていくルシナを、セイラはおもしろそうに見つめた。


「ルキも勇気を出したのね。ふふ……。きっと他の誰かと踊るんじゃないかって、焦ったのよ」


「えっ……そ、そうなんですかね」


「あの後、抱きしめられたりして……」


「な、ななな……」


「ふふふ……図星ね」


「セ、セイラさ〜ん」


「ごめんなさい、つい反応が可愛くて」


セイラは、笑いすぎてうっすら涙を浮かべた。


(セイラさん、意外と笑い上戸かも)


「さあ、ルキのところに行くんでしょ?……いってらっしゃい」


「思い、伝えてきます」


「あら……いいわね。きっと、うまくいくわよ」


セイラに背中を押され、ルシナはルキの店へ向かった。




*****


 


靴屋に着くと、ルシナの胸がきゅっと苦しくなって立ち止まった。


ショーウィンドウ越しに、ルキの姿が見えた。

店の奥で、ルキは背を向けて作業していた。


姿勢の良い広い背中は、初めてこの店を訪れた時と何も変わっていなかった。


ルシナは、しばらくその姿を見つめていると、ルキが不意に振り向いた。

ショーウィンドウ越しに目が合うと、ルキは扉を開けてルシナを招き入れた。


「ルキ、お疲れさま」


「ルシナ、待っていたよ。会いたかった」


「……私も、会いたかった」


ルシナは鞄をぎゅっと抱え、ルキの後ろに続いてバックヤードへ入っていった。


バックヤードのテーブルには、コーヒーとトリュフチョコレートが置かれていた。


「これ、王都のお土産。妖精が食べてるみたいで、数が減るんだよね」


少し困ったような顔で、ルキがつぶやく。

その背後で、妖精が“てへっ”と笑っていた。


「ありがとう……美味しそう。これなら妖精さんも我慢できないね」


ルシナが妖精にウインクすると、妖精はぴょんと跳ねて顔を赤くした。



「後ろにいるの?」


「うん……すごく可愛い子だよ」


「……ルシナも可愛いよ」


「もう……ルキったら」


ルシナの顔も、妖精と同じくらい赤くなった。


「そ、そうだ……!ルキに、靴の支払いを……」


「あぁ……そうだったね」


ルシナはルキに、金貨を一枚渡した。


(日本円にすると十万円……フルオーダーなら安い……のかな。ビジューもついてるし、安いよね……)


ルキは金貨を受け取ると、寂しげな表情を浮かべた。


ルシナは、その表情が気になり、じっと見つめた。


ふと視線を外すと、片足だけのボルドーのハイヒールが作業台に置かれていた。


「あっ……ルキ、借りてた片足のハイヒール、あれも返さなきゃだね」


ルキはハイヒールに目をやると、ルシナを真っ直ぐに見つめた。


「あれは、ルシナに持っていてもらいたい」


(――あれは、俺とルシナをつなぐものだから……)


「え?……いいの?」


「あぁ」


「ありがとう。嬉しい……。何度も、あのハイヒールを眺めて勇気をもらったの。それくらい、私にとって大切なものになってたから……」


ルシナがルキを見ると、ルキの瞳には確かな熱が宿っていた。


ふと、互いの手が触れた。


「ル、ルキ……あのね、伝えたいことがあるの」


ルキの大きな手が、ルシナの手に重なる。


「わ、私ね……」


「好きだ」


いつもより低いルキの声が、ルシナの耳に響く。


ルキは、ルシナの頬にそっと手を添えた。


「……好きなんだ」


ルシナは潤んだ瞳で、ルキを見つめ返す。


「……また、先越されたぁ〜」


「え?」


「……ルキ、私から言いたかったぁ〜」


「……ルシナも、俺を好き?」


「そうだよー、私もルキのこと、大好きだよー。めちゃくちゃ緊張してきたのにー」


頬に添えられたルキの手に、ルシナは自分の手を重ねた。


「ルキ……好きだよ。だから……」


ダークグレーの瞳が揺れた次の瞬間、ルキはルシナの言葉を塞ぐように、強く重ねた。


何度も重ねているうちに、ルシナの力が抜けていく。


「ルキ……息が……」

「あっ……すまない。つい、嬉しくて……」


「ふふっ……」

「ははっ……」


「チョコレート、食べようか」

「うん!」


コーヒーとチョコレートを手に、二人はルキの自室へ向かった。

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