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試練

 木製の玉座に足を組んで座り、オーネリアスはその身から発する気配だけでおれを圧倒する。



 彼女は無言でおれにこう伝えている。



 きらびやかな玉座も、重厚な鎧に包まれた兵士も不要。

 そんなもので権威を示す必要はない。

 私の存在そのものが『王』である――と。



 おれも色んな人間を見てきたが、ちょっと眼を合わせただけでここまでヤバいってわかる奴に会ったのは初めてだ。

 いわゆるカリスマってものを感じるわ。



 いいね、あんた。すごくいいよ。

 王さまなんてしょせんお飾りだろというおれの偏見を粉々に吹き飛ばしてくれたわ。



 オーネリアス・コープス八世。

 あんた、世界に五人いる頂点のひとりにふさわしいぜ。



「私マイラルの商人、マサキ・リョウと申します。以後お見知りおきを」



 おれはすぐに膝をつき王の御前で頭を下げる。



 礼儀は大事よ。こいつを知らん奴は野蛮人だと思われる。

 あ、この国の連中はみんな蛮族って呼ばれてるんだっけか。


 こいつは失敬……っていうか横の野蛮人二人! おまえらも頭を下げんかい!



「本日は商会を立ち上げるにあたって、オーネリアス王の許可をもらいにきました」


「ほう、奴隷の身分でご大層なことだ」



 ――ちっ、やっぱりバレてるか!



 蛮族といえどもこの国を牛耳る王だ。その情報網は侮れねえか。

 まあいい、そのためにこのクソデブと一緒に来たんだ。



「確かに今の私は奴隷の身分ですが、それはエルメドラに到着した際、ウォーレンの国軍に捕まってしまったというだけでございます。正体は、そこにいる勇者タナカと同じく選ばれし勇者のひとりでございます」



 ――だ、よ、な?



 おれが睨みつけると、田中は脂汗をダラダラ流しながら打ち合わせ通り相づちを打ってくれた。

 へっ、粗大ゴミのてめえだが役に立つこともあるじゃねえか。



「それにしては首筋に光の紋章が出ていないようだが?」



 なんだこいつ……やけにマイラルの勇者伝説に詳しいな。

 この国じゃオーネリアス一世が勇者ってことになってるんじゃないのかよ。

 田中のこともただ腕の立つ剣客ぐらいに思って招待したんだとばかり思っていたが……。



「例外もあります。私が神の手により異世界から召喚されてきたのは事実です。どうか信用していただきたい」


「そこは疑っておらぬ。申し訳程度に髪は染めているが、おまえはどこからどう見ても日本人だからな」



 に、日本まで知ってるだとぉ!?

 こいつ何者だぁ!!?



「もういい。茶番はここまでにしよう」



 オーネリアスは玉座から立ち上がると、膝をついたままのおれの許にゆっくりと近づいてきた。



「おまえ、私の顔を見て笑っただろ?」


「い、いえ、そのようなことは……」


「いいや確かに笑った。嘲りの笑みではない。愛想笑いでもない。さも嬉しそうな表情かおでな」



 ……わかっちゃいたが、やはりとんでもねえ傑物だな。



「挑戦するのが生き甲斐かい? いいぜ、顔を上げな。本気でかかってこい。このオーネリアスが直々に相手してやろう」



 こいつ相手に小手先の交渉術は通用しねえ。

 相手にとって不足なし。正々堂々――真正面からぶち当たるぜ!



 おれはすぐに立ち上ると、今度はオーネリアスを上から見下ろした。

 おれのほうが背は高い。向こうが玉座から下りてくれば必然こうなる。



「こことウォーレンを繋ぐ航路を作りたい。おれに力を貸せ」


「急に言葉遣いが荒くなったな。そっちが素のおまえかい?」


「悪ぃな。オーネリアス語は覚えたてでな、型通りの敬語を崩すとどうしても地が出ちまうんだ。何しろおれは日本生まれの日本育ちなんでね」



 だが、精神的にはどうかと問われれば……正直微妙だな。



 おれはまだ、心のどこかでオーネリアスを上に見てしまっているな。



 だが……それは違うだろ?



 こいつとはビジネスパートナー。

 つまり対等な関係になろうって思ってるんだ。

 精神的に屈服したままでは今後もいいように使われるだけだ。



 思い出せ、マサキ・リョウ。

 かつて日本の王だった頃の自分を。

 何者であろうと力で屈服させてきたあの頃を。



「ぶっちゃけさ、あんた今困ってるだろ? 魔王軍の侵攻にさ」


「その通り。とても困っている。魔族は私の想像以上に手強い」



 えらくあっさりと認めたな。

 おれ相手にゃ虚勢をはる必要すらないってか?



「だったらさっさとウォーレンと和解して助けてもらったほうがいい。それが無理な事情でもあるのか?」


「うちとウォーレンには宗教的な対立があってな。まあ、それでもなんとか和平条約締結の約束をとる段階までこぎ着けることはできたんだが……ウォーレン十四世が死去した途端に音信不通になってしまった」


「キナくせえ話だな。まさか和平反対派に暗殺されたか?」


「真相はわからん。外交ルートは完全に閉ざされてしまったし、誰かウォーレンの内情を探ってくれる者がいると助かるのだが」


「うってつけの奴らがいるぜ。ここにな」



 そう、おれたちとオーネリアスは利害が一致するのだ。

 こいつを利用しない手はない。



「おれたちは今、マグルワ商会と両国間の航路を繋ぐ取引をしている」


「その話はすでに聞いている。ウォーレンの許可なくしてできるのか?」


「許可自体はすでに出ていて取り消されてはいないらしい。会議のためにウォーレンに渡る予定だが、ついでにウォーレンの内情について調査してやるよ」


「だから、私におまえの後ろ盾になれ……ということかい?」



 その通り。

 話が早くて助かるわ。



「できるのか? 奴隷のおまえに。今のウォーレンは火薬庫だぞ?」


「できるさ。何しろおれさまは勇者だからな」



 おれがキメゼリフをビシッときめると、オーネリアスは大きな声で笑いだした。



「勇者はおまえの隣りにいる男だろう。なんでおまえに従っているのかは知らんがな」



 うるせーボケェ。おれが勇者だっつってんだから勇者なんだよ!



「まあいい。実をいえば私にとって紋章の有無などどうでいいのだ」



 ――――ッ!!



 首筋に冷たい感触。



 腰に携えていたオーネリアスの剣が、今まさにおれの命を奪わんと牙を剥いていた。



「私の考える勇者の定義はいたってシンプルだ」



 い、いつの間に抜刀した!?

 まるで見えなかったぞ!



「勇者とは勇気ある者のこと。こうして剣を向けられても顔色ひとつ変えないその度胸――勇者の素質ありと見た」



 顔色なんざ変えてるヒマもねえよ! ミチルよりはええじゃねえか!

 なんだこの化け物は! 本当に人間かぁ!?



「おまえに試練を与えよう! 見事成し遂げたときはおまえを勇者と認め、その願いを聞き届けようぞ!」

勇者には試練が与えられるもの

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