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第百十三段 短き心

【本文】

 むかし、男、やもめにて居て、


 ながからぬ命のほどに忘るるは

   いかに短き心なるらむ



【現代語訳】

 昔、ある男が、妻がいなくなってひとり暮らしでいるときに次の歌を詠みました。


 長くもない人生の間であるのに私のことを忘れてしまうとは。なんと短い心であったのでしょうか。



【解釈・論考】

 この段も端的で難しくはありません。「やもめ」という言葉は現代でもたまにみかけることがありますね。元々は夫を失った女のことを指す言葉であり、妻を失って一人になった男を「やもを」と言ったそうですが、次第に一人になった男も「やもめ」というようになりました。


 歌をみていきましょう。「ながからぬ命」と「短き心」の対比がユニークですね。この歌は女との別れを離別とみるか死別とみるかで印象が随分変わってきます。本稿の現代語訳では離別の意味合いでとりましたが、死別の点でみると「失った妻のことを悲しく恋しく想う気持ちがいつの間にか薄らいできています。私が妻を愛する心も短いものだったのでしょうか」と自嘲するような意味合いにもとれそうです。こちらの理解方が、歌として格調高いものになるように思えますが、安易に死別の歌と解釈するのも憚られるのでひとまず離別の歌とみておきます。

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