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邂逅



 デイト遺跡はラバイの町から歩いて半日もしない場所にある。

 こんな近場に魔族が巣くえばそら逃げる人間が出てくるのもしかたない話だ。

 むしろ未だに居残っている連中は少々危機感が足りてないかもしれん。

 マイラルは魔族被害は少ないからしかたない話かもしれんがね。



 当たり前の話だが、シグルスさんはすぐに見つかった。

 あいかわらず山みてえにでかい体をしてるからね。



 もちろん向こうからもおれたちが来ていることは丸わかりで、すでにこっちを凝視して待ち構えている。



 無視されないのはありがてえけど、プレッシャーマジパねえわ。

 さすがのおれも、このひとと対峙するときだけは恐怖を感じざるをえない。



「よく来た、人の子よ。いや――」



 若干ビビりながらも歩を進め、ようやく膝元まで到着すると、シグルスさんはおれを快く出迎えてくれた。



「――人の王よ。我にいったい何用か」



 ゴルドバに続いてあんたにまで王と認められるとは感無量だ。

 何しろおれの冒険はあんたから始まったといっても過言じゃねえからな。



「おひさしぶりですシグルスさま。本日はあなたさまに献上する情報ものを用意してやってまいりました」


「我らは同志。敬語は不要だ」


「ですが……」


「鱗だけとはいえ、我らは共に旅を続けた仲ではないか」



 そうか、おれが剣からあんたの存在を感じられるように、あんたもおれを感じてくれていたんだな。

 そこまで認めてくれているのなら、敬語はむしろ失礼に値するな。



「ここにおれの研究のすべてを詰め込んだ魔導ディスクがある。まずはこいつを見てくれねえか?」



 おれは魔導ディスクをシグルスさんの顔めがけて思いっきり放り投げる。



 まあ、届かなかったわけだが、シグルスさんは魔力でそれをキャッチしてくれた。

 キャッチされたディスクはシグルスさんの口の中に放り込まれ、体の中で知識という名の栄養になって脳を潤した。



「よくぞここまで調べ上げた。同志ともよ、おまえは我の誇りだ」


「やっぱり理解してくれるのか。だったらおれの頼みを……」


「だが、それでもおまえの頼みは聞けん」



 ま……まだ何もいってねえじゃん。


 あいかわらず頭の回転が速くて話が早いのは助かるんだけど、まだ交渉のひとつもしてないじゃん。



「おまえには話したはずだ。我は神々と戦うつもりはない……と」


「エルメドラは神から独立すべきだ! あんたのその魔力は、人と戦うには過ぎたその力は、神々と戦うためにあるんじゃないのか!?」


「おそらくはそうなのだろう。だからこそ我は自らの力を忌避する」



 ああ、薄々そうなんじゃないかって思ってた。

 魔王軍に属さずに考古学者なんてやっている時点でさ。



 おれだってそうさ。

 自分に備わっていた権力を忌み嫌っていた。



 だから、あんまり偉そうにはいえねえけど……それでも、やらなきゃならねえときがあるだろ。力を持つ者ならさ。



「おれのデータを信じてくれないのか? あいつらは、おれたちをゲームの駒にしていやがったんだ」



 かつておれが写真機で撮影した碑石には、月より降臨した三名の神が「三つの陣営に分かれて戦いあえ」という神託を下したと記されていた。



 あの碑石はいわゆる『声明書』だった。



 そこから更に調査をおし進めおれたちは、長きに渡って続くこのあまりに不毛な争いが、エルメドラの支配権を賭けた神々の代理戦争であるという確信に至った。



 ゴルドバ、ソルティア、ゼノギア。



 永遠を生きるこいつらを倒さねえと、エルメドラから無益な戦争は永久になくならねえ!



「おまえのデータは充分信用に値する内容だ。我も月の神々について思うところがないわけではない」


「じゃあッ!」


「だが、それでも我は神々と戦う気はない。特に創造主であるソルティアとはな」



 ……ダメか。



 いや、ガッカリするような話じゃねえか。

 道楽で考古学者をやってるだけのシグルスさんに、そこまで期待するほうがどうかしてる。

 むしろ敵対しないでくれるだけ感謝しねえといけねえ場面だ。



「神というのは人の信仰心が造りし偶像。ならばたおすのもまた人であるべきだ」



 いってシグルスさんは口から何かを吐き出した。



 遺跡の石床に深々と突き刺さったそれは、シグルスさんの牙だった。

 牙はシグルスさんの魔力を受けるとみるみる内に縮んでいき、最終的にはおれの手のひらの上に乗る程度のサイズになった。



「我が魔力の篭もった牙。そこから放たれる魔法はきっと神にも届くはずだ」



 す……っげえぞ、これ!



 魔力なんてこれっぽっちも感じない凡人のおれでさえ、こいつがヤバい代物だってのはビンビン伝わって来る。

 こんな大事ものを、あんたはおれに託してくれるのか。



「もうひとつ、これも受け取るがいい」



 シグルスさんは口から、さっきおれが投げ渡した魔導ディスクを吐き出した。

 お口に合わなかったんだろうか。

 まあ、無機物だからね。



「データを書き換えておいた。ディスクには機神ゼノギアに関する、我が調査したすべての情報がインプットしてある」



 ――ゼノギア!



 オルド遺跡で判明した機人たちの神――――謎に包まれていたこいつに関する情報がこんな形で入手できるとはッ!



「人の未来は人の手で切り拓くのだ。彼らの王たるおまえのその手で。そこにいる者を倒したようにな」



 シグルスさんが一瞥すると、ゴルドバはふんと鼻を鳴らした。



「トカゲの王が、私が主神ゴルドバだと気づいていたか」


「魔力の波長がこの世界と完全に合致している。気づかぬはずがあるまい」



 さすがはシグルスさん。素晴らしい慧眼だ。


 しかし……こいつはちょっとまずい状況かもな。


 ゴルドバの野郎、めっちゃ戦闘態勢とってるし。

 ガキ以下の腕力のくせにあんま無理すんなよ。



「どうした、攻撃してこないのか? 貴様らの神の敵を討つまたとない好機だぞ」


「我は軍属ではない。よって貴様とは敵対関係にない。むしろ同じ人間に惹かれた同志であると考えているのだが……違うか?」


「根拠はなんだ?」


「そうでもなければ、おまえがリョウに敗北する理由がない」



 シグルスさんが口の端をあげて微笑むと、ゴルドバはやる気をなくしたように構えを解いた。



「確かに、そうかもしれんな」



 おうおう、なんだなんだ。

 おれってもしかして愛されてるのか?



 普段なら男に愛されてもなぁ~なんていうところだが……正直、めっちゃうれしいんだけど。

 今までノンケだと思ってたけど、おれってもしかしたらホモかもしれん。



 まいったな……そこまで愛されてると、あんたらの期待に答えたくなっちゃうじゃないか。



 おれひとりの力なんてタカが知れてるが、あんたらが力を貸してくれるなら話は別だ。

 残りの神を全部ぶちのめして、歴史を人類の手に取り戻す瞬間を、かならずあんたらに見せてやる。


 ふふっ、きっと楽しい見せ物になると思うぜ。



人類の未来は人が切り拓く!

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