ティルノ遺跡
蒸し暑いジャングルの中を、おれたち野郎三人組は水筒片手に進行する。
……なんつうかさ、異世界じゃ勇者のパーティって普通ハーレム構成になるもんじゃねえの?
だってよ、見ろよこのメンツ。
イケメンでリア充のおれはともかく、他は元デブのキモオタと無愛想な奴隷拳闘士って……むさ苦しいにもほどがあるわ!
おれは女に餓えてねえから今さらそこまで気にしねえが、もうちっと華があってもいいんじゃねえの?
マンガでもゲームでも最低女でもひとりはパーティに入るっつうの。
オーネリアスめ、あんだけたくさん女戦士がいるんだからケチケチしないで一人ぐらい融通をきかせろや!
「……」
アホなこと考えたわ。
どうでもええわ、さっさと目的地に向かおう。
コープスの南西にある古代遺跡。
そこに一匹の魔族が棲みついて困っているらしい。
そいつの驚異を排除するのが今回おれたちに与えられた試練だ。
魔族退治か……パーティはちょいとばっかしアレだが、ようやく異世界ファンタジーっぽくなってきたな。
異世界に来たなら一度はやっておかないと。恒例行事ってやつだ。
「なんで軍を動かさないんだ。個人にやらせるようなことか?」
ミチルくん、そういうツッコミは野暮ってもんよ。
つうか魔王軍とにらみあっている現在、軽々に軍は動かせんだろ。こういう雑用は傭兵にでもやらせるのが一番よ。
特にマイラルで名を馳せた偉大な勇者さまがやってくれるっていうんならいうことなし。大切な自国民の血を流さなくて済む。
……ん? そういや、田中のやつ、どんな条件でオーネリアスに魔物退治にやって来たんだ?
さっきオーネリアスと謁見したときは何にもいわれてなかったようだし……ちょっと聞いてみるか。
「条件? いや、そんなものは特にないけど」
聞けばマイラル王にいわれるがままにオーネリアスに来ただけらしい。
魔族を討伐するのは勇者の義務であり当然のことだそうだ。
「まさかおまえ、1ルピももらってないのか?」
「うん。あ、でも武器はもらったよ! 聞けばマイラルに代々伝わるすごく貴重な武器なんだって! ありがたいよね!」
……奴隷だ。
まさしく世界の奴隷と呼ぶにふさわしい。
なんて哀れな奴だ。ここにいたら、こいつは一生誰かのいいように利用され続けることだろう。
「でもリョウくんに会えてホント良かったよ。実は独りで冒険するのってすごく心細かったんだ。嬉しくて僕、ちょっと泣きそうだよ」
憎い敵であるはずのおれにすらすがるか。
こいつは相当精神的に追いつめられてるな。
そりゃそうか、ちょっと前まで部屋の中でPCと股間をいじってるだけのオタクだったもんな。
マイラルは日本贔屓だからギリギリなんとかなったんだろうけど、こんな未開の地で独りきりはそら辛いわなあ。
こりゃ神さまも酷なことをしてくれる。
おれとしては実にいい気味で溜飲が下がるがね。
「……日本に帰りたいか?」
田中はおれの質問に沈黙をもってして答えた。
ま、曇りきったその顔を見りゃ答えは明白だがね。
おうちに帰りたい――それは勇者として決して口に出してはいけない弱音だからな。
いちおう自覚があるようで、そこんところだけは評価してやる。
「そうかい。だったら探しといてやるよ。航路確保のついでだがな」
おれの提案に、田中はパッと顔を明るくした。
「ホント! ホントに探してくれるの!?」
「あんま期待すんなよ。あるかどうかもわからん話だ」
悔しいが、今のおれにこいつを倒すのは無理だ。
こいつはさっきのオーネリアスの剣技を見ても「え? 普通だと思うけど」とあっさりいってのける奴だ。
こいつもすでに人外の怪物。もうおれの力でどうにかできる存在じゃない。
ならばどうやってこいつをエルメドラから排除するか。
……奴のほうから自主的に退場してもらうしかあるまい。
やれやれ、面倒事がまたひとつ増えた。
だが一つずつやってくしかねえわな。
リアルが充実しすぎるってのも考えものだな。
「ここが噂のティルノ遺跡か」
かつて沈黙の女神ソルティアが住んでいたいう伝説が残る古代遺跡。
貴重な文化遺産でオーネリアス大陸の観光名所のひとつだ。
文献で見たことはあるが実物を見るのはこれが初めてだ。
……前から思ってたけど、すっげーメカメカしいんだよなあ。
まあ、当たり前か。
パンフを見るとこの遺跡全体がひとつの魔道具だったって話だもんな。
なかなかどうして壮観だねえ……っておいおい、おれたちは観光に来たわけじゃねえぞ。
ではさっそくお目当ての魔族を探すとしますかね。
……いや、探すまでもねえか。
遺跡のど真ん中で寝ている、まるで山みたいにでかい白銀のドラゴン。
あれが噂の魔族だろ?
あんだけでかけりゃ嫌でも目につくわ。
「……」
……。
…………。
……………………。
………………………………うん、これは無理。
よし、逃げよう! 尻尾を巻いてな!
無理なものは無理




