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第百十段 魂(たま)むすび

【本文】

 むかし、男、みそかにかよふ女ありけり。それがもとより、「こよひ夢になむ見え給ひつる」といへりければ、男、


 思ひあまり出でにし魂のあるならむ

   夜深く見えば魂むすびせよ



【現代語訳】

 昔、ある男が、ひそかに通って逢っている女がいたのでした。その女から「昨晩貴方が夢に現れなさいました」といってきたので、男は次のような歌を詠みました。


 貴女を思うあまり身体から魂が抜け出て行っていたようです。夜が更けた頃に逢えたなら魂同士を結び付けて、ずっと貴女の傍にいさせてください。



【解釈・論考】

 話の内容の理解は難しくありません。人目をしのぶ恋愛であるだけに、互いを想う気持ちはいっそう強い恋愛だったのでしょう。男を恋しく想うあまり、夢ともうつつともつかず女はこのような手紙を送ったのでしょう。それに応じる男の歌は優しさと恋心がよく表れています。


 歌をみていきましょう。初句の「思ひ」は「心の火」といった意味もかけられている掛詞です。「魂むすび」というのは、魂があてもなく浮遊するのを留めるおまじないです。魂が浮遊するというと、現代の我々からみるとなんとなく死者の魂であるように思われますが、この時代は自分を愛している人が夢の中にまで逢いにくるということが信じられていました。貴女の夢にまで私の魂が浮遊して現れたなら、どうかそれを貴女と結び付けて離れないようにしてください、といっている訳です。たいそうロマンチックですね。


 夢に現れてきてそれを手紙で報告しているということは、この二人はその夜は逢えていないのです。人目をしのぶ恋なので逢えない夜も多いのかもしれません。そういった二人の事情も含めてこの歌を鑑賞すると、男のほうも決して気持ちの余裕をもった状態で歌を贈っているという訳ではなく、自分も貴女に逢いたい、ずっと一緒にいたいという恋心の激しさも持ち合わせているのかもしれません。それが「魂むすび」という自分の全てを賭けた祈りの言葉を引き出したのかもしれませんね。

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